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ハイグレード里山 谷倉山(星野)

アーカイブ:安蘇の山達  日時: 2009年01月03日 21:56
-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 永野にある谷倉山(やぐらさん){599.4m}。以前星野自然村を訪れた際に、ずんぐりとした三峰山とは正反対のたおやかな雰囲気のこの山に心惹かれた記憶がある。その後三峰山へ登った際 も、何時かは・・・と思って眺めていた。そんな思い入れのある山を新春山行第一弾として歩く事にした。

 星野自然村駐車場へ車を駐めて集落を抜けて行く。いつ来てものんびりとした雰囲気のあるエリアだが、まだ三が日ということもあり、一層静かな空気が辺りを覆っている。柚がたわわに実っていたり、よく手入れされた南天が目に鮮やかな家々を巡りながら進むとやがて日当たりの良い畦脇の道へと出た。


     
星野自然村駐車場    柚実る集落    南天が鮮やか

 田の横に伸びる林道から眺める三峰山もこれまた長閑。田植えが終わった頃、真夏の青田、秋の稲穂が垂れる時期にも同じ場所で三峰山を眺めて見たいとしみじみ思う。

 林道を更に進むと植林地へ入りそれまでの光は一気に失われるが、綺麗に枝打ちされた箇所はそれでもなかなか清々しいものだ。

     
長閑な里と三峰山    林道を進む    綺麗に枝打ちされている

 今回は「栃木百名山」{下野新聞社}で案内されていたコースを往路に取ったのだが、なるほど説明通りに林道終点に近づくにつれ倒木などで道が荒れ出してきた。

 林道終点に到達すると、これまた説明通りでもはやルート不鮮明。「栃木百名山」では谷を詰めていくように書いてあったので、薮の先に続く沢筋を追わないでここで左右どちらかに逃げれば失敗に繋がる可能性は高い。

 こんな事もあろうかといつにも増してGPSの設定ポイントを多めに入れてきたのだが、目先のルートを考えるのに精一杯でちょっと役不足の感もある。とにかく谷を詰めるのは間違い無いので、薮を分けて進んでいくと所々に赤や青のテープが出てきた。これを追いつつ更に無い知恵を絞りつつ牛歩のルート取りである。

 暫くすると行く手に沢を塞ぐ岩が現れた。岩の割れ目から水が出ているので、上部に水を溜めているのだろうか。ここはネットで他の方の記録があったので左を巻く。巻くといっても道がある訳でなく斜面をを直登しなければならない。あまりに斜面が急なので、爪先で足場を確保しながらゆっくりと確実に進むしかない。

 一つめの岩を何とかやり過ごし一旦沢に復帰するも、先ほどよりは小振りだがまた岩と薮が行く手を塞いでいる。斜面の上の方を見ると赤テープが一つ目に入ったので意を決して斜面を登っていった。「45度はあろうかと思われる急登」という表現が他の方のサイトにあったが、実際誇張では無い。局所的にはそのぐらいあるだろう。そのあとも赤テープを追いながら急登に次ぐ急登。柔らかい林床もまた砂利混じりの急斜面に負けず劣らず滑りやすい。踏み込みが出来るのが唯一安全確保の道と知り、一歩一歩確実に。きっとアイゼンを付けた雪道の歩行もこんな感じなのだろうかと。

     
段々荒れてくる    急登急登    ご覧の通り

 標高490mあたりまで頑張って登り進むと、左手にトラバース状に伸びる踏み跡に合流した。右手(東側)にも幾らか伸びているので本来のルートはもう少し東側だったのであろうか。しかし地図の等高線を見る限りどこを通ってもあの沢を詰めてしまえば大差は無いだろう。

 予定していた肩尾根とは逆方向なのは承知していたが、緩やかに登るこのトラバース道を辿っていくと明るい尾根に飛び出した。南の方に少し眺望がある。緊張の難所通過後なのでこの明るさが嬉しい。GPSを出して見るとどうやら枝尾根に出たようで、目指す肩尾根へと赤テープが続いている。
 夏場ならかなり薮っぽい感じだが、今の時期は枯れ枝を払うだけで済むので助かる。この尾根を登り切ると境界尾根である肩尾根に出た。ここからは踏み跡もしっかりしており不安感は全く無い。山頂まであと少しだ。

     
尾根に出て一安心    尾根を乗り換えて    もう少し

 電波塔の施設を囲っているフェンスを回り込むようにして山頂へ到着。上を見上げると塔が偉容を誇っている。その脇にひっそりと三角点と山名板があった。眺望は全く無い。

     
寂しい山頂    電波塔が主役    山頂はおまけ?

 山頂がこんな感じである事は既知だったので、早々に後にして北側の展望地へ向かった。

 北側は塔の巡視路になっており、よく整備されている。山頂まで延々と麓から電柱が伸びているので若干興ざめだが、日陰で背の高い霜柱をザクザクと踏みしめながら下っていくと、広く伐採された展望地へ飛び出した。

 後で判ったのだが、粟野の街から大越路へ向けて車を走らせていると、左手に目に入る伐採された高みが実はここだったのである。あそこに登ったらさぞ景色がよかろうにと何時も思っていたものだ。

 眺望は男体山からぐるっと南東まで、180度とまでは行かないが結構なパノラマである。雲に覆われ日光連山の雪景色は今一つであるが、東側の雄大な景色を眺めながら予定通りここで食事をすることにした。

 廻りを見ると微かに雪が残っている。朝晩の冷え込みで少し吹っかけたのであろう。北の山々からちぎれてきた雪雲の残骸が太陽を覆うと、一気に気温が下がり、陽光が戻ると暖かくて心地よい。眼下に広がる景色も、そんな雲のいたずらで美しくその表情を変える。至福のランチタイムである。

     
伐採地より      
     
      僅かに雪が残っている

 食事を終え一旦山頂まで登り返し、電波塔脇にある赤リボンと青リボンの所を分け入ると西北西の尾根に入ることが出来た。以前は此処に道標があったらしいがどこにも見あたらない。

 登路の緊迫感溢れる状況に比べるとこの西尾根は極楽である。くるぶしまで埋まりそうな落ち葉の絨毯をサクサクと踏みしめながら、しばし鼻歌交じりで進んでいく。

 ここまで1枚とて道標の無かった往路だったが、この平坦な尾根に1枚だけ古い手作りの道標があった。あまり意味が無い場所の設置だが、やはりほっとするものだ。

 難しかったのは「栃木百名山」のルート図に従ってどこで谷に降りるかだった。GPSに入力した予定下降点あたりで下を窺ったが、踏み跡やテープの類も無く、フリールートで降りていくにはいささか自信が無い。このまま尾根を辿って465P,348Pと巡って降りるのもアリかなと思いながら進んでいくと、はっきりと赤テープが下に向かって降りていく箇所があり、ここから下降を開始した。

 登りの45度斜面ほどは荒れていないし踏み跡も比較的はっきりしている。所々テープが消えかかるが多少目を凝らせば踏み跡を探せるし、追っていけばまたテープが出てくる。比較論だが、登りのルートに比べればこちらのほうが数段マシだろう。

 一旦降りきると突如道標あらわる。小山芳姫(おやまよしひめ)の墓へという案内が、今降りてきたルートの隣の谷を示している。

     
サクサク尾根道    ここで尾根とお別れ    突如現る道標

 こんなしっかりした道標があるならもう道は間違い無かろう。安心も手伝い、寄り道で芳姫の墓を目指し道標の示す方向の沢を登り始めた。

 こちらもルートは荒れ放題。夏場は薮に閉ざされ到底通行不能だろう。70m位登り返した所にひっそりと芳姫の墓はあった。小山芳姫についてはWikipediaに詳説(伝説の項をご覧いただきたい)を譲るが、要は南北朝の戦乱さなか、粕尾城に居る夫に食糧を持って行った道中で殺害されてしまった芳姫を哀れんだ地元の人が、江戸時代に墓を建てて祀ったということである。

 芳姫の墓の右手の方を見ると先ほど降りてきた箇所の赤テープが風になびいている。登りにこちらのルートを取る場合は一旦芳姫の墓を目安に登り、ここから右手に登れば良いだろう。

 先ほどの分岐まで戻り、更に下って行くと段々と傾斜が緩くなってきた。沢を左に右にと渡り返していくと先に林道が見えてきた。やれやれ安全圏に戻って来れたようだ。振り返ると「よしひめの墓この先」と書いた木の柱が立っている。

     
行く先は荒れ放題    小山芳姫の墓    林道出合箇所

 後は草だらけの林道を進むのみ。ガードレールがあったりするが、往来も無いのに随分整備されている。

 やがて「地層探検館」前に出て見ると「小山芳姫の墓へ」の立派な標識が立っているでは無いか。しかも途中まで林道有りとも書いてある。そういえば先ほどのガードレールは整備の一環だったのか。途中で草が張り出して車一台がやっと通れる道。終点も一台駐めたらそれだけで一杯になってUターンもままならない道へ、よく案内板を出しているものだ。また、車を置いた後も、普通のハイキング路とは到底言い難いようなルートなので、せめて「危険が伴うので軽装での見学はお断り」等の文言は一言添えて欲しかった。自分のように、里山遊びのついでに立ち寄るのならどこをどう通っても仕方が無いが、一般の方にも見学を促す道標だからこそ、栃木市教育委員会には猛省して頂きたいと思う。山の経験のない人が、こんな道標を見て気軽に入ってくるならここは充分に危険なエリアである。

     
ガードレールが必要か?    探検館前    同左

 探検館脇からすぐに集落へ出る。はずれにある田んぼの畦に駆け上り、いましがた歩いて来た谷倉山を一望すると、彼方に電波塔のアンテナが見えている。幾つかある枝尾根を眺めながら、次回は谷で苦しむよりルーファンで尾根歩きだなと一人ほくそ笑んだ。
 南の三峰山には日が隠れようとしている。まだ3時頃だというのに星野の里を夕方の空気の冷たさが包み始めていた。

     
谷倉山    三峰山に日が沈む   

概略コースタイム
駐車場発(9:51)-林道終点(10:25)-急斜面へ(10:40)-枝尾根(11:24)-肩尾根(11:35)-
山頂(11:46)-展望地着(11:53)-昼食休憩-展望地発(12:50)-山頂(13:11)-下降点(13:40)-
芳姫の墓道標(14:00)-芳姫の墓(14:11)-林道出合(14:30)-地層探検館(14:41)-駐車場着(14:54)

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コメント (10)

けむ:

まっちゃん明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

一般ルートは結構難コースなんですね~
ご無事に下山でなによりです
私は、まっちゃんのランチタイムポイントを経由する北面ルートを考えていました
電波塔の管理用の道のように見えるのですがそんな感じでしたか?
北面ルートで登って一般ルートで下山しようと考えていたのですが
まっちゃんの下山ルートのほうがよさそうですね

私は年末年始ぼんやり過ごしてました><


Non:

 改めまして、あけましておめでとうございます。昨年中は大変お世話になりました。
本年も宜しくお願いいたします。

 さて、『栃木百名山』を読んでからレポを拝読すると、この項目の著者さんが「一般向け」の
ハードルをかなり高く設定なさっているのが、よーく分かりました。ちょっと酷いですね(^^;)
 さらに酷いのが、まっちゃんさんもご指摘の栃木市教育委員会。お偉いさんに見せる時だけ
道路や登山道を整備して、それ以降は放りっ放し…。そんな絵が想像されますね。

 大体、この本も『栃木県の山』も監修には一切時間をかけていませんが、編纂された頃の考えが
やや浅はかだったかなと、正直思います。参考にする時は、より一層、注意したいです。
 あと、百名山ハンターさんは最短の林道コースを使うから、往路の沢コースが余計に荒れている
のでしょうね。北斜面の展望はかなり魅力的なので、私がNon夫と行く時には、林道コースの往復で
済ませようかなと思います(^^;)

せろー:

あけまして おめでとうございます。

新年早々の山歩きレポート 楽しく読ませてもらいました。近場の山なので 三床山と同じく
今年のうちに 後追い登山させてもらいますよ。


>よく手入れされた千両が目に鮮やかな家々

とありましたが 千両ではなくて 南天だと思います 今年は南天の当たり年でとても実付きの
良い年周りでした。

まっちゃん:

けむぞうさん。明けましておめでとうございます。
今年もけむぞうさんのご活躍期待しております。「そこナニ」は次の更新が楽しみでいつもわくわくしながらチェックしてますよ。

>一般ルートは結構難コースなんですね~
地図に載っていないのも含めると南に3本の林道があって、いずれもそこからアプローチして谷詰めで皆さん歩いているようです。
地図を見るとどの谷も標高300m~500m位は等高線が込んでいて大変です。

外周の境界尾根を辿るのが「楽しい」山登りになると踏んでいますが、あまり記録が無いのは皆さん早登りに徹しているからなんでしょうかねぇ。

私は次回行くときは、西側の神社あたりから取り付いて、198.5mP~348mP~465mP~山頂~493mP~339mPと繋いで大回りで歩いてみようと思っています。外側からみた感じ岩尾根では無さそうなので多少の薮さえしのげれば、谷詰めコースよりは数段楽しいんではないかと思います。


北面ルートは鉄塔巡視路なのでかなり整備されていました。
(展望地から先は不明ですが)

>北面ルートで登って一般ルートで下山しようと考えていたのですが
>まっちゃんの下山ルートのほうがよさそうですね

今回の登路は「上を目指す」ので、道は無くとも何とかなりましたが、下山で通るとかなり厳しいかもしれません。今回の私の下山ルートは幾らか踏み跡が濃いので自分は心強かったです。

まっちゃん:

Nonさん、こんばんは。

こちらこそよろしくお願いいたします。

『栃木百名山』の経験者向きの山で男鹿岳の解説が凄いですね。
始めこれを読んだ時、ヤバイんじゃ無いって思いましたよ。

まぁここまでシリアスに書かなくても、谷倉山ももうちょっと緊張感が漂う書き方にして欲しかったとは思うのですが、植林地の場合は伐採等の作業の結果踏み跡が無くなったりするのは致し方無いことなので、取材から時間が経った情報については鵜呑みにしてはいけないという事を私も今回学びました。
一旦入山したら自己判断自己責任。本やネット情報は判断補助材料に過ぎないのかもしれませんね。

「よし姫の墓」対応はホント酷いです。
Nonさんのご指摘の通り、予算獲得時と完成時には力を入れたのでしょうが、歴史愛好家の一般の方が見学するのに薮を掻き分け、倒木をまたぎ沢を登るとは思えないですよね(^^;

まっちゃん:

せろーさん、
ご挨拶が遅れまして失礼しました。

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


>千両ではなくて 南天だと思います 今年は南天の当たり年でとても実付きの

ひえーーー、植物無知なのがバレバレですぅ。さすがセローさん、一発見破り。

で、いつも教わっているばかりじゃ能が無いと思い、手元の安物図鑑をめくって見ると・・・

葉の形や実のなり方、第一樹高が全然違うじゃあーりませんか。
恥ずかしくて穴があったら入りたい気分ですが、まずは本文をメンテして訂正しておきます。

PS.
冬場に赤い実がなっているのは千両と万両。小さい方が千両・・・って最近覚えたばかりでした(爆)

mim:

はじめてメールします。谷倉山は昨年末登りました。栃木百名山の本の案内通りに歩きました。案内板もないし拡大地図持参でしたがぐずぐずの急登で驚きました。山は入山者の自己責任ということはわかっていますが、それにしても、と、ぼやいたものです。あの本を書いた人たちは、その本を見て歩く人がいることを予想しているだろうと思います。どう考えても書きっぱなしのいい加減さはよくないと思うのですが。初春からグチはいけませんね。でもね。

まっちゃん:

mimさんはじめまして。コメントありがとうございます。

やはり急登で手こずられたご様子。
ああやって活字になると、判っちゃいるんですが、羅針盤じゃないですけれど判断材料の大きな要素になりますよね。

巻末にURLを提示して、状況が変わった場合はWebで注意情報を発信するとか、そんなものがあれば良いのですが。出版側としては採算が合わないんでしょうね。

何はともあれ、お互い楽しく山と付き合っていきたいものですね。

Non:

 こんばんは。予告しておりました通り、HPをリニューアルして、ついでに引っ越しました。
といっても、実際の中身はほとんど昔と同じですが…(^^;)

 それで、リンクのアドレスを変更していただけますでしょうか。お手数をおかけして
申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願いいたします。取り急ぎ、お願いまで…

まっちゃん:

Nonさん、了解です。

先ほどリンクを変更しておきました。

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