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群馬県境の山達アーカイブ


2013年05月18日

奥袈裟丸山敗退


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --
※当コースには一般登山道でない箇所が含まれています。参考にされる場合は自己責任でお願いします。

 群馬県境には手強い栃木百名山が数座残っている。今年は皇海山を群馬側の林道から、庚申山と鋸山を夏場の日が長い時に銀山平から歩こうと思っているが、自分はどうも暑い時期のロングはバテ易い。情けない話だが、鋸山計画は懐疑的である。

 一方、袈裟丸山は難易度はあまり高くないが、結構な長距離コースをピストンで往復しなければならない。周回好きの自分としては早い時期に食指が動かなかった理由である。慣れない山域と意外に山深いこのエリアだ。やはり手堅くガイドブックに従うほうが無難だろう。
 花山行にはなかなかならない自分の山旅だが、"アカヤシオでも"と、久々に色気を出して計画をした次第だ。単にガイドブックに従うだけでは少し物足りなさを感じたのも事実。ならば『奥袈裟丸山まで』という準備と気概で出発した。どこまで体力気力が持つかは今日のコンディション次第。駄目なら戻るさの精神で。

 『花の時期は早朝から車が置けない』とネット等で自習済なので、久々に早朝出発を奮発。土曜の早朝出発は仕事の疲れが残っているので正直辛くないといえば嘘になる。

 わたらせ鉄道の沢入駅付近から国道より別れ、林道に入る。クネクネと軽快に車を走らせていくと、すぐ先行の2台に追いついてしまった。大柄な車両を林道に合わせるのに苦心している様子だが、この時間にこの道を走っているのは袈裟丸目当てのハイカー以外はほぼあり得ないだろう。
 6時半頃に折場登山口に到着すると既に駐車場は満車。周囲に路駐の列が伸び始めている。なんとか100m位先の所の路側にありつくことが出来た。うかうかしていると次から次へと来る車であっという間に埋め尽くされていくので、多少遠くても場所が悪くても即断が必要な局面だ。

 不思議な事に皆さん準備が済んだ人もなかなか出発しない。駐車地確保が出来れば後は朝食を採ったりと時間調整のようだ。自分は奥袈裟狙いなのでここで無駄な時間は使いたくない。まばらに出発するハイカーに紛れて登山口へと足を踏み出した。

     
折場登山口駐車場は既に満車       木の根の小尾根を登る

 序盤は木に囲われた小尾根を登るが、やがて正面に大きな尾根、左手には笹原の谷を挟んだ眺望が広がる。アルペンムードでなかなか良い景色だ。稜線の縁を回りこむようにして登っていくと、ちらほらアカヤシオの花が出てくるようになってくる。

     
笹原の胸すく尾根へ    朝日を受けたアカヤシオ    朝の空気が清々しい

 先程まで見えていた尾根の平坦部に到達すると景色が一変し、緩やかな幅の広い稜線のそこかしこにアカヤシオが増えてくる。遠くにはこれから登る袈裟丸山の峰々が良く見えてきた。

 袈裟丸山は、正確には1878mの前袈裟丸山、その北にある後袈裟丸山、続けて中袈裟丸山、そして連峰の最高峰である奥袈裟丸山から構成される。また、前袈裟丸山に至る途中にある小丸山は別名小袈裟丸山とも言われているので、合計5峰からなるのだ。
 一般的には前袈裟丸山を"袈裟丸山"としている。折場登山口からでも結構距離があるが、登山道は実に良く整備されており道迷いの可能性は微塵も感じられない。また滑落等の危険箇所も一切ない。比べると前袈裟丸山から北の領域は笹とシャクナゲなどの灌木が繁茂しており、こちらのルートは比較的難易度が上がる。また、後袈裟丸に登るには直前の八反張りという難所を通過し、笹の斜面を直登状に登らねばならない。更に、後袈裟丸山から奥地に入るといよいよ藪こぎルーファンの領域になる。徐々に難易度が上がってくるという寸法だ。ただ、このルーファン箇所は鋭敏な尾根を追っていくだけなので、派生尾根に引っ張られることなど無い。コース取りは意外と難しくないのだ。

     
   袈裟丸山塊 一番右が奥袈裟丸山    展望櫓

 賽の河原で塔ノ沢からの登山口を合わせる頃になると、いよいよアカヤシオの花が賑やかになってくる。時折女性ハイカーが上げる明るいはしゃぎ声が青空によく通る。花山行が似合わない自分もすっかり今日はお花見気分である。

     
賽の河原    アカヤシオの尾根を登る   

 一つ目のピークである小丸山からは日光方面の山がよく見えた。未だ白く冠雪する白根山とアカヤシオが美しいコントラストを織り成している。

     
      小丸山頂上

 小丸山から一旦高度を下げた所の鞍部にカマボコ型の黄色い避難小屋があった。内部を覗いて見ると、無理すれば三人くらいは入れそうな広さだ。避難小屋だから確信犯で泊まるわけにはいかないが、一度はこういった所で夜を過ごすのも憧れるものだ。

     
白根山とアカヤシオのコントラストが美しい    避難小屋    2~3人ならOK

 避難小屋のある平坦地からシラカバ(?ダケカンバ)の林が、その先にどっしりと構えた前袈裟丸山が見える。結構急峻な感じだが、これからあそこまで登るのだと気を引き締め直す。

 登りだすと、やはり急斜面に足も鈍り呼吸も乱れ出す。小丸山までが比較的緩斜面だったので尚更そう感じるのかもしれない。ただ、ここまで水平距離はかなり歩いているのも事実。疲れはじわじわと効いてきているのだ。(折場登山口~前袈裟丸山まで距離5.6Km、標高差679mであるから、そこそこの山登りでああろう)

 前袈裟丸山頂は広場になっており、自分が到着したのが9時半前なのに既に沢山のハイカーが休憩中であった。先が長いということと、帰路に再び立ち寄るという事もあり写真を一枚撮ってすぐ出発。

     
シラカバ?ダケカンバ?    前袈裟丸山が大きくたちはだかる    袈裟丸(前袈裟丸)山

 山頂北側に立つとご覧の豪快な風景が拡がる。遠く福島の峰々が白く輝くさまにしばし見とれた。手前に見える特徴的なピークが後袈裟丸山である。この後あそこを目指すのだが、本当の目標点はまだまだ先だ。


 前袈裟丸山からは一旦高度を下げるとすぐに薮混じりのルートとなる。薮は高い所で腰から胸くらいあるも、足元を見ると意外と踏み跡が濃くさほど難しさは無い。ただ、山としての奥深さや雰囲気はそれまでのコースと一線を画すピリリとした雰囲気がある。前袈裟丸山までは散策路然とした雰囲気を逸脱しなかったが、やっとここに来て山を歩いているという雰囲気に包まれた。
 折角長丁場を歩いて来たのだからこの山深さを味わずして帰るのは大変勿体無い気がするが、やはりこの薮では一般ハイカーはそうもいかないのだろう。

     
シャクナゲと笹と灌木と    後袈裟丸山が正面に見える    足元には踏み跡があるのでさして苦労はしない

 問題の八反張は崩落の為通行止めという情報があったが、途中や直前に特に注意書きなども無く、また真新しい鎖や鉄柱が打ち込まれて整備もされている。大部分のハイカーが前袈裟丸山止まりとはいえ、やはり相当数のハイカーはこちらまで流れて来ていて八反張も沢山の人が往来しているのだ。
 確かに序盤の数ステップは要注意で、ここで足を滑らせると谷側に落ちていく可能性が否定出来ない。だが、自分の前後には難渋している人はおらず、皆慎重に通過しているので一般的には問題無いと思うが、こういった難所に苦手意識がある人は避けておいたほうが無難だろう。ただ、万が一滑落しても谷の浅さと緩やかさ故に多少の怪我程度という雰囲気ではあった。(あくまで主観的であるが)

     
八反張下降部      

 八反張からは眼前にそびえ立つ山頂に向けて笹に覆われたルートを直登していく。まるで頭が地面に着いてしまうのではは無いかという位前傾して登っていく。踏み跡を探してかがみ気味に登っているので余計なのだ。
 何度か呼吸を整えて着いた先の後袈裟丸山も数組のハイカーが休憩中だ。しかし、本当に人の多い山である。

     
      後袈裟丸山から更に奥へ

 奥袈裟丸山まで1.8Kmの立派な道標があるが、この先はいよいよキチンとした薮道となる。相変わらず薮をくぐるようにしていけば踏み跡を追うことは可能。時折見失っても尾根キープで行けばやがてまた踏跡と出会う事の繰り返し。ただ、東側にスパっと切れ落ちている箇所があるので愚直に深追いせずに、踏み跡が消えても少し西側を行ったほうが良いだろう。

 実はこの時点でかなり疲労を感じていた。要因は二つある。
 初夏の日差しは思いの外強く、帰宅して分かったが顔や手、首筋が日焼けしていた。水は飲み過ぎないように注意してウェアーも調整したのだが、やはり自分の一番の弱点の暑さバテが出てきた。
 そしてもう一つは、マイペースを維持できなかった事。日頃人が居ない山歩きばかりしているせいか、どうも前後に挟まれて歩いているとペースがコントロール出来ない。2時間以上休憩を取らずに歩き続け、遅い先行者を追い抜くのに無駄な力を使う割りにはつまらぬ所で息が切れて立ち止まったりと、とにかくペース配分がめちゃくちゃであった。

 時間的にも登山を開始してからそろそろ4時間が経過しようとしている。下山も登り返しが数箇所あるからやすやすと短時間で下山口に届くとは思えない。安全に下山出来る体力は残しておかないといけないとすればそろそろ潮時であろう。渾身の笹薮登りの末に到達した小さなピーク。数人立てば満員になってしまうような中袈裟丸山にて本日の撤退を決意した。

     
軽いノリで道標もあるが?    ひたすら上を目指すべし    流石に時間も体力も限界だ

 中袈裟丸山からの眺望は樹木に遮られてあまり良くない。狭い山頂故にここで食事の用意を広げる訳にもいかない。また、せめてゆっくり木陰で休みたいという思いから少し戻った所で昼食とした。地面に腰を降ろして足を投げ出すと流石にじんわりと疲労を感じる。

 昼食中に4人のグループが笹をかき分け登ってきた。上のほうでやがて声がしなくなったのを見るとそのまま奥袈裟に向かったのであろう。
 また、食事後に下山を始めると今度は10人位の中高年グループが登ってくる。山岳会の人かどうかは分からないが、女性が主体のパーティーながらこのようなルートを一糸乱れず登って来るのだから、呆れると言おうか羨ましいと言おうか、かなりの体力である。自分も少しあやかりたい気分であった。彼らならこの地点から奥袈裟丸山までをピストンしても2時間はかからないだろう。

 後袈裟丸山から北の領域は確かに薮深いものがあるが、時折登山道のようにスッキリした箇所があったりもする。往路にも火照った体を冷やした風の抜け道がある箇所。帰りもまたそこに立ち止まり、谷から通り抜ける冷たい風にしばし体を預けるのであった。どうせ食べるなら此処にすれば良かったなと多少後悔もした。

     
白骨化した木と山名板    谷から風が抜けるお気に入りポイント    前袈裟丸山と奥袈裟丸山

 後袈裟丸山まで戻ると、笹薮も八反張もクリアしたハイカー達が続々と山頂を踏んでいる。中には良くここまで来れたと感慨深気な人もいるが、良く整備された登山道しか歩いたことのない人には、後袈裟丸山への道筋も結構冒険的な雰囲気に包まれていることは想像に難くない。

 前袈裟丸山まで戻ると丁度お昼時で、山頂は大量のハイカーで満ちていた。下の写真は一番人が少ないアングルで撮影したものだが、こんなに人の多い山頂は低山でも経験が無い。袈裟丸山は栃木と群馬両県の誇る山であり、アカヤシオの花期とも重なったので尚更のことなのであろう。

     
八反張に向けて笹原を下降    前袈裟丸山直前で振り返り見る福島の山並み    大人気の前袈裟丸山

 前袈裟丸山からの下りは、先ほどこんなに登ったのかと思い直してしまうほどのキツイ下りだ。太腿がそろそろ悲鳴を上げだしているので、オーバーペースは自重しながらそろりそろりと降りていく。
 避難小屋の前ではベンチに腰掛け、暫しうぐいすの鳴き比べを聞いた。静寂に包まれてこのままずっと此処に居続けたいような気持ちにふと陥る。それでも、頬を撫ぜるような少し冷ための風に癒された頃、思い切って立ち上がった。さぁ、まだ先は長いぞ。まずは目の前の小丸山を登り返さないと。
(この時点で下山路の距離にしてまだ半ばであるという事を書き加えて、今回の記事を終了とさせていただく。)

  
往路では富士山が見えた    心地良い笹原の稜線を下る

概略コースタイム
駐車地発(06:25)-賽の河原{塔の沢コース合流点}(07:23)-小丸山(08:15)-避難小屋(08:27)-
前袈裟丸山(09:19)-後袈裟丸山(09:55)-中袈裟丸山(10:33)-昼食休憩-行動再開(11:08)-
後袈裟丸山(11:48)-前袈裟丸山(12:27)-避難小屋(13:13)-小丸山(13:35)-賽の河原(14:35)-駐車地着(15:28)

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