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県北の山達アーカイブ


2013年06月09日

黒尾谷岳



-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --
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  2009年10月11日 ライド&ハイク(Ride&Hike)

 黒尾谷岳は那須連峰の中でも最南端に位置し、一連の華やかな那須の山並みとは一線を画した前衛峰である。
 一般的な登路は二つあり、南側の別荘地よりのピストン、そして南月山からのルートである。
 以前白笹山から南月山を目指した際に、小高い頂きが稜線の南側にあるのに気づいていたが、当時はその山が黒尾谷岳であることを特に意識していたわけではなかった。だが、特徴的なその山姿がとても印象的であったことは鮮やかな記憶として残っていた。
 今回歩いたルートは沼原駐車場から白笹山を目指し、南月山へと到達。ここまでは以前歩いたルートと同じ。黒尾谷岳へは南月山からの寄り道ピストンとした。

 花の時期は駐車場が混雑するのではないかと考え、早い時間に沼原の駐車場に到着。7時前ということもあったが、意外な事に未だガラガラだ。ちょっと拍子抜けしたが、まぁ良いだろう。早発早帰りは山の基本(^^ゞ

 7時丁度くらいに支度を終えて出発。白笹山方面へ歩き出す人は少ないようだ。前日の雨をしっとりと含んだ早朝の静かな山道を進む。一度歩いているので登山道の大体の雰囲気は掴めているが、前回は地形図を眺めて一体この急な勾配をどうやって登るのかと心配になったものだ。実際には巧みに山をトラバースしたり、細かくジグザグに作られた登山道を登るのはそう大変なことではない。
 徐々に高度が上がってくると、沼原調整池の向こうに見える大佐飛山の稜線が大きく横たわるようになる。百村山から大佐飛山へのアプローチは長丁場でなかなか骨の折れるコースと聞くが、体力と天候が揃えば是非チャレンジしたいものだ。

     
道標はこのスタイル    朝の空気が清々しい    百村山から大佐飛山への稜線

 眺望がだいぶ良くなってきた頃、白ヤシオの株が目立ち始める。花については知識が覚束ないので自信は無いが、おそらく花期も盛りを過ぎたのであろうか。それでも自分には充分に綺麗。期待もせずに入山しただけにラッキーな気分に浸る。

     
シロヤシオ       隠居倉方面
     
     

 遠く茶臼岳の黒々とした頂稜部が見え出すと、白笹山山頂への道のりもあと少しである。

 山頂は相変わらずの無愛想。道端に道標があるだけのそんな雰囲気の場所だ。この山だけを目当てに来る人はそうは居ないだろうが、来た道をそのまま下山するとなるとちょっと寂しいかもしれない。
 山頂を通過するとその先にムラサキヤシオ(図鑑を見ると葉の形が違う気もするので、違う場合は御指摘願います)が鮮やかに咲いていた。実は山頂の少し手前あたりからシャクナゲもちらほら咲いており、自分としてはまさに花の山行である。

     
茶臼岳が頭を覗かせている    相変わらずの白笹山頂上    ムラサキヤシオ

 白笹山から高度を下げていくと今度は笹原の稜線へ出る。行く手には南月山へと伸びる美しい稜線。笹が光り輝くこの稜線をこれから登るかと思うと俄然登高意欲が湧いてくる。右手には今日の目的地である黒尾谷岳が、その名前には似合わない丸い輪郭の愛嬌のある高みを見せている。

 今日の登山は実は万全な体調ではない。木曜日に行ったスポーツクラブで、いつもと違った不慣れなスタジオプログラムに参加してふくらはぎの筋肉痛が若干残っていたのだ。足の調子と相談するように、若干ペースを落として歩幅も狭くとる。いつしか気付くと、ふくらはぎの痛みもすっかり消えて調子が出てきた。だが、南月山から黒尾谷岳のピストンが結構キツそうなのは想定内なので、ここは体力温存で進むべし。

     
   南月山へと伸びる稜線が美しい    今日の目的地、黒尾谷岳


 日差しの強い笹の稜線歩き。時折吹き抜ける早春の忘れ物のような冷たい風が火照った体を心地よく冷やす。天気晴朗、眺望良好、足取りも軽くなるというものだ。シャクナゲも色の濃いもの薄いもの。花の付いていない株はこれまでいろいろな山で嫌というほど見てきたが、華やかな花の姿を見ることが出来るのは山を歩く者として素直に嬉しいものだ。

     
白笹山を振り返る    シャクナゲ   

 足元に咲く小さな花達はにわか花ハンター?のカメラに収まらなかったが、特徴的な葉が「亀の甲羅のよう」と記憶していたオオカメノキ(違っていたら指摘願います)も頭上を賑わしていた。白い花は青空に透かして見るとより一層美しく見えるものだが、悲しいかな安物のデジカメとつたない腕ではご覧の通り。肉眼で得られた感動を伝えるのは難しいものだ。

 程なく南月山の山頂に着くと、まだ早い時間なのに既に数組のハイカーが休憩中である。ここに至るまで、駐車場で先発した先行者一組を追い抜いただけで他には人には遭っていなかった。黒尾谷岳からの帰りにここに立てば、その頃は昼食時。更に大量の人達で埋め尽くされているだろう。ゆっくりするなら今がチャンスなのだが、やはり山はより静かな場所が一番。軽い水分補給とシャリバテ防止のパンを一口頬張り賑やかな山頂を後にした。

     
会津の山並みは春遠し    オオカメノキ?   

 南月山の三角点は山名板と石祠の更に奥の目立たない所にひっそりとある。茶臼岳を眺めなが休憩が出来る広場には大きな案内板があるので、そこが山頂と勘違いしている人が多いようだ。「おーい、ここが本当の山頂なんだよ」と教えてあげたい位だ。

 黒尾谷岳へのルートは序盤は笹を分けながらの下降。胸あたりまで笹丈があるような箇所も、踏み跡道形は鮮やかなので問題は無い。やがて崩落地を警告する案内を見ると右手に折れる。回り込むようにして高度下げが始まる。
 容赦ない高度下げ。どこまでも下げていく。里山なら下山しきってしまうくらいの勢いだからこれは帰りが大変だぞ。実際、300mの高度下げのあと黒尾谷岳には100mの登り返しとなり、帰りはその逆で、100m下って300mの登り返しだ。

     
南月山の三角点は裏手にひっそりと    定番の茶臼岳眺望    下に見えているのは黒尾谷岳ではない
     
あの崩落地脇を通過する    崩落地より    黒尾谷岳はまだ遠い

 どこまでも下げ止まらない下りに、若干怖気づきながらもようやくコルまで到達した。新緑の枝の合間から見れば、先ほど歩いてきた白笹山の稜線があんなに高く見えるではないか。いやはや、南月山への帰りが思いやられる。

     
   こちらも白ヤシロが素晴らしい    白笹山を見上げる程高度を下げた

 コルで一息入れて黒尾谷岳への登りにかかる。ここの登山道もジグザグに作られており案外楽に登れる。だが、帰りの登り返しを意識すると、のんびりゆっくりペースを堅持せざるを得ない。三人組のシルバーグループとすれ違うが、彼らもこれから向かう南月山への登り返しに苦笑いしていた。

 黒尾谷岳の山頂もまた白笹山の山頂と五十歩百歩。グルリと眺望の無い山頂には山名板と土管が一本置かれているのみ。長居する雰囲気でも無いので写真を一枚撮って直ちに踵を返した。
 ここで無理をして歩き通すと前回の袈裟丸山のようにバテる可能性があるので、コル近辺まで戻り木陰のランチ、大休憩とした。
 今回から食事も夏モードとなり、ストーブとカップラーメン、1リットルの水の携行は無し。お陰で幾らか荷が軽くなった。そのかわりに、テルモスに氷と一緒に詰めたドリンクが装備に加わった。これから夏に向かってはこれが一番! 喉を冷やす冷たさは実に心地よい。

     
黒尾谷岳への登りは巻き道で穏やかだ    白笹山といい勝負、何も無い山頂    ここで食事休憩

 南月山への辛い登り返しだが、美しく咲き誇る花に励まされて思ったより軽快に進むことが出来た。やはりペースダウンの効果は絶大だ。日頃の山行では如何に無駄なペース堅持で疲労を増大させていたのか、今更ながらこんな単純な事を実感して目から鱗が落ちる思いだ。

     
   生命を感じるダケカンバ    青空に映える
     
白ヤシオの向こうに黒尾谷岳    あの上まで登り返す    一部背丈程の笹薮あるも道形明瞭


黒尾谷岳からの戻り途中の風景。このアングルからの茶臼岳は珍しい

 最後の笹薮を登り切る手前、振り返ると黒尾谷岳が頭を覗かせる。あそこから戻って来たのだと思うとそれなりに感慨深いものがある。

 南月山へ着くと予想通り、色とりどりのウェアーで一面花咲く沢山のハイカー達が食事中であった。ここから先は基本的に下りだが、しばし茶臼岳の荒々しい眺望を楽しみながら自分も一休み。日の出平へ向けて出発した。

     
あそこから戻ってきたのだ    日の出平へと向かう   

 日の出平から沼原へ下るコースは今回初めて歩く。南月山から台地のように見える日の出平は、その名の通り平坦な道が続く。灌木に見通しを遮られる箇所もあり、熊の出没地として名高いこのエリア。ばったりお見合いということも排除出来ない状況だ。ザックより大音量の熊鈴を取り出して腰に装着す。肉厚の鐘から鳴り響く大音量は、着けている自分自身もうるさいくらいだから、他のハイカーが近くに居たら迷惑ものかもしれないが、肝心のクマに届けば良い。そこで、いつも思うのだが、クマには本当に鈴の音が聞こえているのかという実験が行われた半分ジョークな記事を読んだことがある。実験は動物園のクマに数種類のクマ鈴を聞かせたところどんな反応があったかというものである。結果は・・・どの鈴にも全く反応せずひたすら昼寝を貪るのみだったとか。
 これはクマに喝!  である。野生のクマならもっとしっかりしてるでしょう。なんてのはどうでも良いが、ここまで臆面もなくうるさい程だから効果は充分なのではないか。

 途中、ミネザクラが数本咲いていた。南月山から先は驚くほど花が無かっただけに再びの花の出現は嬉しい。

 平坦地を過ぎ、高度を下げ始めると北の隠居倉方面が大きく見え、やがて南月山から白笹山を広々と見渡せる笹道になる。

     
平坦な道が続く    ミネザクラ    隠居倉方面(雪が残っている)
     
   ムラサキヤシオ白笹山    池塘あり

正面に南月山、そして白笹山までを見渡す

 道が北に進路変えをすると、開けた眺望とはお別れになるが、笹原に広がるダケカンバの林もまた美しい。綺麗に撮影出来なかったので掲載しなかったが、途中白ヤシオやシャクナゲも所々に咲いていた。つくづく今回は花に恵まれた山行であった。

     
ダケカンバの林       駐車場から白笹山

概略コースタイム

駐車地発(07:01)-白笹山(08:37)-南月山(09:26)-黒尾谷岳(10:27)-
昼食地点(10:40)-昼食休憩-行動再開(100:49)-南月山(12:04)-日の出平(12:37)-
駐車地着(14:34)

2013年05月03日

三度めの正直、持丸山


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

※当コースには一般登山道でない箇所が含まれています。参考にされる場合は自己責任でお願いします。
1312mP付近は深い笹薮に覆われ尾根形も曖昧、ルート特定が難しくなります。ナビゲーションに自信の無い方は北尾根のピストンをお勧めします。
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  2013年4月27日 持丸山リベンジならず、敗退で鶏岳
  2011年11月13日 静かなる明神ヶ岳

 前回も触れたが、持丸山はこれで三回目のトライとなる。一度目はMixi仲間との明神ヶ岳ダブルヘッダー山行で体力切れ、二度目は先週の雨で登山口敗退。
 天気については人一倍神経質な自分だが、先週は忙しさにかまけて事前情報収集不足ということもあった。また、帰路、鬼怒川温泉あたりから南はピーカンの晴だったので、天気の複雑さを改めて思い知らされた。

 さて、予定通りに林道最深部の駐車地に到着。この林道は、四駆車なら問題は無いが、車高の低い車だと途中で立ち往生するような箇所があるので注意が必要だ。また道幅も車一台しかないのですれ違いが発生した場合の覚悟も必要。こういった状況だとパジェロミニの安心感は秀逸である。

 本日の持丸山登山、単にトップバッターなのか、あるいはこのまま誰にも遭わずにパジェロミニ一台だけが止まっているこの場所へ戻ってくるのか。空を見上げると遥か高い所に白い雲が散在し、そこから差し込む明るい陽光を時折通り過ぎる低い雲が覆う。周囲の緑が照らされ、また陰るさまは自然の寸劇である。風も無く概ね良好のコンディションだ。山鳩のホーホーと鳴く声の中に混じって、まるでいま起きたばかりのような調子外れのうぐいすの声が沢音に混じる。

 114号鉄塔巡視路の案内に従い沢の左岸を辿る。道は無いが、足の置きやすい場所を選んで進むとすぐ朽ちかけた橋がある。一歩一歩確かめながら渡り、右岸から続く巡視路を登っていく。

     
林道終点    左岸を辿る    朽ちかけの橋を渡り

 114号鉄塔までは巡視路がよく整備されおり、難なく到達出来る。勾配は結構あり、じっくりと歩を進めるもたちまち汗だくになってきた。思えばMixi山行の時、明神ヶ岳の急登をハイペースで歩いた後に此処を登ったのだから途中でリタイヤしても不思議ではないだろうと改めて実感した。

 114号鉄塔基部からは高原山がよく見える。ほぼ真南には電線が続いてその先に下山時の中継点である115号鉄塔、更にその先に116号鉄塔と続く。

     
巡視路を行く    114号鉄塔    鉄塔より高原山

 鉄塔で巡視路はお終いになるが、その先も道はしっかりしていて歩きやすい。途中からイワウチワの群生地が現れる。花はまだ咲き始めで少ししかついていなかったが、これから花期を迎えるとあたり一体が華やかになるだろう。標高を上げていくと全く見られなくなり、下山時も115号鉄塔付近で見かけたので、特定の標高域にのみ存在するようであるところが興味深い。

 ルートは明るい落葉樹の自然林である。登山口から針葉樹を一切見ない山を登るのも自分の場合は珍しく、実に気持ちの良い登路である。途中薮があると聞いていたが、今の所そんな雰囲気は皆無。むしろ、自然豊かな清々しい林を縫って歩くこのコースは実は隠れた名ルートだなとも思いながら進む。

     
イワウチワ    花期はこれから、群生している    明るい美林を行く

 自然豊かな持丸山故に、その豊かな恵みと共に暮らすものも多いだろう。ということで、今回は熊鈴をダブル装着。この二つはあまりにも音量が大きいのでいつもは使わないのだが、今回は広葉樹林である山域ということと入山者の少なさを勘案し、あえて二刀流とした。
 小ピーク直前の先が見えないポイントや、一息ついて再スタートする時は汽笛一声よろしくホイッスルを吹き、手で腰の鈴をジャンジャン鳴らしながら登っていく。今考えるとこれだけ見晴の良い山中である。周囲の谷筋などからもこちらの様子は丸見えの筈だ。
 冬眠の間に出産を終えた母グマは、かようにやかましいヒトの進入にさぞや眉根をひそめていることだろう。「坊や、ああいう生き物が来たら近づいちゃダメよ」と。

     
   苔むす倒木    今日は熊鈴ダブル+ホイッスル

 横に広がる登路は見通しが良く、上を目指すには何の不安も無いが、尾根形が鋭敏でないということは此処が背丈超えの薮になった場合は大苦戦する箇所であることは間違いないだろう。

 急登をしばらく行くと上の方に何やら黒いものがある。うずくまっているようにも見えるが肉眼ではよく解らない。デジカメのデジタルズーム最高倍率で見ても今ひとつはっきりしない。
 試しにホイッスルを吹いたり鈴を鳴らしたり、オーーイと呼びかけても動く様子が無い。まだかなり距離があるのでピクリとでも動いたら直ちに退散しようと思いしばらく観察するが、依然不動のままだ。
 恐る恐る近づいて行くと、なんと倒木の根元の部分が見えていただけか。山を歩いているとよく見かける木の幹にあるコブなども山慣れしない頃は遠くから見てビビっていたものだが、今回は結構強烈であった。

     
急だが相変わらず美しい自然林    あ、あれは(*_*;    倒木だった

 山頂から北側に伸びる主稜線に乗ると、西側の県境にある山脈が枝越しに見えるようになる。またこのあたりから少し薮が出てくるが、尾根の中心線から若干西側に刈り払われたルートが出来ており、歩くのには苦労しない。脇を見ると登りには逆目の笹が繁茂しており、このルートが無いと相当難渋するだろう。

     
荒海山方面県境の山並み    逆目だからまともに登ったら大変    ウリ肌楓って教わったのだけど・・・

 山頂まであと少しの箇所で背丈超えの笹薮が出てくるがそれも僅か。

     
山頂近くになると薮が出始めた    なんと、残雪    最後はご覧のとおり

 山頂は思ったよりも小広く、スッキリとはいかないが眺望もまぁまぁ。高原山方面と県境の山並みが見える。

 少し早いが昼食をとっていると控えめな鈴の音が(自分とは大違い)聞こえてきた。どうやら後続のハイカーが登ってきたようだ。
 最後の薮をくぐる直前ぴたっと動きが止まった。彼もまさか人がいるとは思わなかったので、山頂に居る"何か"に一瞬怯えたのかもしれない。彼は簡単に食事をした後、立派な三脚をザックから取り出してセルフ撮りをすると直ぐに南の尾根に発っていってしまった。

 コーヒーを入れて飲み始める頃、今度は中年の夫婦が登ってきた。向こうもやはり人がいた事に驚いていたが、話を聞くと栃木百名山も完登直前で、登り残しのこの山にやってきたという。奥方は下野新聞栃木百名山の拡大コピーを片手に、南の尾根はどう行ったら良いのかしら。このままピストンで下山はつまらないといった口ぶり。
 取り敢えず尾根を外さず行けば良いのでは、判らなければ最悪戻ってくれば良いと思います。とだけ答えたが、御主人はコンパスを手にしていたのできっと大丈夫だろう。登路もあんな感じだったからこの先も大したことは無いだろうと思い自分も出発した。

     
高原山方面    県境方面    山頂から程なく薮が出始める

 北尾根に比べると確かに笹薮が豊富だが、見通しがあるし尾根形が明瞭なので難しさは無い。途中、足元に落ちているシカの角に自然を感じつつ残雪のある自然のままの稜線歩きだ。
 北尾根はいたるところに赤リボンが付いていたが、こちらは皆無。栃木百名山本にサブコースとして紹介されるも、殆ど歩いている人はいないようである。

     
   落ちていた鹿の角    残雪

 途中、大きな木に巨大なウロがあった。敢えて近づかず遠巻きにしてそっとその場を去る。まさかクマか何かがあんな所に居るとは思えないが、触らぬ神に祟なしである。

 1312mPの方向変えは計画段階から一番の難所と考えていた。見通しが良ければさほど難しくは無いけれど、やはり背丈を超す薮で周囲が見えないとコンパスだけが便りとなる。GPSの軌跡を見ていただいても解るが、進路を確定するのに苦労しているのがよく分かる。
 栃木百名山本の解説はサブルートとして登りにこのルートを紹介しているが、笹薮はともかく登りなら体力的にはきつくても案外楽に進路を決める事が出来るかもしれない。だが、下りで此処を降りる場合はかなり難しいポイントになるだろう。GPSの携行習熟や、確実な読図と進路補正の経験、しっかりとしたナビゲーション技術が無い方は歩かないほうが無難かも知れない。先ほど山頂で出会った夫婦に生返事でこちらのルートを話したが、少し心配になってきた。

     
怖くて遠巻きに    笹薮の尾根    背丈ほどに

 度々進路をチェックして、目的の尾根に乗っていることを確認しながら進んでいく。踏み跡はあっても解らないから間違えても気が付かいないのだ。やがて、行く手に鉄塔が見えてきた。下山路で115号鉄塔下を通過する予定なので一瞬そちらに向かおうとしたが、よくよく地図を見ると115号鉄塔とは違う箇所にある。どうやら次の116号鉄塔のようで、このまま東に降りて行くと大幅なコースアウトになりその後の復帰が大変になるだろう。先ほどの夫婦に「取り敢えず鉄塔を目指して・・・」と喋ったのが更に気になってきた。

 やがて、115号鉄塔上部で巡視路と交差する。右手はどうやら116号鉄塔へ伸びている様子。ということは116号鉄塔を目指して行っても巡視路に拾われるので大丈夫だなと一安心した。

     
笹が薄くなってきた    116号鉄塔    115号鉄塔

 ここで気づいたのは、栃木百名山本の誤り。本に書いてある鉄塔は116号とあるがこれは115号の間違い。116号は115号の南側直線にして約300mほど離れており、自分が初めに誤認した鉄塔である。鉄塔の番号は巡視路の黄色い標柱くらいしか知る方法はないが、この周回ルートの始めが114号、山の向こう側が115号というふうに考えるべきだし実際の鉄塔はそう配置されている。そこへ本に記載のある116号が115号の位置にあるとなると、困惑して読図を誤る可能性もある。次の版では訂正して欲しいところだ。

  残る下山路は巡視路を下るのみ。若干退屈だが、先ほどの緊張感溢れるルーファンから開放されたのは事実。こちらでも見られるイワウチワに足を止めながら降りて行くと、最後の最後で巡視路は崩落して跡形も無し。この様子だとこちらを登りに使う人も居ないだろうと納得した。大した距離ではないので、カモシカよろしく斜面を直下降しながら沢に降り立った。釣りと山菜取りに来た家族が沢のほとりで弁当を広げていた。そこへ突然ガサガサと、そして熊鈴じゃんじゃんと鳴らしながらヒトが出現したので彼らもさぞ驚いたことだろう。かくして、持丸山登山は無事終了したのである。

     
鉄塔下は刈り払われている    114号鉄塔が見えてきた    巡視路が崩落している

 下山後はまだ時間が早かったので少し道草をすることにした。R121から芹沢の集落へ向かい、「丸太工房あくつ」さんの箇所よりアプローチの林道は伸びているが、芹沢沿いの道は延々西へと伸びている。地形図上では途中で道が消失しているので行き止まりの可能性は高いが、持丸山を登る途中でチラっと見えた感じだと結構立派な道路のようだ。

 対向車も後続車も一切ない舗装路を快適に進めていく。所々路側に除雪車が切り通した跡があるので、冬場は閉鎖されているのだろう。地形図上で道路が途切れている地点を越えてもなお道は続く。東側に開ける眺望箇所を過ぎると林道の最高地点に到達。傍らの案内板を見ると、林道平沢芹沢線とある。(最高地点は地形図の湯坂峠の北西約300mの位置にある)

     
     

 持丸山からの枝越しの眺望とは違い、胸ののすくような景色にしばし見とれる。残雪県境の山は綿々と繋がり、黒ぐろと鎮座する明神ヶ岳も大きい。寄り道の成果にも満足の一日であった。

     
   枯木山か?    明神ヶ岳

 ちなみにこの林道、何処へ出たかというと、湯西川に最近出来た「湯西川水の郷」の直ぐ近くに通じていた。この小さな交差点の先があの雄大な景色を見ることが出来る林道に繋がっていることを知る人は少ないであろう。

           
川俣側林道出口      

概略コースタイム
駐車地発(08:32)-114号鉄塔(08:50)-山頂(10:20)-昼食休憩-
行動再開(11:08)-1312mP(11:37)-115号鉄塔(12:15)-駐車地着(12:50)

2012年11月04日

静かなる紅葉の塩沢山


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 塩沢山 の登山口が国道121号沿いの目に付く場所にあるのは以前から気になっていた。おあつらえ向きのようにその直ぐ手前には「独鈷沢ふれあい広場」というのがあり、その駐車場に停めれば登山が容易ということに迂闊にも最近気づいたばかりである。普段なら車でもバイクでも単なる通過点でしかないこの場所だからだ。駐車スペースに腐心しながら林道奥まで分け入るのに比べると、なんともお気楽な駐車スペースである。

 今年の夏は、夜が明けやらぬうちに出発し朝日を受けながら登り始めるというのがすっかり板についた。だが、季節も変わり今回の秋の山は7時に自宅出発、のんびり山行である。人も街も充分に目覚めた朝の鬼怒川温泉を走り抜けるのも久しい。

 国道脇の登山口に一歩踏み込むと、そこは鬱蒼とした薄暗い植林地。里山登りのような雰囲気でスタートだ。

     
R121沿いの登山口    薄暗い植林地へ   

 仕事道のような効率の良い登山道を行く。やがて開けた斜面になると今度はそこをジグザグと登っていく。標高1,000mに達しないこの辺りではまだ紅葉には早いようだ。だが、時折吹く風はもう充分に冷たい。上着のジッパーを思わず喉元まで引き上げた。紅葉を誘う冬の息吹は確実に辺りを覆い始めているようだ。
 小尾根に登り上がると「一服ウチワ」なる場所に着いた。可笑しな名前の由来に興味津々だが知る由もなし。確かに一服するには丁度良い頃合いだな。

     
広い谷を登る    紅葉は未だ    なんとも可笑しな一服ウチワ

 尾根を進むと登山道は、直登の「健脚コース」とジグザグの「一般コース」に別れる。ここは「健脚コース」を選んだ。
 斜度と距離を考慮しても"健脚"とはいささかオーバーなような気がする。せめて一般コースと楽々コース位にしたほうが良さそうである。雰囲気的には、針葉樹の中の薄暗い道を進むより、尾根の芯を登る健脚コースのほうが気分が良い。
 直登コースを登り詰め、乗り換えた次の尾根の少し先に今度は「遊雪の君」が現れる。奮った名前の場所がある山だ。再び由来を推し量るも到底思いつく代物でない。広々とした平坦地に彼女(彼)が嬉々として走り回る・・・程度のインスピレーションしか無いのは自分の感性の貧弱さか(笑)。・・・それにしてもこの小ピークでである。

     
直進は健脚コース       由来が知りたい

 遊雪の君を過ぎると、立ち塞がるように1100mPが正面に構える。周囲は木々の色づきが目立ち始め、青い空に映える暖色の紅葉が目に優しい。1,000mを超えた辺りから風に吹かれる汗が冷たくて、いささか辛くなってきた。ものぐさでここまで着替えずに歩いてきたが、フリースを脱いで薄手のダウンを羽織った。

     
1100mP      

 膝丈ほども無いような低い笹が出てくる。暫くは鼻歌まじりの緩斜面だが、徐々に斜度がきつくなってくると一投足で山頂へ着いた。
 山頂は東側が広くひらかれており、正面の高原山が間近に見える。この方角から見る高原山は珍しいので大変新鮮だ。ゲレンデの形もよく分かる。

     
塩沢山    背の低い笹の中を進む   
     
   山頂に近づくと傾斜が急になる   

 今日のランチはお洒落にパスタである。ところが、登山口でザックを背負った時に感じた微妙な荷の軽さは何だ。調理とコーヒー用の水を1リットル持ってくるのを忘れたのだ。飲料水はお茶のペットボトル500mlを一本余計に持ってきているので、これをリザーブすれば非常時用の水500mlで調理とコーヒーは何とかなるだろうと考えた。いざスパゲッティ(サラダ用早茹で4分)をコッヘルに入れようとしたら今度は箸が無いことに気が付き呆然。いつもはコンビニでカップラーメンを買った時に割り箸を貰っているので意識が無かった。これは実に痛い。

 辺りを見回し代用品を物色するが、手頃な枝も無い。仕方なく一帯に繁茂する笹の茎を抜いた。
 直径2ミリにも満たないような笹の茎ではなよなよとしていていささか心許無いが、それでも細い麺をかき混ぜるには何とかなるものだ。

 水をケチったので煮詰まってお湯が段々少なくなってきた。笹の箸も心許ないが、茹でるお湯の方も風前のともしび。
 若干芯に硬さを感じるがヨシとして、お湯切りして"混ぜるだけの具を"投入。笹の箸でなんとかかき混ぜて完成である

 味はというと・・・それはもう苦労した分だけ美味しかったのは言うまでもない(爆)

 箸としては殆ど役にたたない笹の枝は補助として、コッヘルからすするようにして食べたことも付け加えておこう。

     
哀れ、笹の箸    パスタ完成(混ぜるだけ)    コーヒーはいつも通り美味かった

 登路では下山者数組とすれ違った。おそらく六時か七時には登りはじめたのではないか。この時間に下山するのなら近間をもう一座くらい登るのかもしれない。栃木百名山の中ではかなり目立たぬ地味な存在の塩沢山だが、それなりに静かな人気がうかがえた。

 塩沢山を検討する時、やるならば是非北の尾根を辿って三依山も踏んでみたいと思っていた。だが、塩沢山から先は笹ヤブの尾根道らしく案外手間取ったという記録を見ていたし、ピストンで三依山というのも時間が掛かりそうなので躊躇される。三依山から北西に下山し周回(駐車場に戻る自転車のデポが必要)するコースについては今ひとつ調査段取り不足であった。
 今回はまず尾根の状況把握ということで少しだけ偵察で歩いてみた。

     
高原山、手前はニ方鳥屋山    奥は三依山方面への尾根    膝丈の笹をかきわけ偵察

 先般歩いた燕巣山から湯沢峠へ向かう悪魔の笹藪に比べれば極楽のような心地良い膝丈の笹尾根である。何よりも視界が効くので尾根を辿るのもこれならば楽勝であろう。三依山から上三依の集落に下山するまでこの状態が続くという保証はないが、背丈超えの笹ヤブでなければそう苦労することも無い。来年、この時期に是非歩いて見ようと思った。
 僅かな距離であったが、一つ目の風情ある小ピークで偵察を終了とした。

     
一つ目の静かなピークで偵察終了    下山路から冠雪の白根山   

 一旦山頂へ戻り下山を開始する。下る向こう側には枝の間から太郎山や雪化粧の白根山、名前は言えないが遠く冠雪する山なども頭を覗かせている。高度を下げていくと五十里湖の輝く湖面がちらちらと見えるようになってきた。

     
眼下に五十里湖を望む      

 植生が度々変わる塩沢山の登山道だが、一服ウチワは北側が植林地となっており、あたり一面に見慣れない筒が設置されている。

     
一枚だけ変わった道標    遊雪の君手前、このコースではs珍しい岩コブ    一服ウチワ脇の植林地

 中を覗いて見ると幼木の苗が保護されているようだ。(下写真左)写真では万華鏡のように不鮮明にしか写っていないが、丈がまだ20センチも無いような苗がちゃんと植えてある。筒が動物達から守っているのだ。

     
筒の中は幼木       下山終了

 帰路は五十里湖沿いの旧道を走り、かねてより食して見たかった「ほそい」の蕎麦を求めて寄り道をした。

     
独鈷沢ふれあい広場    ふれあい広場駐車場    五十里湖、海尻橋旧道にある「ほそい」

 北海道は幌加内の新蕎麦粉を使用していると店内の張り紙に書いてある。出てきた蕎麦はよく挽かれた白い粉を使った麺で、クセのない味わいで特に突出したところは無い。ツユも平均的な味に留まっているような気がする。舌に客観的な自信がある訳ではないので一つの意見として考えて欲しいが、自分としては及第点にもう一つといった感じであった。周囲を見ると付け汁蕎麦(熱い鴨汁)を頼む人も多いようで、後からネットで見るとどうやらこちらのうほうがオススメのようであった。
 バイパスの立派なトンネルができてしまったせいで鄙びた感じのロケーション、今となっては静かな味わいを演出し、また雰囲気ある店内もなかなか良い。午後2時を回っても続々と客足が耐えない人気店であった。

  
   「ほそい」の駐車場から

概略コースタイム
駐車地発(8:24)-沢(8:53)-一服ウチワ(9:12)-遊雪の君(9:32)-1100mP(10:10)
山頂着(10:49)-休憩-行動再開(11:53)-尾根北偵察終了(11:56)-遊雪の君(13:08)-
一服ウチワ(13:18)-沢(13:29)-駐車地着(14:03)

2012年10月08日

荒海山


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 今年の夏は県境をいくつか歩いてきた。例年より幾分長かった暑さもようやく秋へと移ろうなか、夏山の登り終いとしてやはり県境の荒海山を選んだ。

 荒海山へは福島の南会津町側から荒海川上流の沢を詰めるコースが一般的である。また、栃木側は三依から入山沢を詰めて登るルートがあるらしく、一部ロープの設置などもされているという。だが、かなり不鮮明であるのと殆ど直登に近い箇所に苦労したという報告も見られる。そんなストイックな山行にも憧れないではないが、流石に実力が伴わないのは明白。無難に正規登山道を登ることにした。

 八総鉱山跡まで車を進めると既に先客2台。駐車スペースに空きはあったが、もう少し先まで行けそうだったので道幅が狭くなってきたあたりにパジェロミニを駐めた。歩き始めると程なく登山届のポストがあり、すぐその先に堰堤がある。堰堤の縁を溢れる浅い流れを渡り切ると前夜の雨水をたっぷりと含んだ一面の雑草の薮が待ち構えていた。道形ははっきりしているので迷うことはないが、本で紹介されている登山コース故に少し心細い感じもする。念の為にGPSで進路を確認しながら進んだ。

     
R352より山あいへ入る    駐車地    昨夜の雨で草が濡れている

 幾らか進んだ所で立ち止まってスパッツを付けた。背の高い草薮が服を濡らすが、カッパは面倒なので着なかった。沢を何度か渡り返しながら高度を上げていく。露岩の上に細い沢水が流れている箇所はことさら足場が悪く、垂れ下がっていたフィックスロープに大いに助けられる。
 ルートが沢を離れると、それまでの足場の悪さに急登が加勢し一層難儀するがそれも長くは続かずやがて尾根へと到達する。

     
出だしは少々薮化している    沢の中をロープを頼りに   

 尾根でザックを降ろして一息ついた。よく見ると笹に覆われてはいるものの、かすかに北に向かっていく踏み跡がある。地図をなぞると、北西の1249.5mP、その北方の1234mP、更に北西に伸びる尾根通しでR352の中山トンネル上部に到達可能な雰囲気である。(そのあと道路に降りるのはかなり難しそうだが)

 荒海山に向かう尾根道は、基本的に終始西側に少し巻くような感じで付いている。尾根の背は雑木ないし笹薮となっていて歩けない。また、登山道も笹薮に覆われていて不鮮明な箇所が時たま出現する。だが、中に隠されている道形ははっきりしているので迷うことは無いだろう。こういう道に慣れていない人は少し戸惑うかもしれないが。
 山頂へ向かう長い長い尾根道は、穏やかな区間と急登を織り交ぜながら進む。終始眺望に恵まれないため、閉塞的な雰囲気にいささか辟易気味になるが、山の深さをも醸し出す。樹木の根が張りだして歩きづらい急登区間になると、そんな鬱々とした雰囲気で一層疲労に拍車がかかるようだ。時折樹間から遠く顔を覗かせている荒海山を眺めると、まだまだ行く先の長いことを知り溜息が出る。

 山頂直下になると段々に周囲が開け眺望が広がりだす。だが足場の悪い急登ではそれを眺める余裕も無し。ここからの景色は下山時までおあずけとし、まずは山頂を目指すべし。途中、単独者2名とすれ違う。駐車地に駐めていた人であろう。

     
尾根へ到達    道形はしっかりしているが時折薮漕ぎ    荒海山が姿を現す

 笹をくぐるようにしてぱっと辺りが開けたらそこが山頂である。まずは西峰だ。360度の胸をすくような眺望が待ち構えていた。眼下に横たわる芝草山、幾筋もの沢に削り取られた彫りの深い尾根筋は寄せる荒波が波打つようである。遠くの山並みも浮島のように美しい。古の人が"あらうみ"と例えたのもさもありなん、などと勝手に妄想する。北には会津の名峰七ヶ岳がギザギザしたシルエットを見せている。堂々たる男鹿山塊の右に目をやると見慣れた高原山。多少遠いが日光連山も見渡すことが出来る。

山頂よりの眺望(安カメラに"腕無し"なので山頂の雰囲気をうまく伝えられないのが残念)

 眼下に目を移すと南西に控える1560mP、通称"次郎岳"へ伸びる稜線にも心動かされる。荒海山の栃木での呼称は太郎岳だ。ならば次郎岳も踏んでみたいと思うのは栃木県民ハイカーならではの感傷か。沿面にして僅か600m程度だが、踏み跡も見当たらず恐らく全行程屈強な薮であるこを考えると情報収集も充分でない今回は残念ながらパスである。

 三角点のあるお隣の荒海山東峰までは背丈超えの笹薮をかき分けて進む。前回の燕巣山からの県境尾根を考えれば、僅かな距離で先も見えているから楽勝なのだが、力づくに進もうとすると案外苦戦する。かがみこんで笹の下に隠されている踏み跡を辿れば楽に進めるのだ。

     
西峰山頂    眼下の1560Pが次郎岳    東峰までは背丈超えの薮漕ぎ5分位

 直線距離にして100mもないような双耳峰だから、さして眺望に変化も無いはずだが微妙に東峰のほうが良いように感じるのは気のせいだろうか。ザックを降ろしてひたすら眺望を堪能したあとは昼食とした。天気晴朗、気温も暑くも無し寒くも無し。こんなにベストコンディションな山行はなかなか無いだろう。

 西峰のほうに声がする。どうやら後続のハイカーらしいが、東峰に渡ってくる様子は無いので最後まで東峰を独占することが出来た。

     
三角点のある東峰山頂    次朗岳と西峰    手前が芝草山、奥が高原山

 西峰に渡り返すと後続者は夫婦一組と単独者一名。山頂直下で下山の2名と会っているから自分も含めて合計6名入山の賑わいだ。登山者は少ないと書かれてはいるがやはり人気の山と言ってよいだろう。

 下山を始めて気づいたのは1500m近辺から幾らか紅葉が色づいていたこと。登るときは余裕が無かったが、山頂を見上げては周囲の控えめな色づきにしばし足を止めた

     
1500mあたりから一部紅葉    七ヶ岳    山頂方面

 下山はひたすら来た道を下るのみ。足場の悪いところが続くので、下りといえども体力を案外消耗するような気がする。多少食傷気味になってきた下山路も終盤は美しい沢に癒された。まだ充分に光が差し込んでいなかった朝とは比べようの無いほどの輝く水のきらめきがそこにはある。鬱蒼とした樹間をひたすら歩く地味なコースで疲れた心身をリフレシュしてくれる瞬間であった

  
沢を降りるに従い美しい渓谷となる     

概略コースタイム
駐車地発(7:30)-荒海川源流分岐(7:58)-尾根(8:44)-1251mP(9:11)-1380mP(9:53)-
大岩(10:09)-西峰山頂(10:43)-東峰山頂(10:50)-昼食休憩-行動再開(11:41)-
大岩(12:12)-1380mP(12:26)-1251mP(13:09)-沢への下降点(13:28)-駐車地着(14:28)

2012年08月31日

鏡ヶ沼から須立山と三本槍岳


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 今年の夏に登る県北の山。三回目は那須岳の主峰である三本槍岳を目指す。

 ルートとしては茶臼岳からの尾根通しや三斗小屋温泉からが栃木側からは一般的だ。比較的行程が長いこのルートは三本槍をより那須の奥座敷たらんとしている感があるが、福島側の大峠からアプローチすると手軽なハイキングコースになってしまう。観光客が容易に山頂を目指せる茶臼岳周辺とは一線を画した裏那須の静寂を手軽に愉しむことが出来るのだ。栃木側からの車のアクセスには時間を要するが、そんなことを補って余りある程の素晴らしい山域である。

 今回は林道の終点まで車を入れる。林道大峠線のダート部分は最後の僅かな区間だけであるので車を選ばず向かうことができるが、林道最終地点手前は流石に四駆車の領域となる。前回の大倉山の時には一般の駐車スペースに止めたが、今回は様子が解っていたので終点までパジェロミニを進める。終点には今日の一番乗りのようである。

     
今日は林道最終地点に駐車    すぐ分岐    まだ薄暗い中を進む

 車止めの先にある登山道を進むと程なくして左手に向かう分岐があり、鏡ヶ沼の道標に従い笹の道へと入っていく。高い枝の先には青空広がっているようだが、まだ早い時間の登山道には薄暗さが残っている。

 笹が刈り払われた緩い道を進むとやがて荒れた涸れ沢を登るようになる。一旦辺りが開けると、まるで箱庭のように端正に配置された鏡ヶ沼と背後に控える須立山が目に入った。

     
途中から荒れた涸れ沢を登る    須立山が見えてきた    鏡ヶ沼と須立山

  鏡ヶ沼から先は急登区間だ。虎ロープの助けを借りながら細かく息を調整して徐々に高度を稼ぎやがて稜線へ到達。

 秋を思わせる稜線の涼やかな風に急登の疲れを癒され、東側には雲海、西には眼下の鏡ヶ沼と遠い会津の山々、すぐそこに堂々と横たわる流石山から三倉山への稜線。すでに贅沢な眺望を得られて大いに満足である。
 須立山へは歩く人が少ないのだろうか、何の問題も無い一本道だが若干左右の潅木がうるさいところも趣が良い。この潅木の張り出しはこのあと三本槍への登りにも終始しているので、やはりハイカーの往来より枝の成長のほうが優っているのだろう。

 程なく須立山の山頂に立つ。北側を三本槍岳の巨体に圧倒される以外はなかなか立派な眺望である。特に目を引くのが真北に突出している旭岳(赤崩山)、そして三倉山方面。旭岳(赤崩山)の右手に目をやると、以前バイクで悪戦苦闘しながら通過した甲子林道の擁壁が一直線に山腹を走っている。 

     
尾根から    東側は雲海   
     
例の凶悪な甲子林道が見える    北北東方面あの山並みの向こうは猪苗代湖か?    流石山から三倉山

 先ほど鏡ヶ沼から突き上げた峠まで戻り、いよいよ今日の登りも本番。三本槍岳を目指す。潅木のトンネルを所々潜りながら登り、一箇所だけあるガレ場を慎重にトラバースすると草丈も低くなってくる。同じ位の高さの三倉山方面が鮮やかに見渡せるようになるとすぐ山頂に到着である。

     
三本槍岳へ向かう    潅木のトンネルをくぐっていく    ガレ場が一箇所だけある
     
大倉山~三倉山の稜線が同じ高さになってきた    山頂へ到着    茶臼岳が間近に見える
     
遠く日光連山と白根山    北西方面    今日のクールデザート

  
鏡ヶ池、須立山、赤崩山    下山路からは終始流石山が大きい

 評判に違わない360度方位の好眺望を独り占めで楽しんでいると、茶臼岳方面から熊鈴の音が聞こえてきて間もなく今日初めてのハイカーと出会った。

 栃木と福島の県境の峰々は分水嶺のいただきでもある。日光の高い山に夏登るとよくわかるが、日の出と共に暖められた湿度の高い空気は霧となり関東平野側から徐々に押し上げられて二千メートルの峰々をも超えていくのである。
 山頂より大峠を目指して下山を開始した。下っていく稜線も南の谷から押し寄せてくるガスに支配されつつあった。稜線を超える風もいくらか強く、この暑い夏に天然クーラーの中を行くのは誠に快適である。これから頂上を目指す親子と交差するが、彼らが山頂を踏む時にガスが切れていれば良いのだが。


概略コースタイム
駐車地発(6:17)-鏡ヶ沼分岐(6:22)-鏡ヶ沼(7:05)-峠(7:29)-
須立山(7:41)-峠(8:01)-大峠からの尾根と接合(8:36)-三本槍岳(8:52)-
行動再開(9:28)-1826mP(9:46)-1524mP(10:32)-大峠(10:38)-駐車地着(11:08)

2012年08月24日

県境の栃木百名山、帝釈山と台倉高山


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 北部県境の山、今回は帝釈山林道の馬坂峠を起点として帝釈山台倉高山のピストン山行とした。

 最近の山行の定番スタイルとなる三時半起床、四時出発。早朝の鬼怒川温泉街を抜け川俣大橋に差し掛かったのが五時半過ぎだから、ここまで一時間半かかったことになる。効率的に行くなら土呂部から田代山林道に入ってすぐショートカットして馬坂林道へ入るべきなのだが、前日に日光土木事務所に聞いたところ、土呂部先で雨による崩壊箇所がある為田代山林道へは馬坂林道からなら入れるという。馬坂林道の出だしは川俣湖畔部を縁取るように道が付いているので、距離があって走る為には楽しくて良い。だが、今回のように先を急ぐとなるとショートカットの効く土呂部からのルートを使いたかった。さて、一番重要な馬坂林道と帝釈山林道も気を付けないとゲート閉鎖があるかも知れない。こちらも管轄の日光市栗山総合支所に問い合わせたところ、やはり土呂部には抜けられないが檜枝岐までは通過可能だという事を聞いて安心して出発した次第であった。

 馬坂林道をパジェロミニで走るのは二回目。前回は紅葉をやや逃した時期の家内とのドライブであった。今回はゆっくりと林道や風景を愉しむ訳でなく淡々と車を進める。湖畔の区間を過ぎて馬坂沢沿に差し掛かるとようやく夏の明るい日差しが降り注ぐようになってきた。朝の冷たい空気がまさに灼熱の日差しで呼び起こされつつあるといった感じだ。

 馬坂峠に近づくにつれ路面が荒れて走りにくくなってくる。日常生活で丘サーファーならぬ通勤2駆車の我がパジェロミニは、久々に4駆へギアチェンジされて水を得た魚のよう。もっともこの時点では下山後に起こる車の異変には気づく筈も無し。快調に帝釈山林道を走らせ、目的地の馬坂峠へと到着した。

 馬坂峠は綺麗な小粒の玉砂利が敷き詰められ、丁寧に駐車線ロープまでもが引かれた駐車場がある。真新しいトイレもあり、素晴らしく(お金をかけて)整備されており、更にこの先の檜枝岐に抜ける区間も砂利道とはいえフラットなので四駆車ならずとも注意すれば問題なく走行出来るような道が続く。比べると栃木県側は度々通行止めになるのも頷ける内容だ。宇都宮からだと川俣から悪路を承知で四駆で来るか、あるいは檜枝岐経由で大回りするか、いずれにせよアプローチに難儀なエリアであることは間違いない。

     
帝釈山林道       馬坂峠駐車場は整備されている

 先着は車一台。既に出発している。自分も支度が終わるとまずは帝釈山側へと進む。

 今回も『冷たいもの』を用意してきているのだが、帝釈山ヘはオーバースペックな物はベースキャンプよろしく車中に残置していけるので楽である。

 登りだしから木の階段。所々途切れるがかなり上の方まで続いている。後ほど登る台倉高山も途中に同じタイプの木製階段が設置されている。里山によくあるような歩きづらい階段では無く、足運びを合わせやすいところが好感が持てる。部分的に直登に近いこの最短ルートならではの整備である。

 木々の中をひたすら登っていき、もうすぐ山頂かと思うと突然ぱっと眺望が開ける。山並みの目覚めから間もない大パノラマにしばし立ち尽くす帝釈山の山頂である。文字とおり360度眺望であり、朝の澄んだ空気が凛とした雰囲気で景色をより一層引き立たせている。尾瀬や日光、高原山までもが全て見渡せるこの贅沢さ。眼下に拡がる谷は絨毯を敷き詰めたような豊かな広葉樹の森である。紅葉に彩られたよく晴れた朝にまたこの山頂を踏んでみたいと思った。

     
まずは帝釈山へ    こういう木の階段が多い   
     
燧ヶ岳    白根山    日光連山
     
高原山と男鹿山塊    北側の福島の山並み    これから向かう台倉高山方面

 登ってきた道を慎重に下り馬坂峠へ。途中一組の中年夫婦と出会う。先を行く御主人のほうは若干息があがっている様子だが後ろの奥さんは至って元気な様子。「早いですね」と言葉をかけられて交差した。

 帝釈山登山口の正反対にある箇所が台倉高山の登山口である。やっつけ仕事のように帝釈山をピストンしたせいか若干疲労が感じられるが今日の本命はこちら。ただ、ここのところ大気の状態が不安定にて連日の雨雲レーダーを観察する限り午後1時には下山したいところだ。あまりゆっくり登るわけにもいかない。

 馬坂峠から三段田代までの主たる登りの区間から先は地図の上では尾根通しである。稜線を外して巧みに小ピークを巻きながら進むこのルートは、木の中を進むので尾根を歩いているという感じがあまりしない。もっともこの時期は暑い日差しから守ってもらえるので楽といえば楽。今のように林道が無かったら、アクセスが難しく滅多に人が入ることが出来ないであろうこの山域は深山の趣が色濃い。

     
馬坂峠から最スタート       樹が不思議に寄り添っている

 登りが一段落すると2033mP付近の三段田代で眼前が開けた。小さな湿地帯であるがこの時期は水は枯れ果て白い小さな花が咲いている。森の中を歩いてきたせいか青空が目にしみる。強い日差しを仰いだ後、目深に帽子をかぶり直した。

     
三段田代    苔むす倒木の道    摩訶不思議な古木

 実際の距離よりも心持ち長く感じられた尾根筋歩きも、左手の樹が途切れだし遠くの山並みが見え始める頃、忽然とラスボスのような山頂の姿を見るとその行程の終わりが近い事を知る。鋭敏な三角錐のその姿は、さほど大きくもないが「深山の果てに鎮座まします」という雰囲気に満ちているようなそんな神々しさのようなものを感じたのは自分だけであろうか。

 山頂からの景色はガイドブックでは360度と言われているが、実際は何本か邪魔な木の背が高くて今ひとつすっきりしない。おまけに日光連山も上部にガスが掛かっているようだ。単純に眺望だけを考えると、ほぼ同じアングルで遮るものの全く無い帝釈山のほうが上のように自分は感じた。もっとも、台倉高山の魅力は先程から書いているようにルートの山深さにあると言ったほうが正確かもしれない。

     
山頂がやっと見える       会津駒ケ岳
     
白根山もより大きく    高原山は雲に隠れるも手前の明神ヶ岳    真ん中奥が帝釈山、その右手が田代山方面

 もう少し日差しが優しければ山頂でとりたかった昼食だが、少し下った木陰で休憩とする。前回は冷やしうどんと沢山の蓄冷剤や凍らしたジュースなどで重いザックに苦労したが、今回は最小限に留める。それでも冷やしプチトマトは程よい酸味で喉を通る度に元気が湧いてくる逸品だ。

 木陰に流れ込む涼気にうとうとと昼寝でもしたい心持ちだが、午後の天気が気にかかるところ。再度山頂へ行き、風景を堪能して下山の途についた。

 下山路では登って来る年配夫婦と単独者一名とすれ違う。北側の空に黒いものが幾らか見え始めているのに、彼らが滑り込みセーフで下山できることを願うばかりであった。

     
三段田代にて       下山路

 やれやれ無事に馬坂峠へと帰還すると次の瞬間己の目を疑った。

 パンクしている。

 長年車に乗っていろいろな所を走ってきたが、パンクを経験するのはこれで二回目だ。一回目は、金欠の学生の時に乗っていた古い車。いかにもといった感じのボロボロのタイヤであった。
 今回は、朝方の馬坂林道と帝釈山林道でよほど負荷が掛かったのだろう。特に訝しがることも無いが、とにかく下山後の疲労した体にタイヤ交換はやはりムチ打つような辛さだ。

 兎にも角にも今回の山行は、ハードな林道走行もパンクも全部セットで山登りだったのだなと考えるとふと苦笑い。文字通り山あり谷ありか。

 見上げると空はいよいよ暗さを増してくる。遠くかすかに雷鳴も聞こえる。さぁ、雨に追われる前に峠から降りよう。

     
なんとパンク!       馬坂峠のトイレはソーラー発電でハイテク

概略コースタイム
馬坂峠発(7:05)-帝釈山頂上(7:48)-馬坂峠着(8:26)-
鹿の休み場(9:15)-三段田代(9:43)-台倉高山頂上(10:42)-昼食休憩-
行動再開(11:03)-三段田代(12:10)-鹿の休み場(12:35)-馬坂峠着(13:07)

2012年07月27日

裏那須の三倉山目指すも敗退


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 今年の夏の山登りは、今まであまり歩いていない県北の那須をと考えていた。手始めは三本槍とその周辺ということになる。三本槍方面なら県央に住む我々は茶臼岳からのアプローチが一般的ではあろうが、福島側から林道を車で詰めて大峠からのアプローチが自分としては心惹かれる。

 大峠から考えられる登山コースの中では、流石山、そして栃木県最北端の百名山である大倉山、更に福島県側の三倉山へと続く縦走路が素晴らしいと聞く。特殊な気候ゆえ、標高1800m程度で森林限界を超えてしまうこのルートは手軽に天空の稜線歩きを楽しめるコースなので人気があるのだ。また、7~8月はキスゲをはじめとした高山植物に飾られた稜線であることもよく知られている。

 宇都宮から車で大峠を目指すのはかなり距離があるので覚悟が必要である。とは言っても高速を使えば2時間あまりでアプローチ可能なのだが、この暑い時期の登山を考えるとやはり早朝に到着したいところだ。逆算して自宅を出発したのが朝4時、白河ICで高速を降りて大峠の林道終点に着いたのが6時頃である。林道途中で車窓から見える眺望からして既にその山深さに圧倒されるのであった。

 数日来の猛暑はこんな山奥の早朝にも灼熱の片鱗を感じさせている。あと1時間早く出発すればと少し後悔した。もっともこの時点では今日の登りで予想外に暑さに苦しめられることを知る由も無かったのである。

 林道終点手前の駐車地(下郷町が車両侵入を制限しているこの地点の更に先に本当の林道終点がある)には2台の車が止まっており、既にハイカー達は出発している。早朝出発組なのであろう。支度をしていると後からもう一台やってきた。中年の単独者と二言三言会話を交わす。

 大峠へのアプローチは古の会津中街道跡をたどる道である。{詳細はWikiを参照されたし}。当時の面影かどうかは定かではないが、石畳の痕跡と思われる道がしばらく続く。やがて「大峠終点」と案内板が立つ所に車止めがあるといよいよ登山道となる。

     
金曜の早朝から自分を含め4台    石畳の古道を行く    大峠林道終点

 登山道に入っても依然石畳の痕跡であろう緩やかな道を進んでいくと、段々と山道らしくなってくる。勾配が急になりじんわりと汗ばんでくる頃ふと視界が開け、朝の陽光が眩しく降り注ぐ大峠に到着。峠を吹き抜ける爽やかな風に癒されながら一休みした。右手を見上げると笹の中に続く綺麗な一筋の登山道が上へ上へと続く。

 流石山までの最初の標高稼ぎが今日のルートで一番辛いところだ。一歩一歩確実に慎重に足を運ぶが、既に森林限界を超えた稜線は夏の日差しを遮るものも無く、頼りは時折吹き抜ける風である。過去の自分の山行ではあまり縁が無かった花も、数こそ少ないが登山道の周りに可憐に咲き誇り急登の疲れを慰めてくれる。

     
大峠の朝日    笹原を登る    花の登山

 高度を上げながら振り返ると、覆いかぶさるような三本槍がどんどん大きくなってきた。沼原の調整池が目線と同じ位の高さに見えるのが面白く、その横から端正なシルエットで裾野をなす白笹山も美しい。
 初めの急登から開放されてやや勾配が落ち着くと、その先にはなだからかで胸のすくような見事な稜線が延々と続く。目指す初めの三角点ピークが流石山であるが、山頂然とした感じではなく白笹山の山頂が登山道の途中に忽然と現れたのとよく似た雰囲気の静かな山頂に到達した。

     
沼原の調整池が見える    その先が流石山   

 山頂に着くまでの稜線眺望があまりにも素晴らしかった故に、流石山の山頂の凡庸なることはさして気にならない。広大なパノラマ稜線はまだまだ続く。


 次なる目標ピーク、大倉山へ到達したが何故か今日は調子が今ひとつ。暑さのせいか給水タイミングが適切でない気がする。水負けしてしまったのか。なんとなく体がだるくて調子が出ない。今回調子が出なかったもう一つの理由は荷の重さのせいもあるのだ。

 暑さを見越して冷たい飲み物、冷たい食料にこだわって保冷水筒3本(氷入り)と銀マット素材のクーラーボックスに保冷剤4片をザックに仕舞っていた。背負う前にちょっと重いかなとも思ったが、ここのところ歩き慣れていなかったことを計算に入れると確実に過重量だったようである。

 そのかわり、苦労して運んだ冷やしうどんの美味いこと美味いこと。氷水で割ったタレ汁の冷たさも疲れた体にキーンと染みこむ。トッピングの冷えたプチトマトの酸味がまた良い。

 ということで、今回は登山が目的か、山で冷たいものを食べるのが目的かわからない本末転倒な結果になったが、これはこれでヨシとしよう。幾らかの反省点を得たので次回は軽量化をしながら山に冷たいものを持ち込むことができるだろう。

     
写真が飛んで大倉山    今日はこれを担いだので重かった    冷やしうどんと自家製プチトマト

 大倉山の山頂は潅木に囲まれて少しすっきりしない眺望であるが、背の低い潅木ゆえにつま先立ちすればグルリと眺望を得る事ができる。地図ではあともう一歩の三倉山は、手前の三角点峰の一の倉、次のピークが二の倉(本倉)、最後のピークが三の倉となる三つ子ピークである。一番標高の高い二の倉が山頂となるのだが、大倉山から見える二の倉は挑発的な鋭角ピークである。暑さ負けしていなかったら是非三の倉までを踏んでみたかったものである。だが今日はここまで。無理をして下山時に怪我などしてもつまらない。

     
山頂より北側    三倉山の挑戦的なシルエット    男鹿山塊が堂々と続く

 大倉山からは往路のピストン。下りで精神的な余裕もあり、雄大なパノラマを楽しみながらの下山となる。稜線に忽然と現れる池塘なども珍しい。

     
大倉山からの下山路にて    池塘の向こうは白笹山    流石山へ戻る
     
南会津の山並み    独特な山容の旭岳(赤崩山)    三本槍が大きい

 流石山から高度を下げていくと、登りはこんなに急な所を登ってきたのかと改めて知る。本当はとりわけ急ということでもなく、周囲に遮るものがまったく無いので急に感じるだけなのかもしれない。照りつける日差しとコンディションがそう思わせたのかもしれない。

 今日は金曜日なのであまり人に会わないだろうと思っていたが、さすがの人気コースで対向後続あわせて10組程度はあっただろうか。単独者は花の写真が目的で歩いている人も多く、中にはガッシリした三脚を据えてじっくりと撮影をしている人もいた。

 遅い時間に出発した人が喘ぎながら大峠から登ってくる。きついのはここだけですよと声をかけると、そこに見えるのが流石山の山頂ですかと問われた。ピークを幾つか越した先ですと答えると、少し落胆した表情を見せたが次の瞬間には山を愉しむハイカーの顔に戻り力強い足どりで登っていった。雲が幾らか多くなってきたので、優しい日差しがきっと彼を助けることだろう。

 大峠に無事降り立つ。朝同様、峠の風にしばし休息を得た後、古道を下る。帰路はバリエーションルートのほうを選んだが、夏の日差しから優しく守られた鬱蒼とした木々の中を下っていくのであった。

  
大峠へ戻ってきた    木立の中は涼しい

概略コースタイム
駐車地発(6:18)-大峠(7:05)-流石山(8:34)-大倉山(9:37)-食事休憩-
行動再開(10:08)-流石山(11:08)-大峠(12:11)-駐車地着(12:53)

2010年10月24日

林道ツーリングと田代山


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 バイク仲間であり山仲間でもある"なおべぇ"さんからお誘いが来た。

 「バイクで林道を走って田代山に登りませんか?」

 田代山は栃木と福島の県境に位置している。山頂に広大な湿地帯を擁し、そこから雄大な景色を望む事が出来る有名な山である。僅かな残雪を残す初夏から湿原を花が覆い尽くす時期は特に人気のスポットで、栃木の登山者としては一度は訪れてみたいと思う山でもある。

 最短コースは猿倉登山口から標高差+600mを2時間で登り、1時間半で下ることが出来る。登山道は良く整備されていて迷うような所もなく、山歩きとしては大変お手軽と言えるのだが、登山口までのアプローチがなかなか大変なのである。

 栃木県側からは、栗山から土呂部を経て砂利林道を延々と走ることになるが、場合によってはこの林道が閉鎖されることもあるらしく、通行が楽な福島県側から向かうとなると宇都宮から大回りになってしまって大変時間がかかる。

 今回の企画はそんなプローチの大変さも、栃木側からの正攻ルートをバイクの林道走りをで楽しんでしまおうという、バイク+山、一粒で二度美味しい的なものである。

 大笹牧場に朝7時半集合を目指す。昨日まではずっと天気が予報が良かったのに、日曜日朝の予報は曇りのち雨と一転。家を出ると東の空は恨めしい朝焼けのオレンジである。日光街道を西走していくと、時折気まぐれのように雲間から射す日差しがもどかしい。太陽と雲の駆け引きはどうやら今日は雲の優勢のようだ。後は雨が降らないことを祈るばかりである。

 今市から小百を抜けて大笹牧場へ向かう。牧場への裏道のようなこのルートは、観光ルートとしてのデフォルトである「旧霧降有料道路」が無料化された今もなお自分のお気に入りコースである。鄙びた感じがするこの小百ルートこそ峠を越えるという実感を味わえるからだ。

 朝の冷たい空気に山ズボンがちょっと厳しかった。上半身は初冬レベルのウェア構成なので寒くは無い。だが下半身はちょっと見当違いであった。普段バイクに乗っていても、真冬以外はGパンで走ってもさほど寒くはないものだが、山ズボンは機能的に風通しや速乾性が優れておりこれが仇になってしまう。要は風通しが良すぎるのだ。

 さてさて、大笹牧場で3名の同行者(なんと往年のレプリカバイク、NSR250で林道を走るという猛者が一名)が集合して出発する。自分は下半身が辛いのでバイクカッパのズボンを履いて走り出した。

 大笹牧場から栗山へ降り、土呂部から田代山林道へとバイクを進める。ダート入り口で一旦休憩としたが、既にこのあたりも葉が美しく染まっていて目を楽しませてくれる。

 休憩箇所でもう一名の参加者と合流し、ダート区間は各自フリー走行となった。林道ビギナーの自分は大人しく景色を楽しみながら進むべし。

 林道からの眺めは素晴らしく、自然林の織り成す紅葉もまさに盛り。県境の山並みもまた素晴らしい。以前パジェロミニで走った事がある田代山林道であるが、やはり風を感じて走ると景色も一層際立って見えるものだ。

     
ダート入り口で休憩    林道からの眺めは素晴らしい   
     
     

 車での参加組と登山口で集結し、約20名のパーティとなる。我らがグループ以外にも沢山のハイカーが登っていく様子から、この山の人気が伺い知れる。

 巨大な熊鈴、鈴というよりもはや鐘といったほうが正解かな。登り始めの一箇所と、その先にもう一箇所に設置されている。賑やかに鳴る鈴の音を、この山深いいずこで熊が聞いていたかは知る由も無し。

     
登山口へ集結    登山開始!    これだけ人が多いと熊もさぞ喧しかろう

 登山道は一本調子の登りで、結構斜度がある。歩き慣れない人はきついかもしれないが、道が荒れて歩き辛いなどということとはまったく無縁で、各自のペースを維持すればさほどてこずることも無い筈だ。

 小田代まで登ると暫くは平坦で楽が出来る。その後に最後のアルバイト区間を登りきれば雄大な山頂湿原が待ち構えている。

     
一本調子の登りも一休み       気持ち良い湿原歩き

 空は相変わらずどんよりとしているが高曇りで遠望は思いのほか利く。尾瀬の山並みがしっかりとその全容を見せてくれていたのは嬉しかった。湿原の草花はもはや冬支度へと一足先に向かったようだが、一面の枯れ模様もそれなりに見ごたえのある情景であった。正直に告白すれば、やはり花が咲き誇る時期に・・・と思ったが、それは次回の楽しみにとっておこう。

 避難小屋前で所狭しと昼食タイムとなった。こんな大人数で山ご飯を食べるのは小学校の遠足以来40年ぶりくらいかな?
参加者の方が重い荷物を担ぎ上げてふるまってくれたホットケーキ。中年親父に気さくに話しかけてくれる若者達に触れ、久しぶりに人のぬくもりを感じる事の出来る山行であった。

     
避難小屋前で食事    ホットケーキをご馳走になった    下山路も景色が良い

概略コースタイム
登山口発(10:08)-小田代(11:23)-田代山周遊道(11:50)- 弘法大師堂着(12:07)-
昼食-行動再開(13:06)-周遊道終点(13:21)- 登山口着(14:43)

2010年10月11日

那須の紅葉巡りは辛~い一日



-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --
今回はログ収集が出来なかった為、予想ルート

 春の花と秋の紅葉を迎える頃は、山歩きをする者にとって楽しみな時期である。これがなかなかタイミングが難しく、相手が自然だけにベストコンディションで山に行けるとは限らない。ましてや未だ現役として社会人生活を送る者として、思い立った時に山へ向かうことが出来る身分では無い。本当は多少の悪天なども気にしなければよいのだが、どうも天気がすぐれないと腰があがらないという贅沢な気持ちが実は障害だったりするのである。

 結局他人の山行報告を読んだり、天気に一喜一憂したり、さらに野暮用などにも逡巡しているうちに花も紅葉もいつしかすっかりその盛りを過ぎてしまうという繰り返しであった。そんな優柔不断な自分にいつも舌打ちしていたのだが、今年は違う。

 ブログ仲間のリンゴさんが、一週間程前に色づき始めた那須の風景を紹介していたのを見た翌週、連休最終日はなんと好天予報である。自分もいよいよ燃え盛る景色にまみえることが出来そうだ。
 那須と言えば紅葉で有名なのは姥ヶ平だ。去年は沼ッ原から白笹山へ登り南月山経由で姥ヶ平へ降りたが、紅葉はいささか盛りを過ぎていた。それでも感動的であったことは記憶に新しい。

 今回は沼ッ原より直接姥ヶ平へ登り(このコースが普通らしい)、紅葉を堪能した後は牛ヶ首から朝日の肩、熊見曽根、隠居倉へと向かう。下山は三斗小屋温泉から沼ッ原へと周回するコースである。

 ここ数日TVなどで那須の紅葉が盛りを迎えたことが報じられていたことに加え、土曜日から体育の日までの三連休の前半二日は雨予報で外出を控えていた人達が一斉に繰り出すのだから、駐車場も混雑を極めることは想像に難くない。予想通り、沼ッ原に着いたのが朝の7時前だというのに既に駐車場は満車であった。少し離れた未整地の駐車場へなんとか駐めることが出来たが、いやはや流石に紅葉のメッカだけのことはある。すれ違った登山者から聞きかじった話によると、峠の茶屋側の第一駐車場は深夜の2時半には既に満車になったらしい。登山口に近い場所にすんなりと車を停められただけでもありがたや。

 姥ヶ平へ向かう道は駐車場の左奥を行けばよいのだが、以前白笹山を登った時に脇に分岐していくショートカット道の存在に気づき、地図に明瞭なこの裏道を歩いてみたいという衝動にかられた。GPSにはこのラインを入力していなかったのだが、往来は少なくとも地形図に道が記入されているくらいだから踏み跡探索は容易だろう。コース途中の難所は地図を見る限り無さそうである。だがこの後、この判断により辛い藪漕ぎを強いられることになるとはこの時点で予想だにしていなかった。

 その如何にも怪しげな分岐には道標の類は無いが、GPSで見ると地図とピッタリ一致しているので間違いは無い。最初のうちは若干荒れた感じのガレ道だが、進むに従い段々と草が生い茂るようになってくる。だが足元の道形は未だ明瞭である。ストックで草を払いながら軽快に進んでいくと、やがて広い湿地帯のような所へ出た。この時点で道形も踏み跡も消失しているが、依然としてGPSを見ると進路と道はシンクロしている模様である。登山道でさえ喧騒に包まれているというこの那須で、まったく閑散としたこの荒野はまるで別世界のようだ。

 いよいよ進路が閉ざされてきたので、まずは行く手を阻む笹薮の丘に一考する。見渡す限り踏み跡すら見つからない。いや、あってもこの背丈ほどの笹では見分けもつかないだろう。ここを突破すれば登山道に合流するのは明らかである。GPSで進路を決めるが、どうにも勾配がきつく難しそうなのでストレートは諦めて若干巻きながら進んで行った。背丈を完全に越える藪は過去に古賀志山で経験しているが、あの時は尾根を忠実に下るだけだったので比較的簡単だった。だが今回はなかなか手強い。しなる笹を分けるのに力が必要なのと、地面が見えないが故に斜面への感が狂うのであろうか、思いのほか体力を消耗するものである。右に左へと千々にルートを取りながら進んでいくが一向に登山道に近づかない。直線距離にして僅か百m程度しかないのにである。これが見通しの良い植林地やせめて腰高程度の藪なら簡単なのだが。

 どうにかこうにかトラバース状の踏み跡に接合し、これを追ってやがて登山道に合流することが出来た。ほっとして登山道を登り始めたのも束の間、ここでもまた大きな間違いに気付くことになる。

 どうにも様子がおかしい。あれほど人が多かった筈なのになぜか登山者の姿がまばらである。改めてGPSを取り出して見たら唖然とした。どうやら日の出平への道を登っているようだ。それも標高にして100m近くも。「コース変更」が一瞬頭をよぎったが、初志貫徹すべし。泣く泣く来た道を下った。

     
まずは薮??    別世界である    地図通り湿地がある

 沼ッ原から三斗小屋温泉分岐をへて姥ヶ平へ向かう銀座コース(自分で勝手に命名)のハイカー渋滞に並びながら歩いていると、先ほどまで笹藪と格闘していたのが嘘のようである。既に一座登り終えてきたような心持だが、まだやっと今日の出発点に立ったようなものである。

 徐々に高度を上げていくとみるみる葉の染まり具合が美しくなってくる。茶臼岳と姥ヶ平のお決まりコンビショットは予想を裏切らずに目に鮮やかである。人が多いのはこの際辛抱するしかないか。

     
全山燃ゆる       姥ヶ平より茶臼岳

 牛ヶ首へ登る途中、振り向いて姥ヶ平を見る回数が多いのは決して疲れているからではない。ご覧の通りのすばらしい紅葉が青空に映えているからだ。

 ロープウェイからやってくる観光客で賑わう茶臼の鉢廻りから峰の茶屋までを通過し、朝日岳方面へと向かう。こちらもクサリ場などは大渋滞だ。だがここから先はガスが掛かっていて眺望は得られそうにもない。

     
姥ヶ平を上から    朝日岳から鬼面山への稜線    朝日の肩より

 熊見曽根分岐より隠居倉方面への稜線に分け入ると途端にハイカーの数が少なくなり、落ち着いた趣になってきた。三本槍方面は向かう人の姿が多いのに、こちらはあまり人気が無いようである。それでも景色はなかなか素晴らしい。ガスで生憎北の景色は無かったが、剣が峰西側の谷の紅葉が丁度見頃となっている。自分にとっては何よりも静かなのが一番である。

 緩やかな起伏を幾つか超えて霧深き隠居倉山頂へ到着。360度眺望が望めるということだが、今日は残念なことに全方位ホワイトアウトしてしまっている。数組のハイカーと共に自分もザックを下ろして軽食小休止とした。

     
熊見曽根への稜線    剣が峰西側の谷    隠居倉山頂

 隠居倉からの下山路は三斗小屋温泉へ向けて下るが、こちらの谷間もまた人知れず燃える紅葉が素晴らしい。


 途中、ぽつねんとある噴気口を通過してしばらく下ると、程なく温泉宿の屋根が見えてきた。山小屋を考えれば不思議もないが、かくも山奥によくも建てたものよと思う。かつて会津への荷駄が行き交う交通の要衝として賑わい、数件の旅館が存在したとういう。当時の会津中街道は沼ッ原より北進して麦飯坂を越えた後、三斗小屋宿を経て東進して三斗小屋温泉へ。ここより再び北に進路を取って大峠を越えて会津へ入るというものであったという。いくら切り開かれていたとは言え、今日(こんにち)のハイカーの山遊びとは違い、かくも山深き場所が商業の動脈であったことを考えると感慨深いものがある。

 宿の水場で顔を洗い喉を潤してさっぱりした後、足元の古びた道標、「沼ッ原へ至る」を見て進む。ここで本日2度目の失敗。他に道らしい道も見当たらなかったのと、地図をよく見ていなかったのが敗因である。西へ西へと下るルートの途中、件の大峠への分岐を見た時にもっと早く気づくべきであった。15分も下った頃だろうか、やはりGPSを見て愕然。やれやれ三斗小屋の旧宿場方面へ降りてしまっているようだ。流石に足取りが重くなってきたが、まだまだ余力充分と自分に言い聞かせ、カラ元気で温泉へ復帰。

 南へ下る道など何処にあるのだろうと見渡していると、宿の居並ぶ真ん中あたりに大きな道標があるではないか。ヤレヤレである。

 三斗小屋温泉からの山道は、はじめのうちは平坦な下りで心地よい散策気分。また、既に午後になっているのにまだまだ登ってくる人も多い。見るからに今晩温泉に投宿するような雰囲気の高齢者夫婦も多い。連休も過ぎた山峡の鄙びた温泉の静かさは如何ばかりか。考えるだけでも溜め息が出そうになる贅沢さだ。せめて休日でよいから泊まってみたいと切に思うのであった。

     
隠居倉から西へ下る    静かなる紅葉    三斗小屋温泉
     
うまい水であった      

 三斗小屋温泉から沼ッ原までは道標のタイムで約1時間半。一旦沢を跨ぐので、かなり高度を下げた後登り返しをして沼ッ原~姥ヶ平ルートへ接合する。今日は道間違えのお陰?で随分登りの標高差を稼いだ気がするが、案の定終盤に疲れが出て来た。朝、藪漕ぎで体力を消耗した後に間違えて登ってしまった日の出平コースへの分岐を見た時に、ふとGPSを見ると、おやおや、「ログ採集のスイッチが入っていない!!」事に気がつく。

 悪いことは重なるものだ。いや、別に怪我をしたとか本格的に遭難したとかそういうことでは無いのだが、今日は全てにおいてツイて無い。いや、本当は全て自分が不注意だっただけなのである。メジャーな山域という気の緩みからか、地図をよく読まずにGPSも進路に迷ってから出す。コンパスを出して精査もしない。ないないづくしであった。FKDに買い物に行った時、地下駐車場で自分の車を何処に置いたか判らなくなることがあるが、あれと同じくらいに情けない結果であった。

 まぁ良いだろう。今回は勉強させて貰ったことにしよう。次回は全力でこのメジャーな山域を歩いてやろうと強く胸に秘めるのであった。

     
古は会津への通過点    立派な道標、流石那須!    白笹山とパジェロミニ

2009年10月11日

ライド&ハイク(Ride&Hike)


-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 Ride And Hike

 バイクで登山口まで行ってハイキング。この時期大混雑がデフォルトな那須エリアへのアプローチはこれしかないっしょ!

 てな訳で、初の試みを敢行す。目的地は、混雑確定の表那須を避けて沼ッ原だ。先週がピークであった姥ヶ平の紅葉のせめて残照で良いから一目見たいと思い向かうことにした。姥ヶ平だけで紅葉よりも人酔いしてしまうのは嫌。どうせならばと、コースは白笹山から南月山廻りである。

 バイクでアプローチする場合不安が2点あった。

その1.
  トレッキングシューズでギアチェンジが問題なく出来るか?

その2.
 ウェアーはどうするか?この時期結構寒い。バイク用を着ていっても登山時は脱がなきゃならない。勿論持ち歩きは×

 シューズについては、ソールが厚いので少しシフトフィールに違和感があったが馴れれば問題なし。靴紐を緩めていればほぼ問題なしである。登山口で履き替えることも考えていたが杞憂に終わった。今回はオフロード車(ジェベル)での出撃なので楽ちんライポジにも助けられたようだ。

 問題はウェアーだった。
 携帯性を考慮して、薄手のライダーズ風ジャケット(もどきの街着)をバイクと登山で共用したが、襟元がしっかり防風出来ていないので走っているときはいささか寒い。荷物を減らす為にヤッケを家に置いてきたが、南月山~牛ヶ首への区間は強風と低温で耳が痛い程寒い。帽子は飛ばされそうになるし、フード付きのヤッケが欲しい所だった。結局"走る"にも"歩く"にも中途半端な装備となってしまった。もう少し気温が下がっていたら通用しなかったかもしれない。リアのキャリアボックス装着計画を早めたいところだ。

 さて、沼ッ原までの道のりであるが、混雑などまったくあり得ないような閑散としたもの。もとより"表"のようなことは無いだろうと思ってはいたが、全く車の流れが感じられない。これなら無理してバイクで来ることも無かったかな、と思って駐車場に着くとやはり溢れた車の路駐が延々と続いていた。路駐の列を横目に悠々と駐車場最深部までバイクで乗り入れゴールイン。冷たい思いをして1時間半あまりも走って来た特権であろう。

 マイクロバスなども数台駐まっていて、かなり大量のハイカーが次々と出発していく。その殆どが直接姥ヶ平へ向かっていくなか、一人白笹山への登山口を踏み出す。

 那須山域全体の中ではかなりマイナーな感じが漂う白笹山への道。期待を裏切ることの無い静かな佇まいで迎えてくれた。地図で見るとかなり等高線が込んでいるが、山全体を大トラバースしながら、かつジグザグに付いた道は案外楽に登れるものだ。

     
スタート    笹の中の穏やかな道を行く    陽差しも鮮やか

 高度が上がってくると、南側の景色や駐車場のある沼ッ原調整池のすり鉢のような姿を見ることが出来る。登山口から南東に向かう初めの大トラバースが終わると一転して北へ向けたトラバース。ジグザグを繰り返して白笹山の肩に乗ると日の出平方面の大きなシルエットが見えてきた。地味ではあるが変化のあるコース、なかなか良いではないか。

     
南西方面    沼ッ原調整池    日の出平方面

 ガイドブックで読んでいた通り、本当にあっけない白笹山の頂上。道端に道標があるのかな?と思ったらそこが山頂だった。

 まるで通過点のような山頂で汗を拭い、一息ついたらそのまま東へとルートを辿る。程なく、眼前の黒尾谷岳から南月山に向けた尾根に彩られた紅葉、そしてその先に拡がる那須野ヶ原の景色が目に飛び込んできた。この景色を見ずに白笹山からピストンで沼ッ原に戻った人は大いに残念であること間違い無しであろう。

     
白笹山頂上    黒尾谷岳    振り向いて白笹山

 それにしても生憎なのは風の強さである。登り初めは幾らか青空も見えていたが、標高を上げるにつれ強風にガス。前日の天気予報で期待をしていたのに少し心が折れそうになるが、それでも雨が降らないだけラッキーだろうと思い直す。

 白笹山頂上手前で追い抜いたグループ一組。対向が、単独2名という静かな那須歩きもそろそろおしまいである。何やら道を塞いで弁当を広げている団体さんを跨いで通過すると、強風に絶えながらも鈴なりのハイカーが食事を取っている南月山の山頂だ。

 一人分のスペースをやっと確保し、自分も腰を下ろして食事組の仲間入り。山頂北側のガレ場を続々とハイカーが登ってくるのが見える。雨は降っていないが皆とりどりにカラフルな雨具等着込んでいる。砂礫の荒野にまるで花が咲いたようだ。
 成る程、食事を終えて歩き出すともの凄い強風。飛ばされそうで体を支えているのが辛い。指や顔が冷たくて痛い。まだ10月の上旬なのに流石に風の通り道で有名な那須岳である。

 牛ヶ首への道のりは、樹林に入ると一旦強風から守られてほっとするが、いよいよ牛ヶ首となると一層激しい風に曝されるようになる。いざ辿り着くと、もはや吹き飛ばされないようにじっと耐えるのが精一杯。下りの体制で重力のおもむくままに体を投げ出しても足が地面に着かないという大変貴重な体験を生まれて初めてした。小さな子供やお年寄りなどはあっという間に吹き飛ばされてしまうのではないか。長居は無用である。直ちに姥ヶ平目指して降下を開始した。

     
気持ち良い笹尾根    強風の月山頂上    牛ヶ首が見えてきた

 姥ヶ平付近の紅葉はやはり一週間前に盛りを迎えていたようである。荒涼と風が吹きすさぶ中、残された時間を惜しむように誇らしげに輝いているように感じたのは自分だけであろうか。四季の移ろいとはこんな所にもあるのだなと柄にも無く感傷に耽る。時折雲が切れて拡がる青空がなんとも清々しい。

     
姥ヶ平方面       ひょうたん池分岐

 分岐点から木道を渡ってひょうたん池に寄り道をするが、綺麗な紅葉と茶臼の姿をカメラに収めることが出来て満足である。

 姥ヶ平から先は遊歩道かと思える程によく整備された道を下っていく。途中奇岩あり、思わず足を止めたくなる実りや小さな葉、心地よい小径を歩くのが楽しい。

     
ひょうたん池から       奇岩あり
     
      心地よい小径

 三斗小屋分岐を過ぎていよいよ標高が下がってくると雲が切れて陽差しが戻ってきた。見上げた青空と浅黄色の葉が美しい。一面の笹原にきらめく光がまるで宝石のようだ。砂礫で荒々しい茶臼や朝日岳もよいが、こんな那須もまた素晴らしいと実感出来る山行であった。

     
      今日の相棒

概略コースタイム
駐輪地発(9:30)-白笹山(10:46)-南月山(11:29)-昼食休憩-再出発(11:45)-日の出平(12:06)-
牛ヶ首(12:20)-姥ヶ平(12:54)-ひょうたん池(13:02)-三斗小屋分岐(13:21)-駐輪地着(14:39)

2009年07月20日

念願の朝日岳

-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 記録を見てみると、茶臼に初めて登ったのが丁度一年前の7月21日。今日と同じ祝日の「海の日」である。特別に狙った訳ではないのだが、奇しくも同じ旬に登るとは、体内登山時計でも内蔵されているのか。

 という冗談はさておき、今回は昨年断念した朝日岳リベンジである。初めの登りをロープウェイに委ね体力温存。出来うる事なら三本槍ピストンも狙いたい所だ。

 朝日岳リベンジを共に狙うH君の車を、混雑極まる駐車場にやっと押し込みロープウェイに観光客と共に乗り込む。山頂駅に着くとひんやりとした冷気が体を包んだ。昨年は半袖で日焼けしてしまい大変な思いをしたが、今年は長袖のメッシュウェアだ。若干肌寒い程だが、じき体が温まればOKだろう。念の為にヤッケも持ってきて正解だ。

 だらだらとした登りを詰めると牛ヶ首。今日も茶臼岳は猛々しく噴煙を吐いている。エネルギッシュな胎動を感じながら、外輪を進み峰の茶屋跡へ。

 H君は先日の高山で股関節の違和感(痛み)が出ており、今日は峰の茶屋跡で進退判断という予定であったが、この僅かな区間の登りでもやはり痛みが出てしまったようだ。朝日岳までは鎖場もあるしエスケープルートも無いので危険と判断。彼自身も納得してゆっくり下山する事にした。

 山頂までは往復でおおよそ1時間半程度。彼をそれだけ待たせるのは心苦しかったが、殆ど汗もかいていないこの段階でついえるのもひどく残念であった為、自分一人で朝日岳をやることにした。

     
今日も茶臼岳は雄々しい    いざ参らん朝日岳へ   

 始めの剣が峰を巻くあたりは牛ヶ首周回部と似たようなダラダラした登り。段々と岩場が多くなり斜度がきつくなってくる。

 ガイドブックなどでも案内のある鎖場が途中にあったが、やはりメジャーコースとしては要注意箇所なのだろう。だが、日頃未整備里山の難所(?)で鍛えているせいか全く問題なし。

 直下の登りで乱れた呼吸を"朝日の肩"で整え、最後のガレ場を登り山頂へ到着。

     
   敢えて言えば難所か    朝日の肩は広々としている

 南月山から見た茶臼岳も良かったが、朝日岳から見る茶臼もまた格別。狭い山頂だが360度の展望に立ち、リベンジを果たした溜飲を下げることが出来た。

 先ほどまで良かった眺望も、駐車場方面から大量のガスが上がってきて、下山を始める頃には茶臼はすっかり覆われてしまった。

 隠居倉は手を伸ばせば届くくらいにすぐそこであるが、今日はH君を置いてきているのでまたの機会としよう。朝日の肩で稜線を北上するハイカーを傍目にしながら若干残念な気持ちで往路を下る。

     
   朝日岳山頂    遠く三本槍と手前隠居倉

 峰の茶屋跡で小休止を兼ねて手早く食事を済ませてから急いで下山。中の茶屋付近では幼稚園生の一行が元気な声で「やっほー」。毎度お馴染み茶臼岳登山の光景だが、引率の教師の話ではここでUターンして下山してから食事らしい。大気の状態が不安定という予報を聞いていれば引率者として適切な判断であろう。昨年あたりにやはり幼稚園生のグループの下山時間が夕方になってしまった騒動が(けが人等は無し)があったようで、関係者も神経質になっているのだろう。

 下山途中に正面に見える鬼面山への緩やかな稜線が先ほどから気になっていた。というのも、昨晩「栃木の山紀行」さんの鬼面山を読んでいたからだ。アプローチが非常に難しそうなのとそれなりの標高なので、単独で侵入するのはかなり危険度が高い。だがかなり登高意欲をそそられる山だ。情報・仲間・体力・感、総合的な実力がもう少し充実しないと難しいのは間違いない。だが、いつの日かそれらを備えて是非行ってみたい場所である。

 下山を終え、車の中でエアコンを効かせていたH君に「早かったですね。まだ1時間位しか待っていませんよ」と言われた。彼が下山に時間を掛けすぎたのか、それとも先週にわかスポーツジムで鍛えた効果がもう出たのか。真相は定かではないが、ジムの効果が出たというのは妄想に違いないと考えるほうが間違いないだろうよ。

 という事で、今回も那須岳は次回リベンジで幕を閉じることになった。

  
ガスが濃くなってきた    気になる存在、鬼面山

概略コースタイム
ロープウェイ山頂駅発(9:35)-牛ヶ首(10:03)-峰の茶屋跡(10:30)-朝日の肩(10:56)-朝日岳(11:05)-休憩
下山開始(11:12)-朝日の肩(11:19)-峰の茶屋跡(11:45)-昼食休憩-再出発(11:55)-
峠の茶屋(12:29)-駐車場着(12:41)

2008年09月23日

強風の那須を家族山行

 「秋の長雨」も一休み。台風一過のようなこの期を逃すまじ。たまには家族山行も良いだろう。渋る娘と家内を半ば強制連行の如く那須へと連れ出す。

 今日のコースはお手軽ハイキングコースの南月山(みなみがっさん){1775.8m}である。那須岳ロープウェイを使って一気に標高1,700m付近まで上がり、後は標高差にして100mにも満たないような"山登り"と、ちょっと距離はあるが下り一辺倒というラクラクコースだ。

 ロープウェイの山麓駅で強風に注意を促していたが、なるほど、山頂駅を降り立つと強い風と低い気温。そしてちょっとがっかりだったのが、上空を覆う雲。かなり高い感じなので雨の心配は無さそうだが、晴れやかなイメージとはほど遠い感じである。

 相変わらずの沢山の一般観光客に混ざりながら歩を進める。砂礫に足を取られる山道は案外疲れる。家内の息が少し上がってくる。

 強風に晒されて、休憩もそここに牛ヶ首を出発。尾根に乗ると低木に道が囲われて一変静かな山道となり、それまでのビュービュー吹く風が嘘のようである。そんな尾根でふと振り返ると茶臼岳の姿が雄々しい。

 ほんの数ヶ所急な所もあったが、特に危険な箇所も無い。全般的に鼻歌混じりで歩けるような心地よい優しい尾根道である。風も無く日差しがある穏やかな時はさぞ心地良いことだろう。初めて山に行く人を案内するにはうってつけのコースと評されるのは実に正しいと思う。

     
家内はちょっとバテ気味    尾根からの茶臼岳    気持ち良い笹尾根

 雲で遠景が効かなかったせいもあり、やはり茶臼岳の勇姿が終始目に入る。時折雲間から日が差し込むと、噴煙たなびく中、刻々と表情を変えていくのもまた素晴らしい。 程なく山頂へ到着。天気が良ければ360度パノラマということだが、残念な事に遠景は全て雲に邪魔をされてしまってよく見えない。

 南月山神社の小石祠の周囲にある樹が風を防いでくれている。少し早いがここで食事にしよう。

     
一瞬表情を変える茶臼岳    南月山    岩の上でポーズ?を決める娘

 帰路は牛ヶ首までピストン。茶臼岳の山腹を巻いて歩いていると幾らか青空が見えだしてきた。風も弱まり、隠居倉や朝日岳の山姿が鮮やかになってきた。前半は少し残念なコンディションであったが、ダイナミックなこの風景を見られただけでも充分満足のいく山行である。そして今日のメンバーである娘と家内も、雄大な景色にまんざらではない様子。ちょっとほっとする自分であった。
     
隠居倉方面    青空が戻ってきた    下山の途に

-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

概略コースタイム
ロープウエィ山頂駅発(9:45)-牛ヶ首(10:15)-日の出平(10:43)-山頂着(11:08)-昼食休憩-
山頂発(11:56)-牛ヶ首(12:33)-峰の茶屋(13:08)-ロープウエィ山麓駅{駐車場}着(14:19)

2008年07月21日

茶臼岳



-- 『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 ついに森林限界突破である。薮っぽい低山よさようなら・・・なんて事は言わない。薮山は薮山で深~い味わいがあるのだ。

 梅雨明け宣言も、ただ単に気温が高いからだけという感じがしない訳ではないが、何はともあれ夏の到来である。夏と言えば、青い空、白い雲、爽やかな高山にそよぐ風と相場が決まっている。{誰が決めたんだ(^^;

 ということで、H君と共にアルペンちっくな那須を目指す事にした。予定コースは峠の茶屋から峰の茶屋経由朝日岳往復、茶臼岳(ちゃうすだけ){1915m}のお鉢巡りをしてロープウェイで下山である。

 出だしに職場からCALLが有って一旦会社に行ったり途中で道を間違えたりといろいろあったが、予定の1時間遅れで無事ロープウェイ山麓駅に到着した。

 予報では朝のうちの霧が晴れると暑い夏の一日ということだったが、那須へ向かうにつれて霧は更に濃さを増していく。上のほうはわからないが、状況次第によってはルート短縮か中止もやむなしと覚悟を決めていた。

 有料道路の終点を過ぎた辺りで、それはもう本当に突然ぱっと霧が晴れて、茶臼岳と朝日岳の勇姿が目に飛び込んできた。どうやら丁度霧の境目の標高だったようである。今日は朝からいろいろケチがついたのでH君共々いささか気落ちした感じではあったが、すっきりと見渡す山姿に一気に勇気づけられたのは言うまでも無い。

 帰りは余分に歩くのが嫌だったので、ロープウェイの駅の所に車を置いて出発だ。おぃおぃ出だしの階段堪えるよ。などと言いながら峠の茶屋へ到着する。

 峠の茶屋脇から道標に従い登って行くと登山指導所あり。ここで入山届け出を書くが、流石に良く出来た用紙で、コースも丸印を付けるだけで良いというサービス満点。メジャーな山は出だしから違うものである。

 鳥居をくぐり、歩き出しはいつもの歩き慣れているような樹林帯を行く。階段がちょっと脚に合わないが、まぁこんなものだろう。汗が出てきた頃にはすっかり樹がなくなって雄大なパノラマの中を歩いている。なかなか気持ちの良いコースだ。

 先ほどから上の方で小さな子供達の元気な声がしていたが、幼稚園の行事登山のようである。最後尾の保育師さんに尋ねてみれば年長さんだとか。引率の先生方や親御さん達がはっぱをかけて、元気な子、手を引っ張って貰っている子。皆空身で登っているのだが、飲料水や食料運搬の強力役の係の人も必要だろう。フォローが大変そうだなぁと思った。それにしても子供達は皆生き生きとして登っていること。

     
山麓駅からいざ出発    ここが本当の登山口    年長さんも頑張る頑張る

 元気一杯の幼稚園児達の傍らで一人調子の上がらないのがH君。比べて、私は今日は好調だ。斜度は決してきつくはない。第一こんなに整備された明瞭な道だと、とにかく気を遣わずに歩いて行けるので精神的な疲労感が皆無であるところも大きい。雄大な眺望を見ながら登るのも、日頃の山域では考えられない事だ。

 H君は出だしの階段でペースを乱されたようで、加えて脚の付け根の関節が少し痛むらしい。私も膝痛が出た時は辛かったが、今日は無理は止した方が良さそうである。

     
クレヨンしんちゃんの園長先生みたい    H君調子上がらず 園児に追い越されちゃうぞぉ    流石にせ穂高の異名 アルペンチック!

 峰の茶屋を目指し鋭い陽光の中を進む。暑いことは暑いのだが、吹く風は爽やかそのものである。
 樹林帯の山を歩くときは、目的物が見えないことが殆どである。一体何処まで歩くのか?という葛藤が心に常にあるのも事実。こうもはっきりと目的地が視界に入っているのはわかりやすいが、中々進まぬ景色に少々嫌気がさすのもまた事実。我が侭なものだ。

 峰の茶屋で休憩を入れる。朝日岳方面へ向かう道にはアリが行列を作るようにハイカーが続いていた。茶臼岳とほぼ同じような標高差を考えると、大した行程でないような気もしたが今日は取りあえず此処までとしよう。

 再スタート。峰の茶屋より少し登った地点からの南西側の眺望が素晴らしい。低い層と高い層の異なったタイプの雲が見せるパノラマは絶景だ。

     
峰の茶屋から剣が峰    ピカピカの鎖が 流石メジャールート    何とも言えない美しい雲のバランス

 だいぶ高度を上げて下を見ると峰の茶屋は遙か下に。噴煙の吹き出す音を間近に聞きながらガレ場を慎重に登っていくと外輪である「お鉢」のへりへ辿り着いた。向かい側のひときわ高い所が茶臼岳の山頂のようである。

 ほぼ平坦な「お鉢」を西回りで巡り山頂へ到着した。那須岳神社の立派な祠があるが、いつも見慣れている多種多様な山名板は此処には全く無い。もっとも山名板をくくりつける木そのものが無いので当たり前なのだが、これはこれでいささか寂しい気もした。

     
峰の茶屋は遙か下    ごうごうと噴煙たなびく    茶臼岳頂上到着!

 山頂の真下の岩陰で昼食をとる。時折下から吹き上げてくるガス(雲)、おびただしい数のトンボの群れ。なかなか普段の山では味わえない光景である。

 最後の下り、ガレ場下りは気を遣う。浮き石に乗って怪我でもしたら一大事。ガレ場を過ぎると今度は砂礫歩き。これもまた油断すると足を取られて歩きづらいことこの上も無し。

 ところで先ほどから気になっていたのだが、話には聞いていたものの、ロープウェイで登ってきた一般の観光客は本当に軽装で茶臼岳へ登って行き、そしてまた峰の茶屋方面へと下っていくものだ。まるで山支度で歩いているこちらのほうがちゃんちゃら可笑しい位だ。

 確かにルート的には明瞭なのだが、中には運動靴では無くパンプスなどで登っている人も居たりでこちらが肝を冷やす。我々が山頂を目指してガレ場を進んでいる時だった。もう老年と言って良い頃合いの年齢の夫婦が岩を伝いながら降りてくる。二人とも観光バスで名所旧跡巡りをしているようなごく普通の出で立ちである。奥さんが岩に難儀しているのを待っている間の僅かな時間にご主人は、なんとチューハイ片手、しかももう片方の手にはつまみを持って悠然と岩の上に立ち一杯やっているのである。

 ここまで来るともはや何をか言わんやである。本人にとっては大した事では無いのかも知れない。また現時点では誰にも迷惑を掛けている訳でもないが、何か違うよなぁと思ったのは自分だけなのか。

 ロープウエィ駅が見えてきた。茶臼岳も朝日岳方面も振り返って見ると濃いガスに包まれつつある。考えて見ると良いタイミングで降りてきたのかも知れない。此処までの殆どの時間素晴らしい風景を堪能することが出来たのだから。

 よし。待ってろよ朝日岳。今度こそ・・・
 そんな想いを胸にして下りのロープウエィの客となった。

     
ロープウェイ駅が見えてきた    軽装な観光客    雲がかかってきたが無事到着

概略コースタイム
ロープウエィ駐車場発(9:50)-峠の茶屋(10:07)-峰の茶屋(11:00)-小休止-
茶臼岳山頂着(12:03)-昼食休憩-山頂発(12:36)-ロープウエィ山頂駅着(13:16)

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