« 2009年11月 | メイン | 2010年01月 »


2009年12月 アーカイブ


2009年12月23日

紫雲山縦走


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 東武日光線、板荷駅の両側に聳える山。西側にあるかまど倉から川化山を『白雲山』、東側を『紫雲山』と呼ぶらしい。

 水墨画に登場してきそうなこの呼び名は実にふるっていて良いではないか。山は三角点にのみあらず、名もないピークにも貴賤は無いと思う。要はそこに立った人がどういう気持ちなのか、そこを眺める人がどう感じるかということであると思う。そんな人々の心が山の名前になっているのだろうと思いたいところだ。
 実際に白雲が掛かっていたからそう呼ばれたのかどうかは知る由も無いが、板荷の駅前から眺めると、対としての紫雲というのは興がありさもありなんという雰囲気である。

 昨年、白雲山の東端である川化山から向かい側の紫雲山を眺めた時、地図で見た如くの形の良い独立連峰としての姿が目に焼き付いていた。2万5千分の1地形図にはいずれも山名表記の無いピーク群であるが、その中核として472.9m三角点峰の次石山(つげいしやま)を擁する紫雲山縦走を今回は試みる。

 紫雲山はちょうどサツマイモを南北に配したような感じで、基本的に他の山群と交わりのない独立連峰である。地元の人はともかく、あまり歩かれている様子も無くいささか情報不足であるが、僅かなネット情報を参考に昨年から地形図に想定ルートを引いては穴の開くほど眺めていた。そして、唯一の懸案事項である駐車地にメドが立ち決行に至ったのである。

 ポピュラーなルートは平野の集落から林道を辿り次石山の東尾根を使うコースとなるが、これだと紫雲山を歩いた事に成らない。自分の目標は紫雲山縦走なので、あくまで南端(本当は住吉神社から登れば良いのだが、こちらはルートが読めなかった)から北端の小倉城山までとこだわった。

 縦走の最終到達点である小倉城山付近は最近「みどり税」で整備がされたようで、車数台の駐車スペースが確保されている。ここに車を駐めて紫雲山南端である辺釣にある登山口までの第一区間6キロは、物置から引っ張り出してきた折りたたみ自転車に託す事になる。

 折りたたみ自転車はタイヤが小さくて漕いでもなかなか効率良く進んでくれない。徒歩よりは遙かに速いが、ザックを背負ってえっちらおっちらと進むのもなかなか容易でないものだ。2輪に跨ると、習慣で右手をちょいと捻れば勝手に進んでくれると錯覚してしまうが、今日の動力はどこまでも自分だけである。

 登山口である鉄塔巡視路に着いた頃にはうっすらと汗が滲みだしていたが、休んでいると汗が冷たくなってくるので、即登山開始。まずは良く整備された巡視路を辿り226号、227号と鉄塔巡りである。

     
今日の相棒    226号鉄塔巡視路入口    226号鉄塔

 227号鉄塔より430m級Pの岩を纏った勇姿が見える。紫雲山の背骨は岩でかなり筋肉質なようである。

 ここで気になったのがGPSの軌跡と地図上の鉄塔位置。というよりは電線の位置。
 鉄塔の箇所でGPSに保存したポイントと地図上の電線交差箇所が約30m程度離れているのだ。鉄塔の下は空が充分に見渡せる所なので衛星捕捉には全く問題が無い。殆どの三角点を踏む時はほぼ誤差5m以内で測位出来ているので、30mというのはやはり地図が間違っているとしか言いようが無い。

 航空測量なのだから一番判りやすい構造物だと思うが、さて真実や如何に。そんな事もミステリーにしておくと山登りもまた一層楽しいものである。

     
穏やかな稜線    227号鉄塔    430m級P

 227号鉄塔から先はほぼ歩く人が途絶えた雰囲気があり、道は心細くなるも尾根は明るく広い。鞍部から登り返す頃になると自然のまま放置された感の急登が待っているが、いまだ歩きやすく、やがて樹林の中の御嶽山へとたどり着いた。石祠が2基あり、信仰の篤さが感じられた。

 今日のコースは恐らく人には遇わないだろうと思っていたが、途中で地下足袋姿に柄の長い草刈り鎌を手にした年配の人に出くわしたのにはビックリした。聞けば、子供の頃良く登った山だが懐かしいので久しぶりにやってきたという。下にある林道に車を置いて東側の斜面を直登してきたらしいが、とても自分はあんな斜面を登る勇気も体力も無い。山遊びとは見受けられないその感じからして、恐らく何かを"採取"しているのではないかという雰囲気であった。

 御嶽山からは北北西に針路を取り鞍部へ向かう予定でいたが、尾根線から少し西側に針路を振らないと鞍部には着かない。トラバースを考えたが、思いのほか樹林が深く傾斜もきつい。少し下ってから下を見ると林道の終点から廃道が目指す鞍部まで上がっているのが見えたので、遠回りだが安全なルートを行くことにした。

 先ほどから犬の声が聞こえてくる。野犬だと厄介だなと思っていると右手の谷の下の方に、恐らく100m近く離れていただろうか、白い犬が居るのが見えた。あちらも突然の侵入者に驚いた様子で、こちらの姿を窺っている。口笛を吹くと尻尾を揺らして明らかに友好の雰囲気で鳴いているのを見て安心した。

 程なく、別な谷方面からやはり犬の声と発砲音が聞こえてきた。白い犬はこちらの事をすっかり忘れたように、急峻な山腹を上手にトラバースしながら去って行った。

 知り合いのハンターに聞いたことがあるが、発砲は常に谷に向かってするようである。人が歩く可能性のある稜線に打ち上げることは原則しないらしい。だから猟犬は谷間を縫い歩くのであろう。そして鳥追いの猟犬は決して人間には襲いかからないらしい。ただやはり猪や熊猟用の犬は気が荒いそうである。まぁそうでないと勤まらないだろう。

 標高差にして100m程も下っただろうか、小さな山なら下山もおしまいの雰囲気だが、下りきる直前に目的鞍部までどうにかトラバース出来ないかと窺ったが、結局足が踏み出せないまま林道終点まで降りきってしまってから、僅かだが廃道を登り返した。

     
御嶽山    御嶽山より北に下る    平野からの林道終点

 暫く穏やかな登りを進むと、右に広い仕事道が下に向かって伸びており、左は微かに巻く雰囲気の踏み跡、そして前進は430m級Pへの直登である。左から巻いたとしても地図の等高線を見る限り楽に登れる保証は全く無い。方角に狂いはないのでこの直進ルートで正解の筈である。等高線に対し電車道のような直登は、時として斜度がゆうに40度近くもあるだろうか。休み休み確実に高度を稼いで行く。ピークまであと僅かという辺りで岩が出てきて周囲の木が消えた。人の多い山なら過保護なトラロープが数本垂れ下がっていてもおかしくないような箇所であるが、頼る物の無いここはあくまで三点支持に注力すべし。あまつさえ、行く手を阻む薮がいっそう気力を奮い立たせる。薮岩ルートなのである。

 ふと登るのをやめて後ろを振り返ると、そこには絶景が拡がっていた。こういう孤独な山行で絶景を目の当たりにした瞬間は、ことのほか感動が深いものだが、今日はコースの難しさも手伝っていつもより格段に大きい気がする。さながら天下でも獲ったような気分になりしばし悦に入る自分であった。

 赤岩山の西側の張り出しが良く見える光景はかなり珍しい。脈々と伸びる鞍掛尾根もよく見える。

     
430m級P手前の岩薮    来し方の御嶽山    赤岩山から鞍掛尾根

 430m級Pへよじ登ると、そこは幼松の密集する薮であった。以前山火事があったらしく、大きな木はことごとく消失して今まさに再生の途にあるようで自然の成せるがままの感がある。あと数年もすると通過困難な薮になってしまうかもしれないだろう。

 ピークは平坦になっているが北側は比較的火事の影響が少ないようである。この辺から西側の眺望も開けて二股山やかまど倉から川化山のいわゆる白雲山が見渡せる。

     
幼松の薮    火事の跡が痛ましい    二股山とかまど倉

 430m級Pからの下降は、倒木などが乱れており踏み跡も不鮮明で歩きづらい。方角に注意しながら進むと、再び明瞭な尾根筋が現れてきた。落ち葉で滑りやすい急登を凌いで登りきるとそこが次石山の頂上である。

 意外な事に別な登山者が居た。話を聞くと平野から東の尾根を登ってきたそうだ。どちらに行かれますかと尋ねられたので、小倉城山まで縦走しますと答えると、しばらく考えた後に自分と同じ北を目指して発って行った。どこか途中で平野方面へ抜けるルートを知っているのだろうか。

     
枝が邪魔だが男体山    こんなピークを幾つも越える    次石山三角点

 山頂の東側にある岩塔は有名で、その勇姿を見るのがこの山の醍醐味と言っても過言ではないだろう。だが、今日は先が長いので岩塔見物は次回、平野集落から登る時の為にとっておく事にした。樹間からちらっと見えた露岩がくだんの岩塔なのだろうか、凄い迫力だ。

 山頂からは静かなる尾根道を行く。次石山の南側は険しい領域であったが、北側はうって変わって穏やかである。だが、穏やかではあるがコース取りは難しい。歩きやすい踏み跡を追っていたら気が付かないうちに尾根の乗り換えに失敗。350m付近まで降りた時点でようやく気づきトラバースを試みるも、谷が深く断念して登り返した。進むべき尾根がぼんやりと向こう側に見えたあたりで再びトラバースを試み、無事ルートへ復帰することが出来た。

 雷電山の山名板がかかっているピークに到着する。景色はさほど良くないが石祠のある小広いスペースには、此処までの緊張感溢れる時間を解き放ってくれるようなそんな安心感が漂っていた。先ほどから少し風が出てきたので立ち止まると寒い。ザックをを降ろして一枚羽織ってから昼食とすることにした。

 食事をしながらふと上を見ると古ぼけた梵天が木に括り付けてある。地元の人はどこから登ってくるのだろうか。このひっそりとした頂に人々が賑わう様子を思い浮かべることがどうしても出来ないが、やはり此処も間違いなく信仰の場所なのだ。

     
岩塔方面    静かなる尾根道    雷電山

 雷電山より若干東向きに尾根は湾曲する。途中の鞍部から北に針路を変えなければならないところが難しかった。今回歩いている稜線は鹿沼市と日光市(旧今市市)の市境界線上にある。この難しい北転箇所は勿論GPSに入力済みであるから、ポイントへの到達は把握していた積もりだった。丁度岩場を越えた辺りから北へ向かう形になるが、見るとそちらに踏み跡は全く無い。向かいのピークに登りかけて、上から眺めてもやはり歩ける雰囲気が無い。

 幸いにして樹間に北側の372mPにある赤い鉄塔がよく見え、これを目指すならば僅かだが谷を降りるのもやむなしと考え植林地に足を踏み入れる。とにかく鉄塔を目指す角度を維持しながら降りていくと、いつの間にか左手に稜線が有ることに気が付いた。要は鞍部からの微妙な尾根の派生を見抜く事が出来なかったのである。GPSや地形図を頼りにしていても最後には"そこが歩けるかどうか"は自分の目で見て足で感じ、そして「感」のようなものもなければならない。要は『山を読む』という行為が不可欠なのだが、自分はまだまだ経験不足なのを痛感した次第である。

 無事鉄塔に着くと、塔脚からはすっきりとした西側の眺望が拡がり、しばしの休憩に心身共に癒やされる。笹目倉の羽根を拡げたような綺麗な三角錐。その右には頑丈な佇まいの鶏鳴山がある。そして男体山も奥にどっしりと控えている。

 電線が向かう先はかまど倉方面。その右手に連なる白雲山の右端には川化山も見える。

     
どこまでも岩混じりの稜線    赤い鉄塔より    笹目倉山、鶏鳴山、男体山

 いつまでも眺め続けていたいと思う眺望を後にして、裏手を登るとそこが372mP。鉄塔巡視員の忘れ物であろうか。五徳フォークが木にねじ込まれているのが可笑しい。

 次のピークで東へ90度方向転換だが、流石にここはうまく尾根を乗り換えることが出来た。やがて八方館跡に着けば此処からは下山地まで整備済みのエリアである。小倉城山に到着すると、やれやれ緊張感からようやく解き放たれてザックを肩から降ろした。

     
372mP       小倉城山

 小倉城山の山頂付近は遺構で複雑な地形をしている。大谷の多気山の南面を歩いた時も感じたが、山城ならではのいろいろな細工を施す為にこのようになってしまったようである。山城といえば、ここから見える猪倉山(猪倉城)や大沢の板橋にある城山(板橋城)もそれぞれ歩いていると遺構が確認される山城である。かくも至近距離に山城が点在しているところから、当時の勢力間の緊張が垣間見えるようだ。

 小倉城山からの下山は良く整備された丸太組みの登山道を下っていく。気負いはすっかり抜けてしまったが、こんなところで怪我をしてもつまらない。最後までしっかり歩こうと自分に言い聞かせて降りていった。道路が見えパジェロミニの姿が目に入った時に、縦走が無事終わらんとするのを実感出来たのである。

 長かった。コースが難しかった。だが、実に変化に富んだ味わい深い山旅を堪能させて貰った紫雲山。仰ぎ見てしばし佇む。

 さぁ、後は自転車を回収するのみ。冬の日は短い。幾らか蔭って気温も下がってきたが、深い充実感が心の底から沸き上がってくるのを止めることが出来なかった。

     
猪倉山が見える    駐車地に無事到着    板荷駅前の案内板

概略コースタイム
《自転車》
駐車地発(9:26)-住吉神社(9:46)-登山口着(10:00)


《登山》
登山口発(10:05)-226号鉄塔(10:17)-227号鉄塔(10:29)-御嶽山(10:44)-林道出会(10:54)-
430m級P(11:28)-次石山(11:54)-コースミス気付く(12:11)-登り返しで尾根復帰(12:20)-
雷電山着(12:37)-昼食休憩-再出発(13:19)-赤い鉄塔(13:50)-八方館(14:23)-
小倉城山(14:37)-駐車地着(15:05)


2009年12月13日

高へら山と富士山(船生)


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 高へら山は日光街道から船生方面へ抜ける県道を走る時にいつも横目で眺めていた山だった。少し南側にある人気のハイキングスポット、篠井富屋連峰とは趣を異にする静かな里山である。
 一般的な登山道は無いが、地図を眺めると山頂からそれぞれ北西、南東に延びる尾根が特徴的である。今回は北西の尾根を辿ってみることにした。

 本日の行動は午前中の数時間となるが、時間が余ったら船生にある富士山にも足を伸ばす予定だ。

 高へら山のアプローチは、ネットで記録のある山頂西側から直登するコースが考えられる。これだといささか強引過ぎて面白みに欠ける気がするので、あくまで尾根狙いとし北西尾根を選んだ。林道の奥は偵察が不十分故に駐車地が心配だったが、車が置けなかった場合は手前側の既知スペースに駐め西面直登でも仕方が無いだろうという気持ちで臨む。

 やんぬるかな、狭い林道を進むと想定していた尾根末端付近で駐車可能なスペースがあった。恐らく山仕事の人が車を置きやすいように作ったのだろう。

 支度を済ませ裏手の薮から取り付く。枯れ草の平坦部からすぐに突き上げるように登っていくが、思った以上に足元が滑らないので楽に高度を稼げる。やがて境界石が出てくると幾らか斜度が緩んできた。

 尾根上は広葉樹の自然林である。葉もすっかりと落ちた今の季節は軽く枝を払って歩くことが出来るが、春から秋にかけては遠慮したいところだろう。切り株や倒木などの仕事の跡はいずれも古く、あまり人が入っていない様子は一目瞭然である。

     
駐車地と取り付き    尾根末端    境界石

 山頂の北西尾根に突き上げる直前、枝越しに高へら山の頂が見えた。右へ90度針路が変わると、今度は少しづつ岩が出てきて山頂が近いことを知る。景色は殆ど無いが、うっすらと北側の小林地区であろうか、町並みが広がっている。

     
向かう高へら山    岩も出てくる    北側

 山頂近辺で岩を巻く顕著な細い踏み跡がある。人ならばもう少し太い筈だが、果たして獣道なのだろうか。獣といってもこの近辺では猪くらいしか居ない筈なのでそれはそれで遭遇したくない嫌な奴である。

 山頂に着くと石祠と数枚の山名板が迎えてくれた。ザックを降ろして一休みしたあと、南東側を覗いて見るとこちらも大体同じような雰囲気である。南側に降りてしまうと林道との間の薮が深そうなので、こちらに降りるならば尾根末端まで南東にずっと行くしかないだろう。駐車地のことを考えるとこれは現実的でない。

 エスケープルートとして往路ピストンを担保し、山頂西側を窺う。数例のネットでの山行記録ではここを使って登っている筈であるが、よく見ると成る程、赤リボンが僅かであるが付けられている。あちこちに咲いている季節外れのヤマツツジがリボンと紛らわしい。

     
高へら山三角点    西へ向かって降りる    季節外れのヤマツツジ

 標高差にして150m程降下しなければならないので油断は出来ないが、枯れ枝で見通しが良いので不安感は無い。ずり落ちないように注意しながらトラバース気味に高度を下げていくと左手に植林地が見える。リボンはそちらに向かっているが、車が遠くなるので想定コースへと針路を変えた。

 やがて林道が見えてきて、小薮を抜けると無事着地である。

     
ルートを選びながら    林道が見えてきた    無事着地

 首尾良く一座目を終えて、まだ時間も充分にある。予定の富士山に向かって車を走らせた。

 富士山は数度偵察を行っているが、取り付き地の薮の深さが未知数、そして民家の裏から登るのが少し気が引けるところである。

 取り付き地の横にある路側の広い所に車を駐めて、民家のまさに裏側から登り始めるが、侵入するといった体でいささか気後れする。

 前もろくに見えないような檄薮だが、足元を見ると微かな踏み跡が続いているではないか。物好きなのはどうやら自分だけでは無いらしい。とにかく薮を踏む音が思ったより大きく響く。近隣の優秀な番犬達が一斉に吠え立てるのには閉口した。どうやら彼らにとって自分は特一級の侵入者であり、ここぞとばかりに警告を発しているようだ。

 全力で激薮ゾーンを切り抜けると、やっと犬達も一息ついたようで辺りに静寂さが戻ってきた。腰ほどまで丈が低くなってきたがまだ薮は続いている。だがそれもほんの少しの辛抱で、尾根形がはっきりしてくると歩き易くなってきた。山頂東側の谷には作業道が上がってきているので、面白味に欠けるがこれを使うのが無難だっただろう。

     
民家裏から失敬    激薮    薄くなるもまだ薮

 やはり山頂が近くなると岩が出てきた。高さは3m近くもあるだろうか。巨大な岩が重なっている。先ほどから山頂近辺にはカラスが群れ飛んでいる。山でカラスを見る事自体が珍しいが、生活圏にある里山ならではの光景であろう。突然の人間の侵入に対し数羽が警戒を発し、取りあえず山頂を明け渡して貰った形でそこへ到着した。

 三角点は西側に突出した岩の上にある。足を一歩踏み出すと、それまで無縁だった光と風に、一遍にまみえる感動の瞬間である。更にその先は切り立った崖になっているので景色が良いわけだ。

 眼下に広がる田畑や道路といった、生活感の有るありふれた田舎の風景。遠くには我らが栃木の山々が連なる。これぞ里山の原風景ではないだろうか。

     
高さ3m近い巨岩    山頂直下    三角点と日光の山
     
山頂よりパノラマ      

 吹きさらしのような山頂は北風が冷たい。だが、コーヒーで体を温めていると日当たりのよい山頂は思いの外心地よいものだ。春の暖かな日に、ここで昼寝をしたり読書をしたりしたらさぞ素晴らしいことだろう。そんな山頂を後にして、下山は外輪尾根を北に向かい周回することにした。

 途中に石祠一基、針路が東に変わった頃に「富士浅間」と刻まれた比較的新しい碑石と崩壊した石祠があった。地元の人の信仰が偲ばれる。

     
山頂尾根を北へ    北の方に石祠    富士浅間の碑石

 朽ちた中継用TVアンテナを通り過ぎると、予定していた方角より少しずれて一旦不明瞭になった尾根形がはっきりしてくる。着地点に大差は無いだろうと判断し、端正な木立の間の歩きやすい尾根の背を下っていくと直ぐに平坦な薄薮へ出た。

     
朽ちたアンテナ    端正な木立を下る    道路まであと僅か

 無事道路に復帰し車の所に戻る道すがら、取り付き箇所の全貌を見ることが出来た。成る程。これは薮が濃い訳だ。よくぞあんな所を登ったものだ。冬なお濃いこの薮をくぐるなら、すぐ脇にある作業道をおとなしく辿ったほうが正解。地域の番人である犬達に迷惑をかけないことは明らかだから。

     
薮が濃い訳だ    駐車地    帰路日光を望む

概略コースタイム
《高へら山》
駐車地発(8:17)-北西尾根(8:37)-山頂(8:57)-林道出会(9:21)-駐車地着(9:40)


《富士山》
駐車地発(9:40)-山頂(9:59)-休憩-再出発(10:09)-駐車地着(10:29)

2009年12月06日

二股山西稜


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 いよいよ里山シーズン到来である。

 緒戦を何処にするか思案するが、ネタは沢山ある。取りあえず古い順番から暖めていた計画をこなしていこう。
 さて、栄えある第一弾は鹿沼の二股山である。昨年の10月には自主トレもどきの一度下山して登り返しという、体力の無い中高年にあるまじき行動をとった山だが、その時にまじまじと眺めて心惹かれる思いがあった西稜歩きが今回のテーマである。

 加園の集落から田んぼ脇の細い未舗装路を進むと約1㎞くらいで二股山の釜が入り登山口に突き当たる。ここから谷沿いに登り二股山の南東尾根に続くコースは、昨年と同じで今回も下山で使う。

 林道終点にある駐車ポイントから今回の想定取り付き点までは数百m程集落側に戻ることになる。途中すぐの所に「西尾根方面」という道標があったが、見ればこちらも薮の中の赤テープを追うような感じである。今回どうしても取り付きが難しかった時の代案として考えていた414mPダイレクトコースが此処になるようだが今日はここを歩かない。

 今回のルートは352.6m三角点に、このピークの北東緩斜面からのアプローチであるが、傾斜が緩いが故に手強い薮が鎧のように植林地をガードしている。取りあえず植林帯に入ってしまえばあとは方角修正すればよいだろうと考え、薮の薄いところからいざ侵入である。
 昨日の雨で草が濡れている。久しぶりに付けたスパッツの効果も絶大だ。

     
駐車地    西尾根道標あるがこちらはパス    薮の薄いここから取り付く

 若干の下草をやり過ごすと、幸いにして直ぐに植林帯へ入ることが出来た。シダなどが少しうるさいが気にするほどのものでもなく、所々に横たわる古い倒木を跨ぎながら軌道修正を繰り返した。

 やがて、等高線では微かにしか読み取れない谷が出現するが、少し高巻きしながらも目標の352.6mP三角点を目指した。

     
すぐ植林地へ    等高線で読み切れない谷がある    谷を高巻きして更に上へ

 再び地図では想像もつかないような尾根形が出てきたが、方角に問題が無いのでこれを登って高度を稼ぐ。三角点稜線までもう少しというあたりで直登状態になるが、ふかふかの落ち葉で滑りやすい。上方には岩が出てきたのでこれを巻きながら稜線に辿り着けば、荒い息で大きく汗を拭った。

 尾根の上は踏み跡こそ殆ど感じられないが、まばらな広葉樹で明るい雰囲気がある。

 一旦南端まで行ってみたが、どうやらここから真東、あるいは真南に向かうルートがありそうな気がする。

     
尾根形が出てくる    直登気味になり岩が出る    尾根の南端

 南端より踵を返し落ち葉を踏んで緩やかに登っていくと、そこは352.6mの三角点ピークである。R・Kさんの標高を記した板がかかっていた。
 ここからは北西にルートを取る。支尾根など迷い易い要因は皆無である。山仕事の人が残した痕跡はたまに見ることが出来るが、それ以外に往来の気配は殆ど感じられない。

 西側集落が良く見えるあたりから眼前の大きなピーク越えで再び汗をかいた。とにかく落ち葉で足元がとられやすく、急斜面になると歩くのが大変だ。雪道のツボ足ではないが一歩一歩蹴りこんで行かないとズリ落ちてしまいそうである。堪らずジグザグのルートを付けながら登って行ったが、こうして登山道は出来て行くのだろう。

     
352.6Pへ向かう    352.6mP(三角点)    西側の集落

 一旦大きなピークを越えると次のピークである414mPが更に大きく立ちはだかる。鞍部からの登り返しが結構キツイ。またしてもジグザグルートのトレースを付けながら登るが、途中木のあるところで休憩出来るように、次はこの角度でまずはそこの木の所までといった塩梅である。

 何度か足を取られながらもピーク付近に着くと、真新しい道標が掛かっており、釜が入り登山口から登ってくるコースと合流した。先ほど見た薮のリボンコースはどうやらここに出てくるようである。414mPの南斜面で急登のアルバイトを強いられるのが嫌な人は、登山口から此処に登るのが省エネの西尾根攻略かも知れない。だが、自分としては今回の計画の貫徹として、南側の352.6mPから繋いでこそ価値ありと考える。

     
向かう414mPが見える    414mPへの登り    釜が入り登山口からの西尾根ルートと合流

 414mPは何も無いが、古くラベルの剥がれたリポDの空き瓶が枝に逆さに刺さっているのが目印になっている。

 木々に閉ざされ、静かに息を潜めているような佇まいの414mPを後にして、北西の鞍部から登り返すと双耳峰の410m見晴らしピークである。直下に岩があり細いロープが巻いてあるも、万が一滑落すると西側はスパッと切れ落ちているが故にただでは済まないだろう。ここは躊躇せずに東側を巻いた。

 414mP以南はまったく手つかずの感があったが、北側は所々整備されている。赤ペンキありロープあり、そして何より踏み跡がしっかりしている。

     
リポD瓶の414mP    414mP双耳峰手前の岩    414mP双耳峰

 明るい尾根を鼻歌気分で進み、再びキツイ登りで最後の一汗をかく。ようやく二股山北峰から南西に伸びる幅の広い尾根に届いた。

 ここまでくればハイキング気分である。やがて一般コースとも合流し、程なく北峰に到着した。

 過去2回登った時はいずれも山頂である南峰で食事をしたが、他にハイカーも居ないので今回は狭いが景色の良い北峰で食事とした。それにしても今日は人の気配が全く無い。前半の西尾根はともかく、一般コースや山頂では過去2回とも少なくとも4~5人は逢っているのだが今日はゼロである。

     
明るい尾根    二股山北峰より    雲に霞む筑波山

 昼食後に南峰に渡るが、相変わらず強烈なキレットだ。登りに新しいロープが張られている。今までのロープは何処か危なげな感じがしたが、整備に携われた方々には感謝の念で頭が下がる思いである。

 山頂からは日光方面も僅かに眺望あるも、生憎男体山と女峰山が雲に覆われているのでぱっとしない。

 ここからは南に向かって展望地経由で下っていく。迷いそうな箇所には道標やロープが張られており整備の充実さを感じた。

     
南峰登りに新設ロープが    南峰(二股山頂上)より    丁寧にロープが張られている

 所々落ち葉で踏み跡が不明になる箇所もあるので、初心者には少し手強いかもしれない。多少馴れた人なら、プチルートファインディング的な要素があって楽しいだろう。

 植林帯に入って尾根の急降下の後、谷に向かって一旦西向きにトラバースする箇所の分岐を直進すると431mPに至ることが出来る。今回は寄り道としてこのピークに向かい、更にそこから南に伸びる尾根方面の偵察を考えていた。

     
   落ち葉にルートも不明瞭    431mPへ寄り道

 431mPまでは特に障害も無いが、灌木が所々に生えており、あまり人の往来は感じられない。それでもピーク先には、東側に開けた伐採地跡というにはあまりにも狭い範囲だけ樹が切り倒された眺望地が一箇所ある。なんの為に樹を切ったのか判らないが、山仕事の人の愉しみなのだろうか。足元に焚き火の跡も確認できた。

 分岐へ戻り一般ルートを通り駐車地へ無事帰着した。帰り道に、車窓より南尾根から林道へ抜けるルートを眺めるが、かなり深い薮や急斜面があってとても手が付けられないような雰囲気がある。しかし、宇都宮中心部から真西に見える二股山の堂々とした山姿を頭に浮かべると、この南陵歩きも外せない。次なる二股山の課題としての思いを胸に膨らませるのであった。

           
431mP先の展望地より     

概略コースタイム
駐車地発(9:52)-西尾根南端(10:26)-352.6mP(10:32)-414mP(11:00)-410m見晴らし(11:10)-
二股山北峰着(11:51)-昼食休憩-行動再開(12:31)-二股山頂上{南峰](12:42)-
431mPへの分岐(13:11)-偵察最深部(13:19)-分岐へ復帰(13:29)-駐車地着(13:48)

最近のコメント

最近のエントリー

リンク集

  • ケン坊の日記
    情報(ネタ)の検証はピカ一。実践派のケン坊さん。多方面にわたるネタで楽しむことができます。
  • らんばらしょうぎ
    目指すは亀三郎百名山。印象派の亀三郎さんのブログです。更新量豊富。山ネタ以外も綺麗な写真がいっぱい掲載されてます。
  • 散歩エクスペディション
    薮山に目覚め始めた頃、毎日飽きずに見ていました。今日の自分に影響大なり。薮山歩きではメンタル面の我が師匠、けむぞうさんのサイトです。ブログのほうも面白くてお勧めです。(そこナニBlogで検索してね)
  • 里山逍遥
    栃木の山とその周辺の低山を巡る日々「里山逍遥」。もぉ、このタイトル見ただけで直ぐに相互リンクを申し込んでしまいました。新田次郎さんと飲んだことがあるという凄い方です。登山に対するフランクな考え方も共鳴できます。
  • リンゴの叫び!
    季節の移ろいと自然の姿に心惹かれるブログ主さんの記事は、山好きな人ならきっと共感することと思います。自分も長い間隠れファンでしたが、この度相互リンクさせていただきました。
  • 北関東の山歩き
    ご夫婦で仲良く山歩き。栃木県内や宇都宮近郊の山はもとより、HPのタイトル通り北関東の山並みを歩かれているNonさんのサイトです。楽しそうな山行記録を読みながら、「是非自分も歩いて見たい」と思うこと度々。
  • PIAN PIANO.
    バイク仲間であり山仲間のなおさんのブログ。ブログ名のPIAN PIANO.(ピアン ピアーノ)は、イタリア語で「あせらず、ゆっくり」という意味だそうです。

RSS