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茨城県境尾根と大倉尾根(花瓶山)

アーカイブ:県東の山達  日時: 2010年12月26日 21:34

-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --
※当コースには一般登山道でない箇所が含まれています。参考にされる場合は自己責任でお願いします。

 八溝山から西へ県境をなぞっていくと、南に降りたところに花瓶山という変わった名前の山がある。
 下野新聞社の栃木百名山で紹介されている山だ。"かびんやま"と読んでしまいそうだが、"はながめやま"が正しい読みだそうだ。

 登山ルートはいくつかある。県東の山は林道が網羅されていてアプローチが容易だ。花瓶山も既出のルートは比較的短距離で山頂を踏むことが出来る。だが今回自分は、関の田和峠(廃道)、現在は峠下を貫通している茶の里トンネルより県境尾根を伝い山頂へ立ち、下山は大倉尾根を下って如来沢へ降りるロングルートを考えた。大倉尾根については地図読みコースとされてはいるものの、下野新聞百名山でもサブコースとして紹介されているので、メインは県境尾根の探索である。

 地図を眺める限り、県境尾根も大倉尾根もすっきりしていてわかりやすいだろうと高をくくっていた。だが実際に歩いてみるとなかなかどうして、道なき尾根を手繰るように進む手強いコースであった。ちなみに、道形がはっきりしていたのは花瓶山山頂から大倉尾根に至る僅かな区間のみであり、大倉尾根も踏み跡が濃いのはごく一部のみ。県境尾根に至ってはスズタケの薮の中にかろうじて通過痕を認めるのみ、他は総じて枯葉に地表を封印され、また、旧い倒木に覆いつくされた秘められた尾根であった。
 ちなみに5時間40分の行動でまったく誰にも会わなかった。山頂もハイカーが最近休んだ気配もあまり感じられず、よほど不人気の百名山なのだろうか。
 山頂や大倉尾根に数枚の道標を付ける「黒羽山の会」のプライベートコースのようなこの山域も、流石に県境尾根までは手付かずといった趣であった。

 県東の山は久しぶりである。というよりも、八溝山近辺で行ったことがあるのは花瓶山より西側にある御亭山ぐらいだ。宇都宮からだと2時間弱アクセスにかかってしまうが、いろいろと興味深いエリアでもある。特に花瓶山から北側は自然林が多そうなので、八溝山まで県境尾根を通しで歩くのを次回以降のネタとしたい。

 下山口である如来沢の砂利林道に自転車をデポ。続いて茶の里トンネル入り口近辺に車を駐めた。ここまでは過日の偵察の通りである。

 まず、駐車地脇にある廃道(トンネルの上)を進む。直ぐに峠に着くが、つい最近まで現役だった県境看板が廃れた道の中にあり痛々しいようである。

     
駐車地、車の奥は行き止まり    まず廃道を辿る    茶の里トンネル上

 峠脇にガードレールが切れた箇所があり、そこから林業の作業用ブル道(伐採用重機の為の荒く掘削された道)が斜めに延びている。ここより取り付き、手薄なところからまずは尾根筋に登り上がる。

 比較的新しいプラスチックの境界杭がほの暗い尾根に点々と続く。特に薮も無く綺麗な尾根である。

     
脇のブル道から取り付く    まず尾根へ    綺麗な尾根だ

 気がつくと鉄塔巡視路が近くまで伸びており、やがて鉄塔へ到達。伐採の木材搬出に使われた木道跡のような溝に沿って道形は続く。整備されているとは言えないが、次の鉄塔が高戸山の山頂脇にあるので巡視路として歩かれているのかも知れない。

 やがて、高戸山頂上へ到着。周りをぐるっと植林に囲われており、眺望はまったくないひっそりとした山頂である。陽が届かないので立ち止まると寒い。

     
境界杭が続く    鉄塔へ一旦出る    木道跡か
     
      展望は皆無

 高戸山から県境尾根は北西へ方向転換するが、このあたりになると幾分薮が出はじめてくる。丹念に尾根を探りながら登り下りしていくと北側の風景が枝越しに見えた。今日初めての明るい景色が目に沁みる。

     
少し薮がうるさくなってきた    こつこつと尾根を拾う    明るさが目に沁みる

 程なく、西側に180度眺望の伐採地に飛び出した(伐採地A)。

 宇都宮近辺からは、西の日光、北の高原山といったアングルが定番なのだが、此処からだと日光連山と高原山がほぼ肩を並べている様子が新鮮である。

 暫く進むとまた次の展望地である伐採地Bへ。こちらは北側180度の眺望がひらける。続けざまに贅沢な眺望である。真っ白に冠雪した那須岳がよく見えた。写真では白飛びしてしまって判らないのが非常に残念である。


伐採地Aより  日光連山と高原山

伐採地Bより  肉眼でははっきり見えた那須岳方面だが、白とびして写真には写らなかった

 伐採地Bからは、伐採境界のへりを進んでいく。この次のピークで尾根の乗り換えに失敗し、本日一回目のコースミス。倒木が山積みになっている箇所を下っていくとどうも様子がおかしい。この先どこまでも下っていきそうな雰囲気に気づき倒木に手足を絡め取られながらも一旦登り返す。もう一度落ち着いてGPSと地図を精査して、尾根を若干巻き気味に行くルートに乗ることが出来たが、ここは少し難しかった。

     
この伐採地上部を辿っていく    コースアウトした箇所   

 進むにつれて段々と広葉樹が目立つようになり明るい尾根歩きとなる。時折スズタケの薮が出るが薮の中のほうが踏み跡がはっきりしていて心強いものだ。
 落ち葉が積もった尾根は、ひたすら次の進路選択を迫られ続けているようで気が抜けない。分岐や尾根の派生がある度に進路を精査検討しながら進んでいくが、それでも幾度となくミスしかける。GPSの軌跡にも迷いがはっきりと出ているのが面白い。

 今まで歩いてきたルートファインディングコースの中では、かなりレベルが高いと感じられる地形の複雑さ。加えて、デジャブのように何度も現れる尾根の分岐とピークの登り下り。まるでリングワンデリングに陥っているのではないかと錯覚してしまうような変化に乏しい周囲の様子。

 単独で歩くことに慣れている自分でさえ、延々と続く道なきルートにいささか人恋しくなってきたのも事実である。実際には地図とGPSをまめにチェックしているので深刻な問題は皆無なのだが、標高はたかだか500mから600m程度なのに、この山深さと心細さは一体何なのだろうか。かくも味わい深き山域である。

     
広葉樹が出てくると明るくなる      
     
   笹薮だが踏み跡は判り易い   

 取り付きから歩き始めて3時間10分経過、やっと本日一つ目の道標にまみえる。山頂から大倉尾根へ繋がる道へ県境尾根が接合する箇所である。ここから山頂まではほんの僅かな距離だが、こことて道形不明瞭である。奥の高みを目指すとそこが山頂であった。

 北側の枝越しに八溝山が見えるほかは殆ど眺望も無し。南は植林の深い森に覆われている。

 県境尾根の後半はいささかシャリバテ気味で、途中何度も食事にしてしまおうかと思った。山頂まであと少しと粘ってきたものの、眺望はまったく得られずいささかがっかりだ。もっとも途中の伐採地で人知れぬ絶景を拝めたので良しとしよう。

 食事で鋭気を養ったのち、後半の大倉尾根へと向かう。

 地元の「黒羽山の会」の道標が掛かっているくらいだから有る程度整備されているのかと思ったが、一般のハイキングコースとは程遠い状況で、後半もまた兜の緒を締めてといった感じの緊張感溢れる尾根歩きが続く。

     
本日初めての道標、山頂近し       大倉尾根も薄い薮

 県境尾根に比べると間違えやすい箇所は遥かに少ない。たまに等高線が緩むと気が抜けないが、間伐された箇所が多く、また自然林との境界なので先の見通しが利いて気が楽である。

     
   こういう箇所が難しい    如倉乗越(にょーくらのっこし)

 だらだらとした下りで到達した如倉乗越からは急な登り返し。登りきった所は樹林に暗く囲まれた向山である。ここからが最後の高度下げとなるが、倒木の多い区間が続き、いささか歩き辛くなる。方角を外さないように慎重に歩きやすい箇所を拾っていく。

 樹林が切れて尾根の末端に青い草地が見える。沢音が聞こえる。ここを下りきると、突破困難な薮に突き当たった。下のほうに林道が見えたので付近の赤テープを追うと、草で自然に還りつつある作業道へ出ることが出来た。

     
   倒木で歩きづらい    最後の下り
     
廃作業道へ出た      

 林道を少し歩いて自転車の元へ無事帰還。暗い砂利の林道をガタゴトと走っていくと、伐採した木材を積み込んでいる人が見えた。この山域で今日初めて出合った人間である。

     
     

概略コースタイム
駐車地発(9:27)-鉄塔(10:01)-高戸山(10:15)-伐採地A(10:38)-伐採地B(10:44)-
花瓶山到着(12:45)-昼食休憩-行動再開(13:19)-如倉乗越(14:26)-向山(14:35)-
自転車デポ地(15:09)-自転車で移動-駐車地着(15:39)


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コメント (10)

けむ:

これはすごいッス!
標高低いのに山深い感じがサイコーです。
県境尾根はあの師匠が歩いていらっしゃいますが、例によってあっさりしたレポだったので、まっちゃんのこのレポートではっきりイメージできました。
大倉尾根もまた素敵です。
最近の里山探検レポートではベストコースじゃないでしょうか。
よくこのルートを見つけましたですねー。

まっちゃん:

けむさん、こんばんは。

茨城県境の山は結構ダークホースでしたね。
花瓶山から八溝山は遠めに見て自然林の感じが良い雰囲気で、是非行ってみたいです。問題は車のデポですね。

「あの師匠」といいますと、この方でしょうか?
http://4.pro.tok2.com/~forester/trekking/2004/Mt.%20Hanakame%20Mar.%202004.htm

この記事を読んでいると、地形図とコンパス持たずに歩かれているんで凄いなぁと思いました。
自分はGPS無かったら到底最後まで歩きとおせず、どこかの枝尾根間違えて降りてGameOverになるか、怒涛の登り返しで体力消耗、自主的にコースアウトを選んでいたかもしれません。

Non:

 こんばんは。わーーい、これまた楽しそうな山ですね~ そう、冬場に低山をつなげて、
とか、そういうのが試したくて、読図も楽しくなったんですよね。これ、完全でなくても
構わないから、尾根の一部を歩いてみたいです。で、それからロングにしたりとか。

 そう、それと山のことを考えると仕事に戻れなくなる自分が解っていたので、これまで
自粛していました(^^;) 来年はこうならないように頑張ります…
 そして今年1年、お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
良いお年をお迎え下さいませ~(^^)

みちくさ:

はじめまして。
茨城出身、千葉在住の みちくさ と申します。
実は僕も以前県境尾根筋を歩いた経緯があります(URL↓↓)。
当時は昆虫・樹林分布調査を目的にしてましたので
趣旨は異なりますけど...
今回ご掲載された写真の景色を興味深く
そして懐かしく拝見させていただきました。
高戸山北方からの栃木の連山の眺望は素敵でした。
大倉尾根はまだ歩いたことがないので
いずれは僕も脚を運んでみたいと思います。


http://www.geocities.jp/walk_on_masumi18/saisyuki/080919/saisyu08.09.19.htm
http://www.geocities.jp/walk_on_masumi18/saisyuki/091222/saisyu09.12.22.htm

まっちゃん:

Nonさん、こんばんは。

けむさんのコメントにも書きましたが、八溝山系って自然林が多くてなかなか良いです。
以前Nonさんが八溝山歩いたレポを見た時、樹の様子が自分がいつも登っている所と違うな、と思っていました。

今回自分が自転車を置いたあたりに車を停めて、始めに林道歩きをして花瓶山の南西から取り付いて、大倉尾根を下りる周回コースがお手軽だと思います。その逆も楽しそうですね。


来年も、お互い楽しい山歩きライフを元気にエンジョイしましょう!
では、良いお年を。

まっちゃん:

みちくささん、はじめまして。お読みいただきありがとうございます。

はじめに。
スパム対策でリンクが張ってあるコメントは承認制にしている為、直ぐ表示されなかったご無礼お許しください。

さてさて、早速みちくささんのサイトを拝見させていただきました。
県境尾根、歩かれたんですね。
写真も似たものが多く、やはりあの尾根を一人で歩いていると、感じるものとか着目するものに共通点が見出せるのが面白かったです。

自分は樹の事とか虫の事はさっぱり判らないのですが、機会があったら勉強したいなと思っています。
県境尾根も大倉尾根も、そういうことが判っていたら歩いていて何倍も楽しいんじゃないかって、みちくささんの記事を見て思いました。

大倉尾根のほうにも、機会がありましたら是非お運びください。

みちくさ:

こんばんは。

掲示板へ書き込む際のルールを把握しておらず大変失礼いたしました。m(_ _)m

「花瓶山・県境尾根」などで検索をかけて、この記事を読ませていただきました。

すごくマニアックなエリアですので、お写真を見ていて懐かしくなり、まことに恐縮ですが書き込みを致しました。ご容赦ください。

茨城県はのっぺりとした平坦地... 栃木県のような山が少ないので、ブナの自然林が希少なんです。当時はそんな自然林の名残を求めて県境尾根筋を徘徊いたしました。

大倉尾根にもある程度の自然林が残されていることが分かりましたので
近々是非脚を運んでみたく思います。

ご親切な配慮を賜りまして、ありがとうございました。

まっちゃん:

みちくささん、あけましておめでとうございます。

ルールなんていうことは無いのですが、こちらこそ本当にご迷惑をおかけしました。
当ブログは結構手作りな部分が多いので、自由度がある反面低機能な箇所も多いので皆さんにはご不便をおかけしています。

自分の山行ホームは住居のある宇都宮から西側となっていますが、茨城県境は今回の山行で目覚めた気分です。

太平洋沿いの低山で海が見られるところにも、一度行ってみたいなと思っています。
(海なし県人にとって山頂から見る海原は憧れです)

みちくさ:

あけましておめでとうございます。

ご挨拶が遅れてしまいましたね...
スミマセン(^ ^;;

お住まいの宇都宮から西側...
僕も、年に2-3回程ですが、日光・光徳周辺の山や、旧栗山村などへ参りますよ。
日頃から自然や昆虫が少ない茨城での調査に打ち込んでいるので、気分転換というか、自分へのご褒美的な感覚なのかもしれません。

県境付近でかろうじて海が眺められる山と言えば雨巻山がありますが、僕が登った時には樹々に遮られ見通しが悪く、残念でした。
ある程度の自然度や登山に手応えがあって、海が眺められるのは福島県いわき市の明神山などでしょうか。。

今後栃木県へお邪魔する際には、これまでに綴られた日記や写真の数々を勉強のために拝見させていただきたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

まっちゃん:

みちくささん、こんばんは。

栃木茨城県境で太平洋が見える山は幾つかあるようですが、距離があるので条件が良くないと厳しいかもしれませんね。

いわき市の明神山ですね。後で調べてみます。ありがとうございます。

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