いつでも夢を

    作 者:原 秀則
    全巻数:6巻
    出版社:小学館
    初版年:1995年3月
いつでも夢を


 多田野一郎(ただのいちろう)はマンガ好きの高校三年生。成績も振るわず、密かに憧れている彼女は友達の恋人。マンガを描くことに情熱を捧げる。

 作品を持ち込み、出版社の紹介でのアシスタントのバイトをすることになるが、プロの世界を垣間見ることにより漫画の道の険しさを知る。
 たまたまこのバイトで一緒になった小島能理子(こじまのりこ)もまた漫画家志望だが、彼女の方が腕は上。デビューも果たし連載も決定している。能理子は一郎に好意を持って近づいてくるが、彼は劣等感を感じる。

 出版社の担当にも恵まれずなかなかデビューできない一郎だが、とある日、泉という編集者と出会った時から運命が変わっていく。新人賞ノミネート目標だったはずが、いきなり雑誌掲載となり、大学入試はすべて棒に振るも有頂天。
 とりあえず漫画家のアシスタントとして新しい生活をスタートし、その後徐々に掲載本数も増えていく。

 その頃、能理子は売れっ子作家として紙面を賑わせていたが、多忙さと本来の自分の漫画が描けないもどかしさにノイローゼ気味になっていた。久しぶりに一郎と再会した彼女は一郎に逃げ場を求めて甘えてしまう。
 能理子と過す日々は一郎にも心地よいものだったが、チャンスを賭けた作品に取り組んでいる一郎と、漫画に疲れきってしまった能理子では求めるものが違っていた。
 出版社の手から能理子を守ることよりも作品の入稿を選択した一郎は、彼女の自殺未遂を自分の裏切り故と思い悩む。能理子より突き放された絶望の渕で、一郎は彼女との事を漫画に描こうと決心する。


 さすが原秀則。手堅くまとめ上げていてそつが無い展開。

 「冬物語」「部屋へおいでよ」と共にサクセスストーリー基調。劣等感に苛まれる主人公というのも共通している。
 如月みちる(憧れの彼女)が1巻目であれだけインパクトをもって登場し、思わせぶりな展開で話を膨らませているのに、中盤以降出番が無いというのも意外。むしろ1巻終盤で登場の小島能理子が後半ああいった形で絡んでくるとは想像出来なかった展開で面白い。

 主人公の多田野一郎は本当にありふれたどこにでも居そうな常識的な奴である。夢を追いつづけることに対する悩み、夢と現実の狭間の認識、夢に対する努力の仕方のどれをとっても平凡である。本音も建前もどちらも普通に感じて選べる。それが故に、誰もが似たような選択をしたであろう彼の軌跡を読み手は共有出来るのではなかろうか。能理子との"事"を作品にするという痛みを伴った作業で、一人前の漫画家になった一郎は、「大人になっていくことの寂しさ」に対する心の叫びや自己矛盾に訣別をすべく、彼女に対する愛を連載終了で描き切る。この寂しさと嬉しさの交じり合うエンディングもまた原秀則のオハコであろう。

作成:02/05/15

当ページの画像は、原 秀則作、小学館発行の「いつでも夢を」2巻、6巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。