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日光の山達アーカイブ


2012年09月22日

燕巣山から湯沢峠



-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --
※当コースには一般登山道でない箇所が含まれています。参考にされる場合は自己責任でお願いします。

 以前から気になっていた燕巣山。金精峠を超えて丸沼近辺を通過する時、四郎岳と燕巣山の堂々とした双耳峰のような山姿にはいつも心惹かれていた。やるならば、南東の県境尾根も笹薮に名高いルートであり外せないと常々考えていた。尾根に難儀して雷に捉まるのも嫌だし、あえて夏場のピーカンを外して季節と天候を選んでいたら好機が到来したようである。

 すっきりとした晴れは期待していないつもりでも、いざ支度を終えて歩き出すと今にも降り出しそうな空模様には流石に心もトーンダウンする。予報では夕方まで幾らか天気が持ち直すはずなのだが、まぁ山の天気はそうは素直にはいかないのも承知。せめて雨脚が強くならなければ良いのだが。

 出だしは四郎沢沿いを登っていく。途中何度か沢を渡リ返すとやがて美しい滑床を見る。直ぐにロープが垂れ下がった小尾根に取り付いた。このまま高度を上げるのかと思ったら、また支沢沿いを行く。
 途中パラパラと雨が降り出した。沢沿いのルートは樹に覆われていて直接雨粒が落ちてくることはない。かえって涼しくて歩きやすい位だが、程なく雲間から薄日が射してくると内心ほっとする。やはり山登りは太陽の日差しが有ると無いとで精神的に随分違うのだなということをあらためて痛感した。

 沢から離れて少し登ると程なく四郎峠へ到着である。左が四郎岳、右が燕巣山へとよく踏まれた立派な尾根道が続く。
 栃木百名山本の記述には、丸沼温泉から燕巣山は、はっきりとした登山道があるとされているが、四郎峠へ到達するまでの沢沿いのルートは一部不鮮明な箇所もあり、初心者の方は経験者と共に登ることをお勧めする。一方、四郎峠から燕巣山へは多少急登だが迷うような所は全く無い一本道である。

     
四郎沢沿いの登山道を行く    何度か沢を渡り返す    晴れていればもっと美しい滑床
     
唯一の道標    時折、沢もルートとなる    四郎峠には立派な登山道が

 丸沼温泉から燕巣山へは標高差約800m。四郎峠まででその半分の400mを稼いだことになる。だが、等高線の詰まり具合を見ると、峠からの電車道のような登りがこのコースの真髄であろうと見てとれる。はたして出だしのゆるやかな尾根道も長くは続かず、やがて1891mPを超えると胸突き八丁というにはいささか大袈裟だが、地味に急登の連続がなかなか足腰に堪えるのだ。

     
   出だしは穏やかな道    東電の境界杭
     
眼下は丸沼    燕巣山へはひたすら急登   

 無事山頂に到着するもあいにくのガスで眺望は全く無し。本来ならばこの先の県境に累々と繋がる白根山や錫ヶ岳を大きく見ることが出来るだろうに、お隣の四郎岳でさえガスに深く閉ざされていた。次回訪れる時は四郎岳の山頂に立ち、この山域からの景色を眺めようと決意した。

     
   赤薙山以来のセルフ撮り    東電標柱を利用!

 腹ごしらえと充分な休憩、鋭気を養って出発。カッパのズボンだけを履いて上は藪こぎ専用ウィンドブレカーを着る。藪こぎ専用と言っても単なるユニクロの激安品で、要は枝などに引っ掛けて破いても惜しくないだけのことである。また、色は街中では恥ずかしくてとても着れないようなヴィヴィットなオレンジ色で、万が一の時も視認性は抜群である(笑)。
 登ってきた登山道と同じ方角に踏跡がありこちらへ一旦降りてみると腰高くらいの気持ち良い笹尾根が続く。だがこちらは方角違い。これを辿り北へ尾根を追えば鬼怒沼の西を抜け物見山に通じる。一度は歩いてみたいルートだが、下山後のアクセスを考えると少なくともどこかでテン泊が必須だろう。自分にはちょっとハードルが高いかもしれない。

 天気が良ければ尾根通しを目視してから下降点を決められたが、取り敢えず一旦降りた笹薮から山頂を観察し、笹の中に点在する木の並びから目論見の尾根と見当をつけてトラバース。尾根の芯に乗ると意外な事に微かに道形が認められたが、それも一瞬。後はひたすら笹に覆われた稜線下りである。

     
湯沢峠へ向けて薮下りスタート    一旦北東へ降りる    トラバースして尾根の芯に乗ると意外や道形微か

 笹薮が無ければルートの難しさは殆ど無い。だが、山頂からの初めの標高下げの区間は背丈程の笹で遠望が効かず若干てこずり、2083mPと2045mP付近の緩斜面も尾根形をはっきりと見分けられず進路確定が結構難しい。ルートミスをしても多少の登り返しをすれば良いのだが、笹薮の登り返しは思いの外体力を消耗する。できるだけ無駄な事はしたくないのだ。
 所々足元に隠された倒木に気をつけながら進むのは薮歩きのセオリーだが、横たわる古木の中には年輪を感じさせるような大きなものもあり、古からの自然の全てがこの笹薮に覆いつくされているのではないかと思うと感慨深いものがある。
 ネットで湯沢峠から燕巣山へ登った人の記録を見るが、屈強な笹薮に抗しての登りは容易でないことは想像に難くない。また、倉持裕至氏は著書の『栃木273山』で、この湯沢峠からの登りをさらっと記述している。今更に氏の桁外れた鉄人ぶりを実感した次第だ。

 難しかったのは2045mPでの方角替え。GPSのプロット点をもう少し増やしておけば現在地の正確な把握が容易だったと反省するが、ここは慎重にコンパスと地図とGPSとを総動員して正確にルートを維持する。

     
尾根を外さず笹薮を進む    人知れず池塘あり    笹薮は延々と続く

 2045mPから無事尾根の乗り換えに成功し、下って行くと遅まきながら日が射し始めてきた。樹間から根名草山が間近に見える。写真に捉えることが出来たのは下の1枚。根名草山北峰(2304mP)である。三角点峰のほうも笹の間からちらちらと見ることが出来た。

     
   幾らか日が射してきた    根名草山の北峰

 忘れた頃に気まぐれに点在する古い赤テープだが、ひときわ大きく樹に巻きつけられたテープに気づくとそこが湯沢峠との接合点である。無事登山道へ復帰することが出来た。あとはひたすら登山道を下るだけである。何よりも道形があるのが嬉しい。途中四郎岳が姿を覗かせたり、ほとばしる沢の流れに笹尾根の静謐の対極にある"動"を感じたりと、感慨深い下山みちであった。
 駐車場からの去り際にふと振り返ると、今しがた歩いてきた県境尾根がよく見える。心の中で、"あの"笹薮に軽く会釈をしながらハンドルを握りかえした。

     
湯沢峠の登山道に出る    樹間から四郎岳が大きい    鬱蒼とした行程故に沢が心地よい
     
駐車場へ到着(奥が湯沢峠方面)    四郎峠へは駐車場より北西、四郎沢沿いを登る    丸沼温泉より

概略コースタイム
駐車場発(6:04)-滑床の沢(6:43)-四郎峠(7:30)-燕巣山(8:49)-行動再開(9:10)-
2083mP(10:41)-2045mP(11:42)-湯沢峠(12:47)-湯沢に接合(13:55)-駐車場着(14:30)

2012年02月19日

赤薙山


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --
赤薙山の過去の記事
  2010年8月29日 女峰山を目指して
  2009年5月9日 快晴の赤薙山と丸山
  2008年9月13日 久々の山行にグロッキー
関連山行
  2011年2月19日 雪の丸山に登る
  2007年7月8日 雨の丸山を登る

 丁度一年前の同日、霧降高原スキー場跡から丸山に登った。
 その時に、赤薙山へ至る道筋の雪の感触を掴んでいたので今年は是非赤薙山の山頂を踏んでみたいと考えていた。
 霧降高原近辺は基本的に太平洋側平野部の天気が支配するエリアである。冬の西高東低の気圧配置では晴天に恵まれる。だが、日本海側でどっさり落とした雪の名残が此処にもそれなりに降るので、適度な雪と快晴と、冬の赤薙山は実はいいとこ取りの山なのである。


 外が白み始める頃に自宅を出発すると、大谷川の向こうに現れた日光連山が朝日に赤く照らされている。これから向かう赤薙山の頂きに思いを馳せると心持も自然と高揚する。
 今年は雪が少ないのか、旧霧降道路も標高1,000m付近までは路面にまったく積雪が無い。圧雪路を慎重に進むとやがて旧第三駐車場へ到着。去年は駐車場の入口が閉鎖されていたが、現在工事関係車両用に駐車場が開放されているようだ。

 道路をまたぎ、建設中のロッジ(旧リフト乗り場あたり)脇で足回りを整える。念の為にスノーシューも持ってきたが、雪質を見て不要と判断して車に残置した。
 本日の装備はワカンの下に9本爪アイゼン(6本+横3本の変わった軽アイゼン)である。同時装着は今日が初めてだが効果は如何に。

 取り付きのトレース痕はあちこちに付いているが、主にバックカントリースキーのもののようだ。いずれも昨日かそれ以前か。半分雪に埋もれつつある痕跡を追い、本日の初トレースを刻んでいく。

     
真正面にこれから登る赤薙山    今日の装備はワカンの下にアイゼン    元スキー場の最下ゲレンデより出発

 リフト(スキー場)跡地の遊歩道化整備は着々と進んでいるようで、真新しい案内板などが整備されている。脇には木製の新設階段があり、完成後は今歩いている下が日光キスゲの花畑となるのだろう。ゲレンデを横切るコースなども設置されているようで完成後が楽しみだ。

 雪は適度に締まっていて概ね良好。油断していると時折脛あたりまで潜りながらも、表面がささくれだった硬い箇所を選ぶと沈まず快適に登っていける。斜面一杯に屈託なく描かれているバックカントリースキーヤーのシュプール。営業中のゲレンデでは味わえない爽快感できっと滑っているのだろう。

     
新ハイキングコースが整備されている模様    ザクザクと登る    我が足跡

 斜度のきつい旧第四リフトの区間は昨年同様に辛い登り。何度も何度も立ち止まりながら登っていく。今日は早立ちだから時間の貯金は充分。体力温存、のんびり確実に行くべし。

 最後の急斜面をこなしてキスゲ平へ。今日の本命、赤薙山とそこへ続く雪の稜線がいよいよ姿を表す。

     
快晴なり    キスゲ平までもう少し    キスゲ平到着

 ザックを降ろしてしばし休憩としたが、流れる雲が一瞬太陽を覆うと見る見る間に体が冷たくなってくる。

 この先、焼石金剛までは比較的緩斜面なので楽に登って行ける。先人のトレース跡も所々雪で覆われ消えては現れ。ゲレンデ同様、表面の風紋が鋭い所を選んで歩けば踏み抜きも無い。たまに踏みぬいてもワカンが効いていて心強い。焼石金剛付近の夏道は岩と笹で案外歩きにくいものだが、一面が雪に覆われている今の季節のほうがルートに気を使わなくてすむ分歩きやすいと感じた。

     
   山頂と直前の痩せ尾根    焼石金剛から

 山頂直下にある樹林帯手前の痩せ尾根が見える。夏道で歩くこの稜線は景色がすこぶる良く、赤薙山登山の楽しみと言ってもよいだろう。南側に広くえぐられた斜面は、この季節、純白の雪に覆い尽くされ目も眩むばかりである。

 この痩せ尾根に雪庇があるというのを山レコの報告などで読んでいた。今日も、ここの状況によっては撤退も充分視野に入れていた。

 一箇所目に突き当たった雪庇は右手にトレースあり。北側の樹林の中を縫って進む。やがてトレースは再び稜線へ引き戻され、足幅程度の所を伝っていく事になる。雪の表面は硬くもなく新雪でも無く丁度良い塩梅にワカンが噛む硬さ。少し蹴り込んでみても下層がクラストしている感じは無い。ゆっくりと一歩一歩慎重に進む。やがて樹林帯脇にある道標地点に到達してほっと一息である。

 樹林帯の中は雪付きも少なくてきっと楽だろうと考えていたが、案外これが甘かった。夏道と違ってトレース痕はほぼ直線的に付けられている。急斜面になると、前爪が無いアイゼンなので滑りやすく大変登りづらい。苦し紛れにトレースを外すと踏み抜いたりするので、大人しくトレースを追うほかないのだ。危険こそ少ないが、体力を思いの外奪われ今日一番の難所だったかもしれない。

     
痩せ尾根注意    樹林帯入り口でほっと一息    夏道では見られない光景。ここを登っていく

 女峰山方面へ向かう巻き道もご覧の通り。トレース痕のかけらも無いこのルートは北側にあるので、下手に突っ込むのは自殺行為であろう。

 夏道で記憶鮮やかな、道を塞ぐような倒木くぐり。次に大岩を見るとやがて山頂の鳥居が目に入った。無事赤薙山へ到達である。

 とりあえず山頂は素通りし、かなり薄いトレース痕を辿って西側の肩に進んでみる。奥社跡方面に向かう一つ目のピークへの道筋は、沈黙に閉ざされた感のある近寄りがたいものがあった。

     
女峰山への巻道も深く雪に閉ざされている    赤薙山西の肩より女峰山へ続く奥社跡方面    流石にこの辺は膝までもぐる

 山頂まで戻り思案した。景色の良い焼石金剛まで下って食事か・・・。痩せ尾根もある事だし山頂で腹ごしらえと鋭気を養ってから出発したほうが良いだろうと結論付ける。

 いつものメニューとコーヒーで腹を満たした後、樹の枝に脚が曲がる三脚をくくりつけて初めてセルフ撮りなるものにチャレンジした。その栄えある(?)第一作目が下の写真である。ポーズが硬い、表情が硬い(モザイク処理済なので読者にはわからないだろうが)、我ながらつまらない写真なのだがご愛嬌。色彩感覚に乏しい自分だが、こうしてみるとこのスッパッツの色はどう考えてもアンマッチで笑える。まぁ、恥を偲んでご愛嬌写真と一笑いただければ幸いである。

     
   初めてのセルフ撮り。笑える一枚    いつものメニュー

 食後は山頂の裏手から見える女峰山方面の景色を堪能する。眼下には、見えないが先日訪れた雲竜渓谷があると思えば感慨もひとしおである。

 このコースは帰路はひたすら下るだけ。滑らないように気をつけて、ご褒美のような景色を楽しみながら降りていく。稜線から見る風景は広大で素晴らしいが、雪のついた枝間から見る無雪の平野部も色彩的に素晴らしく贅沢な風景である。

     
女峰山黒岩、直下は雲竜渓谷    女峰山は険しく気高い    樹林帯から今市方面

 痩せ尾根通過は先程の自分のトレースがあるので幾分安心だが、依然気を抜くと危ないので神経質に進んだ。

 焼石金剛付近まで降りてくると、自分以外に下山方面の足跡が混ざる。対向した登山者は居なかったので、どうやら途中で引き返したようである。

     
痩せ尾根と高原山    北側も雪庇があるので油断出来ない    焼石金剛付近から

 キスゲ平付近では登ってくる登山者に遭遇。足元を見るとツボ足で、何も付けずによく此処まで登ってこれたものだと感心した。この登りの緩い区間で少し登っては休み休み。いささか疲れた足取りである。決して早い時間とは言えないだけに赤薙山の山頂狙いも如何なものかと思ったが、挨拶だけで別れたのは今となってはいささか心残りであった。

 程無く丸山方面からスノーシューの若者が降りてきた。合流した快活な彼としばらく会話を交わし、最後のゲレンデ下りに興じる。第四リフト跡はやはり急で、ワカンのテールに体重をかけるとスライドするように下降できるので面白い。尻餅をつくとそのまま数メートルくらいは滑落するが、此処は元ゲレンデなので怖いものは無い。ソリでもあれば滑降でもしてみたいものだ。

 登りで散々汗をかいた区間もあっという間に終了。昨年に続き無風快晴の好天に恵まれたことに感謝しながらゲレンデを後にした。

     
外山、鳴虫山、鶏鳴山、笹目倉山       駐車場まであと僅か

概略コースタイム
駐車場発(7:22)-第四リフト跡始点(8:04)-キスゲ平(8:43)-焼石金剛(9:49)-
山頂西の肩(10:47)-山頂着(10:57)-昼食休憩-行動再開(11:42)-焼石金剛(12:18)-
キスゲ平(12:47)-駐車場着(13:25)

2012年02月05日

快晴の雲竜渓谷

 見頃を迎えた雲竜瀑。
 今年はお誘いを受け、総勢20名弱のグループに参加する。

 自分は雲竜渓谷とは相性が良いようで、昨年に続いての好天。だが、あまりにも陽気が良く気温が高めだったので、氷瀑の状態は段々と衰退しつつあるようだった。雲竜瀑の中間部に大きなクラックが入っており、アイスクライミングで登っている人を見て肝を冷やした。

 今年の渓谷全般状況は、昨年よりは幾らか迫力には欠けるものの依然として見る人を圧倒させる力は充分。
 更なる寒波の到来で最熟成をするのか、あるいはこのまま春に向けて今季の寿命を全うするのか。
 また来年も是非訪れてみたい、そう思わせるに充分な魅力あるスポットである。

序盤の林道歩き 稲荷川砂防ダム監視所からの定番眺望

  雲竜瀑

   

2011年12月17日

鳴虫山~火戸尻山~675mP

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-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --
※当コースには一般登山道でない箇所が含まれています。参考にされる場合は自己責任でお願いします。
鳴虫山の過去の記事
  2008年4月29日 アカヤシオを満喫、鳴虫山
  2007年6月20日 平日の鳴虫山

 鳴虫山から火戸尻山へ連なる稜線に憧れを抱いたのは、栃木の山を歩き始めてすぐの頃だった。
 県内の山歩きガイドブックといえば、分県別「栃木の山」、下野新聞社「栃木百名山」、そして随想社の「栃木の山140」が揚げられる。その「栃木の山140」で読んだこの尾根歩きが、未だ体力も経験も乏しかった自分にはとてつもなく魅力的に感じられたものである。

 子供の頃よく父親に山に連れられ山登りをしたが、登山口から山頂までを往復するいわゆるピストン山行で歩いた経験がまったく無かった。自家用車など持っていなかったせいもあるが、主だった山域が奥多摩方面だった為に電車やバスを使ったアプローチが充分可能であることが幸いだったようである。
 そんな父親の山行スタイルが教わるとも無しに自分の血に流れているのであろうか、自らが中年になって山登りに目覚めてからも周回や縦走コースに自ずと目が向いてしまうのはこんな理由からかもしれない。

 さて、このロングコースをどう歩こうかといろいろ情報収集や思案を重ねたが、一番の問題は"アクセス"をどうするかという事だった。
 車二台であれば登山口と下山口の双方に配置すれば良い。しかし、単独ならばここは工夫が必要だ。だが幸いな事に公共交通機関が利用出来る。

 二番目はコースの難しさ。「栃木の山140」にルートとして紹介されてはいるが、前提として地図読みが出来る経験者向きとの記述がある。だが、これはさほど心配することはない。事実ネットで幾つか見られる踏破記録にもさして難しい所や通過困難な難所があるという報告が無い。地図を見ると電車道のような一本筋の(実際に歩くとそこまで甘くはないが)尾根道である。派生尾根に惑わされる可能性もかなり低そうである。たとえGPSが無いとしてもコンパスで適宜確認しながら歩けばまず間違える事は無いと思う。

 計画は次のように組んだ。

 朝一番で下山予定地である赤井原林道の支線深部に自転車を配置する。車で県道14号に戻り計画していた道路脇スペースに駐車する。最寄りの合の内バス停より始発バスに乗りJR今市駅へ。電車へ乗継ぎ日光駅から徒歩で鳴虫山登山口へ向かう。

 鳴虫山へは一般登山道を使い、山頂からは登山道を外れて火戸尻山までの尾根歩きとなる。火戸尻山からの下山は南の大滝方面へのコースと、今回自転車を配置した新谷登山口へ降りるコースがあるが、鳴虫山~火戸尻山間は思ったより楽に歩けそうなので、最後の部分は地形図を眺めて自分なりにひねりを加えた下山路とした。
 当初計画では、南東にずっと下って行き、小来川郵便局付近まで尾根を拾い尽くして下山する予定であった。だが、よくよく考えてみると日の出前に鳴虫山登山口に立てるくらいでないと、進路に手こずった場合下山途中で日没を迎える可能性を否定出来ないと判断して計画を縮小した。ただ、この下山路は今後別な周回コースとして是非実現したいと思っている。

 随分と前置きが長くなってしまったが、いよいよ出発である。

 近場の山に登るにしては異例の早起き。4時に目を覚まし、昨晩にあらかた済ませておいた準備を再点検して4時半には自宅を出発する。天気予報はまずまずだ。空の機嫌はどうだろうか。身が引き締まる冷たい空気の中見上げると、星の瞬きがまばゆい。雲は少ないようだ。

 小来川地区に車を進め、深く眠りに閉ざされたままの赤井原林道に差し掛かる。林道の奥は昼間でも鬱蒼とした雰囲気なのに、ヘッドライトを消し去ってしまったらすべての暗闇に押しつぶされてしまいそうな山の威圧感を感じる。
 予定していた箇所へ到着し車から降りると沢の音が急に耳に入ってきた。ヘッドライトにぼおっと照らされた杉木立の森が妖しく光る。これが山の夜なのである。

 自転車を手近な杉の木にくくりつけ、踵を返すようにして林道を戻る。予定の駐車地へ車を駐めてほっと一息ついた。パンをかじりながら待っていると、いよいよ空が白みはじめ、温かいコーヒーをすべて飲み終えた頃にはすっかり明るくなった。バスの時間も近い。身支度を整えていざ出発である。

 駐車地からすぐそばにある合の内停留所で始発を待ち、ほぼ定刻通りにやってきたバス車中の人となる。乗客は自分を含めて3名。

 JR今市駅で日光線へ乗り換える。駅には学生を主として沢山の乗客が待っていたが、宇都宮方面への乗客が殆どで、閑散とした車両で日光駅への一駅の電車旅である。
 アカヤシオの季節にもなると、遠く東京方面からもハイカーが押し寄せる鳴虫山だが、この時期はあまり人気も無いらしく、ザックを背負って日光駅のホームに降り立ったのは自分一人のようだ。

     
駐車地    7:05のバスに乗る    日光駅前にて

 鳴虫山に登るのはこれで三度目だ。三回とも日光消防署裏手の住宅地脇の登山口からなので、ルートは慣れたものである。上部のほうに行くに従い顕著になる木の根は相変わらず相性が悪いようで、それはそれで懐かしい。途中にある神ノ主山は以前に比べて木が伸びてしまい女峰山や男体山の眺めがスッキリしない。

 後ろからやってきた二人組の男性ハイカーに道を譲り、オーバーペースにならないように登って行ったが、以前の二回に比べればまったく余力のある自分の足運びに驚く。若者達に比べれば他愛の無いレベルであるが、にわかトレーニングの中年でもここまでこれるのだなという嬉しさが内心込み上げてきた。

 山頂に着くと先ほどの二人組と先着のもう一人の若者が談笑中であった。まだ時間が早いからなのか、この山を一番訪れる筈の中高年の姿は無い。
 展望台から見える男体山は以前から枝に邪魔されてスッキリしていなかったが、やはり木の成長著しく期待外れの眺望であった。

 今回は鳴虫山は通過点、というよりも出発点に等しい場所である。そんな気負いも手伝ってか、水を一口含んだだけで直ちにザックを背負い直した。

     
民家の裏手にある登山口    鳴虫山名物、木の根階段    鳴虫山頂上

 山頂からは登山道を外れ、火戸尻山への稜線歩きの開始である。出だしから、落ち葉で踏み跡が消された緩い尾根であるが、方角を見誤らなければそう心配するほどのことでも無い。また、縦走目的以外の赤テープも無いので安心である。
 南向きだった尾根が少し東側に偏る頃になると、立派な鹿よけネット沿いに進むようになる。一般コースではないので道標は一切ないが、時折(覚えているだけでも5枚程度はあった)「コンセーレハイキング」と記されたプレートが木に打ち付けられていた。クラブで設置するほど此処が歩かれているのは確かなようである。

     
登山道を外れ火戸尻山を目指す    鹿よけネットが続く    同じプレートを何枚か見かけた

 程無く、ネット越しに東側の眺望が開ける。手前の高平山から南に伸びる稜線が大きく、彼方には上河内の羽黒山と篠井富屋連峰。右手に目をやると鞍掛山から古賀志山、赤岩山までがすっきりと見通せる。

     
ネット越しに東側眺望    羽黒山と篠井富屋連峰    鞍掛山から古賀志山

 ネット脇に僅かに薮っぽい箇所もあったが、概ねここまでは歩きやすく進路に難しさも無い。東の斜面に降りていく鹿よけネットに別れを告げると995mPである。ここからの下りの区間は間伐材が放置されていて、踏み跡も消されていて多少歩きづらい。斜度も緩み尾根形が曖昧なのでルートとしては嫌な箇所だ。

     
ネット脇が若干薮っぽい    ネットは下に降りていくのでここで終了    間伐後放置されているところは歩きづらい

 GPSを出して慎重に進路を探っていくと再び踏み跡が見えるようになる。途中にぽつねんと石祠があったが、振り返ると今日のコース唯一の石祠であった。石祠は建立した人の家の方角を向いているというが、南東に面していたこの石祠。何を想いここに設置したのか、古の人の信仰に触れるような心持ちである。

 「栃木の山140」には919mPは西側を巻くと書いてあったが、ピーク拾いの山旅。踏跡をそっと外れて高みを目指した。想像通り何も無い919mP。だが落胆はしない。
 赤リボンのあるルートに復帰すると日溜まりの広場に出くわした。鬱蒼とした植林帯続きだったので、思わず緊張も解ける。ザックを下ろすことにした。

 日光駅からここまで休憩らしいい休憩は殆どしていなかった。いささか疲れてはいたのだが、少しでも先の見通しを立てたいという気持ちに急かされていたのは事実だった。だが、この穏やかな日溜まりは足を止めるきっかけには充分過ぎるほど暖かである。

     
ルート中唯一の石祠    北側にはうっすらと雪が残っていた    日溜まりの広場で一休み

 日溜まりの広場を過ぎると、次は伐採地に飛び出した。眼前に拡がる開放感溢れる風景に思わず歓声をあげたい衝動に駆られる。

 眼下には殿畑集落が小さく、正面にはどっしりとした六郎地山が文字通り鎮座している。右手奥には白い男体山も見える。溜息の出そうになる眺望を後にして再び鬱蒼とした樹林の中を高度を下げていくと、やがて次なるあかりが差し込んできた。どうやら火戸尻山が杉木立の向こうに姿を現したようだ。

 ここも伐採地で、なかなか気分が良い。この先は眺望は期待できそうにもないので食事にすることにした。

     
眼下の殿畑集落の上にどっしりと六郎地山    火戸尻山が見えた    伐採地で食事とした


威風堂々の六郎地山 いつか登りたい一座だ

 この伐採地からは東側がよく見える。手前の鶏鳴山以前歩いた懐かしい稜線伝いに笹目倉山。その奥には鋸の葉のようにギザヒザした稜線の羽賀場山からお天気山。手前の風雨雷山と重なったピークは双耳峰の二股山に似て見えるので面白い。笹目倉山といえば、宇都宮方面から見えるピラミダルな山容しか思いつかないのだが、山は見る角度によって千変万化である。

     
鶏鳴山から笹目倉山      

 景色と食事を堪能したあとは、伐採地脇の痩せ尾根を辿って火戸尻山への最後の登りにかかる。谷を見下ろすと、先日偵察で上ってきた林道の終点付近が見えた。こうやって俯瞰的に見ることが出来ると地図と現地の一致も手に取るようで面白い。読図を始める人には是非見て欲しいと思わせるような風景だ。

     
伐採地の稜線を渡り火戸尻山への登りに向かう    先日の偵察地が見えた    伐採地稜線から鶏鳴山

 山頂に向けて高度を上げていくと、それまでの植林一辺倒から落葉の自然林に変わっていく。枝だけの尾根にはまばゆい光が差し込んでいる。まるでジャングルジムのような枝の間をかき分けながら進んでいくと、やがて杉木立が再び現れて落ち着いた山頂に到着である。山頂が地味なだけに、迎えてくれた何枚もの山名板の賑やかさが際立つ。

     
葉が枯れ落ちた明るい稜線    歩く人が少ないせいか自然な感じで良い雰囲気だ    火戸尻山へ到着

 山頂からの下山路は2つのコースがガイドブックで紹介されているが、今回は新谷登山口方面をしばらく辿り、矢印のプレートを見て尾根を乗り換える。此処から先は再び登山道を外れる領域だ。

 道なき道とは言っても、山全体がきっちりと植林地なので薮など全くといっていいほど見当たらない。林床を荒らさいないように山仕事の人が綺麗に植林しているので歩くには全く支障は感じないのだ。

 途中648mPに寄り道するも、こちらも動物達の足跡が残るだけの静かなピークであった。

     
ガイドブックは左で下るがここで登山道と離脱    植林帯なので登山道で無くても歩きやすい    寄り道の648mP

 648mPへ寄り道した分岐から東のコルへ一旦下降し、仄暗い樹林の中に立ちはだかる675mPにとりかかる。

 はじめは右手の尾根形を登って行くも、終盤は直登しか選択肢は無くなる。休み休み、木や枝を頼りに登っていくと本日の最終目的である675mPへ到着した。山名板も何も無いピークに腰掛け、汗を拭う。冷たい風にふと見上げると、冬の午後のはかない陽光が差し込んでいた。さぁ、後は下るだけだ。

 675mPからの下りは、地形図で見るより曖昧な尾根形だが、ここまでくればGPSで方角を定めて一直線である。

     
675mPへ右手の微かな尾根形を辿る    何も無いが今日の目的地、675mP    675mPからの下りは尾根形一旦消失

 無事目論見の林道にドンピシャと接合して自転車の元へ。長いようで短い、短いようで長い一日であったが、ルート内容としては久々に充実感溢れる山行となった。

 ちなみに、最後の自転車区間は殆どが下りで、全くといって良い程ペダルを漕がずに済んだのはラッキーだった。実際山歩きを終えた後に登り坂を進むのは結構辛いのを知っているから(笑)

     
目論見の林道に接合して山を振り返る    デポしたチャリ    林道区間終了

【番外編】

 小来川から宇都宮に戻る途中、丁度大谷近辺で日没直前に戸室山のそばを通過。戸室山の頂上からいつか夕日を眺めてみたいと常々思っていたが好機到来。僅か15分足らずで山頂に立ち、暮れ行く夕刻の景色を堪能することが出来た。赤く染まる古賀志山と集落。ここから見える笹目倉山はやはりすっきりとしたピラミダル。そんな故郷の見慣れた山達の美しい黄昏の瞬間を見ながら今日一日を終えた充足感が改めて込み上げてきた。

     
戸室山から男体山と古賀志山夕景    夕日を受けた富士山    日は西の彼方へ

概略コースタイム
合の内バス停発(7:05)-(関東バス)-JR今市駅発(7:37)-(JR日光線)-日光駅前発(7:44)-
鳴虫山登山口(8:04)-神ノ主山(8:44)-892mP(9:00)-1058mP(9:35)-鳴虫山(9:53)-
996mP(10:32)-919mP(11:03)-六郎地山眺望地(11:27)-昼食の伐採地(11:43)-昼食休憩-
行動再開(12:23)-火戸尻山(12:56)-登山道から離脱(13:17)-648mP(13:41)-675mP(14:06)-
自転車デポ地(14:40)-駐車地着(14:59)

2011年10月09日

白根山から金精峠周回


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 今年の夏は諸事情で山に専念出来なかったが、それでも夏シーズンのシメは白根山と決めていた。理想は湯元からのコースであるが、関東以北の最高峰を初めて踏むのには少し体力的に自信が無かったのでオーソドックスな菅沼からのアプローチとし、少し欲目を出して前白根山五色山を踏んで金精峠から菅沼へと降りる周回コースとした。
 金精トンネル脇に自転車をデポして湯元から登り、帰路を短縮することも検討したが、そういう「企画モノ」は次回以降として今回は真面目に白根山の面々を丹念に踏む思いで出発した。

 最近すっかり慣れた早朝出発、いつも通りに夜明け前のいろは坂を駆け上り金精道路で高度を稼ぐと、夜明けの男体山を捉えようとするカメラマンの三脚がちらほら。自分も真似て一枚を収めた。

 菅沼の駐車地に着くと既に沢山の車が並んでおり、各々準備と出発で慌ただしい雰囲気である。こんな早朝なのに流石に人気の名山は違うものだなと感心することしきり。一日の山行で行き会う人が多くても十数名、少ない時はゼロといったコースの多い自分としてはいささか違和感を感じないでもないが、今日のコースは体力的にはキツそうだが観光登山と割りきっているのでたまにはこういうのも良いだろう。

     
夜明けの男体山    早朝から登山者が一杯    名残の紅葉が早朝の青空に映える

 登りはじめは岩混じりの比較的急登。前方にも後方にもハイカーの声が聞こえる登山道も久しぶりだ。はやりの山ガールも沢山見かけるが、彼女たちの華やかなウェアと競わんばかりの「山ボーイ」も目を引く。メジャーな山では若者の多さも既に当たり前のことなのか、登山が中高年の専売特許でなくなったのは良い事だが、地味な服装で見るからにオヤジな自分がちょっと気恥ずかしくなったのも久しぶりである(笑)

 座禅山を巻くようにして登り、斜度が緩んだ途端に目に入ったのが弥陀ヶ池とその向こうに毅立する白根山。よく紹介されるアングルだ。日陰になっている北のガレ場を白い氷雪のようなものが覆っていて美しい。

     
登り始めは岩を縫う急登    初冬の装い弥陀ヶ池から白根山    北斜面はうっすらと氷を纏っている

 登山口からここまで既に標高差500mを登っているので、里山や近郊低山なら山頂に達しているくらいの登高だが、ここから山頂がある眼前の巨大な隆起を目指して更に進むのだ。息を整えながら時折後ろを振り向くと、先程ほとりを歩いてきた弥陀ヶ池とその向こうに広がる登山口の菅沼が塩梅よく配置された風景は一幅の絵葉書のようでなかなか素晴らしい。

 終盤のガレ場は、高度を上げるに従い斜面を氷が覆うようになり緊張を強いられる。しっかりと蹴り込んでいけばなんとかなるが、もう少し気温が下がって氷が締まってくると軽アイゼンが必要になるかもしれない。
 苦労の末、外輪に登りつくと一挙に南の眺望が目に飛び込んできた。凍りついた荒々しい周囲の岩肌が凄い迫力だ。冷たく強い風が吹く周囲は十分な感動をもってして登山者を迎える。

     
弥陀ヶ池と菅沼、絶景也    終盤のガレ場は氷結で気が抜けない    山頂手前の岩塔と西側眺望
     
草が氷結    山頂はこのピークを超えてその先    露出した岸壁が凍結している、凄い!
     
山頂が見えた      

 小さな外輪山に囲まれた中央にある突起のような岩峰が山頂である。気温は2度、日差しに助けられさほど寒さは感じない。山名板の写真(上中)に人は写っていないが実際は山頂に人がごった返していて長居はできそうにもない。この山域は携帯(au)の電波が届くので、記念にと家内に電話をかけてから山頂を後にした。

 南側に降りていくと、形の良いシルエットの山が見える。錫ヶ岳であろうか。砂礫の中を降りていく風景もまたアルペンムードが漂う。五色沼を時折見降ろしながら岩場を一気に高度を下げていくとやがて森林限界に戻り避難小屋へと達した。

     
下山開始、正面は錫ヶ岳か?    道標もアルペンムード漂う    白根山避難小屋

 前白根山へは避難小屋から続く稜線に乗るつもりであったが、せっかく来たのだからと思い、寄り道で一旦五色沼まで降りる。紅葉の季節もとうに終わっており、五色沼の周囲は寂寞とした初冬の雰囲気が漂っていた。湖岸で休憩をとり、水辺の踏跡を辿っていくと前白根山へ登り返す地形図破線道が続く。あまり歩かれていないようで道形も乏しく先行きがやや心細い。もっともいつも歩いている藪山に比べれば十分立派な登山道に思えるのだが、ハイカーの多いここ白根山エリアにしては若干ワイルドな道の部類に入るのではないだろうか。標高差約150mの登り返しは思いのほかきつく感じた。

 苔むした岩や倒木の間を縫うようにしてよじ登っていくと、段々と空が開けてきてハイカーの声が遠く聞こえてくる。あと一歩あと一歩と頑張りながら足を進めてようやく稜線に辿り着いた。避難小屋から尾根に乗ればこの苦労も徒労となった筈と思うと疲れが倍増!まるで地獄から生還してきたような気分だ。草むらに腰を下ろし、しばし冷たい風に吹かれる。すぐそこの岩のピークを登れば前白根山の山頂である。

 那須の朝日岳から茶臼岳を眺めるのとよく似た圧倒的な存在感。目の前に鎮座する形の良い白根山を見ながらゆっくりと食事休憩とした。初夏の頃から携帯していないガスバーナーが今日はザックに入っている。そう、冬の定番のカップラーメンとコーヒー。

 前白根山もかなりハイカーの数が多いが、まだ時間が比較的早いので湯元から直接登ってくる登山者は通過点と考えているのか、長時間滞留する人は少ないので山頂は広い割には静かなものである。

 白根山の勇姿を堪能した後は北にルートをとり、五色山を目指す。左手にはこれまた絵葉書のように美しい五色沼と白根山が目を楽しませてくれる。ガスが去来するたびに陰陽がもたらす湖面の変化が神秘的だ。

     
前白根山頂上    五色沼と白根山    向かうは五色山

前白根山より手前稜線と白根山を望む

 南から昇ってくるガスが周囲を包み始める頃、五色山へ到達。ここより北西の稜線は笹尾根である。砂礫帯を歩き続けてきたせいか、笹道がことのほか優しく感じる。

     
   笹尾根はなんとなく落ち着く   

 国境平まで高度を下げると、もうすでに周囲はいつもの歩き慣れた樹林帯である。ガスに包まれた森を徐々に登り返していくと金精山だ。湯元方面の景色はガスで白く閉ざされている。

     
      ガスで眺望ゼロの金精山

 遠くから見ても尋常ならぬ迫力を持った金精山の笈吊岩は、ガスに巻かれた横からの眺めも異様に迫力がある。そんな金精山からの下りは数ヶ所ちょっとした難所があり、初心者の方はやめておいたほうが無難な所もあった。ロープが掛かっている所はなんとかなるが、昨今の地震や豪雨、従前よりのこの山域の崩壊活動で、中には頭を使わないと安全に通過できないような所もあった。

 金精峠まで無事辿り着くと今日の山旅もほぼ終了となる。菅沼への下りは特に斜度が急な所もなく、かつては交通の要衝として荷駄が行き交ったのではないかと想像されるような古の息吹を感じるような道である。金精山からの下りで追い越した学生グループの賑やかな声も、もうここまでは届かない。後続も先行もまったく気配はなし。最後にはいつもの自分の山行に戻ったのだなと思ったら、向こうからカラフルな原色のウェアを纏った山ボーイ一名と遭遇。軽く挨拶を交わした彼もまた他人の出現に意外な様子であった。静かな登山を好む者なら互いの山行にGoodLuck!と心の中で呼びかけ、そして別れた。

     
金精峠は近い    霧にそびえる笈吊岩が不気味    金精峠から菅沼へ下る

概略コースタイム
駐車地発(5:55)-弥陀ヶ池(7:25)-白根山(8:25)-避難小屋(9:28)-五色沼(9:43)-
前白根山着(10:26))-昼食休憩-行動再開(11:08)-五色山(11:44)-国境平(12:07)-
金精山(12:30)-金精峠(13:14)-駐車地着(14:06)

2011年09月16日

中禅寺湖南陵を歩く



-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --
※当コースには一般登山道でない箇所が含まれています。参考にされる場合は自己責任でお願いします。
社山の過去の記事
  2009年10月18日 中禅寺湖の展望台、社山
関連山行
  2013年11月23日 中禅寺湖、大日尾根 上野島ルートで社山
  2007年9月16日 半月山から茶の木平まで

 かつて社山に登った折、西側に累々と続く笹尾根を見て溜息をついたものだ。
 あぁなんと素晴らしい山並みだろう。いつかきっとあそこを歩いてみたい・・・と。

 日の出前のまだ仄暗い立木観音前駐車場には、支度に余念がない釣り人の姿がちらほら見える。やがて周囲が明るくなり始めると、一艘また一艘とポイントへと急ぐ釣り船のエンジン音が湖面の眠りを呼び覚ますように響き渡る。自分もまた中禅寺湖畔の周遊道へと足を踏み入れたのである。

 この湖畔の道を歩くのは今回で3度目だが、いつ訪れても静かで良い佇まいだ。峰々に注がれるオレンジ色の朝日、やがて湖面や周囲の森が刻々と目覚めていくなか歩を進めるのがなんとも清々しい。

 最奥の民宿には県外ナンバーの車が止まっていた。宿泊客なのだろうか。宿はまだ全体が目覚めていないようだ。朝食の用意もまだ始まらない早朝なのだ。

 ここより舗装が切れて本格的な周遊道となる。そのまま歩けば千手ヶ浜までおよそ10Kmほどの湖岸のハイキングコースであるが、今日は阿世潟峠に登り、稜線を辿る山旅。社山を超え大平山へ寄り道をして、黒檜岳を踏んだあと千手ヶ浜へと降り立つ。

 阿世潟峠へ初めて登った時はまだ山登りを始めた頃で、峠まで何度も立ち止まりながら登り苦労した記憶がある。当時に比べれば今はだいぶ体力がついてきたようで、さして呼吸の乱れもなく一気に登ることができた。今回のコースは社山までは前哨戦。体力温存で登らなければならないので、ここでバテたらこの計画は到底おぼつかない。

 阿世潟峠で一休みしていざ社山へ。登山道を薄いガスが横切っているが、空は気持ちよく晴れ渡っている。まずは慌てずスローペース堅持で行こう。
 程なく後方から足音が近づいてきた。峠で、後続の単独の若者と挨拶を交わしたが、一休みを終えた彼がぐんぐんと近づいてくる。足尾側の見晴らしが良いところで道を譲った。 息を切らしながら登る彼は苦しそうにも見えたが、若さ漲るパワーで登っていく。とても自分には真似ができる芸当じゃない。これから踏み込む山域の今日の一番乗りを奪われたのは少し残念ではあったが、長丁場の今日はとにかくマイペース堅持と体力温存が優先である。

     
夜明けの社山    ピラミダルな頂部に朝日を受ける    阿世潟峠

 社山へは、背面の中禅寺湖や半月山、南側の足尾山塊、いずれも胸のすくような素晴らしい眺望の中の登高である。遠く雲間から富士山も顔を覗かせておりすこぶる眺めが良い。
 前回はこの素晴らしい景色をカメラに収めるのを口実に、幾度も足を止めながら休憩を刻んだものだ。だが、今回はスローペースではあるものの意外にあっけなく山頂へ到達することができた。正直、己の体力向上に嬉しさを隠せないが、2回目以降の同じコースは行程を把握している分ペース配分が容易なのが実は楽に登れる大きな要因かもしれない。

     
   白根山から北に連なる峰々    遠く彼方の富士山

 山頂西の展望地では先程の若者が休憩中であった。速いですねと声をかけると、「黒檜岳までですか」と問われた。
 そうだ、今日はこの憧れの稜線をとうとう歩くのだと改めて実感し、地形図を拡げて眼前の風景と照らし合わせる。若者は社山止まりの雰囲気だ。この広大な尾根を贅沢にも独り占め出来る幸せをかみしめて出発!

     
社山の山頂は近い       社山西の展望地より黒檜岳方面

 この先のルートはガイドブックにも具体的な掲載がないから、ネットに既出の情報と自らの判断で進むことになる。もちろん命知らずの冒険ではないので、先人のGPSログなどをありがたく参考にさせていただいた。

 出だしの高度下げは、いつ風で飛ばされて無くなってもおかしくないような儚げなテープを追い、岩の間を縫いながら潅木のジャングルを降りていく。
 やがて、広く立ち枯れた緩斜面に出て振り向くと、背後の社山がおどろおどろしくも大きく聳えている。
 先の見えない緩斜面で進路を狂わすのは里山で幾度となく経験しているが、ここは見通しが良いので、とりあえずどこに向かうべきかは一目瞭然である。

     
はじめは潅木密林を急降下    行く手の稜線が近づく    ガレ地脇を抜ける

 崩落地を左右に縫うようにして進んでいく。次の尾根に突き上げるためには青々と茂る笹原に伸びる一条の筋を辿っていけばよい。時には腰ほどまでもある笹薮は朝露をたっぷりと含んでおり、ズボンを容赦なく濡らす。今日は自分にしては要領よくスパッツを付けてから歩き出しているので、裾の濡れは気にならなかったが、このあと延々と続く笹薮に蹂躙され続け、まるで豪雨の中を歩いたように靴の中が水浸しになることはこの時点で予想だにしていなかったのである。

     
ピークを重ねる    正面の稜線に突き上げる    腰高の笹薮の先の道標

 尾根に突き上げると黒檜岳への道標があったが、ここを歩く人のレベルなら、要らぬおせっかいのような気がした。

 1792Pを目指す直前の緩斜面付近で、それまで追ってきた笹薮の中の微かな踏跡を失う。地形図とGPSをもってすれば進路角の維持は容易だが、なにせ腰から胸のあたりまである笹薮である。ネットに「歩きやすい所を選んで・・・」と記述があったが、まさにそのとおり。たまに"筋"のようなものを見つけてそこを歩けばいくらか楽だが、それもつかの間。無常にも"筋"はすぐに消え失せてしまう。

     
振り返ると社山が大きい    立ち枯れが独特な雰囲気    1792P手前の曖昧な笹原

 1792Pに近づき尾根形がはっきりしてくると、千々に乱れていた先人の足並み達も自然と収束してくる。笹の中にしっかりとした踏跡が確認でき、やがて笹が消えて道になるとそこが1792Pである。「栃木の山140」には社山~黒檜岳は樹林の中を歩くので眺望がないと書いていたがこれは全くのでたらめである。それが証拠にこの1792Pの眺望の素晴らしいこと。社山への登り区間の好眺望にも負けないくらいのパノラマである。
 今まさに憧れの山域のど真ん中に立っているのだ。そして大平山とそれに並ぶ黒檜岳、そこへ至る縦走路がよりいっそう大きく眼前に広がる。手前の小ピークを従えた1816Pへの登りがその全貌を明らかにしている。

 1816P手前小ピークの登りかけで、歩きやすい笹筋を追っていくと幾分南に回りこみ過ぎているような感じがした。慣れてくると笹の目が見えるようになるが、所々に筋が入り乱れている。場合によっては到底人が通るとは思えないような所もある。なるほど、これが噂に聞くシカ道か。シカも体力温存に知恵を絞るようだが、稜線上を愚直に歩こうとするのはヒトだけか。

 笹が無ければ踏み入ることが到底出来ないような斜面のトラバースを経験させて貰ったのはシカのお陰と感謝し、非日常的なアングルでシャッターを押すことが出来た。振り返ると社山もだいぶ遠くなり、歩いてきた稜線が延々と続いている。
 このまま進むと先のザレ場で難儀しそうだったのでここは退却。笹薮を漕ぎながら直登して稜線へ復帰した。

     
1792Pへ向かう    1792P    シカ道をトラバース
正面は1816P

1792Pより1816P越しに大平山と黒檜岳方面を望む

     
来し方を振り返る    社山は更に遠くなった    1816Pの次の鞍部より中禅寺湖

 1926Pへ向けて登りにかかると濃いガスが南から登ってくるようになった。夏はこの時間になると平地から発せられる水蒸気が上昇してくるのが日光山域の常で、南側の眺望を得たければ遅くとも9時頃までには山頂を踏みたいくらいである。北側の眺望は夏の日光エリアでもすこぶる良いのだが、登るたびにいつも南側のガスには残念な思いをさせられている。今回はそんなことも計算に織り込んで、景色の良さそうな山域はすでに通過しているので構わない。むしろ、いくらかオーバーヒート気味の体が霧に冷やされて心地よいくらいだ。

 さすがにこの頃になるといささか疲れが溜まってきて足運びが重くなってきた。ザックを降ろしたのは社山で一回だけだったが、先もいくらか見えてきたので少し長めの休憩をとってから再出発。広大な平坦地とその向こうに見える林、笹原一辺倒だったこれまでの風景が一転するが、再び笹の尾根を辿り1926Pに登り詰める。

     
ガスが登ってきた    1926P手前の平坦地    黒檜岳分岐まであと少し

 やがて道標が見えてきた。黒檜岳と社山の分岐点である。大平山へはここを南西に向け曖昧な尾根筋を追うことになるが、歩く人がいないのだろうか、道標は全くない。救いは行く手が黒木の樹林帯になっており、それまでの明るい笹道に比べるとやや陰気な感じがするが歩きやすい。

 目指す尾根に向かって方角修正を重ねると、再び笹原へと飛び出した。広い緩斜面であるが故に、先人の足跡やシカ道でさえも探しだすのは困難である。 大した距離ではないのだが、頻繁にGPSで照会しながら笹薮を泳ぐようにして進路維持に努めていく。おそらく大平山であろうか、行く手に見える高みを目指した。

     
   大平山はこの森の先にある    腰から胸までの笹を漕ぐ

 山頂直下は北側まで樹林の支配下にある。稜線キープの笹薮にこだわらずに林の中を行けば歩きやすい。里山の藪道を歩いているような雰囲気の中、人知れずひっそりと佇む山頂にやっと到着した。

 山頂からの景色は、延々と続く笹の斜面とその遥か先に見える足尾の親水公園方面。右手には南東へ向けて下っていく尾根筋が見える。後ろ側が樹林で遮られているので眺望はこれだけだが、先程まで濃かったガスも無くなって、地味ながらなかなか良い景色である。何よりも、ここまで登って来れたという充足感で、この風景はまさに値千金である。

 山頂で早い昼食を(朝が早かったので時間的には順当)摂り鋭気を養う。さぁ帰りの笹薮をもうひと踏ん張りしなくては。

     
かなり高い所まで剥がされている    太平山頂上    山頂より足尾方面

 復路は2度ほど大きく尾根を外しそうになる。開けた前方を広く見渡していればそうそう進路を間違えることもないのだが、どうしても足元の笹に気を取られてしまう。

 往路に見た分岐点へ無事復帰すると、ここからは笹も徐々に姿を消して暗い樹林の中を進むようになる。一見ルート不鮮明なように見えるが、赤と黄色のプレートがところどころに打ち付けてあり、これを順番に追っていけば全く問題なくナビゲートしてくれる。

 千手ヶ浜への道標を左に折れ、不鮮明な道を暫し進むと周囲を木に囲まれた黒檜岳へ到着。事前情報で山頂に何もないのは織り込み済みだ。この先にあるシゲト山にも興味はあるが、今日は時間も体力もここまで。山頂には失礼だが、水を一口だけ飲んで踵を返した。

     
帰りもまた笹を漕ぐ    黒檜岳    かつてはこの分岐に山名板があったとか

 笹と格闘する長い稜線歩きであったが、ようやくこれからは気楽な一般登山道の下り一辺倒である。途中、突然の出現に双方驚く格好でシカと対面する。黒檜岳周辺のシカは登山者から食べ物を貰ってすっかり人を恐れなくなっていると聞いたが、このシカもしばらくこちらを探るように伺っている。「何もくれないのね。じゃあ、さよなら」といった風情でのんびりと去っていった。

 千手ヶ浜への下りはなかなかきつい箇所が多く、ここを登るのはさぞかし大変であろうと推察される。何よりも登山口から山頂まで、ただの一箇所の眺望もないのがちょっと残念ではある。だが、途中のシャクナゲの群生の豊富さは他の山に比べると突出しているのではなかろうか。ピンクの花に彩られた賑やかな登山道が目に浮かぶようだ。

 眺望が無いということでやはり不人気なのだろうか、登山道も所々荒れており、高度を下げるにしたがい谷に面した痩せ道を倒木が塞いでいたりする。千手ヶ浜からの黒檜岳往復はガイドブックにも紹介されているが、歩きやすい好眺望のルートしか知らないハイカーを連れてくれば苦情の集中砲火になることは想像に難くない。

 長かった山歩きも中禅寺湖畔の周遊道に出るとほぼ終わりを迎える。キラキラ輝く湖面に浮かぶ男体山と白い雲。低公害のハイブリッドバスの出発時間まで少し間がある。そよそよと心地よい風に吹かれながら千手ヶ浜の芝生に寝転がりながら見る空が広い。今日一日の充足感もまた空に負けずに胸に広がっていった。


     
シカと遭遇    無事下山終了   

概略コースタイム
立木観音駐車場発(5:03)-阿世潟(6:03)-阿世潟峠(6:27)-社山(7:36)-崩落地脇尾根乗り換え(8:05)-
1792P(8:23)-1816P(8:55)-1926P(9:35)-黒檜岳分岐(9:55)-大平山着(10:23)-昼食休憩-再出発(10:52)-
黒檜岳分岐(11:23)-黒檜岳(11:44)-1802P(12:31)-周遊道接合(13:37)-千手ヶ浜到着(14:03)


千手ヶ浜(14:45発)-低公害バス-赤沼車庫-赤沼バス停(15:31発)-立木観音前下車-徒歩-立木観音駐車場着(16:10頃)

2011年08月12日

日光の奥座敷へ


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 前回塩原の富士山に行った後、山登りもバイクもこの2ヶ月とんとご無沙汰であった。
 仕事が忙しくて休みが無いといったことではないのだが、家庭内の都合で休みが自由に使えなかったのがその理由である。この状態はまだ暫く続く可能性があるが、お盆進行でなんとか確保出来た自由時間。そろそろ出始めた禁断症状の手当てにと、かねてより気になっていた箇所を歩くことにした。

 金精峠より北方の温泉ヶ岳根名草山を目指す。単純ピストン行があまり好きでない自分にとってはこれまで触手が伸びないコースではあったが、標高もそこそこあり樹林歩きが多いらしいので連日のように攻め苛まれる猛暑から開放されるにはうってつけでないかと考えた。

 夏の山は早発ち早帰りが基本(と自分は思っている)。朝4時に自宅を出発した。東の空がほのかにオレンジ色に染まっている。朝焼けとまでもいかないが、今日も雲の多い天気なのだろう。夕立が来そうな頃までには下山終了の予定で一日の行動を開始する。

 いろは坂も金精峠も貸切状態でスイスイと車を進めることが出来た。金精トンネル脇の駐車場で車を降りると、若干強い風が吹いているせいもあって少し肌寒いほどだ。長袖の登山ウェアで正解だ。下界の猛暑が嘘のようである。

 駐車場脇の道標に導かれ山道に入るとすぐに木製階段の急登が始まる。先般の地震の影響なのか、登山道が崩落したザレ斜面のトラバース区間は少し緊張したが、あとは固定ロープなど下がっていても、それらに頼らずに登れるレベルで特に難しさは無い。もっとも、2ヶ月のブランクがある足腰に急登が優しくないのは事実だ。

 オーバーペースにならないように、小刻みに止まって息を整えながら登っていく。やがて金精様のお堂の鮮やかな朱色が目に入るとそこからほんの少しで金精峠へ到着である。朝日を受けて長い影を落とす道標の先には、駐車場で先発した単独者ともう一組の男女が休憩中であった。

     
金精トンネル脇駐車場    階段急登ではじまる    金精峠

 峠を吹き抜ける爽やかな風が、先ほどまでの登高で汗ばんだ体をすっかり乾かしてしまった。むしろじっとしていると寒いほどだ。

 休憩中の単独者が金精山方面へ歩き出したのを合図に、自分も北に聳える山あいへと足を踏み入れる。先行者の影は薄い。ところどころのぬかるみには登山靴の足跡より、昨晩か今朝かと思われる獣達の足跡がくっきりと残されている。あまり人気のあるコースでは無い上に今日は金曜日。静かな登山が楽しめそうである。

 早朝登山のもう一つの楽しみとして、刻々と生き物のように変化していく陽光の織り成す光彩の美しさを外すことは出来ない。今回も、立ち込める朝霧を切り裂くように森へ差し込む朝日や、清々しい白根山の姿を楽しませてもらうことが出来た。
 また、木の枝に鈴なりのようになっていた猿一家(恐らくファミリーだろう)に出迎えてもらったのも思い出となった。カメラを向けようとしたら親ザルが一声鳴いて一同霧散してしまったが、怖いもの知らずのいたずら坊主の小猿達は好奇心満々でいつまでもこちらを窺っていた。

     
森を射す朝日    自然が織り成すイリュージョン    朝日すがすがし、金精山と白根山

 ジグザグに付けられた登山道をひとしきり登ると一旦斜面が緩み、温泉ヶ岳への道標を見る。「栃木百名山」本には小さな道標なので見落とすなと書いてあったが、最近新設された立派な道標があり随分判りやすくなっている。温泉ヶ岳は根名草山の帰りに寄ることにしてここは真っ直ぐに進む。

 温泉ヶ岳の東斜面を巻く笹道。足下の斜面もずっと笹原なので遮るものもなく、太郎山やその周辺の眺望がすこぶる良い。行く手に大きな石が突如見えるとその先で笹道はお終いとなり、温泉平の平坦地へと到着だ。

     
帰路に向かうこととする       温泉ヶ岳を巻き上がる笹原

 立ち枯れの白木が目立つ念仏平を通過し、旧避難小屋跡の手前の水場で喉を潤す。ここよりさらに一登りして最近新築された避難小屋へ到着した。まだ木の香りが漂う室内を見ていたら驚くなかれ、携帯が着信した。どうやらauの電波はぎりぎり届くようである。会社からの電話で対応にしばし時間を費やし想定外のロスタイム。皮肉な事にソフトバンクの社用携帯は完璧な圏外である。感覚的にはこのような深山で通じるほうが驚異だが、ロープウェイが架かっている超メジャーな白根山が近くにあるからなのだろうか。(白根山の山頂から直線距離で約2.3Km)

     
念仏平の立ち枯れ    新避難小屋が真新しい    木の香り漂う素晴らしい室内

 新避難小屋から一旦高度を下げて、最後の登りをこなせばそこが根名草山の山頂である。眺望は東側と北に僅か。山頂より北西に標高差80mほど下りたコルからは北側の眺望が良いらしいが、湿った空気が充満して霞が強い今日の天気ではあまり期待出来ないだろう。体力温存も考慮して山頂より引き返す事にした。早朝から行動しているので先程から腹が鳴ってしかたがない。腹ごしらえを済ませ下山を開始するとすぐに三人組が登ってきた。金精峠以北で本日初めてのハイカーだ。このあと単独者一名と交差するがそれっきりである。

     
生憎遠望は霞んでいる       眼下の菅沼

 山頂より下っていくと、新避難小屋がある2326mPの台形上のピークが良く見渡せるようになる。あの脇を歩いてきたのだなと思うと改めて距離感を感じるものだ。今日のコースは地形図を見る限りさして起伏がきついわけでもない。だが、2ヶ月のブランクがあるとはいえ案外疲労が溜まっているように感じた。家に帰ってGPSのログを見ると累積標高差は1000mを超え、水平移動距離も11Kmあった。さもありなんと頷けるところだ。
 温泉ヶ岳が段々と大きくなり、再び脇の巻き道の笹原を行く。朝露にズボンを濡らした往路に比べ、いくら涼しいとはいえ照り付ける夏の日差しに思わず汗が頬をつたう。

     
脇を通過してきた2326mP    温泉ヶ岳が形良く聳える    温泉ヶ岳巻き道の笹薮

笹原より東側眺望

 確認済みの分岐より温泉ヶ岳へ向かう急登に取り付く。やがて斜度が緩むとそこが山頂だ。笹原で見たアングルとあまり変わらないが、東の太郎山方面そして北に目をやると避難小屋から念仏平へと今日歩いてきた稜線が一望出来る。思った以上の眺望だ。距離的にも金精峠から温泉ヶ岳ピストンは結構手軽なお勧めコースかもしれない。

 山頂では千葉から来た76歳のご主人とその奥様が下山の支度をしているところに鉢合わせした。先方も少し驚いた様子だがすぐに破顔。「こんな所に登ってくる物好きな方がやはりいるんですね。今日はこのまま誰にも逢わずに帰るものとばかり思っていましたよ」。自分も、「根名草山からのピストンで帰りに寄りました」と伝えると暫し山談義に花が咲いた。

 聞く所によるとご夫婦は今日で日光滞在4日目とのこと。この4日間で太郎山や半月山など周囲の山も随分登ったらしい。山で会う高齢者の方を見るにつけ「本当に大丈夫だろうか」と思うことがあるが、話好きなこのご夫婦にはきっと山を歩くことが良薬であろうことは容易に感じ取ることが出来た。自分もあの歳まではとはいかずとも、あやかりたいという思いも込めて別れしなに「お気をつけて・・・」と挨拶をした。これからも末永く山をお楽しみください、と付け加える事はあえて胸にしまって。

 いずれ遅いか早いかの違いで誰にも死はやってくるもの。この大自然に包囲された中ではそんな摂理というものに抗うことが出来ない人間の小ささを感じる。闊達と話すご老人に「是非長生きしてくださいね」と野暮ったく口にするにはあまりにも憚れる。むしろ、思うが侭に生き抜いて突然迎える死もまた道理に逆らわない人生なのではと思ってしまった。そんなことを考えさせられた静かで深い日光の奥座敷であった。

     
温泉ヶ岳へは笹を別ける急登    山頂の向こうは来し方2326mP    切込湖、刈込湖と太郎山周辺
     
新避難小屋   


金精峠より来し方温泉ヶ岳方面

概略コースタイム
駐車場発(6:00)-金精峠(6:29)-温泉ヶ岳分岐(7:25)-避難小屋(8:23)-
会社より電話で停滞-行動再開(8:40)-根名草山到着(9:23)-
昼食休憩-行動再開(9:47)-避難小屋(10:30)-温泉ヶ岳分岐(11:30)-
温泉ヶ岳(11:42)-おやつ休憩-下山開始(12:07)-金精峠(12:49)-
小休止-駐車場着(13:32)

2011年02月19日

雪の丸山に登る


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 ここ数日急に温度が上がりだし、会社の給湯室から見る景色もどことなく春の気配が漂っている。霞む山の景色や光の色合い、冷たい中にも何となく暖かさを感じる風が頬をつたう。そんな日々が段々と重なりやがて春は訪れてくるものなのである。

 昨日は、この時期にしては大降りの雨で、もはや山の雪も解けてしまったのではないかと心配したが、霧降高原の旧第三リフト駐車場前に車を止めると、向かう丸山方面にはまだしっかりと雪が残っていた。

 先週、緩斜面の八方ヶ原でワカンの履き試しをしたのはまさに今日のこの日の為。山に登り始めた頃、「栃木の山紀行」さんのサイトで雪の丸山登頂記事を見て、本格的な雪山登山は自分には到底無理だが、丸山位ならなんとかなるんじゃないかと考えていた。

 自分の場合は原則単独なので、いざという時の為の装備も多くザックは結構重い。当然ながら体力や有る程度の経験は積まなくてはならない。だが、あちこちの山に登ったり薮を歩いているうちに、徐々に冬の丸山に近づいている確かな手ごたえを感じていたのも事実である。 高山雪山でテン泊をしている人から見れば自分の雪山など笑止千万な話だが、ついこの間まで運動とは無縁、里山に登るのに肩で息をして下山後に足が攣っていた中年にとっては充分満足のいく到達域である。

 前置きが長くなったが、入り口が閉鎖されている第三リフト駐車場前に車を止めると既に先客1台。すぐにもう一台春日部ナンバーの車がやってきた。同時に支度を始め、先発は春日部勢5人組。

 先行者がリフト乗り場周辺からゲレンデに入っていったのを後から追っていったら、遊歩道整備に携わっている作業員に呼び止められる。

 「作業の支障になりますので、夏道を行ってください」

 ゲレンデを見ると特に何か作業をしている訳でもないし、まず重機はこの状態では上に上がれないだろう。先行者のトレースも沢山ついているのに納得がいかない。(結局下山時に見ても何もしてはいなかった)

 ここで応酬していてもしたかたがないので一旦は大人しく夏道へ。夏道はすぐに真ん中が川のようになり、僅かに残されたへりを歩くと激しく踏み抜いてしまい難渋する。登山道を避けると潅木の枝がうるさくて進み辛い。少し高度を上げた頃、途中のネットが弛んで跨ぎやすいところからゲレンデへ入った。

 ゲレンデは雪が程よく締まっており、先行者のトレースを辿っていけばたまに少しもぐる程度。第四リフトまでのこの区間は斜度も緩いので鼻歌交じりである。

     
第三リフト駐車場は閉鎖    まずは夏道    第四リフト跡を目指す

 第四リフト始点脇の高原ハウスが半分解体されている様を横目に見ながら、きつい斜度をザクザクと登っていく。写真ではよく判らないが、最大斜度は30度以上はあるだろうか。先行者は、ワカン・坪足・スノーシューとばらばら。坪足の人は時々50センチ以上は踏み抜いているのでかなり大変だろう。見る限り自分より年配者揃いだが比較的元気な彼らもこの急斜面にペースダウンしている様子が見て取れる。だが、ここは自分も同じ。幾度と無く立ち止まりながら進んでいく。

 雪山の足裁きはワカンを履いていてもキックステップ気味に歩いたり、深雪の場合はテールを先に入力して沈み込みを抑えたり、また、沈んだ足を抜くのも案外疲れるものだ。最近はよほどハードに歩かなければ筋肉痛も出ないが、先週の桝形山程度でも通常の登山とは違った箇所の筋肉が微妙に痛かったりしたのはそのせいであろう。
 一旦平坦な箇所に出て一休みする。後ろを振り向くと絶景が拡がる。果たして新遊歩道の出来上がりはどんな風になるのだろうか。既存の登山道があまりにも景色とは無縁の荒れた箇所なので、期待したいところだ。

 幾らか斜度が緩んだ最後の登りをやっつけると旧第四リフトの終点、キスゲ平へ到着である。赤薙山へ向かう稜線はもう何回も見ているが、雪を纏った姿はまた格別だ。

 キスゲ平から丸山への夏道は、トラバース状に谷へ降りていくように付いている。GPSでポイントと進路を確認したものの、向かう先にトレースは無し。ゲレンデと違って圧倒的に雪も深い。ラッセル番長はちょっとキツイかなと考えていると、下のほうから声がした。見ると先行のグループも丸山へ向かうようで、もう少し高度を上げたところから谷を狙っているところが見えた。渡りに舟である。自分もこのトレースに便乗させて貰うことにした。

 薮山やルーファン歩きなら幾らか自信もあるが、流石にラッセルは体力消耗が激しくて得策で無い。ラッセル泥棒とは良く言ったものだ。まさに言い得て妙。お陰で楽をさせていただいた。雪山を歩いた者のみぞ知る言葉の本質であろう。

     
斜度がきつくなってくる    先行者を追う急登    キスゲ平より丸山へ向かう

キスゲ平より赤薙山への稜線

 降りきった平坦地で先行グループはアイゼンを装着している。自分も6本爪を携行してはいるが、雪は適度な柔らかさもあるのではワカンで充分だと思い先発。この時点で順番が逆転して自分がトレースを付ける番。始めあったトレースもやがて消失した。だが山頂までの僅かな急斜面は以外に足が沈まない。上を眺めて安全な箇所を縫っていけばよいから思ったより楽である。

 途中から、今朝降りてきたと見られるスノーシューの足跡に合流し、これを詰めていくと丸山山頂へ到達である。山頂の木のポールの基部は雪ですっかり覆われていた。

     
トレースがあるので助かる    山頂までもう少し    丸山頂上
     
赤薙山から女峰山へ続く稜線      

 少し早いが大谷川扇状地の景色を眺めながら昼食タイム。雪の中で食べるカップラーメンはかなり旨い。

 ショックな事があった。コーヒーを忘れてきてしまったのである。仕方ない、白湯でもと思って少し飲んだがやはり味気ないものだ。

 5人組が先に下山した静かな山頂で、春色の光が降り注ぐ平野を暫し眺める。雪の山頂から雪の無い平野や里山を眺めるのはパラレルワールドのようでとても不思議な気分だ。

 先般探していたハードシェルパンツ。実はどうしても気になって、金曜日の会社帰りに宇都宮駅東のWild1に行って見ると、マネキンが手頃な値段のやつを履いていた。スノーシューハイクのいでたちのマネキンに脱いで貰い、早速試着、購入となったのである。
 ゴアテックス品の半値だから性能的にどうかとは思ったが、モンベル独自開発の「スーパーハイドロブリーズ」なる防水透過性素材で実際にはそんなに機能差は無いとの店員の説明である。マネキンが着ていたものを買うというのは人生初の体験だが、品薄なのでまあ仕方が無いだろう。

 実際一日履いてみて思ったが、自分程度の山行なら充分過ぎるほどのスペックである。心配だった防寒性も裾のところのインナースパッツのお陰ですこぶる良好。本日の下半身クロージングはスキー用の新素材ももひき(発熱インナー)と冬用山パンツ。通常のスパッツを付けてその上からこのハードシェルパンツといういでたちである。スキー用のオーバーズボンの動きにくさが無いところは流石に登山用で秀逸だ。

     
   ワカンとハードシェルパンツ   

 下りは転ばないように気をつけるが、やはりスノーシューに比べるとワカンは快適である。
 谷の登り返しはトレースを辿っても結構な沈み込みでなかなか骨が折れる。雪山はやはり疲れるものだ。

 往路をそのまま下らず、少し上を目指してラッセルしながら赤薙山稜線に這い上がる。僅かな区間に一汗掻くが、稜線からの爽快な景色に疲れも吹っ飛ぶというもの。あとはひたすら絶景を眺めながら下っていくのみである。

 降りていくにしたがい気温もみるみるうちに上がっていく。雪もすっかりザラメ状だ。どうやら今年の雪遊びもそろそろお終いのようである。

     
この谷を渡ってきた    トレースがあっても登りは辛い    丸山全景
     
キスゲ平からまるでテイクオフ!    那須の山並みと高原山    下りは楽チン
           
無事下山終了      

概略コースタイム
駐車地発(9:02)-夏道からゲレンデへ(9:28)-第四リフト跡(9:41)-キスゲ平(10:16)-
丸山とのコル(10:37)-丸山頂上着(10:55)-昼食休憩-行動再開(11:29)-
コル(11:39)-赤薙山稜線(11:50)-キスゲ平(11:59)-駐車地着(12:34)

2011年01月08日

毘沙門山と外山

 

-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 H君との久々の山行である。

 ほぼ一年前に歩いた仏頂山と高峯が彼との最後の山行であった。最近はどうやら無理をしなければ大丈夫だろうということで、今回はなるべく体力の負担が軽い所を厳選し、今市にある茶臼山と毘沙門山を繋げて歩くことにした。ちなみに毘沙門山は下野新聞栃木百名山なので、過度な期待は出来ないが楽しみである。

 今回は車二台体制で毘沙門山下山地の林道にパジェロミニをデポし、H君の車を茶臼山側に駐めた。この茶臼山登山口駐車地は、明確に駐車が許可されているのどうかが不明だ。R121から入って僅かの場所にあり、周囲に民家等もあるのでちょっと無断駐車っぽい雰囲気も漂うのだが、「栃木百名山」にも記述があるのだからきっと間違えはないのだろう。

 さて取り付きはいずこ。

 駐車場の右手奥に道標があるが、踏み跡を追っていくと上に向かっていく。頭上を窺うと岩が崩落防止の為のワイヤーでフィックスされている。とてもハイキングコースとは言えない。日頃の癖でちょっと登ってみたが、これは流石に無いだろう。今日はH君も一緒なので安全第一である。隣の尾根だな、と思って一旦駐車場側から近づくと別な道標がちゃんとあるじゃないか。最近はこういう超基本的な道標を見落とす癖がついてしまって困りものである(汗)

 無事登山道に乗り、順調に高度を上げていく。里山の共通項。取り付きは急登である。段々と左側(南側)の樹間に住宅地が拡がってくるに従い、犬の鳴き声や車の音が鮮明に聞こえてくるようになってくる。生活圏内であることが実感出来る。まさに里山である。

     
茶臼山側駐車地    初めは急登    眼下は住宅地

 登りが緩くなってくるとやがて茶臼山へ到着。

 眺望はすっきりしない。駐車地からここだけのピストンだとちょっと寂しいかな。

 小ピークを超えてコルから登り返したのがTV電波の中継所である。パラボラアンテナの向かう方向は矢板方面なのだろうか。

     
   TV中継所   

 中継所から先に進むと、進路は左に折れて一旦急降下である。道標がしっかりしているので迷うことはまず無いだろう。

 毘沙門山への登り返しは、岩が顔を覗かせていたり、落ち葉を踏みしめる急登があったりと、変化があって楽しい。茶臼山までの初めの区間以外は植林地の暗い道が多く寒々とした雰囲気であったが、このあたりになると混合林でにわかに明るくなってくるので気分が良い。

 H君のペースにあわせて、ゆっくりと、しかし確実に。そして山頂。なかなか良い景色である。正直期待はあまりしていなかったが、高原山方面にぐるりと180度近い眺望である。少し右に目をやると鶏岳のトサカのようなシルエット。反対側は反射板があるのであまり良く見えない。

     
毘沙門山への登り    もうひと踏ん張り   

     
鶏岳    反射板の裏側   

毘沙門山より高原山を望む

 H君と、とりとめの無い話をしながら眺望をおかずにして昼飯とする。今日は風が無いから案外寒くもない。陽だまりの山頂にのんびりとした時間が流れた。

 再出発すると、山頂から僅かな場所に女峰山のビューポイントがあった。これを見ないで茶臼山へピストンしてしまったら、さぞや残念だろうにという箇所である。

 下写真(中)の分岐は曲者である。「栃木百名山」の地図にはこの分岐点付近から北北西に下り、地形図に記載のある林道に終点付近で接合するように書いてある。自分もここは"大桑"をめざすべしとして道標に従った。大体「下山口」という表記が一体どこへ下るのか記載が欲しいところである。

 大桑への道が、途中から進路を変えて北東へ降りていくのを見て様子が違う事に気づきここは撤収。分岐まで一旦戻って"下山口"を選んだ。GPSを見るとほぼパジェロミニのデポ地に向かっているようであるし、若干道が荒れている感も否めないがしっかり道標が張り巡らせれて居るハイキングコースだから心配は無いだろう。多少の車道歩きもOKとしよう。

 程なく林道に出会うと、ドンピシャ。パジェロミニの駐車地へ到着した。

     
山頂北西側より    この分岐曲者    無事下山

 H君を茶臼山の駐車地まで送り届けて彼とはお別れ。流石にちょっと燃焼不足気味なので、今日はもう一座を予定している。

 こんな時の為にと、とっておいた東照宮裏の外山である。日光の街中から、あるいは向かいの鳴虫山のルート上にある神ノ主山からも、その小高く鋭いピークは印象的に我々の眼に映る。

 車を駐める場所がいささか不安であったが、丁度よい塩梅に路側にスペースがあったので停めさせて貰った。

 車道沿いから左側の砂利道を暫く進むと廃屋(?)があって行き止まり。途中に登山口の道標なども無かったが、どうやら左手のほうに登山道のような雰囲気があるので、構わず藪をザクザク渡っていくと鳥居が連なる道へ合流した。

     
女峰山と赤薙山を見上げる外山    左奥の道を直進すると×    鳥居が幾重にも

 登山道はどちらかというと毘沙門堂参りの為の参道としての色彩が濃い。歩きやすいように縦横無尽に踏み跡が付けられているが迷うことも無い。植林地の中にあるストレートの電車道のようなこのルートは、脱線するような不届き者ハイカーは皆無のようである。

 小さな山だからと、タカをくくってちょっとペースを上げて登っていった。汗が額から吹き出してきてそろそろ一休みと思った頃、明るい空が見えて毘沙門堂へ到着だ。南に開ける鳴虫山の眺望。大谷川沿いの日光や今市の街。遠くには半蔵山から赤岩山まで。その向こうにはうっすっらと宇都宮の市街地が見える。

     
参道としての山道    毘沙門堂より    霞む先は宇都宮方面

 毘沙門堂の裏手を行くとすぐそこが山頂である。沢山の石仏が賑やかに、そして向こうに拡がる女峰山のりりしい稜線が迎えてくれた。
 毎年、正月3日には毘沙門堂の縁日が開かれるようで、今年も沢山の人が訪れたのだろう。石仏の一体一体にまだ新しいミカンが添えられている。寒色系の風景の中にミカンの色彩が鮮やかで印象的だった。

     
      男体山、大真名子山
  
女峰山    赤薙山、丸山

概略コースタイム
<毘沙門山>
駐車地発(10:12)-茶臼山(10:55)-TV中継所(11:24)-毘沙門山(11:56)-
昼食休憩-行動再開(12:40)-下山口分岐(13:00){5分ロスタイム}-駐車地着(13:10)

<外山>
駐車地発(13:47)-山頂(14:16)-2ndコーヒータイム-下山開始(14:47)-駐車地着(15:20)

2010年11月07日

光徳牧場より太郎山周回


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 今季登り残した夏山。

 夏山とは何ぞやという問いに対して、自分の夏山は、「メジャーな山域で標高2000m超」という定義にしている。
 県外に至ればそういう山は幾らでもあるのだが、ここはとりあえず『栃木の山』で、といったところである。

 さて、話を元に戻すが、再び、今季予定をしていて登り残した夏山。日光の太郎山と白根山が該当である。今年の夏は猛暑のせいなのか、2000mを超える所は下界から見る限り常にガスっていたような気がする。すっきりと秋晴れの元歩くべしと考えているうちになかなか機会を得ず、あれよあれよと季節は過ぎていく。会社から見える白根山が日々白くなっていくのを見るにつけ、もう今年は奥日光は無理かなと諦めかけていた。

 山に行くようになってからは、天気予報は常に微に細に渡ってチェックするようになったが、そのお陰か好機は訪れるものである。

 11月7日、気圧の配置予想が僅かにずれて奥日光に晴天の予報が出る。気温も少し高め。宇都宮から安物の単眼鏡で日光連山を観察すると、赤薙山南西の大鹿落し近辺に僅かに着雪が認められたものの特に積雪がある感じはしない。数日前に寒気が訪れて北面はどうなっているのか判らないが、危険だと思えば撤退すればよいだろう。念の為、前夜に軽アイゼンをザックに忍ばせた。

 自宅を早朝の4時に出発。まだ暗い裏男体林道を走り、太郎山の新薙登山口に着いたのは6時頃である。今日は此処に折りたたみ自転車をデポし、光徳牧場より山王帽子山と太郎山を周回する。

 自転車を降ろして固定物にロックしている僅かな間に辺りが明るくなってきた。先ほどから周囲で甲高く啼く鹿の、興味深げにこちらを伺う姿がすぐそこにあった。

 登山口である光徳牧場まで戻り、まだ車が一台も駐まっていない駐車場の片隅にパジェロミニを置いた。思ったより気温は低くなく、ほんの少し肌寒い程度である。朝食を摂っていると、牧場売店の建物から人が出てきて新聞受けの新聞を取りに来た。こんな所にも新聞の配達があるのかと少々驚く。

 準備を整えて出発!

 出だしは勾配も緩い散策路のような山道だ。霜が降りた落ち葉がサクサクと足に優しい。

     
早朝の光徳牧場P    まずは山王峠を目指す    晩秋の落ち葉
     
おだやかな笹の小径を行く       岳樺の林

 後半は、苦手な階段に息を弾ませながら登り詰めていくと、やがて山王峠へ到着である。なだらかで穏やかな笹の道を進むと、於呂倶羅山と向かう山王帽子山が大きく見えるようになる。とうに日が昇っているのに未だ朝の雲が厚い。周囲の笹に霜が降りていて、まだ周囲は眠りから覚めやらぬ雰囲気が支配していた。

     
   早朝の於呂倶羅山    山王帽子山を見上げる

 僅かに下ると舗装林道の奥鬼怒林道へ接合し、一旦光徳牧場側へ戻るとそこが登山口である。ここからが本番。水を一口含んで気合を入れなおす。

 初めのうちは楽な登りもどんどん傾斜がきつくなってくる。だが、振り向くと徐々に景色が広がってくるのが励みになった。天気は相変わらずスッキリしないが、現在地の西ならびに北側は青い空が支配し、太陽が居る筈の東側は中層の雲に覆われている。時折雲が切れて明るくなったり再び暗くなったり。そのたびに一喜一憂しながら登っていく。予報を信じて来たのだからスッキリと晴れた眺望を期待したいものだ。

     
奥鬼怒林道へ一旦接合    ここが登山口    振り向くと三岳

 樹林の中の登山道を黙々と登っていく。時折後方の枝越しに見える白根山に励まされながら山王帽子山へ到着した。山名板の向こうにはまだ覚めやらぬ雰囲気の男体山が重々しく鎮座している。尾瀬の山並みにも雪が見えるが、どことなく山に照る光は朝の色彩が残っていた。

     
山王帽子山頂上    朝の空気を纏った白根山    まだ覚めやらぬ男体山

 幾分風が強くなってきたのでヤッケを羽織り、笹の茂る静かなコルへと降りる。再び登りに転じると、やがてハガタテ分岐へ到達した。

 地形図に現在も表記されているハガタテ薙のコースは通行禁止となっている。ネットで歩いた人の記録を見ると、かなり危険な薙を通過するようで、流石に此処を行く人は命知らずだと自分も思うのだが、見る限り踏み跡はかなり濃い。通行禁止の看板も朽ち果てていてその字すらも判読できない。

     
一旦コルへ    来し方を振り返る    ハガタテ分岐より山王帽子山

 コツコツと高度を上げていくとふと人の気配がしたので上を見ると、大きな犬を連れた登山者が道を譲って待っているところだった。本日初めて遇う登山者だ。犬は図体がでかいが、案外小心のように見て取れる。主人と蜜月のように二人きりで歩いていた山中に、突然赤いヤッケを着た浸入者が、それもけたたましく熊鈴を鳴らしながら現れたのでさぞや驚いたようである。首をかしげながらこちらを伺うその尻尾はすっかり腹にぴったりと張り付き、きっと怖かったのだろう。犬が気の毒やら可笑しいやら、飼い主氏も苦笑いである。

 標高が高くなると、所々に樹氷が見られるようになってきた。丁度この頃雲が本格的に切れて日差しが降り注ぎ出した。一気に気温が上がり始め、解けた樹氷が剥がれ落ちる様子がなかなか素晴らしい。こんな光景は滅多に見ることは出来ないだろうにと思ってふと振り返ると、花が咲いたような樹氷の中に白根山が佇む風景。思わず息をのんだ。

     
樹氷       花咲く樹氷と白根山

 一投足で小太郎山頂へ到着。

 おぉーっ、と、思わず声が出るほどの好眺望。掛け値なしの360度眺望である。

     
小太郎山頂上は360度眺望    会津駒ケ岳方面?(自信無し)    燧ケ岳

白根山から北西方向

東側の帝釈山と小真名子山、大真名子山

男体山


360度の眺望動画

 景色を存分に楽しんだ後はいよいよ太郎山を目指す。

 始めの岩場が結構きつい。岩の下のテラスが狭く、その下は垂直に切れ落ちているので慎重さが要求される。ロープも張っていないし、高度感もかなりある。高所恐怖症の人や岩場通過初心者の人はやめておいたほうが無難であろう。
 今回、太郎山からの下山で新薙を通過したので、これで日光三険(大真名子山の千鳥返し、女峰山の馬の背渡り、そして太郎山の新薙)はすべて経験したことになるが、そのいずれよりもこの剣ヶ峰のほうが険しいのではという感想である。

     
太郎山へ向かう稜線       岩場を通過後
奥:小太郎山、中:剣ヶ峰

 岩場から続く痩せ尾根を過ぎると、向かい側に岩交じりのピークがあり、これを登っていく。太郎山のニセピークのような此処を通過し、右手に火口原のお花畑を見ると山頂はもう少し。

 お花畑への分岐から真っ直ぐ進んでいくと、上のほうから満面の笑みを湛えた顔が挨拶してきた。「最高の天気ですよ!」
 本日二人目の登山者である。

 入れ替わりに下山していった彼の笑顔の理由(わけ)が納得できるような素晴らしい眺望が広がる太郎山山頂。小太郎山からの景色とさほど違いはないものの、微妙にアングルが違うのでこちらも素晴らしい。

ながらも大きな満足感を隠せぬ顔でやってきた。

 男体山ファミリーに囲まれた山頂にはバーナーの炎の音だけが響く。遠くの山々はそんな寡黙な我ら四名を静かに見守っているようだった。

     
太郎山の南西の肩    火口原のお花畑    太郎山頂上
     
帝釈山、小真名子、大真名子、    男体山と中禅寺湖    太郎山より白根山


 山頂から真南に下っていくとお花畑に出る。肝心の花は既に乱獲されており、今は僅かな種類だけが残るというこの場所も既に初冬の装いで寒々しい枯野となっていた。

 お花畑より更に下ると薙を2箇所渡る。二つ目の薙渡りの途中に新薙のプレートがあった。日光三険の一つである新薙渡り。上を見ると、今直ぐに転がり落ちてくるような危険な岩は特に見当たらないが、まずは安全にすばやく渡るのが先決。

     
お花畑    新薙より小真名子と帝釈山   

新薙の様子

 新薙を過ぎ、樹林の中を下る登山道の傾斜がたいへんきつくなってきた。次に足を何処に出せばよいか考えてしまうほどの段差と悪路。登りはさぞかし辛かろう。背の低い方は通過に苦労するのではないだろうか。

 その厳しい下りも後半は随分と穏やかになり、男体山を見上げるようになると本日のコースも終盤大詰めである。

     
男体山を見上げる    左奥、小太郎山、右、太郎山    穏やかな日差し射す岳樺林

 無事林道へたどり着くと、早朝、鹿に見守られてデポした自転車が待っていた。さぁ、ラストセクションをよろしく!頼むぞ相棒。

 裏男体林道までの砂利道はハンドルを取られないようにそろそろと、舗装路からは快適な下りだ。お陰で約6キロの道のりをあっという間に走り切ることが出来た。

 実は光徳牧場駐車場手前の僅かな登り坂がキツくてキツくて・・・。最後の最後は自転車を押しながらのゴールインである。
 結果的には大助かりな相棒であったが、変速機なし、タイヤも小径で乗りづらい。おまけにブレーキも効かない。これからの冬の薮山シーズンに向けて、是非機動力のある一台を確保したいところだ。

     
下山終了    コイツが待っていた    頼むぞ!相棒

 裏男体林道を自転車で下る

 下山終了後は光徳牧場のアイスクリームに舌鼓を打ち、更なる本日の山遊びのデザートは、奥鬼怒林道を川俣へ向けてドライブとした。

 里近くまで降りてきている紅葉が目にも心にも沁みる。四季のある日本に生まれてよかったと思うひと時である。

以下、奥鬼怒林道ドライブ

     
北側から見た太郎山    県境の峰々    川俣湖
     
      残照(栗山村)

概略コースタイム
光徳牧場駐車場発(6:40)-奥鬼怒林道接合(7:40)-山王帽子山(8:40)-小太郎山へのコル(9:02)-
ハガタテ分岐(9:22)-小太郎山(10:16)-太郎山(10:56)-昼食休憩-行動再開(11:30)-
お花畑通過(12:01)-新薙通過(12:10)-新薙登山口(13:41)-ここより自転車-光徳牧場駐車場着(14:14)


2010年08月29日

女峰山を目指して


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 霧降のリフトが8月末で営業を終了する。ちなみに、終了までは無料開放らしい。

 女峰山への長丁場を歩く場合には、この取っ掛かりの区間をリフトで楽できるのが大変大きなアドバンテージであると考えていただけに、自分も営業終了を惜しむ一人である。

 終わりゆくリフトを惜しむ山歩きのプランを温めていたが、丁度Mixiの参加コミュでリフトを使って赤薙山へ登ろうという企画が立ち上がった。無論参加表明をしたものの、運が悪いといおうか日頃の行いが悪いのか、ずばりその日に限って体調不良で不参加となってしまった。

 その後もどんどん日は過ぎていく。何とかリフトを使って思い出に残るような山行をしたいという気持ちが募るばかりである。

 リフトの営業開始が朝の8時40分ということなので、頑張って1番の客となってもキスゲ平に9時。赤薙山ピストンで11時。数日前リフトの事業所に電話で問い合わせてみると、ここのところ大気の状態が不安定な為、早い日には午後1時頃に雷雨が発生しているらしい。

 赤薙山ピストン案に傾きかけてきた頃にふと頭をよぎった。女峰山目指して行けるところまで計画したらどうかと。
 ネットで調べてみると、コース途中の一里ヶ曽根(独標)というところが360度眺望で素晴らしいらしい。赤薙山から片道1.5時間というタイムが平均的なので、12時にキスゲ平帰着から逆算する。登りのリフトは諦めて、朝5時に第三リフト駐車場を出発すれば休憩を含めてもなんとかなるだろうという計画に落ち着いた。天候とコースの危険度次第では途中撤退の判断ありという前提だ。

 計画通りに自宅を朝の3時半に出発。日光街道を北に折れ、登りのワインディングに差し掛かる頃になると空が白み始めた。朝の白い月がはっきり見えるので取り合えず今のところ天気は大丈夫だろう。

 閑散とした第三リフト駐車場に到着する。朝焼けのオレンジのほの明かりの中準備をして予定通り5時にスタートすることが出来た。人の気配の無い登山道も既にヘッドライトがいらない位に明るくなってきている。

     
早朝の駐車場は閑散としている    まだ暗い登山道へ    笹が濡れている

 笹道を登ると、やがて登山道は水路のような溝になり、にわかに足元が滑りやすくなってくる。途中シカ避けの柵を開けて第三リフト終点から朝日を眺めたが、荘厳なその光景にしばし感動。(下写真中)

 登路に戻り再び高度を上げていくが、木漏れ日の朝日が鋭く差し込むのもまた美しい。

     
八平ヶ原分岐    第三リフト終点から    朝日が眩しい

 リフトに乗れれば割愛出来るわけなので、言わばアルバイトともいえるこの区間。なるべく体力温存を決め込んで慌てずゆっくりと歩を進めるも、やはり結構汗を搾られる。

 ポンッと飛び出すようにキスゲ平に到着すると、目覚めたばかりの風景が迎えてくれた。高い雲がかかり、平野は熱帯夜による霞が多いがまずまずの景色である。ベンチに腰掛けて、向かう赤薙山への稜線を見据えながら鋭気を養う。

     
キスゲ平(小丸山)到着    鳴虫山方面    今市市街地方面

 朝の湿気をたっぷりと蓄えた笹の尾根を登っていく。ズボンの裾がすっかり濡れてしまってスパッツを忘れてきたことを後悔したが、登山素材なので乾燥が速い。泥が着くのはちょっといただけないが、涼しいから良しとしよう。

 目指す赤薙山の上に沈み行く月が見える。朝の爽やかな青空があたりを支配し始めた。

     
いざ赤薙山へ    笹が濡れていて裾が泥だらけ    赤薙山と月

 雲が切れて強烈な朝日が照り付けると、それまでのヒンヤリした空気が一変してじりじりと暑い夏道となってきた。あともう少し、笹尾根を過ぎれば涼しい樹林帯になる。

     
朝日を受ける影    笹原が輝いている   

 今回で3度目の赤薙山だが、最後の樹林帯の登りがきついのは織り込み済み。だが、今日のコースを考えるとこの区間も体力温存が必要。細かいピッチで慎重に足を出すように意識しても、張り出した根にペースを乱され難儀する。

 北側を巻く道に入り、山頂西側の肩に到着。まずは第一区間終了である。想定よりも少し体力を消耗している気がするが、今日はここからが本番だ。ザックを降ろして休憩を取り、西に広がる景色を眺めた。男体山や女峰山の南東尾根なのだろうか、綺麗に標高を下げる稜線、そして荒々しい崩落地。その雄姿がこれからの区間の厳しさを物語っているような気がした。

     
   赤薙山西の肩    奥に男体山

 まず目指すは一つ目のこんもりとしたピーク。現在地と標高差はさほど無いように見えるが、地図を見ると一旦コルまで降りた後に高さ50~60mの登り返しである。里山の縦走ならよくあるパターンだが、いざ進んでみると思いのほかきつい登りだ。所々岩交じりで手を使わなければ通過出来ない箇所もあり、どんどん体力が搾り取られていく。

 一つ目のピークを過ぎると、次に待ち構える奥社跡(二つ目のピーク)に向けて更に厳しい200m近い標高差。思わず途中で歩を止めること数度。樹に囲われて何も景色の無い奥社跡にようやく到着。こんなに辛いのは久しぶりだな。今日はいつもに比べて多めに水を装備しているとはいえ、ザック重量はせいぜい10数kg程度である。まだまだテン泊など無理だなぁと思いながらも、山に登り始めた頃の辛さを懐かしく思い出した。

     
一つ目のピーク       二つ目のピーク(奥社跡)
     
女峰山南東稜が近づいてきた    樹に囲われた奥社跡   

 奥社跡からはルートは北転する。枝越しに見える三つ目のピークに向けて再び高度を下げて、コルに着くとにわかに林層が変化した。立ち枯れの木が、さも昔からそこを守っているかのように立ちはだかっている。
 流石にこのあたりになると深山の趣が深い。脚には厳しいが心持はますます清涼。一時的とはいえ、世俗をかなぐり捨てたような無我の境地で淡々と歩いて行けるのが単独行の良いところだと思う。

     
三つ目のピーク    コルから林層が変わる    自然深き山道

 三つ目のピークへ登りきると、穏やかな尾根道にシャクナゲの密生地が続く。ついこの間まで、花のトンネルで覆い尽くされていたのだろうと想像するに難くない。目を下にやると真新しい鹿の足跡が続く。これを追いかけながら進んでいくと、だらだらした登りの後に突然視界が広がった。目的地の一里ヶ曽根に到着である。

 全体的に幾らかモヤが掛かっているもののまさに360度眺望だ。前回の女峰山ではガスの山頂で眺望はお預けだっただけに、今回の早発ちは「景色を見たい」というのも大きな理由であった。やんぬるかな、どうやら今日の山の天気は自分に味方してくれたようだ。

 西側には珍しいアングルの女峰山が惜しげもなくその威容を放っている。ここからあそこに立つには目の前のガレ場を下りこの巨大な山塊に挑まなければならないと知った時、正直に呟いた。

「参りました。体力を付けて、いつの日か必ず登りに来ます。でも今日は降参です」

 後ろを振り返ると、超えてきたピークの先の赤薙山北側崩落地が大迫力。日光の山はかくも厳しくあったのかということを改めて実感する。

     
シャクナゲの薮    やれやれ到着だ    奇岩あり
     
女峰山    赤薙山北側の崩落地    超えてきたピーク

女峰山

 軽く食事をして休憩をした後、時計を見て帰路を急ぐ。

 戻り始めて30分もしないうちにガスが昇り始めてきた。あともう少し遅ければ360度の眺望を得ることは叶わなかったと思うと、登りの苦労が癒される思いである。

 この頃、本日初めての登山者に出会う。女峰山を目指すのか。このあとも夫婦2組、単独2名と行き交う。長丁場コースなのでこの時間だとピストンはきついだろうし、志津側に車のデポでもあるのだろうか。いずれにせよ二千m超級のこの深い山域にこの人口密度の低さである。人気の夏山などは登山路が渋滞するなどよく聞く話だが、かくも密かに自然の中に深く抱かれながら歩けるのは山好きにとって至福の時ではあるまいか。

 帰りも奥社跡への登り返しに少々汗を掻くが、先が見えているので気は楽だ。行きに踏まなかった赤薙山の山頂に近づくと沢山の人達の声声。

 お別れリフトと年の数の標高の山。人気者の赤薙山頂上はそんなハイカー達でごった返していた。かろうじて写真一枚を撮り、一口の水で喉を潤すと早々に喧騒の山頂を辞した。
 渋滞する樹林下りを抜けて笹尾根に出ると辺りはすっかりガスの中に埋もれていた。朝の景色が嘘のようである。
 焼石金剛辺りまで下ってくると、リフトから散歩気分で登ってくる観光客が目につくようになる。中には運動靴はおろか小石で簡単に足を痛めてしまうようなお洒落な靴で歩いてくるお嬢さんも。
 「午後から雷警報が発令される日が多いんですよ」と電話口で語ったリフト担当者の気苦労が偲ばれる光景であった。

 誰も居ない朝日の中を出発したのが嘘のような賑わいのキスゲ平に到着した。行き交う誰もが半そで半ズボンにサンダル。小奇麗な街の装いである。そんな中でただ一人、泥だらけのズボンを履いて汗だくの格好。たった数時間前の出来事が到底嘘のようなそんな錯覚に包まれながら下りのリフトに揺られていた。

     
ガスが昇ってきた    赤薙山は沢山のハイカーで賑わう    朝の景色もガスに覆われている
  
   無料リフトで下山

概略コースタイム
駐車場発(4:57)-第三リフト終点脇(5:18)-キスゲ平(5:40)-焼石金剛(6:18)-巻道分岐(6:41)-
赤薙山頂西の肩(6:50)-一つ目のピーク(7:17)-奥社跡(7:53)-三つ目のピーク(8:17)-
一里ヶ曽根(独標)到着(8:50)-休憩-再出発(9:08)-三つ目のピーク(9:44)-奥社跡(9:57)-
一つ目のピーク(10:27)-赤薙山(10:43)-焼石金剛(11:05)-キスゲ平(11:31)-リフト-駐車場着(12:07)


2010年07月19日

梅雨明けの山


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 7月の3連休の天気はどうだろうかとやきもきしていたら、見事タイミングを計ったように梅雨が明けた。夏が来たら高い山に登ろうと思っていたので、まずは手始めに男体山ファミリーの歩き残しの名峰、女峰山から始めることとした。

 女峰山は二荒山神社裏手から登るのが正統派、寂光の滝から馬立へ登り上がるコースもまたハード、骨っぽいところでは霧降から赤薙山経由もある。今回軟弱な自分は(というか身の丈にあったというほうが正解)志津峠から馬立経由のラクラクコースを選択した。

 志津乗越は相変わらず男体山周辺を訪れる登山者の車でごった返している。こんな山奥にこれだけ車が集まるのは異様な光景だが、流石は人気スポットだ。

 去年2度ここに来ていたので事情は飲み込めている。今回も早発ちで自宅5時発、志津乗越先の野州原林道への最終ゲート付近には7時前に着いたが、既にゲート前は満車である。100m程手前までバックして駐車スペースにどうにかありつくことが出来た。

 朝の澄んだ空気の中、気もそぞろで準備を終えると、胸弾ませていよいよ出発である。振り返ると、いつもと違った角度の男体山に夏らしい緑が輝いている。はじめは砂利の林道歩きでいささか退屈だが、向かう女峰山から帝釈山の稜線が馬の鞍のように見えてくると、遮るもののないその露わな山容に登高意欲が駆りたてられた。

 馬立分岐からは林道に別れを告げて、沢に向かって一気に高度を下げる。女峰山登山の開始である。

     
男体山を背にして    向かう女峰山と帝釈山    馬立分岐

 どうも写真ではスケール感がまったく損なわれてしまって残念でしかたがない。下の写真で大き目の岩は長辺が5m以上もあろうか。そんな岩がごろごろしている枯れ沢を渡る。大雨の後の激流で、こういった巨岩でさえいとも簡単に流されるのだろう。自然の偉大さの中ではこの沢を渡る自分などは、あたかも小石の間を行く蟻のようなものである。

 馬立の川原から向かいの尾根に取り付くといよいよ登りに転じ、暫くは右手の薙が綺麗に砂防工事された所を進んでいく。よくぞこんなに山奥に重機を持ち込み、かように大きな工事を行えたのか。人間の営みもまた実に凄いものだ。

 道はさほど急ではないが、所々樹林が切れる箇所になると夏の鋭い日差しがことのほか体に堪える。太陽が一瞬雲で覆われると幾らか元気が戻るが、再び日が射すと水を失った花がしおれるように疲れが芯からやってくる。給水のペースもいつもよりは急ピッチである。まだまだ序の口の行程なので先が思いやられる。

 コツコツと高度を上げていく。気がつくとガスが下からどんどん上がってくる。見上げると山頂方面はすっかりガスに覆われてしまった。朝のあの素晴らしい晴天が嘘のようである。

 大分高度を上げて二つ目の沢を横断すると、そこは水場。コンコンと湧き出る名水をザックから取り出したカップですくって口にする。真冬の女峰山の厳しさを彷彿とさせる氷雪の産物。キリっとした冷たさと雑味の無い透き通った味わいに思わず喉を鳴らす。顔を洗うと一気に元気が蘇ってきた。

     
馬立の沢    二つ目の沢の向こうに水場    男体山がガスで覆われてきた

 水場から一登りすると唐沢小屋へ到着する。無人の避難小屋だ。小屋で一夜を過ごし、女峰山頂から日の出を拝むなんていうのも楽しそうである。いつの日か実現したいものだ。

 小屋裏手から更に登って行くと、まもなくガレ場に出る。所々黄色いペンキで岩に丸印が描かれているのでこれがルートなのだが、先行者は皆無理矢理ガレの間を縫って登っている。落石を考えるとルートを行くべきなのに、気付かないのであろうか。

     
無人の唐沢小屋    ガレ場登り    ガレ場上部より

 ガレ場も上の方へいくとなかなか斜度があり手強い。無事樹林帯へ吸い込まれるとその先に追悼碑(下写真中)があった。山を愛する者としてはある種のロマンを禁じ得ないのは正直なところ、やはり19歳という若さで逝ってしまったのは悲しいことである。

 段々と這松が多くなり、森林限界に到達したような雰囲気で一投足(いや、気持ち的には数投足か)にてようやく山頂へ到着。途中、後続対向のハイカーはぼちぼち居たのは確かだが、思いのほか沢山の登山者で賑わう狭い山頂は込み合っていた。

 期待の360度眺望は残念ながらガスに阻まれ南は全滅。かろうじて北側のみ確保されていた。西は大真名子・小真名子方面もガスの中である。

 なんとか腰をかける場所を確保して、時間は早いがコンビにおにぎりを頬張った。20人近くは居たと思うがそれなりに皆静かに山頂を楽しんでいるところへ、70歳くらいの夫婦が大きな音量のラジオをかけて山頂にやってきた。
 人の気配の無い山道が心細いからとか、雷鳴をいち早くキャッチするとかそいうい理由は判らないでもない。場合によってはクマ鈴だって充分迷惑たりえるのに、なぜ人が沢山いる山頂でスイッチを切らないのだろうか。貴方が聞いているそのラジオは否応無しに皆の耳にも聞こえているのですよ。

 傍らで食事をしている中には、昨今高齢者主体のハイカーとしては珍しい若い男女のグループも居る。そんな中、いい年をした大人が礼儀を欠いては筋が通らないのではと思った。

 ガスで景色が悪いのは自然が相手だから仕方がないが、ラジオ騒音は耐え難い。如何に秀麗な眺望があろうとも台無しである。弁当をザックにしまい込んで一足先に眼下の馬ノ背渡りへと向かうことにした。

     
樹林帯まであと少し    樹林の中の追悼碑    山頂到着!眺望は・・・
     
北はまずまず       帝釈山へ向かう馬ノ背渡り

 馬ノ背渡りは写真で見てのとおり、いわゆる痩せ尾根である。険所と言われてはいるが、強風があるときはともかく、慎重に通過すればどうといったことは無い。そのへんの薮山でも樹を取っ払えばこの程度の痩せ尾根はごまんとあるだろう。ただ、周りがガランとしてるので高度感があるのか、通過する人を見ていると腰が引けて停滞している人も居た。

 馬ノ背からは"稜線"という言葉がよく似合う道を帝釈山へ向かって進む。所々にシャクナゲが淡い色の花を咲かせていた。盛りはすぎているものの、春の花期の山歩きに恵まれなかった自分には嬉しい彩りだ。

     
馬ノ背から女峰山を見上げる    帝釈山    盛りは過ぎたがシャクナゲが迎えてくれた

 途中の小ピーク、専女山は全方位ガス。最後に登り返した帝釈山も遂に眺望を得ることは出来なかったが、残りの食料を口にしながら静かな山頂を愉しむことが出来た。谷から吹き上げる雲が頬をなぜると冷たくて心地よい。憎いガスも案外捨てたもんじゃないさ。

     
全方位ガス    帝釈山もガスの中    晴れていれば太郎山方面

 帝釈山からの下りは、地図そのまま。愚直とも言えるほど真っ直ぐな尾根を富士見峠へと降下していく。雨水でルートが削られて荒れ気味なのは男体山の志津側と同じ感じだ。景色が何も無く淡々とした感じなので、出来れば登りには使いたくないルートである。

 富士見峠からは、長い長い、本当に長くて嫌になってしまう林道歩きが残っている。前回、大真名子・小真名子の帰りに洗礼を受けてはいたので先が見えていた分楽だったが、やはり疲れにムチ打つようなこの林道歩きは辛いもの。まてよ、二荒山神社からの往復なんてこんなもんじゃ無いぜ。思わずブルッ。そんな正統派ルートも体力に自信を付けて何時の日かチャレンジしてみたいものである。

 駐車地に近づく頃になると、濃い霧は遂に雨粒となって地面を濡らしはじめた。汗ばんだ体に心地よい雨粒もとうとう最後は本降りだ。ゴールは目と鼻の先故カッパは面倒だ。こんな時にとザックに忍ばせておいた真っ赤なヤッケを羽織ると、モノトーンの林道に一瞬華が咲いたようだった。

     
ひたすら樹林の尾根筋を下る    富士見峠へ到着    Pへ着いたら雨がやんだ

概略コースタイム
駐車地発(7:03)-馬立分岐(7:43)-馬立(7:55)-水場(9:10)-唐沢小屋(9:27)-
女峰山頂上着(10:12)-行動再開(10:21)-帝釈山(10:52)-行動再開(11:06)-
富士見峠(12:04)-馬立分岐(13:26)-駐車地着(14:01)

2010年02月21日

氷の世界、雲竜渓谷を訪ねる



-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 予報では週明けに気温が上がってくると報じていたので、暖かくなる前に冬場の懸案箇所である雲竜渓谷を訪れることにした。
 雲竜渓谷は女峰山と赤薙山の南面の荒々しい場所に位置する峡谷であるが、その核心である雲竜瀑は冬季に氷結する姿に惹かれて訪ねる人が後を絶たないという有名な場所である。
 ネットでもその報告は多数あり、最近ではブログ仲間のリンゴさんが訪問している。諸氏の記事を目にするたびに自分も溜息をついていたのであった。

 晴天のなか、いつものように車を西走させると日光の山並みがどんどんと大きくなってくる。今日はあの懐へと向かうのだなと思うといつにも増して胸躍る気分である。

 神橋を渡ってすぐ右折する。程なく北に向かう細い道へと入って行くと、幾ばくかの集落を通り過ぎる頃には白銀の世界へと様変わりしていく。今週もパジェロミニの直結4駆モードの独壇場である。

 ゲート前には既に数台の車が駐めてあった。自分も駐車スペースを確保して支度する。思いの外気温は低くないが、肝心の氷瀑が緩んではいないかとそちらのほうが心配だ。

 ゲートを越えて林道を歩き始めると、その先にも真新しいタイヤ痕が続く。どうやら工事関係者の通行があったのだろうか。まずは轍を拾いながら雪道を楽しむことにしよう。

     
今日もパジェロミニは絶好調    ゲート前に駐車する    関係車両の轍が続く
     
稲荷川を挟んだ向かい側      

 行き交う後続者や先行者も無し。たった一人で歩く雪の林道というのは案外寂しいものである。いつもの道無き道の単独行なら、穏やかな稜線を歩いていても常に緊張が継続し、ともすれば本当に胃が痛くなることもある。まぁそんな事が愉しくて歩いているのは事実だが、まったくもってコースが保証されている今日のような単調な林道歩きは、流石の自分も話し相手が欲しいところであった。そのぶん、歩く(進む)ことよりも、自然の気配をいろいろと感じ取ることが出来たような気がする。

 春を間近に控えた小鳥達ののさえずり。雲一つ無い空と白銀の道。さくさくと進む自分の足音が静寂の中に確かに響いていく。

 緩い坂道を1時間も歩いた頃、稲荷川展望台へと到着。展望台には監視カメラが設置されており、レンズの向かう先は日本一の砂防ダム、日向砂防ダムである。

     
稲荷川展望台    カメラが監視する先は    日向砂防ダム

 ダムの奥の方は左手が女峰山、正面が赤薙山となる。今回のルート中では最大の眺望ポイントであった。設置されている双眼鏡はコインを入れなくても見ることが出来る。作業員の監視用なのだろう。暫し楽しませて貰った。

     
女峰山    赤薙山    無料?双眼鏡

 展望台の前に1台自家用車が駐まっていた。あとで解ったのだが一般ハイカーがゲートを開けて上がってきたようだが、よくここまで走ってこれたものだと驚く。

 ここから先はいよいよ轍も無くなり人間の足跡だけが続いていく。天気がよいので雪の反射が目に辛い。ゴーグルを持ってこなかったのが残念だが、きっと汗で内側が曇ってしまって使い物にならないのだろう。

 標高が上がってくると雪も締まってきた。ますます軽やかなサクサクと歩む足音を、突然切り割くような爆音。見上げれば、碧い空に見事なコントラストの真っ直ぐな飛行機雲が描かれていた。

 林道のほぼ終点に近いあたりで右側の谷にトレースが逸れていく。道標は特に無いが渓谷へはどうやらここから降りていくようだ。

     
いよいよ足跡のみ       ここから谷に降りていく

 突然目の前の景色が広がり、浅瀬ながらも荒々しい流れの稲荷川源流の広大な河原を眼下に見渡せる場所へ出た。雲竜渓谷入り口である。遠く奥のほうに氷の柱が連なっているのが見える。

 アイゼンを装着して渓谷に足を踏み入れる。飛び石を伝って沢を渡らなければならない場面が何回かあるが、一番始めのポイントで不覚にも右足を岩から外して沢に落としてしまった。アイゼンの歯が岩に当たりバランスを崩したのだ。深さは30センチくらいなので危険は無いが、一瞬にして靴の中に水が入ってきた。幸いにスパッツを履いていたので靴の中に水が充満してはいない。気温も高いので下手に脱ぐよりもこのまま放置しておいたほうが良いだろう。

 次なる難関は、足の幅一つ分やっとの箇所の通過。氷の壁にかろうじて指で確保出来るホールドポイントが2つある。日頃からボルダリングなどをやる人ならたやすいだろうが、浅瀬とはいえザックごと沢の餌食にはなりたくない。息を整え気合いを入れて慎重に通過した。今日一番の難所だろう。

     
   雲竜渓谷入り口    僅かなルートを辿る

 峡谷上部のほうへ進むと巨大つららが下がっており、その真下に人が居た。つららは時折折れて落ちてくることがあるらしいので、直下に居るのは大変危険な行為だ。見ている自分のほうが冷や汗ものである。あの巨大なつららが直撃したら即死も充分あり得るだろうに。

     
   下部の人で大きさが解る   

 一旦昼食休憩を挟み、更に雪の急斜面を登っていくと、とうとう正面に雲竜瀑がその全容を露わにした。ここまで見てきた氷柱も充分に迫力あるものであったが、その高さは100mにも達するという圧倒的なスケールと存在感に息をのむ。女峰山と赤薙山の前衛を守る竜がまさに天に向かって昇っていくが如しである。

     
   雲竜瀑   

 安全の為に滝に近づくことはしなかったが、氷瀑クライミングをする人もいるという。自分は遠巻きにして眺めるだけで充分である。滝の左手の高い所へ登って周囲を見渡すが、切り立った崖と所々に見えるつららがこの谷の険しさを遺憾なく物語っていた。

     
   脇の峡谷   

 山奥に、密かにかつ堂々と、無雪期には轟音と共に滝壺を穿ちながら周囲にけぶる水霧。想像するだけでも壮絶な風景に相違ないであろう。紅葉期もなかなか良いという。自分も季節を違えて是非再訪してみたいとものだ。また、過去のネット記録と比べると、もっと氷も大きく渓谷全体が壮大な年があるようである。長い長い林道歩きを我慢するだけの価値は充分にある雲竜渓谷。今後も楽しみである。

  
氷瀑側から見る最終アプローチ    林道より宇都宮鹿沼方面

概略コースタイム
林道ゲート駐車地発(9:02)-日向ダム展望台(10:00)-渓谷入口(11:05)-
渓谷上部にて昼食休憩(11:44)-行動再開(12:02)-雲竜瀑到着(12:10)-
雲竜瀑出発(12:23)-渓谷入口(12:47)-日向ダム展望台(13:47)-
林道ゲート駐車地着(14:26)

2009年10月18日

中禅寺湖の展望台、社山


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 中禅寺湖から南へ目をやると、半月山とピラミダルなシルエットの社山は誰しも印象の片隅に残っていることだろう。

 山に登るようになってから社山への憧れは強くなったが、果たしてあの急峻な雰囲気の登りに耐えられるかどうか、今一つ自信が無かった。
 最近やっと体力に自信が付いてきたので、そろそろチャレンジしてみようという気持ちと中禅寺湖の紅葉が見頃という情報で計画実行に迷いは無かった。

 日光へのアクセスはこの時期4輪だと渋滞で大変である。そこで、Ride&Hike第二弾、オフロードバイク(ジェベル)で軽快な出発をすることにした。今回は反省を踏まえてバイク用ジャケットで走り、登山用防寒着をザックに忍ばせるという万全の体制である。

 予想通り、清滝のIC出口辺りから大渋滞。その合間を縫うようにしていろは坂も快走。歌が浜駐車場では、あふれ出した車が右往左往している。前回の沼っ原同様涼しい顔で駐車場最奥へバイクを駐めた。脱いだジャケットやグローブを透明ゴミ袋でくるんでリヤキャリアに縛り付ける。万が一雨に降られると、帰りに濡れた装具で走らなければならないのは避けたいところだ。ヘルメットも同様に袋に包んでメットホルダーへ。

 準備OK、さぁ登山開始!。といっても出だしは中禅寺湖畔の約1時間のアプローチ歩行である。以前半月山に登った時もこの道を通ったが、今回は周囲の紅葉が美しい。このアプローチ自体も今日は楽しみにしていただけに、1時間がまったく苦にならなかった。

 イタリア大使館記念公園から先は観光客もめっきり少なくなり、独り占めの中禅寺湖という雰囲気に酔いしれながら歩く。狸窪の先になると一旦周囲の紅葉は少なくなるが、湖岸からの風景が大変美しくなる。八丁出島と小寺ヶ崎の中間点辺りから見る中禅寺湖と男体山はイチオシの絶景である。

     
歌が浜Pから社山    狸窪から八丁出島    小寺ヶ崎
     
     

 湖岸と周遊道の間にフカフカの落ち葉が堆積していて心地よい。久しぶりに足裏に感じる感触で、季節が移り変わっていくことを感じ取ることが出来る。膝近くまである落ち葉をラッセルしながら尾根を辿る里山歩きの日ももう少しでやってくるだろう。

 阿世潟からはいよいよ登山道だ。岩がゴロゴロとした箇所を足の置き場を考えながら登っていく。やがて土が出て歩きやすくなると、そこからほんの一登りで阿世潟峠である。前回半月山に登った時はこの区間で既に息が上がっていた事を考えると、何の苦労もなく登る事が出来るようになった自分の体力の変化に驚く。

 峠で給水休憩をしていると足尾側から登ってくる人がいる。かつては中宮祠と足尾を結ぶ通商の為の峠であったと言われているが、そんなロマン漂う道をトレースしてみるのも一興では無いかと思う。

     
   阿世潟峠へ到着    社山への道

 阿世潟峠から社山への登りは初めこそ穏やかだが、直ぐに急登の本性を表しだす。尾根の中心線から僅か南側に通る道からちらとら見える男体山と中禅寺湖は木立に邪魔されているが、この後展開される好眺望を予感させるには充分であった。やがて無人の雨量観測所があるピークが見えるといよいよ登りは本腰である。

 まずはあそこまでだな、と覚悟を決めればなんてことは無い・・・筈だが、結構苦戦。だが雨量観測所まで登り詰めると、そこからは南北遮るもののない眺望尾根歩きのスタートである。

 折角なのでピークのてっぺんににある雨量観測所に寄り道をするが、実にシンプルなもの。円い筒に雨を溜めて測定し、そのデータを発信するアンテナがあるのみである。でもよく見ると電源はどこから取っているのだろうか?謎である。

 雨量観測所の先は少しガレた箇所があり痩せ尾根になっている。注意して進むと、次は背の低い笹尾根となる。実に気持ちの良い山道だ。

     
雨量観測所が見えた    南の峡谷    雨量観測所のアンテナ
     
雨量観測所本体(^_^)    雨量観測所を後にして    笹尾根を登っていく

 巻くでもなくジグザグも無く、ひたすら等高線に逆らって尾根を登り詰めるストイックな登りに汗が頬を伝う。時折下山してくるハイカーから「ヤラレテますね」といった風の視線を送られのがちょっと恥ずかしいが、実際自分も後で下山した時にすれ違う登りの人は皆一様にヤラレた表情で登っている。あいこである。社山を往復した者だけが共有しうる、はにかみみたいなものじゃないかな。

 眺望はすこぶる素晴らしい。頻繁に足を止めるのは景色が素晴らしいから、それとも息が上がっているから、想像におまかせしよう。

 暫くすると、腰まで丈が有るような笹をかき分けながら登り詰めるピークがある。笹の急登の上で三脚を立てて中禅寺湖にレンズを向けている人がいるが、余程良いアングルなのだろう。胸突き上げるようなこの急登をいなすと、その先にやっと山頂ピークが全容を現す。

     
後ろの景色に見とれてまた休憩    腰ほどの笹を登り詰める    ようやく山頂が見えてきた

 最後のツメは登り初めの元気があればたやすいくらいの感じなのに、既に体力を搾り取られているので足取りが少し重い。何とか、えっちらおっちら力を振り絞りどうにか山頂を踏むことが出来た。

 昼食は山頂の西側にすぐある眺望地で取ることにした。山頂自体は樹に覆われていて男体山しか見えないが、眺望地は南から北西にかけて遮るものの無い大パノラマである。特に黒檜岳に向かう笹に覆われた稜線やその奥に続く皇海山方面への山並みは日光の奥座敷然としていて実に素晴らしい。

 社山を越え、大平山に寄り道をして黒檜岳から千手ヶ浜に抜けるルートもいつしか実現してみたいものだ。

     
社山頂上    西にある眺望地    大平山と黒檜岳
     
南側パノラマ    遠く足尾の街   

 下山は来た道をピストンで戻るだけだが、とにかく中禅寺湖に突っ込んでいくように降りていく景色が素晴らしい。遠く八丁出島が小さく見えて、観光遊覧船の通った跡が湖面に一筋に描かれている。紅葉自体は深紅の葉こそ多くは無いが、浅い色とりどりの木々に覆われた周囲の様子はなかなかの景観である。

     
中禅寺湖に向かって降りる       正面は半月山

 阿世潟峠で一旦腰を下ろして休んでいると、先ほど社山の山頂で食事をしていた白髪の60代くらいの男性がスタスタと半月峠方面へ進んでいった。はなから阿世潟に降りる積もりはなかったので、自分のような若い者が休んでいたんじゃ仕方がないだろうと発奮して出発。

 笹尾根は、社山のそれと比べると少し丈があるがどこか優しさに包まれているようなそんな雰囲気がある。だが油断していると案外急登なのであっという間に体力消耗だ。
 くだんの男性も時折腰を下ろして休んだり、自分も息を整えるインターバルが頻繁になる。抜きつ抜かれつしているうちに、
社山の後のこの登り返しは堪えますね」と話しかけると、
そうですね、もう足が出ない。若い頃は平気だったんですが。でもこちらは静かで良いですね。社山は良いけどやはり今日は随分人が多かったですから」。
 汗を拭いながら語る面持ちに、山を心から楽しんでいることがよく見て取れた。そんな静かな笹の登路脇に孤高に燃える紅葉もまたよく似合うものである。

     
山王帽子山と太郎山    阿世潟峠から笹尾根を登り返す   

 半月峠手前の1655mPに登り詰めると、もうこれ以上登りは無い。あとは下るだけである。

 先に到着した自分は水を飲み、パンのかけらを口に放り込み最後の休憩を取る。あの男性もやがて到着して少し離れたところで休んでいる。ふっと一瞬、柑橘系の果物の香りが漂う。男性が口にしているであろうその甘酸っぱい香りを合図に自分は腰を上げた。「お先に」「お気を付けて」と会釈して別れる。口数の少ない者同士の時間であったが爽やかな気持ちになることが出来た。

           
狸窪への降下途中で八丁出島      

概略コースタイム
歌ヶ浜駐車場発(9:38)-狸窪(10:10)-阿世潟(10:34)-阿世潟峠(10:53)-雨量観測所(11:21)-
山頂(12:08)-西眺望地着(12:10)-昼食休憩-再出発(12:54)-雨量観測所(13:35)-
阿世潟峠(13:49)-1655mP(14:31)-半月峠(14:43)-狸窪(15:24)-歌ヶ浜駐車場着(16:07)

2009年09月21日

大真名子山、小真名子山



-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 八月に男体山をクリアしたのに気を良くし、今回は若干苦労が予想されるコースにチャレンジすることにした。

 夕方所用があるので早発ち早帰りを目指すが、さてさてこの過酷なルートを標準コースタイム(6時間)で歩き通せることが出来るのか。一抹の不安を抱えながら朝の7時前の志津乗越に着いた。こんな早い時間なのに既に登山口周辺は車を置く場所が一杯である。相変わらず県外ナンバーが多いところを見ると、夜の内に到着しているのだろう。地元組は多少頑張って早起きしても太刀打ち出来そうにないかもしれない。

 朝日に輝く男体山を拝んで、いざ急登の果て、大真名子山へ!

     
志津乗越より朝の男体山    いざ大真名子山へ    八海山神像

 仄暗い樹林の中、急登に喘ぎながら登っていく。少し高度が上がった頃に樹間からくっきりと金精山の荒々しい姿が見える。崩落面が朝日を受けて神々しくも見える。

 山頂から南に伸びる尾根の肩に辿り着くと、一旦は勾配が緩くなりほっとする。南側は雲海が拡がっていた。まるで飛行機から見下ろす風景のようだ。

     
樹間から金精山    急登急登    南は雲海

 簡単な鎖場を一箇所やりすごして登っていくと、「日光三険」のうちの一つ、「千鳥返し」現る。
 ガイドブックにも書いてあった通り、さほど難しくもない。鎖が垂れているが、むしろ左手の階段を使ったほうが簡単だ。鎖も階段も無ければ確かに難所かもしれないが、今となっては名残のようなものだ。

 この千鳥返しを過ぎると、後ろ側に絶景が拡がるようになりもう一踏ん張りすると大真名子山の山頂へ到着である。

     
日光三険の千鳥返し    南東の方角    大真名子山頂上

 信仰の山ということで、山頂には小さな社と蔵王権現像が奉られている。男体山程はゴミゴミした感じが無くスッキリしているので好感が持てる。

 眺望は評判通りの大眺望。男体山から太郎山、小真名子山、帝釈山と女峰山といった迫力の包囲網。遠く西や北を眺めれば、県境の白根山や尾瀬の七ヶ岳も望むことが出来る。今回も南東(関東平野)は雲海に深く閉ざされていたのは少し残念であった。

 GPSの軌跡を見て疑問に思ったのは、山頂の標識があった地点は地形図の三角点より南東に約69m程離れていたことだ。一番奥の蔵王権現像から更に北西側は岩の崖になっていたが、実は本当の三角点はその下だったのかも知れない。いずれにせよ近づくことは出来ないような感じではあった。

     
太郎山    小真名子山、帝釈山    帝釈山から女峰山

 山頂から緩い下りを行くと、目の前の帝釈山と女峰山が段々間近になってくる。女峰山は見れば見るほど惚れ惚れとした山姿である。自分のような低山指向のハイカーでも"登高意欲"をかき立てられる、そんな山だ。

 緩い下降の後は再び樹林に突入する。等高線以上にきつく感じる急降下だ。救いは樹林の中なので足がかりが豊富であることだろう。

 大小の真名子、その双耳峰のコルがタカの巣である。"深山の趣のある・・・"とガイドブックに評されているが、成る程ここまでの深い山で道に迷ったりしたらただじゃ済まないぞという感じがひしひしと伝わってきた。先ほどから聞き慣れない鳥の声だけが辺りを包んでいるが、鷹でないのは確かであろうに。だが、何となくタカノ巣という地名を実感出来るような気持ちになる。

 ここからは、一転して突き上げるような急登の再開。本日の第二ラウンドである。

     
タカノ巣    再び急登急登    標高グラフが・・・

 急登ではあるが、高度が上がると微妙に林相が変わってきて、色づき始めの葉に思わず足を止めるのも良い休憩。

先ほどの大真名子山の登りに比べれば短い登りだが、第二ラウンド故結構堪える。登り詰めた山頂では、帝釈山と女峰山が仲良く並んでお出迎えだ。西側が樹に遮られているが、巨大反射板が設置された方へ少し進むと再び大パノラマの出現である。

 時間は少し早い。だが、この最高の景色をおかずにして最高の昼食としよう。

     
色づきはじめ    小真名子山頂上    バックは帝釈山と女峰山
     
振り返って大真名子山    西側眺望   

 小真名子山からの下山は、すぐにガレ場の下りとなる。一応蛇行するように踏み跡が着いているので、これを正確にトレースして行くのだが、斜度も結構あり大変滑りやすい。このコースで一番の難所だ。樹の一本も無いガレ場を慎重に慎重に下っていく。下の方から登ってくる人もいるので落石を起こさないように足を置く場所を良く考えながら降りていった。胃が痛むような緊張感。

 ガレが終わる所に樹が見える。あそこまで行ったら一休みしよう。

     
巨大な反射板       富士見峠へ向かってガレ場を下る

 降りきって上を仰ぐとい、登山者の姿が岩と同化するくらい小さく見える。いやはやなんとも強烈な下りであった。

 樹林に再び包まれて進むと、あっという間に富士見峠に飛び出した。どうやら小真名子山からの下りは殆どガレ場の急斜面で終わってしまったようだ。

     
   下りきった所から振り返ると・・・    富士見峠

 ここで地図と軌跡のもう一つの相違点発見。

 地形図の登山道表記は小真名子山から微かな尾根形を辿り、富士見峠から帝釈山へは顕著な尾根を伝って登っていくように描かれている。

 だがGPSの軌跡は登山道の南側を通過している。これはGPSの測位誤差では無いと思う。実際、薙の印があった箇所には顕著なガレがあったし、その薙の向こう(北)には少し薮っぽい感じの尾根形が見られる。かつては尾根に付いていた道が描かれていたのが、そのまま修正されていないのだろうと推測する。

 そして決定的なのは富士見峠の位置である。野州原林道と地形図に描かれていた登山道の交点を富士見峠とするならば、現実的に自分が降り立った道標のある地点と随分違っている。現在の測量は航空測量なので、登山道については古いデータをそのまま踏襲していると言うことを聞いたことがあるが、どうやらそういうことなのであろうか。
 いずれにせよ、あれだけ空がはっきり見渡せている場所で測位誤差が50m以上出ることはまず無い筈なので、次回、女峰山帝釈山ルートで再検証をしようと思う。

 富士見峠からは第二の難所(?)、本日の第三ステージ。2時間の林道歩きである。

 出だしはゴロゴロした石が大きくて靴裏に優しくないことおびただし。こりゃぁ足裏健康マッサージだ。何事も過ぎたるは及ばざるが如し。いい加減嫌になってきても延々と林道は続く。

     
   足裏マッサージだ!    途中こんな荒れ沢も

 標高が下がってくると舗装が出たり消えたりで段々と落ち着いた道になってくる。全行程の約半分で遂に呆れて道端に腰を下ろして一休みである。ガスが出始めてきてあたりが暗くなってくると少し嫌になってきた。

 ショッピングモールに、店内循環の簡単な乗り物が走っているではないか。あんな感じのノリで軽トラでもいいから林道をピストン輸送で途中で回収してくれたら良いのに等々、あらぬ妄想を抱く始末。(誰が運行するんだ、そんなもの)

 水筒の水も残り少なくなってきた。さぁ、くだらん事を考えずに残りの道を楽しみながら先を急ごう。

 馬立分岐で、来たるべき女峰山登頂を胸に秘めながら残りの林道を進む。おやおや、ラストは緩やかな登りなんだね。最後の最後で薄く滲む汗を拭いながらハードな一日はフィナーレへ、愛車の待つ志津乗越へと向かうのであった。

     
綺麗に色付いている    馬立分岐、次回はここから・・・    林道ゲートへ到着、しかしゴールはまだ先

概略コースタイム
志津乗越発(7:04)-急登終わり(8:18)-千鳥返し(8:36)-大真名子山(8:50)-タカノ巣(9:42)-
小真名子山(10:30)-昼食休憩-再出発(10:53)-富士見峠(11:31)-馬立分岐(12:52)-
野州原林道分岐(13:23)-林道ゲート(13:33)-志津乗越着(13:53)

2009年08月23日

男体山登頂


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 栃木県に住んでいると、日光の男体山は何かにつけ親しみを感じる山である。校歌にはあまねく歌い込まれ、県内のかなりの場所から山姿を仰ぎ見ることが出来る。
 そんな男体山に今回はチャレンジすることにした。ルートは中禅寺湖から登る正式な登拝コースと、車で標高を稼いだ志津乗越から最後の標高差700mを詰めるコースがある。初めてなので志津乗越からの北コースピストンとする事にした。

 自宅を出発して丁度2時間、9時半頃に志津乗越に到着。すると、のっけから難所が・・・。そう、駐車地確保が大変なのだ。ずらりと駐められた車の殆どが県外ナンバーであり、皆かなり早い時間に到着している雰囲気だ。周辺の山々の登山基地的なロケーション故に致し方無いのは解るが、中にはツアー登山の一行さんが乗ってきたであろう小型のバスなども駐まっている。幾ら舗装されているとはいえ、普通車でも車幅ギリギリの箇所が多い裏男体林道をよくぞ通過してきたことよと有る意味感動。

 随分離れた所に車を置き、登山口まで歩いたお陰で準備運動もバッチリである。道標に従い変哲の無い山道に吸い込まれるように入っていくと、すぐ志津小屋と志津宮がある。小屋を覗いてみると、懐かしいすすけた匂いと一組だけポツンとうち捨てられたように置いてある布団が印象的であった。この小屋で静かな裏男体の一夜を過ごすのも悪くはないかな。

 志津乗越からの山道は、合目標識が山頂まで続く。700mの標高差だから1合あたり70mか。大したことは無いなぁとタカをくくっていると、4合目辺りから息が上がり始める。次の合目標識が待ち遠しや、やはり男体山は手強いぞ。

     
登山口    二荒山神社志津宮    二合目脇のザレ場

 道は明瞭そのものだが、時折木の根が行く手を阻んだり、水の流れで道が深く削られた部分なども多く、これらをやり過ごすのに思った以上に体力を浪費する。滑りやすいので下りがまた気が抜けない。登りも下りも辛い状況が続くハードなコースである。

 ひたすら樹林の中を進んでいくが、7合目を過ぎたあたりで景色の良いポイントが出てきて元気付けられた。振り向くと大真名子山が大きい。

     
時折根が道を塞ぐ    ひっそりと五合目    大真名子山

 8合目辺りからは樹林が切れだし、岩礫が目立つようになる。足元が滑りやすいので神経を使うが、北から西にかけての眺望は益々素晴らしく、ぐるりと見渡す群青色の峰々から小さく見える湯ノ湖を見つければ、その上方に山肌が荒々しく削られている金精山、さらにその奥にはお椀を伏せたようにひときわ目立つ白根山も見える。

 9合目からの緩やかな登りを終えるとやがて三角点に到達した。その奥には二荒山神社の奥宮の建物が見える。
 山頂付近の様子は賑やかという言葉が似合うのか、ただハイカーの数が多いという理由以外にも、ここまで沢山人造物がある山はどうも落ち着かないというのが率直な思いである。
 同じ人造物でも里山を歩いていて絶対といってよいほど目にする送電線やその付帯設備は、人に媚びることも無くただ己の役割を全うすべく凛として立ちはだかる。これは機能美と行って良いだろうよ。また、路傍の古い石祠には古の人のささやかな願いが感じられて好感が持てる。だが、空を目指すようにそびえ立つ剣先も、風にあらがって屹立する二荒大神も、信仰登山と縁の無い自分にとってはかなり違和感を感ぜずにはいられなかった。

 そして何よりも残念だったのは奥宮脇の社務所(山頂に社務所があるのを見たのはここが初めて)裏に、石油ストーブやその他ゴミがうち捨てられていること。山頂周辺には空き缶やタオル、明らかに登山者の不始末と見られるゴミも少しはあったが、社務所裏のゴミは量や内容からして「産業廃棄物」として私の目には映った。ここは是非二荒山神社に何とかして欲しいところだ。また県外ハイカーの集う山だけに、県としてもイメージアップの観点から何らかの手は打って欲しいと思う。

     
湯ノ湖と白根山    一等三角点標石    三角点より奥宮
     
これがホントの剣が峰か    二荒山神社奥宮    二荒山大神

 山頂一帯は休む場所が沢山あるので、昼食の場所取りに苦労することは無い。少し外れた静かな場所にザックを降ろした。食後はゴロンと寝転がり空を眺めて軽く目を閉じると、木陰を抜ける風が実に爽やかである。雲が切れたり重なったりと色彩の移ろいを眺めながら贅沢な休憩の一時を楽しんだ。

 下山する前に、西側の一番果ての箇所、地図に鳥居のマークが有る小さな宮のある所まで行ってみた。この先はちょっとした崖になっていてロープが張られていて進むことが出来ない。痩せ尾根の先にある2397.7mPまでは野趣溢れんばかりの稜線だ。

     
空を仰いで一休み    山頂の西の果て    2397.7mP

 帰りは登ってきたルートをひたすら戻るのみ。同じ道を往復するピストン山行は基本的に好みではないのだが、登りと下りでは視点が違うので案外楽しめることも多い。今回も素晴らしい眺望を眺めながらの下りを満喫することが出来た。ただ、樹林帯に突入すると"修行のような"きつい下り。翌日の筋肉痛の種をたっぷりと仕込まれた下りだったという事にこの時点ではまだ気付かないのであった。

     
太郎山    中禅寺湖   
  

概略コースタイム
駐車地発(9:37)-登山口(9:46)-1合目(9:55)-2合目(10:03)-3合目(10:12)-4合目(10:22)-5合目(10:38)-
6合目(10:51)-7合目(11:00)-8合目(11:26)-9合目(11:41)-山頂(11:56)-昼食休憩-出発(12:20)-
西側最果て(12:25)-5合目(13:28)-登山口(14:13)-駐車地着(14:21)

2009年07月11日

高山で森林浴

-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 高山(たかやま){1667.5m}はiいつか登ってみたい一座だったが、山頂からの眺望に乏しいということでなかなか足が向かなかった。

 先日ネット仲間のNonさんが高山から千手ヶ浜に降り、西の湖から低公害バスを使って小田代原経由で歩いてきた記事を掲載されており、これに触発されてしまった。まだ梅雨が明けていないこの時期の山行なら単純に歩きだけを楽しむのも良いだろう。

 五月の赤薙山以来ご無沙汰のH君に声を掛け、彼の車で竜頭滝駐車場へ。結構早い時間なのに既に車が沢山駐まっている。奥日光の予報は「曇」、男体山も上の方はすっかり傘を被っている。そんな梅雨空でも、人気観光地は新緑を楽しみたい人達で賑わっている。

 駐車場から少し戻り道標に従いアスファルト路を進むと、突き当たりからが登山道。防護柵の扉を押して進むと一面の広葉樹の森が迎えてくれる。笹も青々としている。体全体に緑の息吹を感じながら進む森林浴登山の始まりだ。

     
ここから登山道    防護柵    気持ちの良い森林浴

 山頂からの主尾根の末端に位置する峠に辿り着き、左を見るとコース外の小高いピークがある。事前に地図で気になっていた1506mPへ続く方角だ。見ると、落ち葉の敷き詰められた斜面は草も無く見通しも良い。GPSに1506mPへのコースを忍ばせてきているのだから確信犯なのだが、「H君、ちょっと寄り道しようか」などと涼しげに自分。

 初めの斜面は地図で示される以上にキツめの直登。あとは等高線に無い小ピークが2つ程。年期の入った巨木に目を奪われながら緩い斜面を登ると静かな1506Pへ到着した。プチ寄り道もまた楽し。

     
道草せいでか    何も無い1506P    道草から復帰

 道草から復帰して本コースへ戻る。峠からは犬連れの夫婦と抜きつ抜かれつで進む。道はしっかり整備されているしコース自体も険しくない。これで山頂の眺望が良ければさぞ人気のコースになっただろうにと惜しまれる。

 山頂直下のジグザグを登る頃になると時折雲間から陽が差し込んでくるようになった。ふと樹間から景色もちらほら見える。さぁ、あと一登りだ。今日はH君のペースがいつになく遅いようで、お陰で自分は珍しく息が乱れない。

 山頂は既知ではあったが見事に眺望無し。まぁ登路が気持ちよかったから全然気にはならない。

 途中にも見かけたが、緯度経度の書いたプレートが山頂にもあった。念の為に照合してみると、分の下の桁が少しずれている。一応測位誤差は±4mなのでかなり正確な筈だ。事実帰宅してログを落としてもきっちり三角点の場所なのでどうしたことかと調べると、表示単位が違っていたのだ。プレートは分以下の桁が秒。GPSは分を少数で計算して表示しているという違いであった。そういえばGPSの設定で表示を変えられたなと思い出す。早速秒設定に変更した。

     
高山頂上    微妙に差が・・・    2ヶ月ぶりで調子いまいちのH君

 暫し休憩の後、中禅寺湖を目指して下山開始。それにしても良く整備されたコースだ。さして難しくも無い所に真新しい鎖が設置されていたりと、行政の力の入り方が伝わってくるようだ。事故を出してイメージダウンしたく無いのだろう。

 比較的だらだらとした下りは膝に優しいことこの上も無し。緑のシャワーを浴びながらのんびり進むこのルートは、日頃の仕事のストレスを癒すには持ってこいのように思われる。

 小田代原へ直接降りる道を分ける無名峠では、峠を吹き抜ける爽やかな風に包まれながら眼下に広がる緑の風景に贅沢な溜息をつく。

     
ゴージャスな鎖    緑が眩しい下山路    無名峠から

 谷沿いに降りる頃になると、沢音が聞こえだし、沢が幾筋も合流する頃になるとそれまで主役一辺倒だった笹に代わり、これまた青々とした草原が拡がり始めた。まもなく中禅寺湖の水面が見えて来て下山はお終いとなる。

 岸辺に近づくと、白砂と澄んだ水が美しい。騒がしい観光客もここにはいない。静かな岸辺だ。秋の紅葉の時期はどうだろうか。また訪れてみたいものだ。

  
中禅寺湖はすぐそこ    白砂が美しい

 湖岸のよく整備された遊歩道を伝い千手ヶ浜へと向かう。途中大きな岩があったり、様々に表情を変える湖岸を楽しみながら進むと、やがて遊覧船の桟橋が見えてきた。

 低公害バスの停留所の場所を示す案内板を確認してから食事とする。他にもバス待ちで昼食を広げているグループがちらほら。中には昼寝を決め込んでいる夫婦も居た。皆それぞれに奥日光の静かな一日を楽しんでいるようだ。

  
千手ヶ浜桟橋    千手ヶ浜にて

 定刻通りにやってきたハイブリッドバスからは時間的にハイカーの姿は無く、大半が重そうな一眼カメラを手にした人達が降りてきた。入れ替わりで我々も車中の人となる。

 小田代原の停留所で降りて竜頭滝方面への周遊道を目指したが、停留所では無くて周遊道入り口で降ろして貰えば良かったと後で後悔した。だが、車道歩きも案外風景が良かったので結果オーライだろう。(下・左写真)

     
小田代原       戦場ヶ原

 周遊道は、後半の何処までも続く笹原にいささか食傷気味になるが、コース最後の滝は爽快!今日はどちらかというと山以外が主役。そんな奥日光森林浴ハイクであった。

     

概略コースタイム
駐車場発(9:01)-(途中会社から電話有り10分中断)-道草分岐の峠(9:38)-1506P(9:46)-峠へ復帰(9:55)-
高山頂上着(10:48)-再出発(10:55)-無名峠(11:25)-中禅寺湖岸(11:58)-千手ヶ浜着(12:16)-昼食休憩-


低公害バス
千手ヶ浜発(12:45)-小田代原着(13:03)


小田代原発(13:05)-遊歩道入口(13:15)-戦場ヶ原展望台(13:29)-駐車場着(14:13)

2009年05月09日

快晴の赤薙山と丸山


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 霧降高原はその名前の通り、霧が立ちこめることが大変多いので有名である。今回目指した赤薙山ルートも、途中のリフト沿いに名物の日光キスゲが花を咲かす6月頃になると大抵深い霧に包まれている。

 過去2回このエリアに足を運んだが、2回とも途中から雨。一度目は家内との丸山であったが、2本目のリフトに乗るときは完全にカッパを着用していた。そして2度目はH君と赤薙山を登った時。この時は霧で周囲の風景が全く見えない中赤薙山までをピストンし、昼食の為に丸山に向かう途中で大粒の雨。足元が悪いので丸山自体も断念して下山した。

 今回はH君との悪天候コンビ解消かと思わせるような快晴である。天気予報も一点の曇もなく晴れを告げている。

 車が霧降道路に向かうにしたがい女峰山と赤薙山が大きく見えるようになる。天気はホントに上々だ。
「登り始めたら一変にわかにかき曇り・・・」なんていう冗談も今日は嬉しい事に全く通用しないようだ。

 まずは第三第四リフトを乗り継ぎ一気に標高1,600mのキスゲ平へ。

 いやはや絶景哉。もうこの景色を見ただけで今日は満足かなと思わせる程の眺望が拡がる。リフト降り場から少し先にある小丸山からその先に見える赤薙山まで、電車道のように真っ直ぐに登っていく道の左右は始終眺望が拡がっている。右手には昼食を予定している丸山の全景が見渡せる。


     
らくちんリフトでまずは高度稼ぎ    小丸山からさぁスタート    アルペンムード満点

 一部膝丈位の笹が生い茂っている所も通るが、道がしっかりしているので全く問題なし。先日の夫婦山とは天と地の差である。

 山頂下の樹林帯に入ると樹の根が沢山露出している急登に喘ぐようになる。山頂まであともう少しという頃に(1970m付近)なると残雪が登路にあり、これを踏みしめながら登るようになるが、所々土が露出している所は雪解け水でドロドロで滑りやすい。

 前回登った時はガスっていて山頂から何も見えなかったが、今回はどうだろう。

     
笹道もこれなら快適!    山頂に近づくと残雪がある    H君と山頂

 石祠の奥から西側を覗いて見ると、急峻な所に残雪が付いた女峰山と左手には大真名子山の勇姿が見える。女峰山を間近に見たのは丹勢山からと今日が2回目。豪快な山容に思わず見とれる。いつかはあの頂に立って見たいと思うがいつの日に実現することやら。少なくとも赤薙山経由のロングコースは我々の体力では無謀だ。他のルートを辿ってもそれなりに険しい山登りになるだろう。女峰山は遠い憧れである。

 山頂からはピストン下山であるが、北側に巻道があるという。先行のパーティも入っていったので、我々もこのルートを辿ってみた。ガイドブックには一部崩壊箇所が有ると書いてあったが、さほど悪路では無い。だが、北側なのでより深い残雪を踏みしめながら下っていくことになる。

     
   大真名子山と女峰山    北巻きルートは残雪多し

 先行の中年男性パーティも、まるで少年に返ったような無邪気な声を上げて雪の斜面を楽しんでいた。だがプチ雪山体験もすぐにおしまい。往路の登山道に合流だ。

 高校生の集団がザックを置いて、どうやら空身で女峰山あたりまでピストンしている様子。下山の学生もちらほらおり、なかなか登山道は賑やかである。賑やかといえば先ほどから丸山の山頂に鈴なりの人影がある。後で我々が登っていく時に判ったのだが、この大量のハイカーはやはり高校生グループのようだ。引率教師のトランシーバーの会話内容からすると、県内の各校登山部(ワンゲル部)が一帯を分散して歩いているようである。

     
残雪踏み抜くH君    焼石金剛より丸山    丸山頂上には沢山の人が

 小丸山まであと少しの地点で進路を変更し丸山を目指す。

 山頂で昼食を終えたであろう高校生達が元気な足取りで下山してくる。男子生徒も女子生徒も結構な数である。こんなに沢山の人間が山頂に居たとは驚きであるが、下山してくる一般ハイカーの中には彼らの元気さ(騒がしさに)に眉をしかめる者も居た。

 「登り優先なんだから待ってないで先に登っちゃいなよ。コイツら登り優先なんて教わって無いよ!」

 と、我々に言う御仁も居たが、我らコンビは赤薙ピストンで意外な程効いてきている登りに丁度良い休憩と決め込んでいたので苦笑い。

     
アカヤシオが咲いていた    丸山への道すがら赤薙山を望む    丸山頂上

 山頂に着いてみれば嘘のように静かで、先客1組のみ。雄大な大谷川扇状地の風景を堪能する静かな時間を得ることが出来た。

 今日は下界は夏のような気温になると言っていたが、山の上の気温は読めなかった。だがギリギリOKの気温で今日もカップヌードルをH君ともに平らげる。日差しは強いがやはりじっとしていると風は冷たい。先ほどより赤薙山の山頂あたりにガスが架かってきた。山の天気は本当に変わりやすいものだ。

     
山頂から南パノラマ      

 下山は北東の尾根を辿り六方沢橋へ向かい高度を下げ、八平ヶ原経由のルートである。

 等高線が込み入っている区間は一体どうなっているのか少し心配だったが、急な所には立派な階段があつらえてあり、これなら老人や子供でも問題なく通過出来る。流石国立公園である。

 六方沢橋に一番近づく箇所で登山道を外して笹藪を少し行くと、なんとアカヤシオの群生があった。この後も、本数こそ少ないが、至る所にアカヤシオが咲き誇っている。思わぬ花に得をした気分で下山の足取りも自然と軽くなる。

     
八平ヶ原へ階段    六方沢橋手前   

 アカヤシオの地点から登山道が南に進路を取ると、程なく八平ヶ原。見渡す限り広々とした笹原である。八平ヶ原の名前の由来は知らないが、何かきっと伝説のようなものがあるに違いない。

 丸山の姿を右手に見ながら大きくトラバースする感じで降りていく。ウグイスがまるで喉自慢でもしているように鳴き競う中、心地よい芽生えの山道を下っていく。先ほどまでの赤薙山やその先の女峰山のような厳しさはもう無い。どこか優しい感じのする山道を下っていった。

     
八平ヶ原    丸山を振り返る    赤薙山直登コースに合流

概略コースタイム
駐車場発(9:16)-第三リフト・第四リフト-キスゲ平(9:37)-小丸山(9:40)-焼石金剛(10:20)-
赤薙山頂上着(11:06)-小休止-下山開始(11:14)-焼石金剛(11:52)-丸山分岐(12:18)-
丸山頂上着(12:43)-昼食休憩-山頂発(13:22)-六方沢橋眺望地点(13:46)-八平ヶ原(13:54)-
赤薙山登山道へ合流(14:19)-駐車場着(14:36)

2009年04月29日

月山と夫婦山

 
-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 昨年のGWは日光の鳴虫山で素晴らしいアカヤシオに巡り会えた。日光方面ではいろは坂周辺もアカヤシオは有名だが、栗山村にある月山もアカヤシオ目当てで訪れるハイカーが多いらしい。今回はガイドブック、分県別「栃木県の山」の案内に従い、月山夫婦山を併せて歩く事にした。

 鬼怒川の温泉街を抜け、竜王峡を過ぎた先を栗山村方面へと折れる。日陰の集落で栗山ダム方面へ入っていくと牧場の中の道を登っていくようになる。左手に後ほど夫婦山への取り付きになる地点を見送り、トンネルを越えると栗山ダム前の駐車場に着いた。

 まだ朝早い時間だというに沢山の車が既に駐まっている。見ると、周辺の散策組もかなり居るような感じだ。改めて月山の人気を再認識する。

 駐車場からは暫し舗装道路(一般車進入禁止)を進み、ビーフピア広場へ着くと、斜面に咲くアカヤシオが出迎えてくれた。少しまばらな感じもするが、上のほうはどうなっているのだろうという期待を胸にロープの垂れ下がる登山口へ取り付く。

     
ダムサイド駐車場    ビーフピア広場    ロープが垂れる登山口

 短いロープを登り切った笹の小尾根は、進むに従いなかなか侮りがたい急登になっていくが、両脇のアカヤシオに励まされながら登っていく。ふと足を止めると、赤薙山と女峰山、そしてアカヤシオが眺望を競いあっているようだ。

 左手に、無機的な雰囲気の栗山ダムの護岸が見えてくると急登の尾根もそろそろお終いである。

     
アカヤシオと女峰山       栗山ダム

 一旦小ピークを越して進路を南に転じると、最後の登りで月山の頂上へ到着だ。山頂の少し手前辺りで東側(高原山方面)が枝に遮られる事なくスッキリ眺められる場所があったが、写真も撮らずに立ち止まることもしなかったのが今となっては残念である。

 山頂は数組のグループでごったがえしており落ち着かない。眺望は登路とあまり変わらない感じだが、南側が加わる。

 これから向かう南西のこんもりとしたピークには、所々アカヤシオが咲いている。数パーティが先行した後に自分も山頂を後にした。

 南西の尾根はガイドブックで紹介されていないが、西と南の眺望が終始明るく、ハイカーの数が多い。ネット情報では数箇所難所(ロープ場等)があると指摘しているが、なるほど確かに痩せ尾根あり、背丈ほどの岩場ありだが、古賀志山の中尾根や東稜尾根あたりを歩いているハイカーなら全く問題ないだろう。
 だが、ここは人気の山。足元のおぼつかないような人や、撮影の為のとりわけ大きな三脚を片手に歩いている人も多いので難所で渋滞が激しい。

     
月山頂上    南西ピーク    先行者で渋滞

 南に今市ダムの碧い湖面を見ながら降りていく。やがて北に進路が変わると最後の急な下りが待っている。ここでもロープ場で大渋滞。5分ほど待たされた。平坦な場所に降りるとそこはビープピア広場で、取り付き地点の丁度真南である。

     
今市ダム    最後は超渋滞   

 思った以上に下山に時間が掛かってしまったので、気持ちも幾らか足早に駐車場へと戻る。これから登る人達がまだどんどん上がってくる。まったくもって人気の山と言えよう。

 靴を履き替えずにそのまま車を走らせて夫婦山取り付き箇所へ向かった。駐車スペースは僅かなので駐められなかっらどうしようかと思っていたが、杞憂である。時間的にハイカーがこちらに流れてきても良い頃合いだが、皆素通りするところを見るとかなり人気薄のようである。月山とは対照的。

 取り付き地点で、「道形に過ぎません」との注意書きがあったが、最近道形すら無い所ばかりを歩いていたせいか、"道形あるだけ上等"のような気持ちで入山していく。実はこの後、道形から外れて笹藪で大変な思いをする事にこの時点ではまだ気付いていない。

 出だしは、良くあるピンクリボンルート。一面を覆う笹がいつもと勝手が違うが、まだ斜度も緩いし全体的に見通しもあるので余裕である。はリボンを追うとその下に笹に覆われたしっかりとした道形が続くという展開だ。

     
夫婦山取り付き    実際踏み跡程度だった    初めはこの程度

 今回は事前の地図検討で、山頂の南側をトラバースする破線(道)がはっきりと記入されており、これがルートであると認識してGPSにも予定線を読み込ませてある。分県別「栃木県の山」に掲載されているルート図もほぼこの破線と一致しているので間違い無いだろうと考えていた。ただ一点だけ、1150mから1200mへ向かうあたりがかなり狭い等高線の所を通っているのが少し不審だったが、きっとジグザグに道が付いているのだろうという程度で深くは考えなかった。

 途中までピンクリボンを追って行くと、どうやら予定していたルートを外して真っ直ぐ山頂に向かうような雰囲気である。歩かれた感じも濃いのでこれを登れば恐らく間違いはないのだろうが、今回は東の尾根から登り西の尾根を下る周回コースを予定している。GPSを見ると、大分西よりを歩いているので少し東側に修正すべく笹藪の斜面をトラバースしていく。かなり行ってもまだまだ自分の目指す破線の登山路であろう箇所までは辿り着かない。途中小さな谷を越えてなおもトラバースするが、向かう先は斜度もきつく、これ以上は無理と判断して一旦小休止。GPSと地図で対策を練る。

 位置的には山頂のほぼ南。見上げるとかろうじて尾根形のように見える笹藪が上へ続いている。若干斜度が有るが此処を北を外さずに取りあえず登り、途中で東にトラバースしやすくなった時点で考えようと思った。上の方に見える山頂から伸びる稜線の緑ががやけに鮮やかだ。まるでここまでおいでと手招きをしているようだが、悔しいかな、笹に足を取られながら進む急登は思いの外体力を消耗する。少し進んでは休みの連続だ。

 1270m過ぎで灌木薮がうるさくなってきた頃、道形に合流。リボンが点々としているし道形もはっきりしているのでまずは一安心だ。だが、此処もまた身長を上回る程の背の高い笹藪と所々灌木の枝薮に阻まれなかなか手強い。何処までも薮な山なのである。

     
リボンを外すと・・・    我、孤高の登山者也(^^;)    リボンルートに復帰するも

 辛い辛いとつぶやきながらも、どうにか山頂の東肩に到達。山頂までは膝丈の見通しの良い笹尾根である。道形は完全に消失しているが、何処を通っても特に問題無いだろう。だが、上からだと見えない所に段差があったりと思いの外歩きづらいものだ。

 山頂は静かな笹原。誰一人居ない静かないただきに、ドカっと大の字に横たわり真っ青な空を仰ぐ。やっと辿りついた。

 遅い昼食のおにぎりを頬張り、山頂からの景色を楽しむ。先ほど登った月山がずんぐりと眼前に見える。まだ沢山のハイカー達で賑わっているのだろうか。それに比べて此処は何と静かだろう。

     
最後の尾根は見晴らしヨシ    やっと辿り着いても笹原    西側 女峰山
     
南側パノラマ    同左(月山)    同左

 下山は南西の尾根を行くつもりだったが、山頂から僅かに踏み跡が確認出来るだけですぐに笹にかき消される。リボンが幾らか見えるが、そのまま南に向かっているような感じで尾根から外れているように見えるのではこれは追わない。

 地図の破線を目指してGPSで方向修正しながら少し降りてみるが、枝薮が酷くてとても降りられたものでは無い。里山ならいざ知れす、1000m以上の標高で四方山に囲まれている所を強行で下りて行くのは、登りでかなり体力を消耗した身にとって、もはや無謀である。それにしてもガイドブックで案内されたルートは一体何処へ行ってしまったのだろうか。少し残念な気持ちではあったが、辛い辛い登り返しで山頂に復帰して往路を下って行った。先ほど合流したリボンルートを辿れば下山出来るだろう。

 相変わらず笹藪が濃くなり薄くなりではあったが、緩やかにトラバース気味であるので登りに使えばかなり楽だろう。自分の取った登路は一体何だったのだろう。そして地図の破線の意味は?

 大分高度を下げた地点で、右手の斜面に南西尾根に突き上げる感じの点々と続くリボンを確認し、GPSのウエィポイントに保存した。

 この後もリボンを追えば必ずその下にはっきりとした道形が続くという展開で、やれやれどうにか下山終了である。なかなかスパルタンな山行であった。

 帰宅して、とるものもとりあえずGPSのログをPCに落として見る。成る程。下山で完歩したリボンルートこそ本来の登路であったようだ。山頂から南西に延びる尾根については、恐らく下山時に気付いたポイントがやはり接点のようだが、下りで使うのはリスキーな雰囲気が漂う。次回この山を訪れる時は、南西尾根を使って山頂を目指すのを宿題としよう。

 最後まで解けなかった地図の破線の疑問。地図には点線も描かれている。実際に歩いて見て、鉄条網が随所に張られていたのを確認している。もっとも今はすっかり朽ちて錆びてしまっているが、かつては明確な境界か道形がこの破線上にあったのだろうか。それにしては急峻な所に付けられた感じも否めない。山頂から伸びる南西尾根にやたらと緑が鮮やかな稜線が見えたのも不思議である。もしかすると、かつては山全体が放牧地だったのでは無いかと想像する。いずれにせよリベンジの意も含めて必ず再訪して見たいものである。

     
下山途中の開けた箇所    たぶん大笹山    やれやれもう少し

概略コースタイム
<月山>
ダムサイド駐車場発(9:26)-ビーフピア広場(9:39)-月山頂上(10:23)-南西の1230m級P(10:57)-
ビーフピア広場(11:27)-ダムサイド駐車場着(11:37)

<夫婦山>
駐車地発(11:41)-リボンルート逸脱(11:59)-笹藪急登(12:25)-リボンルート合流(13:04)-
山頂東の肩(13:23)-山頂着(13:35)-休憩-山頂発(13:55)-南西の薮で撤退(14:12)-
山頂へ復帰(14:25)-南西尾根への接点発見(15:01)-駐車地着(15:34)

2008年09月13日

久々の山行にグロッキー

 実に久しぶりの山行である。7月の茶臼岳以来だから、約2ヶ月ぶりか。それにしても相変わらず週末の天気には恵まれないものだ。天気の良い週末は決まって仕事や用事が入っているので「山病」としてはイライラの募る日々である。

 さて、天気が優れないのに「霧の名所」である霧降高原を目指したのは、"午前中だけ輝いていた"晴れマークの予報。駐車地に車が近づくにつれどんよりとした空を仰ぎながら、「何とか降られなければいいや」という気持ちに変わったのは言うまでも無い。

 久々の山行故、体力温存作戦でリフトを2本乗り継ぎ、一気に標高1,600m地点へ到達。小丸山展望台からの眺望は既に霧深く遮られていた。気を取り直していざ出発。ガスは薄くなったり濃くなったりとめまぐるしく視界が変わっていく。少し高度が上がると稜線の向こうに目指す赤薙山(あかなぎさん){2010.3m}の頂上が見えた。

 見た目にも(実際等高線的にも)緩い登りなのだが、H君ともども息が荒い。足取りが重いのは悪天候のせいだけではなかろう。久しく歩いていなかったので体力が落ちてしまったようだ。そういえば、出がけに山ズボンをはいた時、幾分ウェストのキツさを感じたことがこの約2ヶ月の運動不足を雄弁に物語っているようでちょっぴり悲しい。

     
赤薙山    焼石金剛    あっという間にガス

 晴れていればさぞかし絶景であろう稜線を通り過ぎ、山頂直下の樹林へと道は吸い込まれていく。この樹林の中の道がまた結構急登でハード。木の根で荒れているので、どこが本来のルートか判別しずらい。皆適当に歩いているようで、益々荒れていくようだ。

 何度か息を整えながらもえっちらおっちら登ると、情報通りに眺望がまったく無い山頂に到着。ガスが濃いので、樹幹越に見える景色もただただ白い世界である。腰を降ろして少し休んでから山頂を辞す。

     
横たわる樹 地面は下    山頂   

 帰りはピストンで小丸山展望台まで戻り、そこから丸山、八平ヶ原経由で駐車場に戻る予定である。

 樹林の鬱蒼とした所を降りていくと、辺りがぱっと明るくなるようなページュのウェアを着た高齢の婦人が確かな足捌きで登ってくる。「登り優先」で立ち止まって待っていると、「あらごめんなさい」と、息の乱れも無く上げた面持ちは軽く齢七十は越えているだろうか。しっかり化粧したその表情はどこか自信と楽しさに満ちあふれている。

 比べてヘロヘロに疲れた我ら二名。ちょっと凹んで反省。

     
帰路    尾根越の丸山    霧深き下山路

 パラパラと降り出したり止んだりと、雨がいよいよ迫ってくる。膝まである笹がズボンを濡らす。予定通りに丸山を目指したが、もう少しで山頂という地点で雨粒が大きくなってきた。急いでカッパを着込んだものの、この雨足では山頂での食事もままならないだろう。また、八平ヶ原の下りはキツイという。滑って転んでもつまらないので撤退を決意する。

 そういえば以前家内と一緒に来た時も、雨で結局八平ヶ原には降りられなかった。「霧降高原よ!三度目の正直を!」と念じながらリフト脇の下山路を下りた。雨の山行も趣があって良いという見方もあるだろうが、やはり自分的には山は晴れていて欲しいと思う。

2008年05月06日

大山から好眺望の牧場を下る

-- 『e-trex Leggend US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 連休最終日は、4月からあまり恵まれなかった天候の溜飲を下げるようなピーカン。雲一つ無いような青空の下、これまた見渡す限り広大な景色を堪能出来る霧降高原の大山へ行ってきた。家内とそろそろ山行をと考えていたが、やはり楽チンで景色の良いところが必須条件。ガイドブックを精査すること数週間。大山を霧降第三リフト前からの「山下り」となった。

 大山へ登るコースは、霧降の滝方面から周回するコースとバスの終点である霧降高原から下ってくるコースのいずれかが一般的であるが、今回は楽ちんコースが必要条件なので迷わず第三リフト駐車場へと車を駐めた。

 駐車場から見える景色が既に絶景の中にあり、リフト乗り場へ向かう連絡トンネルをくぐった横から大山へのコースはスタートだ。雄大な景色を見下ろしながら笹の斜面を降りていくのだが、はじめに下りというのもかなり新鮮な体験だ。

 少し急な部分もあったが、程なくのんびりした雰囲気の道となる。下り一辺倒故に、家内からは「下りは飽きてきた」などという発言も飛び出してきた。

     
第三リフト脇からさぁ下山?    笹の中を降りていく    のんびりハイキング

 ミツバツツジが所々見事に咲いてはいるが、まだまだ蕾の株も多い。少しタイミングが早かったようだ。もう少し経てば燃えるような花の道になるのだろう。

 枯れ沢の合柄橋へ到着すると、ここからは僅かだが登りがある。

     
オオカメノキ    合柄橋から登り    ツツジが見事

 緩い登りを進んでいくと牛の防護柵があり、更に人がやっと一人通れる位のゲートがある。このゲートの向こうが放牧地になる。確かに牛は通れない幅だが、大柄な人も通過が難しいのでは?と要らぬ心配をする。肥満の方は立ち入り禁止なのか(^^;

 こんもりとした放牧地の向こうに大山の頂上とそこにあるあずまやが見える。緩い斜面であり一気に行ってしまいところだが、先ほどまで元気だった家内のペースがガクンと落ちる。まぁ休み休み、そろりそろりと参ろう。

     
牛よけがあって・・    巨体の人は通れないかも    牧場内を登る

 山頂からは見事な景色が広がる。東側の赤薙山が存在感を誇示し、いつもと違った角度の男体山がグロテスクに顔を出している。南側の緩やかな傾斜の放牧地と遠景の山々のコントラストはいかにも牧歌的。さして苦労もする事なくここまでの好眺望を得られのもあっけない気がするが、楽ちんハイキングならではであろう。

     
東側パノラマ    山が切れてしまったぁ    まぁいいか
     
こちらは南側パノラマ      

 今回はストーブ初体験。先日遂に入手してしまった。

 ただコーヒーを熱々で飲みたかっただけなのである。お湯を沸かすのみという、ままごとのようなうポテンシャルの低い使用方法なのだが、それでも何となくわくわくするものだ。
 お湯を沸かすというこだわり故に小さなヤカン(トランギア製の0.6L)も同時に購入した。結局、ストーブ本体、ガスとこのヤカン、水も加えると結構な荷物になる。単独の場合は持って行くのが難しいかもしれない。

 屋外で実際に使うのは初めてであったが、目の前でお湯が沸騰するのを見るのはなかなか楽しいものだ。個包装の簡易ドリップなれど、熱々のお湯で淹れたコーヒーが美味しかったのは言うまでもない。

 昼食を食べている時に一緒になった単独行の60過ぎ位の方の話によると、例年GWの頃に来ているが、いつもツツジは輝かんばかりに咲いているのに今年はまだ咲き揃っていない。こんな事は珍しいとか。冬が寒いと開花時期も遅れるだそうだ、

 下山は(スタートから下山しているのだが)山頂から南へ進路を取り、霧降の滝まで下っていく。出だしは少し牧場の舗装管理道を歩くことになる。

     
珍しいまっちゃんの写真    ストーブ初体験    下山出だしの管理車道

 舗装路とはいっても車の往来がある訳ではないので、やはりのんびりと歩ける。だが、真夏はいくら高地といえどもここはちょっと歩けないだろう。遮る木が無いので日差しが直撃だ。

 猫の平にもまた、あずまやがある。時間によってはここで昼食にするのも良いだろう。

 ここからはコースが二手に分かれる。マックラ滝方面へ行く道と南東の尾根を辿る山道。
 南東の尾根を予定していたが、コースの入り口にロープが張ってあり道を塞いでいる。特に立ち入り禁止の立て札なども見あたらないし、道標もあるので様子を見ながら進んで見ることにした。

 笹が深く生い茂る道は、それまでの明るい牧場の雰囲気と一変して静かな山道となった。ひっそりと咲くつつじもまた美しい。

 歩く人があまり多くないせいか、踏跡もところどころ薄く、腿のあたりまでかかる笹をかき分けながら降りていく。所々に道標を見つけてコースを外していないことを知る。

 山相が針葉樹林帯へさしかかると途端に道が一変した。それまで笹の中に細々と続いていた踏跡が突然作業道にかき消される。作業道もまた縦横無尽に付けられており、本来のコースを見つけるのがかなり難しくなってきた。この辺のことを考えて入り口にロープがかかっていたのだろう。ハッキリとした道しか歩いた事のない人にはかなり難しい状況になるのは想像に難く無い。

 作業道に引き込まれると失敗する可能性が高いので、ここでGPSと地図の出番である。幾らか道捜しはしたものの、結局方角を合わせて作業道(のような)荒れた道を辿っていくとそのうちまた道標が現れてまずは一安心だ。

     
猫の平からまた山道へ    静かに咲くつつじもまたよし    笹深い道
     
      針葉樹林から道が荒れ出す

 針葉樹の森から再び広葉樹林帯へと飛び出す。メリハリのある山である。程なく渓谷を渡る。新緑に映えるせせらぎは、青森の奥入瀬渓谷をも彷彿とさせるような美しさだ。

 渓谷からツツジガ丘までは最後の軽い登りが待ち受けている。あまりにも楽ちんな一日だったので私は軽い足取りで登っていくことが出来たが、家内は流石に疲れが出た様子で、重い足を引きづりながらも最後の一頑張りだ。

     
渓谷が美しい      

 牧場付近ではまだ蕾だった赤いツツジが、ツツジガ丘手前では満開である。大した標高差ではないのにこうも違うとは自然はデリケートなもの。明るいツツジのトンネルをくぐり無事本日の山行を終了することが出来た。

 帰路は霧降の滝前からバスに乗り第三リフトまで向かう筈だったが、大笹牧場行きの最終便が出てしまっていた為、第一リフトから先は徒歩になってしまう。私としては体力に余裕があったので10分20分の登りになんら問題は感じなかったのだが、家内のバテバテで共に第一リフトの客となった。

 リフト券売り場の人からこんなアドバイス。「大山を周回される場合は、霧降の滝駐車場に車を駐めて、どうせ1回は乗るバスを朝の登りに使います。そうすれば下りは時間を気にしなくてもOK」。
 なるほどね。コロンブスの卵的に明瞭なご指摘。目から鱗。それじゃぁリフト券が売れないだろう、なんてツッコミはしちゃいけない程親切なアドバイスであった。

     
ツツジガ丘手前    おまけのリフト   

概略コースタイム
第三リフト駐車場発(10:12)-合柄橋(10:59)-牧場ゲート(11:35)-山頂着(11:48)-昼食休憩-
山頂発(12:18)-猫の平(13:11)-霧降川横断(14:05)-霧降の滝バス停着(14:42)

2008年04月29日

アカヤシオを満喫、鳴虫山

-- 『e-trex Leggend US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 ほぼ一ヶ月ぶりの山行である。4月は体調不良やヤボ用が多くて、花の山行を逃してしまったかと残念な気持ちではあったが、まだアカヤシオを見ることが出来る日光の鳴虫山(なきむしやま){1103m}へ登る事にした。

過去の鳴虫山の山行記録はこちら

 

 予報では朝のうち曇でじきに日差しが戻って来るということだったので、なるべく遅く自宅を発ち10時過ぎに登山開始という予定で行動した。
 幾らか薄日が差してきた。車窓から見える日光街道沿いの山並みも、鮮やかな新緑が目に眩しい。

 目当ての日光図書館の駐車場に到着。既に満車だったが、僅かな隙間に何とか駐めようとしていたら、出て行く人がいてラッキー。図書館利用者ではないので、ちょっと後ろめたさを感じながらの出発である。

 中高年に人気の山という看板通りか、やはりアカヤシオの評判を聞いてか、いつもの自分の山行にしては大にぎわいの前後10人程度のハイカーに混ざりながら登っていく。どんよりした空で、天王山、神ノ主山からの眺望は今一つである。見える筈の男体山から女峰山への山並みは深く雲に閉ざされている。

 神ノ主山は、先客の親戚連れ(小学生や中学生の子供とその親たち)のパーティや中高年グループで賑わっている。そんなに狭くは無い山頂だが既に人工密度が高い。

     
民家脇の登山口    神ノ主山より    鮮やかな新緑が眩しい

 標高930m辺りからのアカヤシオをの群落、淡いピンク色で曇天の登山道を見事に染めている。ハイカー達も声を上げ足を止めてはカメラに収めている。去年備前楯山で見たアカヤシオも見事であったが、やはり比では無い。桜とはまた違ったピンク色。濃淡のある株が並んでいるのも良い。何よりも少し離れた向かいの山肌一面に咲いている様は「綺麗」という言葉を素直に発せずにはいられない。

 高度が上がってくると、大所帯のグループも増えてきて狭い山道は大渋滞だ。後で聞いたのだが、観光社主催のツアー登山のグループも居たそうな。げに人気の鳴虫山。まさにアカヤシオの季節は旬なのだろう。

     
見事なアカヤシオ       渋滞中
     

 団体さんにどうぞと言われて抜いたりしていたら、いつもより少し疲れるペースが早くなってきた。直下の登りに喘ぎながらも山頂到着。いやー山頂にも人が居る居る。あんなに沢山の人が食事を取っているのを見たのは古賀志山以来か。いやそれ以上だろう。自分のスペースを確保するのも一苦労だ。生憎の天気で正面にドカンと見える筈の男体山の姿が無い展望台だが、お花見客よろしく今日は沢山の人達で埋め尽くされていた。

 あまりにも人が多いので食事休憩もそこそこに、せき立てられるようにして山頂を後にする。下ったり登ったりを幾つか繰り返して合方へ到着。今日の下山コースは独標方面へ廻らず、合方より南に直下して銭沢不動へと降りるコースを予定している。途中急な下りがあるようだが、情報によると道ははっきりしているそうだ。

 銭沢不動への入り口で暫し立ち止まっていたら、50歳半ばくらいの単独行の女性に声を掛けられた。この女性、登山口から抜きつ抜かれつしながらほぼ同じ場所を歩いていた。
女性は銭沢不動コースが気になるらしく、傍らの私にこちらからでも日光の街へ降りられますよねと尋ねてくる。私は予定通りに此処を降りる事を告げると、是非一緒に行ってくれないかと頼まれる。傍でこのやりとりを聞いていたやはり60過ぎであろう夫婦者、我々も自信が無いので一緒させて貰えないかと。

 聞けば夫婦のご主人は、以前このコースで道を間違えて沢を降りて滝に行き当たった経験があるとか。さてさて、鬼退治に行く桃太郎がにわかに部下を付けたような気持ちになった私はちょっと複雑な気分。もとより詳細な地図とGPSのポイント入力は済ませてあるのでそうやたらに道に迷うことはないのだが、それにしても何かあったらと思うとちょっと荷が重い。

 単独行の女性は先ほどから足捌きを見ている限りは心配無いだろう。何よりも一人で山に来ているのだからそれなりの覚悟もあるだろう。そんなことを考えながらも即席4人パーティは銭沢不動への急な坂道を下っていく。

 整備された鳴虫山の主縦走路とうって変わって静かな山道だ。銭沢不動への紅白ツートンの道標が時々見られるが、所々踏み跡も薄くなる。地図を頻繁に出しながら進むが、尾根を外さなければ大丈夫だろう。

 途中ロープが張られた急下降があった。降りきった所で後方を見ると、単独の女性は難なくクリア、夫婦の奥さんが若干手こずっている。歳なのでご主人とて滑落などされたら大変だと心の中で気を揉むが、時間は掛かったものの二人とも慎重に降りてくる。

     
鳴虫山頂上    銭沢不動コース途中の石祠   

 897mピークの方に一旦引き込まれそうになったが、進路修正をして尾根を乗り換えて何とか下降ルートに定着したようだ。はじめ、巻いていた道もやがて谷を直接降りる荒々しい道へと変わっていく。ここも足元が滑りやすい。
 下の方から声が聞こえてきた。どうやら同じルートを降りるグループが他にも居たようである。人でごった返していた主尾根から逸れて静かな4人行だったが、はじめて他グループと合う。私もにわか先導としての任の重さが少し軽くなりほっとした。

 程なく銭沢不動のお堂へ到着。ここから下は修験道らしいが、今でも修験者の往来が頻繁にあるのだろうか、そこそこ道が整備されている。それまでの緊張感溢れる下りから解放されて後は市街地までの一歩きである。

 日光宇都宮道を走る車の音が間近に聞こえてきた。道路をくぐると発電施設の芝生へ到着。即席パーティもここで解散だ。「またどこかの山でお会いしましょう」と、軽く挨拶をして別れた。

     
谷筋の急な下り    銭沢不動    大谷川添いの桜

概略コースタイム
駐車地発(10:06)-天王山(10:18)-神ノ主山(10:40)-892mピーク(11:06)-1058mピーク(11:44)-
鳴虫山頂上着(12:08)-昼食休憩-山頂発(12:25)-合方(12:45)-銭沢不動(13:57)-
発電所(14:14)-駐車地着(14:43)

2008年03月29日

残雪の日光前衛に一人佇む

-- 『e-trex Leggend US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 丹勢山(たんぜやま){1398m}

 私もその存在は随分以前から知っていたが、やはり男体山やいろは坂に隠れてしまって存在感を感じないのは皆さんも一緒だと思う。

 分県別「栃木県の山」を眺めていると、4月初旬の残雪の日光連山の景色よしとの記載があり、一気にこれに惹かれてしまった。今年は(も)例年より桜の開花が早く、3月下旬も4月上旬と読み替えて良いのではと思うと、もういてもたっても居られない。

 今回もH君の都合が付かず単独である。だがルート自体は特に難しい所は無さそうだ。途中1100m程度の所まで車で行けそうだし、下山は若干退屈かも知れないが林道歩きなのでこれまた問題無いだろう。残雪が心配だが、これは様子を見ることにして出発だ。

 天気は上々。日光街道を西へ向かうにつれ男体山の白い勇姿が段々大きくなってくる。

 今日も観光客で賑わう神橋を通り過ぎると、道路の右手に丹勢山が見えるようになった。清滝の分岐を旧道へ入り派出所の所を右折する。古河の旧社宅街である丹勢町を抜けると表男体林道の標識があり、程なく林道の入り口である。

     
日光市街から見る丹勢山       いよいよ林道

 林道は初め舗装路だが、途中ぷっつりと切れたように砂利道になり所々スポットであるがダートもある。2駆車ではFFでもかなりキツイだろう。

 砂利のヘアピンカーブを慎重に幾つもこなしていくと道幅が広い地点に到達。駐車地に予定していた沼の平分岐点である。

 準備をしていざ出発。だが登山口が今一つ不明瞭である。というよりも無い?

 どうもガイドブックの文面から読み取れるような明瞭な登山口は期待出来無い感じであるが、見渡す限りの笹原。よく見ればかろうじて踏み跡程度のルートが続いているのでまずはこれを追う事にした。

 とにかく見通しは良く目標物を見失うことは無かったので、微かな踏み跡を捜しながら進んでいく。高度が上がり南側の樹幹越しに前日光の山並みが見える頃には大部登山道らしくなってきた。

 左手のいろは坂を走るバイクのエンジン音が時々聞こえてくるものの、まだ春も浅く鳥達のさえずりも聞こえてはこない。実に静かな山だ。

 ふと足元を見ると鹿のものと思われるフンが多数。いろは坂が近いので猿の集団などに出会ったら厄介だなと考えながら歩く。猿ならまだよいが、笹原に突入する時に、用心の為の強力3連クマ鈴を躊躇わずに装着。駐車地にも人影が無かったので、どうやら今日の相棒はクマ鈴のジャンジャンした音色だけのようである。

     
駐車地    一応登山口だが…    鹿のフン?があちこちに

 ガイドブックの記載の通り、暫く歩くと斜面を大きくトラバースしていた道が溝(谷)に突き当たる。「慌てずに目印を見ながら溝に添って登る」と書いてあるが、確かに樹に薄くなってしまった赤ペンキが多少は見られるものの、かなりまばらで心許ない。依然として見通しは良いので何処をあるいても問題は無いのだが、やはり谷から離れないように歩いていった。

 多少きつめの登りをやりすごすと、緩斜面の部分で一層見通しが良くなると共に踏み跡消滅。しかし、少し離れたところに赤ペンキの目印が数カ所あるのを見つけ若干コースを外しかけたことに気づき修正する。だだっ広い所を方角だけを頼りに歩くのも結構ドキドキものである。

 やがて、ラクダの背のような小ピークを回り込むようにして進んでいくと奥に丹勢山の頂上らしき山姿が見える。背中のGPSとコンパスと地図を動員してほぼ間違いの無い地点に居ることを確認。奥に林道のようなものも見えるので緩い斜面の林を進む。すると、パッといきなり南面が開ける。本当に突然である。

 それまでの緊張感溢れる笹の斜面歩きから解放されたせいもあり、思わぬ景色のご褒美にどっと斜面に腰掛けて小休止だ。

 さぁ、後は一旦林道に出て最後の一登りで山頂に着く筈。まずは無事林道に合流した。

     
緩斜面になると更にルート不明    突然南面開ける 薬師岳?    無事林道に合流

 砂利の林道を一旦間違えて逆方向に歩いてしまったが、すぐにバックして東へ。ふと振り返り上を見れば男体山が珍しい角度から顔を覗かせている。
 少し先に行くと広場が現れた。傍らの案内板を見るとヘリポートらしい。基本的にこの林道は一般車通行禁止なので、資材運搬や緊急時対応の為なのだろうか。トラックのようなタイヤ痕が幾筋か見られる。

 さて、ここから最後の登りになるわけだが、ガイドブックに示されたポイントがどうしても解らない。平坦地に突出したような感じの山頂なので、どこからでも取り付きOKな感じはするが、西の端を少し北側に廻ってみたもののそれらしいルートも見つからない。主尾根ははっきり見えているので、構わず適当にザクザクと入って行って尾根に乗り上がる。西側に結構立派なピークが見えるので一瞬間違ったのかなと思ったが、地図を見返して再出発。

 上がるにつれ岩が多くなり、岩の合間の残雪が冬の厳しさを物語っている。ルート上のツツジ(ヤマツツジ?)が沢山つぼみを付けて春の訪れを今か今かと待っているようだ。そんなツツジの株の群落をかき分けながらようやく山頂へ到着。

     
振り返れば    ヘリポート    丹勢山頂上

 山頂からは北側に間近に見える壮大な日光連山。赤薙山から女峰山。大真名子とそして男体山。残雪の迫力パノラマである。
 南側こそ枝に邪魔されてはいるが、とにかく素晴らしい眺望である。この大眺望を独り占めにしながらの食事だ。

 大パノラマに吸い込まれてしまいそうな静かな山頂にゴォっと飛行機の飛ぶ音が聞こえる。真上を眺めると青い空に薄い雲、そしてその中に鮮やかな赤と白の機体が北を目指して飛んでいく。向こうから見える筈も無いのに、おおぃと手を振ってしまいたくなるようなそんな光景であった。

 いつも歩いているような樹林の中だと、案外一人でいても心細く無いのだが、ここまで広々とした空間の中で一人というのもかなり孤独。一体この見渡す限りの風景の何処に呼吸をする者が別に居るのだろうかと思わせる程、寂しいとか心細いとか、そんな感じを通り越したようなゾクゾクするような孤独感に、自虐的にも酔いしれる自分が居た。ともすれば、自分自身が風景の一部に溶け込んでしまいそうなそんな錯覚にも陥りそうである。

     
山頂から男体山    大真名子山    女峰山~赤薙山
     
高原山    山頂の残雪    少し下った地点から
     
      中禅寺湖と社山~黒檜岳

 大眺望の山頂に後ろ髪を引かれるようにして下山を開始する。下りはルートを外さないで踏み跡を辿ることが出来た。林道に出て見れば、確かにガイドブックに書いてある通り目印はあったが、これは注意していないと解らないかもしれない。せめて日光市のほうで道標の1枚位立ててもよいのではないだろうかと思う。

     
明智平の建物が見える       本来の取り付き点

 さて、後はひたすら林道を歩いて駐車地に戻るのだが、先程から気になっていた西隣の立派なピークの少し下の方にある広々とした笹原の斜面、こちらへちょっと寄り道することにした。
 林道を少し西に進み、適当に斜面に取り付く。先ほど登ってきたルート同様、浅い枯れ笹で見通しは良い。あまり考えずにただ上に登ればよいのだ。斜面のに所々にあるダケカンバに差す陽光が美しい。

 いい加減登ったところで斜面に腰を下ろすと気持ちの良い風景が拡がっている。まるでスキー場のような感じで、北側の荒々しい風景とはまたうって変わって穏やかな景色だ。

 遠く、日光前衛の孤峰、鶏鳴山。そこから続く三角錐の笹目倉山。その奥には羽賀場山の稜線も控えている。左に目を転ずれば、特徴的な山容の鞍掛山から先日歩いた古賀志山までの尾根もはっきりと見える。

     
隣の笹原を登る    鶏鳴山~笹目倉    鞍掛山~古賀志山

 笹原を登り詰めるとまた林道に出るが、そのちょっと先のピークで撤収することとした。丹勢山の頂上から見えた男体山手前の1482mピークまではもう一頑張りしなければ到達出来ない感じである。ここで深追いして冬眠明けの腹を空かしたクマなどに出会ってしまっては、この広い山中では到底成す術も無し。くわばらくわばらである

 何はともあれ楽しい寄り道であった。今考えると、あの眺望はあそこに登らなければ絶対見ることが出来なかっただろう。

 下山の林道歩きは単調だが、登りルートの緊張感にいささか疲れた心と体には優しい。登りの笹原ではどこかでクマやシカや猿が息を潜めてこちらを睨んでいるのでは無いかとビクビクしながら鈴をやたらと打ち鳴らしながら歩いていたが、林道という人工物の上を歩くと、何故か第三者の庇護を受けているようで心強い限りである。依然として周囲には人はおろか鳥一匹も気配を感じないのは変わりないのだが。

 そんな中忽然と雨量観測所が出現だ。配電盤があってアンテナがあるということは電源がここまで来ているということなのだろうか。それにしては電柱も見あたらないのだが。

     
丹勢山    雨量観測所   

 砂利道歩きに少し飽きてきた頃、裏見の滝方面へ北へ延びる林道分岐点に到達。こんな山奥によくぞ道を拓いたものだと感心する。
 ここで大きくヘアピンカーブして、あとは直線的に進むだけだ。

     
下りの林道    裏見の滝方面分岐    同左

 駐車地手前にはゲートが有るが開きっぱなしになっている。清滝から登ってきた下の区間と比べると、遙かに上の方が道も穏やかであり安全な感じがするが、ゲート先は一応林道関係者のみ通行可となっている。

 無事何事もなくパジェロミニの許へと帰還することが出来た。先ほど入山した笹原を眺めると、今もまた静寂があたりを支配している。山に呑み込まれないで良かったと、珍しく殊勝なことを考えながら下りの林道を走る。

 朝、交差点を曲がった場所付近で4時間半ぶりに人間と遭遇。孤独な山行は終わった。

     
駐車地手前のゲート    駐車地付近道標    林道の様子

概略コースタイム
<車>
清滝派出所前右折(10:14)-表男体林道入口(10:18)-沼ノ平分岐{駐車地}着(10:34)
<徒歩>
駐車地発(10:45)-谷添い(11:18)-笹原の緩斜面(11:44)-南側開ける(11:53)-
林道出合(11:56)-一旦迷って-山頂着(12:25)-昼食休憩-
山頂発(12:56)-林道復帰(13:12)-隣の小ピーク(13:22)-林道復帰(13:34)-
雨量測量施設(13:46)-裏見の滝方面の林道分岐(14:27)-駐車地着(14:43)

2007年09月16日

半月山から茶の木平まで

-- 『e-trex Leggend US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 三連休の事前予報がぱっとしなかったので半ばあきらめかけていたが、前日になると16日に晴れマークが出始めた。年初から始めた山歩きも、未だいろは坂より上の領域には足を踏み入れていなかったので、夏の山歩きの締めくくりとして半月山~茶の木平の縦走をすることにした。

 日光に向かう道すがら、どうにも山の方角のガスが濃いような気がしていたが、いろは坂にさしかかる頃には青空に映える男体山の勇姿が見られるようになり、まずは一安心だ。
 中禅寺湖遊覧船乗り場のある立木観音前の駐車場に車を駐めると、他にも支度を終えて歩き出すハイカーもちらほら。さすがメジャーポイントは違うね。

 駐車場よりイタリア大使館別荘跡公園方面へ向かう道に折れると、一気に中禅寺湖畔の静けさに包まれるようになる。湖岸を見ると釣りをしている人が結構あちこちに見られる。中にはゴム長で胸のあたりまで水に浸かって釣っている人もいる。自分には釣りのおもしろさは今のところ理解出来ないが、あの雄大な景色の中で一日中釣り糸を垂れているのも悪くないのかもしれない。

 ふと上を見上げると電柱がずっと奥まで続いている。電線と電話線が架けられているのだ。こんな奥まったところに一体と思って進んでいくと、プレジャーボートを屋敷の前に停泊している別荘(車が駐めてあり建物にあかりがついていた)があったりする。もうちょっと手前の現存の大使館別荘とは趣の違う感じでいかにも個人所有の雰囲気だ。きっと「華麗なる一族」のような財閥っぽい人が所有しているのでは・・・などと適当な妄想を抱きつつ進む。

 この別荘の先にまだまだ電柱が続く。狸窪に着くと民宿があった。一つは廃業して丁度建物を壊している最中。もう一軒は現在も営業中だ。この地域向けに電力と電話が供給されているようである。
 ここまでは細いながらも車道である。一般車も入ってこれないことは無いが、駐車場やUターンするスペースが無いので進入しないほうが無難だ。

 さて、民宿を過ぎると舗装は切れてすぐそこは狸窪分岐。半月山への道標がある。今回の予定はもう少し中禅寺湖畔を歩き阿世潟より高度を上げる予定だったが、向かう道にはロープが掛かっていて通行止めだ。どうやら阿世潟~千手ヶ浜間が先般の台風により被害を受けての措置らしい。目的地は阿世潟なので問題無いのではと思い、地図を眺めながら躊躇していると、後から他のハイカーがやってきてロープをどんどんくぐって行くではないか。会話を小耳に挟むと、やはり阿世潟から取り付き社山へ行く様子。それならばと自分も彼らの後からついていくことにした。

 狸窪を過ぎるといよいよ自然遊歩道然として静けさが増してくる。中禅寺湖を散策するなら是非訪れて欲しい美しさだ。ちなみに下の写真左は、阿世潟手前のひっそりとした砂浜から眺める男体山の姿だ。

 元キャンプ場だった阿世潟に到着する。勾配の無い平坦路とはいえ、駐車場からここまでで既に1時間以上も経過している。距離にして4Km程。ちょっと小休止をすれば良かったのだが、続けて山道に入って行ったのがこの後ボディブローのように効いてくる事に、この時まだ気付いていない。

 阿世潟からの登りは、始めゴーロが続きどこがルートだか判然としない感じだったが、高度を上げると道がしっかりしてくる。段々と山道らしくなってくると徐々に息も上がってくる。時折立ち止まりながらも明るい尾根に突き上げるとそこは阿世潟峠。ここを南に下ると足尾へ行けるようで古くは中宮祠と足尾の交通の要所であったらしい。

 まずは荷を下ろして一休み。先客の夫婦一組が既に休憩していたが、先ほどの社山行きの一行も遅れてやってきた。
 登りで汗ばんだ体に吹く見晴らしの良い峠の風が心地よい。秋の雰囲気をまとった風吹く向こう側の足尾の山並みがまた美しい。

     
阿世潟手前より    阿世潟分岐    阿世潟峠より足尾の山並み

 ここからは終始クマザサの尾根を行くことになる。ところどころササが張り出していて道が見えない部分もあるが、それでもしっかりした道筋を行く。

 阿世潟峠から丁度100m程高度を上げた小ピークに到達する頃、何故か今日はいつもより足の運びの調子が今ひとつ。息も上がりやすいことに気付いた。
 やはり、狸窪~阿世潟峠間の遠回りが効いたのかな、とそんな事を思いながらも進む。それにしても天気は上々、時折ぱっとひらける眺望に励まされながら、1655mピークに到着。木陰を探して休憩だ。

 ここから半月峠までは80m程高度を下げる。先ほど苦労して稼いだので勿体ない気がするが、山登りの宿命なれど調子のあまり良くない今日はひときわ恨めしいものだ。

 台風のツメ跡なのだろうか、南側の谷が崩落している。そういえば阿世潟峠からピークを一つ超したあたりのガレ場も凄い状況になっていた。登山道の方はまったく影響が無いが、自然の荒々しさを目の当たりにした。

     
こんな笹尾根がどこまでも    尾根から備前楯山方面    半月峠

 半月峠からは、岩の露出した所、クマ笹の峠道と変化があるが、先ほどからの疲労感でなかなかキツイ。少し登っては立ち止まりの連続。
 旧中禅寺湖スカイラインの第二駐車場が見えて来ると、そのすぐ先は半月山展望台だ。先客の明るい声が飛び交う中荒い息で到着。展望台から少し離れた木陰でザックを降ろし昼飯休憩だ。地面に腰を下ろして、あ~疲れた。

 展望台はスカイライン第二駐車場から約20分で登ってくることが出来るらしい。未経験の人に山の素晴らしさを伝えるのや、冬場に雪を踏みしめながらちょっと登ってみるには良いかもしれない。

 食後に景色を堪能しようと思ったら、ガスが濃くなってきた。コンディションの良い時は絵はがきの様な眺望が約束されるというが、今日はいまひとつである。
 展望台を後にして、樹林の中を少し登るとそこが半月山頂上。ガイドブックの通り木に囲まれて眺望はゼロ。

 この後は右手に薬師岳、夕日岳、地蔵岳方面を眺めながら、斜面に張り付いた笹道を行く。ところどころ道が欠落している箇所があって油断が出来ない。笹が生い茂って道が見えない所で欠落している箇所があったがこれは要注意である。もっとも右側は笹藪なので滑落しても下まで行くことは無さそうだが。

 しばらくして樹林帯に入ると、下から大勢の中高年ハイカーグループが上がってきた。総勢30人以上だろうか。かなりの大グループである。見れば平均年齢はゆうに60を超しているかもしれない。されど全員しっかりとした足取りとペースで登ってくる。自分など果たして一緒に歩くことが出来るのだろうかと唸らされる勢いだ。ただ、この時点で13時丁度くらい。これから半月峠経由で下山して湖南を戻るにしても、あの人数で大丈夫なのだろうかと少し気を揉んだ。

 足場の悪い急斜面を降りていくと先方にハイカーが見えた。いや正確にはハイカーでは無い。後ろ姿しか見えないが、パンプスを履いてポシェットを肩に掛けた普通の女性観光客である。こちらはクマよけの鈴をじゃんじゃん鳴らしているので気配はとっくに気付いているだろうから後ろにぴったりくっついているのも気が引ける。さりとて追い越す程道は広くない。
 暫くはお互い無言で歩いていたがどうにもバツが悪いので「こんにちは」と取りあえず挨拶をした。

 しかし返事は無し。第二駐車場往復組が道を間違えた割には歩き過ぎている気もするし、「どちらから来たのですか」と後ろから声を掛けた。

「ち、ち、千葉からです」と強ばった顔で振り向いたのは若い女性、年の頃二十歳前くらいの娘である。どうしてこんなに若い娘が一人で、しかも何の装備も無いいでたちで、決して易しくは無いコースを歩いているのか一瞬我を疑った。

"千葉から"というのも間の抜けた答えだが、自分としては"どこのポイント"からという意味だったが通じなかったようである。「山に登ってきたの?」と問いかけるとかすかに頷く。
 問題はすぐに解けた。程なく下のほうにスカイライン第一駐車場が見えてきた。少し先に犬を連れたやはり観光客然とした中年男性の姿が見える。どうやら親子でちょっと散歩してみようと入って来たらしい。

 半月山から茶の木平へ向かうルートは途中2回中禅寺湖スカイラインとぶつかるが、一回目がここ第一駐車場だ。4輪の観光客で賑わう中、じゃんじゃん鈴を鳴らしてちょっと場違いながらベンチに腰を下ろして休憩。先ほどの親子も男体山をバックに写真を撮っている。きっと、「さっき山の中で声を掛けられちゃった。怖かったのよ」なんて言ってるに違いない。
 逆に我々ハイカーからすれば、山中で何の装備も持たないような目的不明な"人間"との出会いは、有る意味クマよりも怖いと思うのだが。

 駐車場奥の"狸山へ"の道標に従いまた山中に分け入っていく。狸山はむじなやまと読む。中禅寺湖畔の狸窪もむじなくぼである。決してたぬきくぼでは無い。

 IMEでむじなを変換すると狢が出てくるが折角なのでネットで調べて見ると、狢とはアナグマのこと。地方によってはタヌキやハクビシンあるいはその総称を指すらしい。

 駐車場より一登りした狸山頂上は、樹と笹に覆われていて眺望も無く今にも狸が出てきそうな雰囲気だ。道を騙されてはたまらないので早々に山頂を後にした。

     
スカイライン第二駐車場    半月山展望台より    狸山

 狸山からの下山路もまた快適なクマササ路が続く。右手には薬師岳方面がよく見える。終盤、樹林の中のきつい下りを終えるとスカイラインに再び出遭う。

 ここには何も施設はないが、道の向かい側に茶ノ木平への道標が立っている。しかし、2回続けて車道、しかも往来の激しい道路に出ると流石に歩行意欲が薄らぐものだ。折からの疲労感もあり、これでバス停でもあったら行動打ち切りにしていたのかもしれない。

 茶の木平登山口にある看板を読むと、「多少きつい登りですが景色を楽しみながらゆっくり歩いてください」とある。
 阿世潟から縦走してきた身には"キツイ登り"はちょっと辛いかな。先ほどから腿が悲鳴を上げだしているので、少し登った展望台で瞬間コールドスプレーを吹き付け軽くマッサージをした。

     
狸山下山途中より薬師岳方面    茶ノ木平登山口    すぐそばの展望台より

 懸念したほどのきつさでは無かったが、それでもペースを落として休み休み登っていき尾根に出ると周囲の樹林の雰囲気が一変する。
 シラカバが沢山目立つようになった。道もどんどんゆるくなっていくとそこは広大な平坦地である茶の木平だ。

 奥に進むと中宮祠へ向かって切れ落ちるような崖は中禅寺湖温泉ロープウェイの名残だ。駅舎跡の脇で休憩をする。

 先ほどからガスが下からどんどん上がってくる。少しすると薄くなったり濃くなったり、はたまたパッと晴れたり。男体山も中腹はガスが濃いようでどうやら同じような高度なのだろう。
 ロープウェイが営業していた頃は沢山の観光客で賑わったことだろうが、今ではまったく人影も無く静寂の限りである。

 さぁ、いよいよここからは下り一辺倒だ。辛い登りはもう無い。最後の下りで事故の無いよう注意しながら中宮祠を目指して降りていく。笹藪に道を見失わないよう道標がしっかりついているし、道もほどほどに整備はされている。しかし、先般の台風の被害を受けた倒木が道を塞ぐ箇所も数カ所あった。

 つづら折れの道を降りると次第に自動車の音が大きくなってきた。最後に急な石段を下りるとポンと車道に出た。後は駐車場までの約1kmを観光客に混じって歩く。文明の領域に場違いな鈴が恥ずかしくてザックから外した。

 それにしても今日は本当に良く歩いたものだ。途中辛い場面もあったが無事歩き通すことが出来たのが何よりである。
 トレッキングシューズを脱ぎ、顔の汗をぬぐって、心地よい倦怠感に包まれながら夕日に美しく映える中禅寺湖畔を後にした。

       
茶の木平    ロープウェイ駅跡     

概略コースタイム
駐車場発8:50-狸窪9:30-阿世潟9:56-阿世潟峠10:16-半月峠11:30-半月山展望台着12:00-
(昼食休憩)-展望台発12:20-半月山頂上12:32-スカイライン第一駐車場13:18-狸山頂上13:45-
スカイライン出遭い14:00-茶ノ木平14:53-駐車場着16:07


歩行距離:約13.5km 累積標高差:2900m
(GPSのログデータによる)

2007年07月08日

雨の丸山を登る

 天気の良い季節でも霧の多いことで有名な霧降高原へニッコウキスゲを見に行くことにした。

 第三リフト乗り場に着くと、やはり濃霧で視界不良。今日のコースは第三第四とリフトに乗り継ぎ、丸山{1689m}から八平が原へ抜けて駐車場に戻ってくるプチコースである。今回は初めての家内との二人だけの山行になるが、なるべく簡単に歩けて花のある所。そして多少の雨(霧雨)でも風情のあるところということで、このコースに決めた。

 深い霧の中、圧倒的に大多数を占める一般観光客に混じりリフトを2本乗り継ぐ。我々は傘もカッパも防寒着も持っているのに、こんな霧雨の中、よくぞ皆あんな軽装でこれだけの高度地帯にやってくるものだなと感心。下りのリフトで降りてくる人達は一様に、寒さと先ほどからいくらか強まってきた雨足に表情も曇りがち。

 第四リフトに乗る前に我々もカッパを着込んでキスゲ平へ到着だ。晴れていればそれなりの眺望だろうに、というのは来る前からの織り込み済みなので言っても詮無き事。ニッコウキスゲとタムラソウの咲き乱れる様をしばし眺める。

 ここからはいよいよ山道になる訳だが、少し進んだ丸山分岐手前の広場でアクシデント発生!
 突然家内がステンと尻餅。何でもない場所だったのに運悪く泥に足を取られた模様である。ウォーキングシューズ故グリップが無かったのが原因であろう。透明のビニールカッパ(一応山用)に泥がべっとりとくっついてどこから見ても"転んじゃいました"状態である。

 今回は私もカッパを着込んで山に登るのは初めて。足許の悪い登山道も初めてなのでいつにも増して慎重に歩を進めていく。それでもあっという間に山頂へ到着だ。コンディションの良い時なら、キスゲ平からの丸山往復は小さな子供を連れたファミリーハイキングなどでももうってつけであろう。

 ガスで何も見えない山頂で簡単な昼食を済ませる。予定していた八平が原への下山ルートはガイドブックに急斜面ありとの記述があり、実際地形図を見るとさもありなん。先ほどの家内の尻餅の一件があったのでおとなしく往路を戻ることにした。

 山は登りより下りのほうが難しいとはよく言われることだが、今日の下りは実に難しい。帰りはいずれにせよリフトは使うつもりは無かったので、キスゲ平から先も登山道を歩いて下った。ツルツルの部分があちこちに待ち受けていて難儀する。それこそ一瞬でも気を抜いたら泥んこになるのは必至。真剣にルートを選び、藁にもすがる思いで樹の枝や根っこに世話になりながら降りていく。

 途中我々が感じたコース一番の難所とおぼしきポイントで、下から軽装で傘を差しながら登ってくる夫婦に出会って肝を潰した。山登りとはまったく無関係の格好でどうやってここまで登ってきてそしてまた下山していくのか。呆れて開いた口が塞がらないとはこの事である。

 第三リフト脇の登山道になると斜度はぐっと緩くなりようやく歩くのも楽になってきた。軽装の観光客がまた下から登ってくる。どうやら登山道周辺にニッコウキスゲの群生があるのではと思ってやってきたようだが、聞かれた先の状況を説明すると納得して程なくUターンした。この時期の霧降高原は、こんな雨の登山道までヒトに遭ってしまうものなのである。

 無事自宅へ戻り、早速家内のトレッキングシューズを買いに行った。これで次回から足の備えは一安心だ。かくして家内を山へ引きずり込む計画は「山登り」のように小さくても確実に一歩踏み出したのである(^_^)

 今回はGPSはザックにしまい込んで記録は無かった。また、コース自体も難しいところ危険なところも皆無であったが、次回訪れる時はリフトを使わずに登り、そして出来れば眺望を堪能し、八平が原周遊を家内と二人で果たしたいものである。

     
第三リフト    丸山 山頂    キスゲ平らの下山道標
「歩いて降りる人」と、ことわるところがいかにも観光地

2007年06月20日

平日の鳴虫山

 平日に山行をしているというと、とうとう不良中年の仲間入りかと思えばさにあらず。
 珍しく、振替休日をとることになり、平日に休むというサラリーマンなら垂涎もののこの時間を何に使おうと思案したところ、「当然、バイクか山でしょう!」。

いろいろと思いめぐらし山行に決定。

 行き先は、中高年に人気の高いと言われている鳴虫山(なきむしやま){1103m}にすることにした。
 登山人口の大部分が中高年である昨今、あえて"中高年に人気の高い"という表現はなにゆえか、その謎を探りに行く山行である。(本当か?>自分)

 何はともあれ、もっともらしい理由をくっつけての出発であるが、天気がいまいちすっきりしない。大気が不安定であり、夕方にはにわか雨や雷雨の可能性が若干あることを天気予報が報じていたからである。山中での雷は最大の脅威である為、現地の状況で登山前の撤退、登山後は山中で遠雷を聞いたら即最短ルートで下山という覚悟で出発した。

 今回は車を使わずにJR線に乗り日光へアクセスすることにした。改めてのんびりした気持ちでローカル線の旅を楽しむのもまた良いものである。
 普通ならば日光へは車やバイク以外のアクセスが考えられない。あえて電車に揺られながら行くのも脱日常を感じることしきり。

 日光駅の改札を出てみると、それなりに青空が見えてはいるものの、男体山方面はガスが掛かっているが、雷雲のような動きが激しい感じが無いので一安心だ。多少の雨は覚悟して行動を開始することにした。

 コンビニで今日のランチ(おにぎりとパン)を仕込んで、住宅街の裏手にある登山口へ。
 登り始めてすぐに天王山に到着だ。鳥居をくぐれば小さな広場があり、日光市街が一望出来る。さながら近所の裏山といった趣である。

 天王山を後にして更に登って行く。評判通り道標や登山道もしっかりしており、間違えやすいポイントにはちゃんと案内がある。全山通しての印象だが、逆に通常コース以外もいろいろ歩かれており、よく見るとかなり濃い踏み跡があちこちにある。そういった所に全て「封印」がされているところが面白い。他県からの登山者も多いだろうから、地元観光担当部署の骨折りで、道迷い遭難者を出さない配慮であろう。

 若干の急登をこなすとそこは神ノ主山(こうのすやま){842m}である。日光市街への展望が開けているが、生憎の天気で今ひとつの景色である。一番よく見えなければならない男体山や女峰山もガスの中。晴れていれば相当に豪快な風景だと思う。是非次回リベンジしたいものである。

     
コース注意が随所に    神ノ主山 山頂    神ノ主山より日光市街

 神ノ主山を後にすると、鳴虫山までは小ピークをいくつも超しながら徐々に高度を上げていく。

 特徴的なのは、杉の根がうねうねと登山道に露出していることだ。(下写真左)
 足がかりがあって登りやすいという人もいるようだが、自分は階段系があまり好きでないので、巻道があれば積極的にそちらを登った。

 天気があまり良くないので、登山道に差し込む日差しも弱く、鬱蒼という雰囲気がぴったりとする。それに加えて、越えた小ピークの次にまた挑みかかるように忽然と立ちふさがる小ピーク。蛸入道よろしくウネウネとした足が張り出していて、さながら次から次へと出現してくるボスキャラを倒しながら進んでいくような感じである。

 もう一つの特徴は、三角点の標柱が随分と地面から飛び出している点だろうか。ウネウネした根っこが「動」ならば、対局な「静」の標柱。よく見てみると結構面白い組み合わせである。

     
木の根階段    標柱のある風景    標柱のある風景

 樹間からちらっと見える空を、更に低い雲が覆ってきた。そのうちパラパラと雨粒の落ちる音が聞こえてくる。天然の雨傘とはよく言ったもので、小降り程度では樹に覆われた登山道はまったく濡れないものだ。ちょっと雨足が強くなって来たが、雲は明らかに早く移動しているし流れる逆側には明るさもある。5分ほど休憩を兼ねて様子を見てから行動を開始した。

 雷鳴だけは聞き逃すまいとしていたが、遙か彼方で"ごう"という音がしてみれば、みな飛行機の通過音や里(日光市街地)での生活音。900m~1000m地帯だが、登山口が既に570mあるのだからこの標高差は充分里山レベルであろう。

 雲の通過と共に雨はやみ、相変わらず出現を続ける蛸入道ボスキャラを次から次へと退治していくと、程なく行く手に光が差した。鳴虫山の山頂へ到着である。立派な展望台があり、これまた観光関係者の力の入れようが感じられる。が、しかし、依然景色は深いガスに覆われており、追い打ちをかけるようにまた次の雨雲が流れてきた。

 暫くすると今登ってきた登山道から声がして、2人連れの中年女性、続けて同じような年齢のやはり女性3人のパーティが登ってきた。会話の内容をかいつまむと、どうやら自分も含めて全員同じ電車でやってきて登ったようである。孤独な往路であったが、山頂での昼食は場所を同じくすることになった。

 雨を避けるべく一旦携帯傘を開いてはみたものの、ザックから食事を取り出そうとしたらもうやんでしまった。まったく忙しい雨雲である。

 こちらは無口な一人旅。比べて女性陣は話題が豊富である。ドカっと腰かけ弁当を取り出すと、「さあおしゃべりの時間よ」とばかり話に花が咲く。そんな中、「お先に」と声を掛けて山頂を後にした。

 結構急な下りが続き、ようやく緩やかな尾根歩きになったころ、一瞬雲間から光が差し込み始めた。するとどうしたことだろう。それまで比較的静かだった山が一斉にざわめき始めたのだ。ヒグラシが鳴き始めたのである。初めはそこ此処に鳴いていたのが、やがて呼び合うような大合唱とでも言おうか、他の種類の蝉までつられてまるで山全体が大合唱をしているような感じである。まさに「鳴虫山」ではないか。

 さらに面白いのはその後である。一瞬の光の恵みをもたらした雲の切れ間も去りゆき、また元のどんよりとした空になるやいなや、今までの大合唱はぴたっとやんでしまった。まさに自然の寸劇の一幕を見る思いであった。

 その後も緩やかな尾根を進むと程なく合峰(がっぽう){1084m}へ到着。
 合峰は、本によっては合方と表記されていたり松立山とも呼ばれていたりするが、地形図では無名ピークである。

     
鳴虫山    鳴虫山より北西方向    合峰

 合峰には小祠があり、ここから谷沿いに鐵澤不動へ降りていくルートがある。元来修験道であり、若干急な下りもあるらしいが、ガイドブックによると道はしっかりしているということなので次回はチャレンジしてみたいものである。それにしてもこの案内板、山域全体の雰囲気に比べて随分と派手ではないか。

 合峰から更に高度を下げて少し登り返せばそこは独標(どっぴょう){925m}。ここもまた地形図では無名ピークである。この後は下り一辺倒だ。左手(南側)に見えるピークが969m峰ならば、その裏手はバイクで何度も超えたことがある滝ヶ原峠の筈。

 この辺からの登山道脇には小さな紫陽花のような?花が一面に咲いていた。先日寅巳山で見た花と同じだ。群生とはまさにこの事。一面に咲き誇っているようである。

     
合峰よりの修験道    独標    群生している

 高度をどんどん下げていくと、木の根階段の代わりに人口の階段が目立つようになってくる。残念なのは、その大部分が崩壊してしまってかえって歩きづらいことか。また、この辺になるとたまに草や枝が道に張りだしていたりして、そこをくぐるようにして進むようになる。帽子のつばに何かが居るのに気が付き、見てみると尺取り虫のような細長い虫がしがみついている。どうやら悟られまいとして渾身の擬態演技。小枝にでもなりきったつもりなのだろう。そっとしておくとまたのそのそと動き始めて、動かすとまたピタっと止まる。まるで「ダルマさんが転んだ」をやっているようで面白い。そのまま宇都宮まで連れていっても仕方がないので、その辺の葉っぱに待避してもらった。

 電力関係の作業林道のような広い道に行き会うと、ほぼ登山道もおしまい。
 「鳴虫山へ」の道標をいくつか過ごしながら日光第一発電所へ到着。無事下山終了である。

     
なんだろう?山イチゴ?    懸命に擬態中    次の登山者へのプレゼント?

 発電所を過ぎて日光自動車道の下をくぐると、含満ヶ淵と化け地蔵がある。こういった散策コースがデザートのように有るのが中高年人気の秘密なのかな?
 威勢よく流れる含満ヶ淵をしばし眺め、ずらっと居並ぶ化け地蔵の前を進む。よく見ると地蔵さんの顔が一つ一つみな違っているのにビックリ。有る程度似た傾向のやつもあれば、全く個性的な顔立ちで、どこかで会った事のあるようなのも居た。また、よだれかけや帽子も趣がこらされていたり、写真のようにひときわハイカラなお地蔵さんが居たりする。

     
居並ぶ化け地蔵    なかなかお洒落なのも居る    含満ヶ淵

 含満ヶ淵を後にして、滅多に歩くことの無い日光の裏手である町並みを歩き進む。含満ヶ淵から大谷川へ注ぎ込む瀬の水音が心地よい。ここを散策をするだけでも良いのではと思った。

 日光駅までは3Km以上あるが、のんびりを決め込み、ちょっとお洒落?な日光ウォーク。大谷川の橋から神橋の写真を撮ったり、日光駅までの商店街を覗きながら歩く。
 東武日光駅前では、TVでも紹介されたという揚げ湯葉饅頭をいただき本日の山遊びは終了!

     
神橋    揚げ湯葉饅頭    今回も鮮明な軌跡がとれた

概略コースタイム
JR日光駅前発(9:10)-登山口(9:30)-天王山(9:45)-神主山(10:26)-892m峰(10:45)-1058m峰(11:28)-鳴虫山着(11:51)-昼食休憩-鳴虫山発(12:20)-合峰(12:45)-独標(13:25)-日光第一発電所(14:20)-含満淵(14:30)-神橋(15:06)-JR日光駅着(15:50)

2007年05月04日

らくらく登山、備前楯山

 当ブログお友達のセローさんに教わった「楽々登山で好眺望」な備前楯山(1272m){びぜんたてやま}。
かねてより、家内の登山デビューにとあたためていましたが、大型連休のど真ん中の本日、絶好の登山日和の中、家内と娘の三人で家族山行とあいなりました。

 自宅から足尾への道のりは久々の日光宇都宮道を使いましたが、GWとはいえあまり混雑も無く快適な道中となりました。通行料金も以前値下げされたとは聞いていましたが、清滝まで450円は納得でしょう。

 長い長い日足トンネルを抜け、足尾の市街地直前を間藤方面へ北に折れると、痛々しい感じの古い精錬所廃施設が立ち並ぶ赤倉へ。日本最初の鉄製の橋といわれている古河橋を渡り(正しくは、車が渡れるのはその隣の併設橋)舟石峠へと向かう細い舟石林道を進んで行きます。

 舟石林道は舗装こそされてはいるものの、赤倉~舟石峠間は道幅も狭く、また斜面から崩落した石が所々に散乱していたりあまりコンディションが良いとは言えません。
帰りに通った、反対側の銀山平へ降りていく道と比較すると、銀山平側の方が道幅も広く周囲の整備状況は数段上です。宇都宮方面からだと若干距離は多めになりますが、四輪で行かれる方は銀山平側からをお勧めします。
赤倉からは徒歩の方も若干居ましたが、散歩的なアプローチなら、それなりにこちら側も良いかもしれません。

 さて、無事に対向車とのすれ違いも何度かこなし、舟石峠駐車場へ到着です。
{マピオンの地図は道が途切れていますが、実際はちゃんとつながっています}

 事前情報通り、立派な駐車場です。これは安心ですね。
宇都宮近郊低山の場合は、森林公園を除き、大抵林道の脇に路駐とかのパターンが多いのですが、観光地並の駐車スペースなのには驚きました。

    

(写真左)舟石の地名由来の舟形の石(駐車場脇)
(写真中)舟石峠駐車場 広々として整備もされているの安心して駐車出来る
(写真右)駐車場の奥の登山口


 身支度を調えいざ登山開始。駐車場標高が約1000mなので、山頂までの標高差、約270m。数字だけ見れば楽勝コースですが、今回の山行は家内の登山デビューなので、通常コースタイムの倍程度の1時間半を見込んでいます。ペースゆっくり、休憩多めということで。

 歩き出してみると急な箇所も殆ど無く、軽快な登山道。道は良く整備されており、登山者も多くほぼ遊歩道を歩いているのと同じくらいの感じです。
実際廻りを見渡せば小さな(5歳くらい)子供さん連れの家族なども多く登っており、さながらファミリー登山道といった趣です。

    

(写真左)登山口よりすぐの地点
(写真中)尾根に入ってしまうとファミリーハイキングコース
(写真右)芽吹きの緑が綺麗です


    

 コース半ば頃からやや登りはきつくなってきますが、それでもまだまだ楽チンな斜度が続きます。
また、この頃からアカヤシオが目立つようになり、高度を上げるに従って淡いピンクで一面が飾られています。そんな中を快適に登っていくと程なく山頂へ到着。

 なるほど好眺望!
 山頂は先客で比較的混み合っていましたが、一番北側のへりに腰掛け、景色を独占しながらちょっと早めの昼ご飯を食べました。
毎度ながら、清々しい青空と雄大な景色がおかずの昼飯は最高!

(写真左)ちょっと登山道っぽくなってきたかな?
(写真中)アカヤシオが山全体を飾っています
(写真右)山頂から北東方面に男体山


 ゆっくり景色を楽しんで、帰りは登ってきた道をそのまま降りて行きます。
私は同じコースで下山するのはあまり好きなほうではないのですが、家内はさほど気にもならぬ様子。
そんな家内は、「下りは息が上がらなくてよい」などと言ってていたら足を滑らせて尻餅一回(^_^)

    

(写真左)山頂から西側眺望
(写真中)  同  東側
(写真右)駐車場手前のピークより北側望む


 あっけなく下山を終えてしまい、脚的には随分と物足りない感じはするものの、景色や山の雰囲気、そして迎えてくれたアカヤシオ達に楽しませて貰いそれなりに満足の出来る山でした。山が初めての人には絶対お勧めの一座。山のいいとこ取りのようなそんな一座でした。

 ちなみに家内の感触もかなりよさそうで、それなりに楽しんで貰えたようです。これで、次の山行企画が楽しみです。

 帰りは銀山平へ車を走らせ「国民宿舎 かじか荘」の庚申の湯に入り山の汗を流しました。
(と言うほど汗もかかなかったが)

 休憩所でのんびりしながら、「こんなレジャーもいいもんだね」ということで、まずは今日の山行も無事終了です。

 で、
 そのまま真っ直ぐ日光経由で帰ればよいものの、同じ道はつまらんと、粕尾峠越え。
粕尾峠から寄り道して前日光牧場まで一っ走り。
 気持ちはすっかり下見気分で、
 「よぉし、次は井戸湿原と横根山周遊だ」。

    

(写真左)駐車場手前のピークより
(写真中)かじか荘
(写真右)鹿の角1本三千円也。ところでこれ買ってどうするの? 前日光牧場にて


概略コースタイム
舟石峠駐車場10:10-山頂着11:15-(昼食)-山頂発11:40-舟石峠駐車場12:45

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  • PIAN PIANO.
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