-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --
※当コースには一般登山道でない箇所が含まれています。参考にされる場合は自己責任でお願いします。
鳴虫山から火戸尻山へ連なる稜線に憧れを抱いたのは、栃木の山を歩き始めてすぐの頃だった。
県内の山歩きガイドブックといえば、分県別「栃木の山」、下野新聞社「栃木百名山」、そして随想社の「栃木の山140」が揚げられる。その「栃木の山140」で読んだこの尾根歩きが、未だ体力も経験も乏しかった自分にはとてつもなく魅力的に感じられたものである。
子供の頃よく父親に山に連れられ山登りをしたが、登山口から山頂までを往復するいわゆるピストン山行で歩いた経験がまったく無かった。自家用車など持っていなかったせいもあるが、主だった山域が奥多摩方面だった為に電車やバスを使ったアプローチが充分可能であることが幸いだったようである。
そんな父親の山行スタイルが教わるとも無しに自分の血に流れているのであろうか、自らが中年になって山登りに目覚めてからも周回や縦走コースに自ずと目が向いてしまうのはこんな理由からかもしれない。
さて、このロングコースをどう歩こうかといろいろ情報収集や思案を重ねたが、一番の問題は"アクセス"をどうするかという事だった。
車二台であれば登山口と下山口の双方に配置すれば良い。しかし、単独ならばここは工夫が必要だ。だが幸いな事に公共交通機関が利用出来る。
二番目はコースの難しさ。「栃木の山140」にルートとして紹介されてはいるが、前提として地図読みが出来る経験者向きとの記述がある。だが、これはさほど心配することはない。事実ネットで幾つか見られる踏破記録にもさして難しい所や通過困難な難所があるという報告が無い。地図を見ると電車道のような一本筋の(実際に歩くとそこまで甘くはないが)尾根道である。派生尾根に惑わされる可能性もかなり低そうである。たとえGPSが無いとしてもコンパスで適宜確認しながら歩けばまず間違える事は無いと思う。
計画は次のように組んだ。
朝一番で下山予定地である赤井原林道の支線深部に自転車を配置する。車で県道14号に戻り計画していた道路脇スペースに駐車する。最寄りの合の内バス停より始発バスに乗りJR今市駅へ。電車へ乗継ぎ日光駅から徒歩で鳴虫山登山口へ向かう。
鳴虫山へは一般登山道を使い、山頂からは登山道を外れて火戸尻山までの尾根歩きとなる。火戸尻山からの下山は南の大滝方面へのコースと、今回自転車を配置した新谷登山口へ降りるコースがあるが、鳴虫山~火戸尻山間は思ったより楽に歩けそうなので、最後の部分は地形図を眺めて自分なりにひねりを加えた下山路とした。
当初計画では、南東にずっと下って行き、小来川郵便局付近まで尾根を拾い尽くして下山する予定であった。だが、よくよく考えてみると日の出前に鳴虫山登山口に立てるくらいでないと、進路に手こずった場合下山途中で日没を迎える可能性を否定出来ないと判断して計画を縮小した。ただ、この下山路は今後別な周回コースとして是非実現したいと思っている。
随分と前置きが長くなってしまったが、いよいよ出発である。
近場の山に登るにしては異例の早起き。4時に目を覚まし、昨晩にあらかた済ませておいた準備を再点検して4時半には自宅を出発する。天気予報はまずまずだ。空の機嫌はどうだろうか。身が引き締まる冷たい空気の中見上げると、星の瞬きがまばゆい。雲は少ないようだ。
小来川地区に車を進め、深く眠りに閉ざされたままの赤井原林道に差し掛かる。林道の奥は昼間でも鬱蒼とした雰囲気なのに、ヘッドライトを消し去ってしまったらすべての暗闇に押しつぶされてしまいそうな山の威圧感を感じる。
予定していた箇所へ到着し車から降りると沢の音が急に耳に入ってきた。ヘッドライトにぼおっと照らされた杉木立の森が妖しく光る。これが山の夜なのである。
自転車を手近な杉の木にくくりつけ、踵を返すようにして林道を戻る。予定の駐車地へ車を駐めてほっと一息ついた。パンをかじりながら待っていると、いよいよ空が白みはじめ、温かいコーヒーをすべて飲み終えた頃にはすっかり明るくなった。バスの時間も近い。身支度を整えていざ出発である。
駐車地からすぐそばにある合の内停留所で始発を待ち、ほぼ定刻通りにやってきたバス車中の人となる。乗客は自分を含めて3名。
JR今市駅で日光線へ乗り換える。駅には学生を主として沢山の乗客が待っていたが、宇都宮方面への乗客が殆どで、閑散とした車両で日光駅への一駅の電車旅である。
アカヤシオの季節にもなると、遠く東京方面からもハイカーが押し寄せる鳴虫山だが、この時期はあまり人気も無いらしく、ザックを背負って日光駅のホームに降り立ったのは自分一人のようだ。
鳴虫山に登るのはこれで三度目だ。三回とも日光消防署裏手の住宅地脇の登山口からなので、ルートは慣れたものである。上部のほうに行くに従い顕著になる木の根は相変わらず相性が悪いようで、それはそれで懐かしい。途中にある神ノ主山は以前に比べて木が伸びてしまい女峰山や男体山の眺めがスッキリしない。
後ろからやってきた二人組の男性ハイカーに道を譲り、オーバーペースにならないように登って行ったが、以前の二回に比べればまったく余力のある自分の足運びに驚く。若者達に比べれば他愛の無いレベルであるが、にわかトレーニングの中年でもここまでこれるのだなという嬉しさが内心込み上げてきた。
山頂に着くと先ほどの二人組と先着のもう一人の若者が談笑中であった。まだ時間が早いからなのか、この山を一番訪れる筈の中高年の姿は無い。
展望台から見える男体山は以前から枝に邪魔されてスッキリしていなかったが、やはり木の成長著しく期待外れの眺望であった。
今回は鳴虫山は通過点、というよりも出発点に等しい場所である。そんな気負いも手伝ってか、水を一口含んだだけで直ちにザックを背負い直した。
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民家の裏手にある登山口 |
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鳴虫山名物、木の根階段 |
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鳴虫山頂上 |
山頂からは登山道を外れ、火戸尻山への稜線歩きの開始である。出だしから、落ち葉で踏み跡が消された緩い尾根であるが、方角を見誤らなければそう心配するほどのことでも無い。また、縦走目的以外の赤テープも無いので安心である。
南向きだった尾根が少し東側に偏る頃になると、立派な鹿よけネット沿いに進むようになる。一般コースではないので道標は一切ないが、時折(覚えているだけでも5枚程度はあった)「コンセーレハイキング」と記されたプレートが木に打ち付けられていた。クラブで設置するほど此処が歩かれているのは確かなようである。
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登山道を外れ火戸尻山を目指す |
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鹿よけネットが続く |
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同じプレートを何枚か見かけた |
程無く、ネット越しに東側の眺望が開ける。手前の高平山から南に伸びる稜線が大きく、彼方には上河内の羽黒山と篠井富屋連峰。右手に目をやると鞍掛山から古賀志山、赤岩山までがすっきりと見通せる。
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ネット越しに東側眺望 |
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羽黒山と篠井富屋連峰 |
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鞍掛山から古賀志山 |
ネット脇に僅かに薮っぽい箇所もあったが、概ねここまでは歩きやすく進路に難しさも無い。東の斜面に降りていく鹿よけネットに別れを告げると995mPである。ここからの下りの区間は間伐材が放置されていて、踏み跡も消されていて多少歩きづらい。斜度も緩み尾根形が曖昧なのでルートとしては嫌な箇所だ。
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ネット脇が若干薮っぽい |
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ネットは下に降りていくのでここで終了 |
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間伐後放置されているところは歩きづらい |
GPSを出して慎重に進路を探っていくと再び踏み跡が見えるようになる。途中にぽつねんと石祠があったが、振り返ると今日のコース唯一の石祠であった。石祠は建立した人の家の方角を向いているというが、南東に面していたこの石祠。何を想いここに設置したのか、古の人の信仰に触れるような心持ちである。
「栃木の山140」には919mPは西側を巻くと書いてあったが、ピーク拾いの山旅。踏跡をそっと外れて高みを目指した。想像通り何も無い919mP。だが落胆はしない。
赤リボンのあるルートに復帰すると日溜まりの広場に出くわした。鬱蒼とした植林帯続きだったので、思わず緊張も解ける。ザックを下ろすことにした。
日光駅からここまで休憩らしいい休憩は殆どしていなかった。いささか疲れてはいたのだが、少しでも先の見通しを立てたいという気持ちに急かされていたのは事実だった。だが、この穏やかな日溜まりは足を止めるきっかけには充分過ぎるほど暖かである。
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ルート中唯一の石祠 |
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北側にはうっすらと雪が残っていた |
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日溜まりの広場で一休み |
日溜まりの広場を過ぎると、次は伐採地に飛び出した。眼前に拡がる開放感溢れる風景に思わず歓声をあげたい衝動に駆られる。
眼下には殿畑集落が小さく、正面にはどっしりとした六郎地山が文字通り鎮座している。右手奥には白い男体山も見える。溜息の出そうになる眺望を後にして再び鬱蒼とした樹林の中を高度を下げていくと、やがて次なるあかりが差し込んできた。どうやら火戸尻山が杉木立の向こうに姿を現したようだ。
ここも伐採地で、なかなか気分が良い。この先は眺望は期待できそうにもないので食事にすることにした。
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眼下の殿畑集落の上にどっしりと六郎地山 |
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火戸尻山が見えた |
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伐採地で食事とした |
威風堂々の六郎地山 いつか登りたい一座だ
この伐採地からは東側がよく見える。手前の鶏鳴山と以前歩いた懐かしい稜線伝いに笹目倉山。その奥には鋸の葉のようにギザヒザした稜線の羽賀場山からお天気山。手前の風雨雷山と重なったピークは双耳峰の二股山に似て見えるので面白い。笹目倉山といえば、宇都宮方面から見えるピラミダルな山容しか思いつかないのだが、山は見る角度によって千変万化である。
景色と食事を堪能したあとは、伐採地脇の痩せ尾根を辿って火戸尻山への最後の登りにかかる。谷を見下ろすと、先日偵察で上ってきた林道の終点付近が見えた。こうやって俯瞰的に見ることが出来ると地図と現地の一致も手に取るようで面白い。読図を始める人には是非見て欲しいと思わせるような風景だ。
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伐採地の稜線を渡り火戸尻山への登りに向かう |
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先日の偵察地が見えた |
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伐採地稜線から鶏鳴山 |
山頂に向けて高度を上げていくと、それまでの植林一辺倒から落葉の自然林に変わっていく。枝だけの尾根にはまばゆい光が差し込んでいる。まるでジャングルジムのような枝の間をかき分けながら進んでいくと、やがて杉木立が再び現れて落ち着いた山頂に到着である。山頂が地味なだけに、迎えてくれた何枚もの山名板の賑やかさが際立つ。
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葉が枯れ落ちた明るい稜線 |
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歩く人が少ないせいか自然な感じで良い雰囲気だ |
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火戸尻山へ到着 |
山頂からの下山路は2つのコースがガイドブックで紹介されているが、今回は新谷登山口方面をしばらく辿り、矢印のプレートを見て尾根を乗り換える。此処から先は再び登山道を外れる領域だ。
道なき道とは言っても、山全体がきっちりと植林地なので薮など全くといっていいほど見当たらない。林床を荒らさいないように山仕事の人が綺麗に植林しているので歩くには全く支障は感じないのだ。
途中648mPに寄り道するも、こちらも動物達の足跡が残るだけの静かなピークであった。
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ガイドブックは左で下るがここで登山道と離脱 |
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植林帯なので登山道で無くても歩きやすい |
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寄り道の648mP |
648mPへ寄り道した分岐から東のコルへ一旦下降し、仄暗い樹林の中に立ちはだかる675mPにとりかかる。
はじめは右手の尾根形を登って行くも、終盤は直登しか選択肢は無くなる。休み休み、木や枝を頼りに登っていくと本日の最終目的である675mPへ到着した。山名板も何も無いピークに腰掛け、汗を拭う。冷たい風にふと見上げると、冬の午後のはかない陽光が差し込んでいた。さぁ、後は下るだけだ。
675mPからの下りは、地形図で見るより曖昧な尾根形だが、ここまでくればGPSで方角を定めて一直線である。
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675mPへ右手の微かな尾根形を辿る |
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何も無いが今日の目的地、675mP |
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675mPからの下りは尾根形一旦消失 |
無事目論見の林道にドンピシャと接合して自転車の元へ。長いようで短い、短いようで長い一日であったが、ルート内容としては久々に充実感溢れる山行となった。
ちなみに、最後の自転車区間は殆どが下りで、全くといって良い程ペダルを漕がずに済んだのはラッキーだった。実際山歩きを終えた後に登り坂を進むのは結構辛いのを知っているから(笑)
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目論見の林道に接合して山を振り返る |
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デポしたチャリ |
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林道区間終了 |
【番外編】
小来川から宇都宮に戻る途中、丁度大谷近辺で日没直前に戸室山のそばを通過。戸室山の頂上からいつか夕日を眺めてみたいと常々思っていたが好機到来。僅か15分足らずで山頂に立ち、暮れ行く夕刻の景色を堪能することが出来た。赤く染まる古賀志山と集落。ここから見える笹目倉山はやはりすっきりとしたピラミダル。そんな故郷の見慣れた山達の美しい黄昏の瞬間を見ながら今日一日を終えた充足感が改めて込み上げてきた。
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戸室山から男体山と古賀志山夕景 |
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夕日を受けた富士山 |
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日は西の彼方へ |
概略コースタイム
合の内バス停発(7:05)-(関東バス)-JR今市駅発(7:37)-(JR日光線)-日光駅前発(7:44)-
鳴虫山登山口(8:04)-神ノ主山(8:44)-892mP(9:00)-1058mP(9:35)-鳴虫山(9:53)-
996mP(10:32)-919mP(11:03)-六郎地山眺望地(11:27)-昼食の伐採地(11:43)-昼食休憩-
行動再開(12:23)-火戸尻山(12:56)-登山道から離脱(13:17)-648mP(13:41)-675mP(14:06)-
自転車デポ地(14:40)-駐車地着(14:59)
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