珠玉の薮尾根と大倉山
まだまだ雪遊びの時期だと思っていたのに、土曜日は湿った春の雪が宇都宮に降った。やがてみぞれから冷たい雨に変わってしまったが、メッシュ予報を見ると日光や県北も雨予報だったので果たして山の状態や如何に。良い状態でないのは想像に難くない。そんなこともあって、今季まだ履いていなかったスノーシューの予定を取りやめて、薮歩きの腹案を実行することにした。
今回のお題は粟野と西方(にしかた)の境界にある大倉山と、その東西に伸びる尾根歩きである。この尾根筋は標高こそ300m~500mと決して高くは無いが、宇都宮西中核工業団地から累々と西へ伸長し、谷倉山を超え遥か前日光方面まで稜線をなしていく、その端緒の部分になる。
もう既に何回偵察を重ねたことだろうか。林道『真上男丸柏木線』に入り、通過痕がまったく無い綺麗な雪の路面にパジェロミニを進める。つづら折れを重ねて峠が近づくと、低い所に発生したガスが覆う風景が拡がる。まるで雲海のようで美しい景色である。
バージンスノー | 後方に綺麗なタイヤ痕 | 雲海たなびく |
林道の最高標高点、峠に自転車をデポした。此処が今日の徒歩によるゴール地点となり、下山後は林道を一気に駆け降りて車のデポ地である真名子集落まで約9Kmのサイクリングとなる。
基本的に下り一辺倒なので体力消費は殆ど無いはずだが、一箇所だけ標高差50m程度の峠超えが待っているのがやや心配の種である。
今回真名子集落から目的の尾根に到達するにあたり、過去の偵察で数ヶ所候補を検討していた。随分悩んだ末に選出したポイントだがさてどうなることだろう。
取り付き地の裏手は墓地でここが一番楽に侵入できそうな雰囲気であったが、流石にバチあたりな感じがしたので少し外して横手から取り付く。駐車地脇の寺を城郭のようにぐるりと囲んだ187mP付近は想像通り激しい薮で、薮慣れした自分でもかなり手強い。
こちらへ駐車させていただいた | この少し奥のほうから取り付く | 序盤は想像通りの檄薮 |
足元を見ると小動物の獣道が縦横無尽に走っており、動物達がやすやすと通過している模様。残念ながら人間が通過するには薮の高さが足りない。時折ふと途切れてほっとすることもあるが、すぐにまた泳いで進むような薮が待ち構えている。
187mPからしばらく東に進む。北側眼下には取り付きに最適と思われたポイントがあるが、こちらは行き止まりの道に民家が一軒、私有地の雰囲気が濃厚なのでパスしたのだ。飼い犬が敏感に反応して吠え立てる。姿は見えぬが、遥か頭上の稜線で薮を払いのける侵入者に敏感に反応しているようだ。
目論見の地点で進路を転換して一旦谷に降りる。枝尾根に取り付いて主稜線へと詰めていく。高度を上げるに従い段々と薮も薄くなり歩きやすくなってきた。
たまに緩むも行く先容赦無し | 薮は続くよどこまでも | 幾らか薄くなってきた |
主稜線に突き上げてみると、どうやら滅多に歩かれていないようで、道形の形成はほぼ無し。踏跡の痕跡も獣道程度である。あるがままの姿に静置されている自然林の尾根は荘厳で美しい。歩けるのは今の時期しかないだろうが、初夏の候、むせ返る程の新緑で埋め尽くされた光景を想像するのもまた楽しい。
尾根に乗ればすっきり | 自然林の尾根は美しい | 左手にもう一本の稜線が見える |
途中の小ピークで一箇所進路ミス発生。全く正反対に進んでしまった。眼下の集落が視野に入ったのですぐ気がついて登り返したが、この後は小ピークに至るたびに、GPSで現在地の確認を行って地形図とコンパスで進路精査を慎重に重ねる。地形図で見ると一見簡単そうな尾根筋だが、踏み跡がまったく無いので正確な方角取りと尾根形探しが重要。ぼっとしていると、微妙な派生尾根に引き込まれてしまう可能性が非常に高い。
大倉山の山頂手前、標高差約100mの区間は右手が植林帯、左手がうるさい薮となる。潅木あり笹薮ありススキありとバリエーションに富む薮の急登をこなすと山頂の南の肩へ到達。真名子の集落や歩いてきたルートが良く見渡せるので気持ち良い。天気予報では晴れマークだったのに一向に日差しが出てこないのが残念ではあったが、こんな薮山だけに展望が開けると嬉しいものである。程無く一投足で山頂へ到着した。
道なき尾根を詰める | 山頂手前で再び薮がうるさくなる | 珍しい笹薮 |
ススキは意外と歩きやすい | 登ってきたルートが一望 | 山頂 |
山頂より478mP方面
山頂の北西方面は広大な伐採地となっており独特の景観が形成されている。広々とした開放感溢れる眺望は、見通しの効かない薮道をコツコツ登ってきた者にはかなりありがたい。しかしながら、丸坊主にされてしまった山を見るのは実は悲しい事なのだ。
昼食をどうしようかと思ったが、遠く見える谷倉山、そこに至るルートにもまだキツイ登りがありそうだ。もう少し進んでからにしようと決めた。
山頂から一旦真西へ急降下。眼下の伐採地のヘリ沿いにコルを目指す。その向こうには樹に覆われた478mPが小さいながらも毅然としてそびえる。標高差は殆ど無いが、途中のアップダウンは地形図で見るより遥かにありそうな気がする。この先のルートもなかなか骨が折れそうである。振り返ると台形状の大倉山は頭頂部が岩に覆われていたことを知る。実はこの岩がこの後のコースの鍵となるのだ。
これから向かう478mP | 大倉山山頂 | 伐採地脇を登る |
大倉山を振り返る
伐採地より離れ、再び自然林の尾根を進んでいくと行く手を大岩が遮るようになってくる。到底超えられそうにない岩は右に左にと巻き、目を凝らすと獣達が巧みにルートを形成しているところはそれに従う。大倉山から西の領域はそれまでとは一線を画した荒々しい岩尾根なのである。
伐採用ブル道の模様が面白い | 再び自然林の尾根 | 巨岩が尾根を遮る |
緊張感溢れるルーファン(ルートファインディング)と、連続する岩場処理。精神的にも疲れが溜まってきたのでそろそろ大休止が必要だろう。478mP一つ手前の470m級Pにザックを降ろし昼食とした。梢越しに見える谷倉山の伐採地がだいぶ大きく見えてゴールに近づいた事を改めて実感する。
次々と岩が出てくる | 突拍子も無く社有地の杭 | 昼食の470m級P |
再スタート後の478mP手前も再び巨岩が行く手を遮る。右手は垂直の壁になっておりなかなかの迫力だ。とても巻くどころの話ではない。左手はやはり獣道が上手に巻いている。ネットで見たレポートもここを通過した人はみな獣道の巧みさに感動しているが、自分もまったく異論は無い。
谷倉山伐採地がだいぶ近くなってきた | 再び巨岩、左手を巻く | 右手は巻くどころではない |
一つ岩を超えた向こう側にピンクリボンを発見する。とかく人の気配が希薄なこのコースでピンクリボン見ると、やおら加勢を得たようで心強い気がする。薮好きな者の足跡ありやと思うと愛おしいものである。
478mP末端は岩頭になっており、見はらす先には更に進むべき500mPに至る道無きルートが全貌をさらけ出している。
岩頭からは下巻きながら急降下。尾根形が不鮮明なのでコンパスで決めた方角を外さず一気にコルを目指す。やがて薮に阻まれた小ピークを過ぎると岩尾根は姿を消していく。
赤テープ発見! | 478mPから向かう500mP | 岩よりはましかな? |
500mPに近付くとしだいに稜線の幅が広くなる。左手が植林帯、右手は自然林。足元は薮も無くすっきりと歩きやすい。昨日の雪が少し残っていて多少滑りやすいが、ここまでの経路の緊張感からすればとてつもなく穏やかな並木道である。登りつめた所にあるひっそりとした500mPから下降すればようやくゴールが見えてきた。
500mP手前は一変しておだやかな登り | ひっそりと500mP | ゴールが見えてきた |
当初計画ではこの自転車のデポ地から車道を挟み、更に谷倉山を踏んでフィニシュとするつもりだった。この林道の峠から谷倉山へのルートは林道が工事中の頃より是非にと思っていたのだが、今回は体力気力切れということで次の機会にゆずることにしよう。地形図を眺めていると、谷倉山近辺は実にいろんなコースが考えられるエリアなのだ。この箇所を歩く日もそう遠くない将来にきっと訪れることだろう。
さあ、残りは自転車で駐車地まで帰るのみ。ずっと下り坂だからお気楽なものだ。快適なサイクリングを楽しんで行こうではないか。
途中の小さな峠超えは序盤こそ元気に漕いで進むも、すぐ脚が廻らなくなってくる。降りて押したほうが断然早い。それでも下りに転じれば爽快そのもの。頬を切る風は思い切り冷たいが、心の中に温めていたルートを歩き通せた充実感が体中を巡り少しも寒さを感じることはなかった。
谷倉山はスタミナ切れで次回 | 自転車が待っていた | 車の回収へ約6Kmのサイクリング |
概略コースタイム
駐車地発(7:43)-187mP(8:01)-主稜線へ合流(8:45)-286mP(9:28)-大倉山(10:43)-
470m級P(11:41)-昼食休憩-行動再開(12:16)-478mP(12:40)-500mP(13:55)-
林道接合自転車デポ地(14:10)-自転車-駐車地着(15:11)
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