半月山から茶の木平まで
三連休の事前予報がぱっとしなかったので半ばあきらめかけていたが、前日になると16日に晴れマークが出始めた。年初から始めた山歩きも、未だいろは坂より上の領域には足を踏み入れていなかったので、夏の山歩きの締めくくりとして半月山~茶の木平の縦走をすることにした。
日光に向かう道すがら、どうにも山の方角のガスが濃いような気がしていたが、いろは坂にさしかかる頃には青空に映える男体山の勇姿が見られるようになり、まずは一安心だ。
中禅寺湖遊覧船乗り場のある立木観音前の駐車場に車を駐めると、他にも支度を終えて歩き出すハイカーもちらほら。さすがメジャーポイントは違うね。
駐車場よりイタリア大使館別荘跡公園方面へ向かう道に折れると、一気に中禅寺湖畔の静けさに包まれるようになる。湖岸を見ると釣りをしている人が結構あちこちに見られる。中にはゴム長で胸のあたりまで水に浸かって釣っている人もいる。自分には釣りのおもしろさは今のところ理解出来ないが、あの雄大な景色の中で一日中釣り糸を垂れているのも悪くないのかもしれない。
ふと上を見上げると電柱がずっと奥まで続いている。電線と電話線が架けられているのだ。こんな奥まったところに一体と思って進んでいくと、プレジャーボートを屋敷の前に停泊している別荘(車が駐めてあり建物にあかりがついていた)があったりする。もうちょっと手前の現存の大使館別荘とは趣の違う感じでいかにも個人所有の雰囲気だ。きっと「華麗なる一族」のような財閥っぽい人が所有しているのでは・・・などと適当な妄想を抱きつつ進む。
この別荘の先にまだまだ電柱が続く。狸窪に着くと民宿があった。一つは廃業して丁度建物を壊している最中。もう一軒は現在も営業中だ。この地域向けに電力と電話が供給されているようである。
ここまでは細いながらも車道である。一般車も入ってこれないことは無いが、駐車場やUターンするスペースが無いので進入しないほうが無難だ。
さて、民宿を過ぎると舗装は切れてすぐそこは狸窪分岐。半月山への道標がある。今回の予定はもう少し中禅寺湖畔を歩き阿世潟より高度を上げる予定だったが、向かう道にはロープが掛かっていて通行止めだ。どうやら阿世潟~千手ヶ浜間が先般の台風により被害を受けての措置らしい。目的地は阿世潟なので問題無いのではと思い、地図を眺めながら躊躇していると、後から他のハイカーがやってきてロープをどんどんくぐって行くではないか。会話を小耳に挟むと、やはり阿世潟から取り付き社山へ行く様子。それならばと自分も彼らの後からついていくことにした。
狸窪を過ぎるといよいよ自然遊歩道然として静けさが増してくる。中禅寺湖を散策するなら是非訪れて欲しい美しさだ。ちなみに下の写真左は、阿世潟手前のひっそりとした砂浜から眺める男体山の姿だ。
元キャンプ場だった阿世潟に到着する。勾配の無い平坦路とはいえ、駐車場からここまでで既に1時間以上も経過している。距離にして4Km程。ちょっと小休止をすれば良かったのだが、続けて山道に入って行ったのがこの後ボディブローのように効いてくる事に、この時まだ気付いていない。
阿世潟からの登りは、始めゴーロが続きどこがルートだか判然としない感じだったが、高度を上げると道がしっかりしてくる。段々と山道らしくなってくると徐々に息も上がってくる。時折立ち止まりながらも明るい尾根に突き上げるとそこは阿世潟峠。ここを南に下ると足尾へ行けるようで古くは中宮祠と足尾の交通の要所であったらしい。
まずは荷を下ろして一休み。先客の夫婦一組が既に休憩していたが、先ほどの社山行きの一行も遅れてやってきた。
登りで汗ばんだ体に吹く見晴らしの良い峠の風が心地よい。秋の雰囲気をまとった風吹く向こう側の足尾の山並みがまた美しい。
阿世潟手前より | 阿世潟分岐 | 阿世潟峠より足尾の山並み |
ここからは終始クマザサの尾根を行くことになる。ところどころササが張り出していて道が見えない部分もあるが、それでもしっかりした道筋を行く。
阿世潟峠から丁度100m程高度を上げた小ピークに到達する頃、何故か今日はいつもより足の運びの調子が今ひとつ。息も上がりやすいことに気付いた。
やはり、狸窪~阿世潟峠間の遠回りが効いたのかな、とそんな事を思いながらも進む。それにしても天気は上々、時折ぱっとひらける眺望に励まされながら、1655mピークに到着。木陰を探して休憩だ。
ここから半月峠までは80m程高度を下げる。先ほど苦労して稼いだので勿体ない気がするが、山登りの宿命なれど調子のあまり良くない今日はひときわ恨めしいものだ。
台風のツメ跡なのだろうか、南側の谷が崩落している。そういえば阿世潟峠からピークを一つ超したあたりのガレ場も凄い状況になっていた。登山道の方はまったく影響が無いが、自然の荒々しさを目の当たりにした。
こんな笹尾根がどこまでも | 尾根から備前楯山方面 | 半月峠 |
半月峠からは、岩の露出した所、クマ笹の峠道と変化があるが、先ほどからの疲労感でなかなかキツイ。少し登っては立ち止まりの連続。
旧中禅寺湖スカイラインの第二駐車場が見えて来ると、そのすぐ先は半月山展望台だ。先客の明るい声が飛び交う中荒い息で到着。展望台から少し離れた木陰でザックを降ろし昼飯休憩だ。地面に腰を下ろして、あ~疲れた。
展望台はスカイライン第二駐車場から約20分で登ってくることが出来るらしい。未経験の人に山の素晴らしさを伝えるのや、冬場に雪を踏みしめながらちょっと登ってみるには良いかもしれない。
食後に景色を堪能しようと思ったら、ガスが濃くなってきた。コンディションの良い時は絵はがきの様な眺望が約束されるというが、今日はいまひとつである。
展望台を後にして、樹林の中を少し登るとそこが半月山頂上。ガイドブックの通り木に囲まれて眺望はゼロ。
この後は右手に薬師岳、夕日岳、地蔵岳方面を眺めながら、斜面に張り付いた笹道を行く。ところどころ道が欠落している箇所があって油断が出来ない。笹が生い茂って道が見えない所で欠落している箇所があったがこれは要注意である。もっとも右側は笹藪なので滑落しても下まで行くことは無さそうだが。
しばらくして樹林帯に入ると、下から大勢の中高年ハイカーグループが上がってきた。総勢30人以上だろうか。かなりの大グループである。見れば平均年齢はゆうに60を超しているかもしれない。されど全員しっかりとした足取りとペースで登ってくる。自分など果たして一緒に歩くことが出来るのだろうかと唸らされる勢いだ。ただ、この時点で13時丁度くらい。これから半月峠経由で下山して湖南を戻るにしても、あの人数で大丈夫なのだろうかと少し気を揉んだ。
足場の悪い急斜面を降りていくと先方にハイカーが見えた。いや正確にはハイカーでは無い。後ろ姿しか見えないが、パンプスを履いてポシェットを肩に掛けた普通の女性観光客である。こちらはクマよけの鈴をじゃんじゃん鳴らしているので気配はとっくに気付いているだろうから後ろにぴったりくっついているのも気が引ける。さりとて追い越す程道は広くない。
暫くはお互い無言で歩いていたがどうにもバツが悪いので「こんにちは」と取りあえず挨拶をした。
しかし返事は無し。第二駐車場往復組が道を間違えた割には歩き過ぎている気もするし、「どちらから来たのですか」と後ろから声を掛けた。
「ち、ち、千葉からです」と強ばった顔で振り向いたのは若い女性、年の頃二十歳前くらいの娘である。どうしてこんなに若い娘が一人で、しかも何の装備も無いいでたちで、決して易しくは無いコースを歩いているのか一瞬我を疑った。
"千葉から"というのも間の抜けた答えだが、自分としては"どこのポイント"からという意味だったが通じなかったようである。「山に登ってきたの?」と問いかけるとかすかに頷く。
問題はすぐに解けた。程なく下のほうにスカイライン第一駐車場が見えてきた。少し先に犬を連れたやはり観光客然とした中年男性の姿が見える。どうやら親子でちょっと散歩してみようと入って来たらしい。
半月山から茶の木平へ向かうルートは途中2回中禅寺湖スカイラインとぶつかるが、一回目がここ第一駐車場だ。4輪の観光客で賑わう中、じゃんじゃん鈴を鳴らしてちょっと場違いながらベンチに腰を下ろして休憩。先ほどの親子も男体山をバックに写真を撮っている。きっと、「さっき山の中で声を掛けられちゃった。怖かったのよ」なんて言ってるに違いない。
逆に我々ハイカーからすれば、山中で何の装備も持たないような目的不明な"人間"との出会いは、有る意味クマよりも怖いと思うのだが。
駐車場奥の"狸山へ"の道標に従いまた山中に分け入っていく。狸山はむじなやまと読む。中禅寺湖畔の狸窪もむじなくぼである。決してたぬきくぼでは無い。
IMEでむじなを変換すると狢が出てくるが折角なのでネットで調べて見ると、狢とはアナグマのこと。地方によってはタヌキやハクビシンあるいはその総称を指すらしい。
駐車場より一登りした狸山頂上は、樹と笹に覆われていて眺望も無く今にも狸が出てきそうな雰囲気だ。道を騙されてはたまらないので早々に山頂を後にした。
スカイライン第二駐車場 | 半月山展望台より | 狸山 |
狸山からの下山路もまた快適なクマササ路が続く。右手には薬師岳方面がよく見える。終盤、樹林の中のきつい下りを終えるとスカイラインに再び出遭う。
ここには何も施設はないが、道の向かい側に茶ノ木平への道標が立っている。しかし、2回続けて車道、しかも往来の激しい道路に出ると流石に歩行意欲が薄らぐものだ。折からの疲労感もあり、これでバス停でもあったら行動打ち切りにしていたのかもしれない。
茶の木平登山口にある看板を読むと、「多少きつい登りですが景色を楽しみながらゆっくり歩いてください」とある。
阿世潟から縦走してきた身には"キツイ登り"はちょっと辛いかな。先ほどから腿が悲鳴を上げだしているので、少し登った展望台で瞬間コールドスプレーを吹き付け軽くマッサージをした。
狸山下山途中より薬師岳方面 | 茶ノ木平登山口 | すぐそばの展望台より |
懸念したほどのきつさでは無かったが、それでもペースを落として休み休み登っていき尾根に出ると周囲の樹林の雰囲気が一変する。
シラカバが沢山目立つようになった。道もどんどんゆるくなっていくとそこは広大な平坦地である茶の木平だ。
奥に進むと中宮祠へ向かって切れ落ちるような崖は中禅寺湖温泉ロープウェイの名残だ。駅舎跡の脇で休憩をする。
先ほどからガスが下からどんどん上がってくる。少しすると薄くなったり濃くなったり、はたまたパッと晴れたり。男体山も中腹はガスが濃いようでどうやら同じような高度なのだろう。
ロープウェイが営業していた頃は沢山の観光客で賑わったことだろうが、今ではまったく人影も無く静寂の限りである。
さぁ、いよいよここからは下り一辺倒だ。辛い登りはもう無い。最後の下りで事故の無いよう注意しながら中宮祠を目指して降りていく。笹藪に道を見失わないよう道標がしっかりついているし、道もほどほどに整備はされている。しかし、先般の台風の被害を受けた倒木が道を塞ぐ箇所も数カ所あった。
つづら折れの道を降りると次第に自動車の音が大きくなってきた。最後に急な石段を下りるとポンと車道に出た。後は駐車場までの約1kmを観光客に混じって歩く。文明の領域に場違いな鈴が恥ずかしくてザックから外した。
それにしても今日は本当に良く歩いたものだ。途中辛い場面もあったが無事歩き通すことが出来たのが何よりである。
トレッキングシューズを脱ぎ、顔の汗をぬぐって、心地よい倦怠感に包まれながら夕日に美しく映える中禅寺湖畔を後にした。
茶の木平 | ロープウェイ駅跡 |
概略コースタイム
駐車場発8:50-狸窪9:30-阿世潟9:56-阿世潟峠10:16-半月峠11:30-半月山展望台着12:00-
(昼食休憩)-展望台発12:20-半月山頂上12:32-スカイライン第一駐車場13:18-狸山頂上13:45-
スカイライン出遭い14:00-茶ノ木平14:53-駐車場着16:07
歩行距離:約13.5km 累積標高差:2900m
(GPSのログデータによる)
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