ぼくの地球を守って

    作 者:日渡早紀
    全巻数:21巻
    出版社:白泉社
    初版年:1987年6月
ぼくの地球を守って

あらすじ

 北海道から東京の高校に転校してきた坂口ありす。彼女は植物や動物の心が理解出来る。新しい学校や東京の殺伐とした環境になかなか馴染めないありすだが、ある日校庭で偶然に同じ学校のホモカップルと遭遇。実はありすの勘違いで前世で二人は恋人だったということを知る。

 いっぽうありすの隣に住む小林輪(こばやしりん)はクソガキ小学生で憎たらしい。でもありすのことがとてもお気に入り。そんなある日、事故でが15階のベランダから落下してしまう。ありすはその場に居合わせたこともあり深い責任とへの負い目を感じて落ち込む。幸い一命をとりとめただが、意識を取り戻した彼は月世界での前世の記憶が覚醒する。

感 想

 ここまであらすじで書いたのが1巻までの内容。このあとひたすら輪廻転生ネタで延々21巻まで(連載期間7年あまり)話は続く。
 「描き始めて半年で大まかなプロットは完了していた」と作者自ら語っているが、一つのストーリーを緻密に組み上げていくといった仕上がりではなく、一つ一つの素材を掘り下げていって結果的に大作になっていると表現したほうが適切かもしれない。前世と現世を行き来することや登場人物もそれぞれ2セット存在するので状況設定の理解で混乱しがちだが、本質であるところのテーマや、1巻目に出てきた伏線が終盤矛盾なく回帰するあたりなど終始一貫しておりわかりやすい。

 戦災孤児である紫苑(シ・オン){小林輪の前世}の持つ深い社会への絶望感と、その反動としての愛情への枯渇。いっぽう、子供の頃からキチェ=サージャリアン(特殊能力を持った聖者)として育てられ、聖者としてあがめられてはきたが、いざ一人の人間として、求められること、与えられることに対して自らの回答を見出すことの出来ない木蓮(モク・レン){坂口ありすの前世}。
 人間は誰しも「明」と「暗」の2面性を必ず併せ持っているものだ。月世界の調査基地で暮らす彼ら、紫苑・木蓮とそして他5名全員が、それぞれの「明暗」に翻弄されながらいがみあい、そして愛し合いながらも疫病で次々命を落としていく。そして現世では自らの過去について恥じ、後悔するが、現世を生きるために前世の開放へ向かう・・・というプロセスが見どころである。

 突然現世と前世へ、或いは前世から現世へとタイムスリップする完全なパラレルワールドな筋立ては慣れないうちは難解だが、このテクニックへ段々とはまって作品にのめり込んでいる自分に気がつくことだろう。また、はじめのうちこそ小学生のマセガキだった小林輪が、紫苑の幼少時の説明を終えたあたりから魂が乗り移ったようにやたら迫力が出てくる。幼い子供にダークな役をやらせる日渡の策略に読み手はまんまとのせられていくのである。

 基本的に少女漫画のスタンスからスタートした連載であるのは間違いなさそうだが、途中から大化けして一般コミック誌でも充分通用するようなクオリティーに達している。輪廻転生もののはしりであるそうだが、15年以上前に描かれた作品とは思えない斬新さと構成の緻密さがある。人の心の痛みというものにいじらしい程細やかに触れていく感動は確かにある。がしかし、何か心に残る読み物というよりは、フィクションとしての仕上がりのきめ細かさがはるかに凌駕しており、ここを大いに評価したい作品である。オリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)が作成されたり、ラジオドラマ、イメージアルバムなども製作された。いわゆる「売れっ子」であり、ファンの間では「ぼく地球(たま)」と呼ばれていたりする。いずれにせよかなりお勧め度は高い。

 後日、OVA(オリジナルビデオアニメーション)全6巻をレンタルして観る。
 さすが原作に忠実だが、コミックの半分位で終わってしまって終了間際5分に後半を詰め込んでいるところはまったくいただけない。後半のシ・オンの学生時代、モク・レンの生い立ちを語らずして「ぼくたま」は完結しないのではと強く思った次第である。ビデオだけご覧になっている方は是非コミックにも目を通されることを強くお勧めする。

作成:03/07/13 加筆修正:03/07/26

当ページの画像は、日渡早紀作、白泉社発行の「ぼくの地球を守って」12巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。