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2011年08月 アーカイブ


2011年08月12日

日光の奥座敷へ


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 前回塩原の富士山に行った後、山登りもバイクもこの2ヶ月とんとご無沙汰であった。
 仕事が忙しくて休みが無いといったことではないのだが、家庭内の都合で休みが自由に使えなかったのがその理由である。この状態はまだ暫く続く可能性があるが、お盆進行でなんとか確保出来た自由時間。そろそろ出始めた禁断症状の手当てにと、かねてより気になっていた箇所を歩くことにした。

 金精峠より北方の温泉ヶ岳根名草山を目指す。単純ピストン行があまり好きでない自分にとってはこれまで触手が伸びないコースではあったが、標高もそこそこあり樹林歩きが多いらしいので連日のように攻め苛まれる猛暑から開放されるにはうってつけでないかと考えた。

 夏の山は早発ち早帰りが基本(と自分は思っている)。朝4時に自宅を出発した。東の空がほのかにオレンジ色に染まっている。朝焼けとまでもいかないが、今日も雲の多い天気なのだろう。夕立が来そうな頃までには下山終了の予定で一日の行動を開始する。

 いろは坂も金精峠も貸切状態でスイスイと車を進めることが出来た。金精トンネル脇の駐車場で車を降りると、若干強い風が吹いているせいもあって少し肌寒いほどだ。長袖の登山ウェアで正解だ。下界の猛暑が嘘のようである。

 駐車場脇の道標に導かれ山道に入るとすぐに木製階段の急登が始まる。先般の地震の影響なのか、登山道が崩落したザレ斜面のトラバース区間は少し緊張したが、あとは固定ロープなど下がっていても、それらに頼らずに登れるレベルで特に難しさは無い。もっとも、2ヶ月のブランクがある足腰に急登が優しくないのは事実だ。

 オーバーペースにならないように、小刻みに止まって息を整えながら登っていく。やがて金精様のお堂の鮮やかな朱色が目に入るとそこからほんの少しで金精峠へ到着である。朝日を受けて長い影を落とす道標の先には、駐車場で先発した単独者ともう一組の男女が休憩中であった。

     
金精トンネル脇駐車場    階段急登ではじまる    金精峠

 峠を吹き抜ける爽やかな風が、先ほどまでの登高で汗ばんだ体をすっかり乾かしてしまった。むしろじっとしていると寒いほどだ。

 休憩中の単独者が金精山方面へ歩き出したのを合図に、自分も北に聳える山あいへと足を踏み入れる。先行者の影は薄い。ところどころのぬかるみには登山靴の足跡より、昨晩か今朝かと思われる獣達の足跡がくっきりと残されている。あまり人気のあるコースでは無い上に今日は金曜日。静かな登山が楽しめそうである。

 早朝登山のもう一つの楽しみとして、刻々と生き物のように変化していく陽光の織り成す光彩の美しさを外すことは出来ない。今回も、立ち込める朝霧を切り裂くように森へ差し込む朝日や、清々しい白根山の姿を楽しませてもらうことが出来た。
 また、木の枝に鈴なりのようになっていた猿一家(恐らくファミリーだろう)に出迎えてもらったのも思い出となった。カメラを向けようとしたら親ザルが一声鳴いて一同霧散してしまったが、怖いもの知らずのいたずら坊主の小猿達は好奇心満々でいつまでもこちらを窺っていた。

     
森を射す朝日    自然が織り成すイリュージョン    朝日すがすがし、金精山と白根山

 ジグザグに付けられた登山道をひとしきり登ると一旦斜面が緩み、温泉ヶ岳への道標を見る。「栃木百名山」本には小さな道標なので見落とすなと書いてあったが、最近新設された立派な道標があり随分判りやすくなっている。温泉ヶ岳は根名草山の帰りに寄ることにしてここは真っ直ぐに進む。

 温泉ヶ岳の東斜面を巻く笹道。足下の斜面もずっと笹原なので遮るものもなく、太郎山やその周辺の眺望がすこぶる良い。行く手に大きな石が突如見えるとその先で笹道はお終いとなり、温泉平の平坦地へと到着だ。

     
帰路に向かうこととする       温泉ヶ岳を巻き上がる笹原

 立ち枯れの白木が目立つ念仏平を通過し、旧避難小屋跡の手前の水場で喉を潤す。ここよりさらに一登りして最近新築された避難小屋へ到着した。まだ木の香りが漂う室内を見ていたら驚くなかれ、携帯が着信した。どうやらauの電波はぎりぎり届くようである。会社からの電話で対応にしばし時間を費やし想定外のロスタイム。皮肉な事にソフトバンクの社用携帯は完璧な圏外である。感覚的にはこのような深山で通じるほうが驚異だが、ロープウェイが架かっている超メジャーな白根山が近くにあるからなのだろうか。(白根山の山頂から直線距離で約2.3Km)

     
念仏平の立ち枯れ    新避難小屋が真新しい    木の香り漂う素晴らしい室内

 新避難小屋から一旦高度を下げて、最後の登りをこなせばそこが根名草山の山頂である。眺望は東側と北に僅か。山頂より北西に標高差80mほど下りたコルからは北側の眺望が良いらしいが、湿った空気が充満して霞が強い今日の天気ではあまり期待出来ないだろう。体力温存も考慮して山頂より引き返す事にした。早朝から行動しているので先程から腹が鳴ってしかたがない。腹ごしらえを済ませ下山を開始するとすぐに三人組が登ってきた。金精峠以北で本日初めてのハイカーだ。このあと単独者一名と交差するがそれっきりである。

     
生憎遠望は霞んでいる       眼下の菅沼

 山頂より下っていくと、新避難小屋がある2326mPの台形上のピークが良く見渡せるようになる。あの脇を歩いてきたのだなと思うと改めて距離感を感じるものだ。今日のコースは地形図を見る限りさして起伏がきついわけでもない。だが、2ヶ月のブランクがあるとはいえ案外疲労が溜まっているように感じた。家に帰ってGPSのログを見ると累積標高差は1000mを超え、水平移動距離も11Kmあった。さもありなんと頷けるところだ。
 温泉ヶ岳が段々と大きくなり、再び脇の巻き道の笹原を行く。朝露にズボンを濡らした往路に比べ、いくら涼しいとはいえ照り付ける夏の日差しに思わず汗が頬をつたう。

     
脇を通過してきた2326mP    温泉ヶ岳が形良く聳える    温泉ヶ岳巻き道の笹薮

笹原より東側眺望

 確認済みの分岐より温泉ヶ岳へ向かう急登に取り付く。やがて斜度が緩むとそこが山頂だ。笹原で見たアングルとあまり変わらないが、東の太郎山方面そして北に目をやると避難小屋から念仏平へと今日歩いてきた稜線が一望出来る。思った以上の眺望だ。距離的にも金精峠から温泉ヶ岳ピストンは結構手軽なお勧めコースかもしれない。

 山頂では千葉から来た76歳のご主人とその奥様が下山の支度をしているところに鉢合わせした。先方も少し驚いた様子だがすぐに破顔。「こんな所に登ってくる物好きな方がやはりいるんですね。今日はこのまま誰にも逢わずに帰るものとばかり思っていましたよ」。自分も、「根名草山からのピストンで帰りに寄りました」と伝えると暫し山談義に花が咲いた。

 聞く所によるとご夫婦は今日で日光滞在4日目とのこと。この4日間で太郎山や半月山など周囲の山も随分登ったらしい。山で会う高齢者の方を見るにつけ「本当に大丈夫だろうか」と思うことがあるが、話好きなこのご夫婦にはきっと山を歩くことが良薬であろうことは容易に感じ取ることが出来た。自分もあの歳まではとはいかずとも、あやかりたいという思いも込めて別れしなに「お気をつけて・・・」と挨拶をした。これからも末永く山をお楽しみください、と付け加える事はあえて胸にしまって。

 いずれ遅いか早いかの違いで誰にも死はやってくるもの。この大自然に包囲された中ではそんな摂理というものに抗うことが出来ない人間の小ささを感じる。闊達と話すご老人に「是非長生きしてくださいね」と野暮ったく口にするにはあまりにも憚れる。むしろ、思うが侭に生き抜いて突然迎える死もまた道理に逆らわない人生なのではと思ってしまった。そんなことを考えさせられた静かで深い日光の奥座敷であった。

     
温泉ヶ岳へは笹を別ける急登    山頂の向こうは来し方2326mP    切込湖、刈込湖と太郎山周辺
     
新避難小屋   


金精峠より来し方温泉ヶ岳方面

概略コースタイム
駐車場発(6:00)-金精峠(6:29)-温泉ヶ岳分岐(7:25)-避難小屋(8:23)-
会社より電話で停滞-行動再開(8:40)-根名草山到着(9:23)-
昼食休憩-行動再開(9:47)-避難小屋(10:30)-温泉ヶ岳分岐(11:30)-
温泉ヶ岳(11:42)-おやつ休憩-下山開始(12:07)-金精峠(12:49)-
小休止-駐車場着(13:32)

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