瞬きもせず

    作 者:紡木たく
    全巻数:7巻
    出版社:集英社
    初版年:1988年4月
瞬きもせず

あらすじ

 地方都市(山口県)に住む高1の小浜かよこは、クラスメイトのサッカー部員、紺野芳弘(こんのよしひろ)に告白されつきあいはじめる。
 すれ違いや誤解が重なり、一度は別れを決意した二人だが、ふとしたはずみで素直に思いを伝えることが出来て危機は去る。
 やがて二人にも卒業後の進路について考える時期がやってくるが、芳弘はサッカーの出来る職業団を目指し上京することになり、かよこもまた父親の反対を押し切り、東京の短大に入学することを決意する。

 上京まもなく、母親が倒れかよこはやむなく帰郷する。一方芳弘は、都会(まち)に希望を打ち砕かれ、かよことの関係にも自信を失う。ふと思い起こせば、故郷には本当のありのままの自分を置き忘れてきたことにやっと気が付く。

感想

 人を想う心。家族を想う心。故郷を想う心。すべての心が細やかに、たおやかに、またあるときは情熱的に、一貫して流れる人なつっこい方言の響きと風薫る情景にからめて描かれていく。
 漫画を読んでこれほど感動出来る作品も珍しい。珠玉の名作である。基調になる部分は、主人公かよこの純愛話ではあるが、"田舎"の閉塞性や絶望感、望郷の念と家族愛が織りなす。

 思い違いや誤解はお互いの心のボタンのかけ違い。本当は相手の心が見えていない、見ようとしていないだけのことも多いもの。「人の心の深さを知れ」といった台詞がでてくるが、作中の全ての登場人物の苦悩や生きざまは深くそれを検証しているような気がする。紡木たくがこの作品を通して伝えたかったことはまさにここに集約されているのではと強く感じた。若い読者は主人公達の真摯な生きざまに学び、大人は、過ぎ去りし日々や現在(いま)の自分の浅はかさを顧みるかもしれない。
 とにかく、私の拙稚な文章では伝えきれないものが多すぎる。機会があったら是非読んで欲しいお勧めの作品。

作成:02/01/11 加筆修正:02/05/03

当ページの画像は、紡木たく作、集英社発行の「瞬きもせず」4巻,7巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。