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残雪の日光前衛に一人佇む

アーカイブ:日光の山達  日時: 2008年03月29日 22:00
-- 『e-trex Leggend US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成 --

 丹勢山(たんぜやま){1398m}

 私もその存在は随分以前から知っていたが、やはり男体山やいろは坂に隠れてしまって存在感を感じないのは皆さんも一緒だと思う。

 分県別「栃木県の山」を眺めていると、4月初旬の残雪の日光連山の景色よしとの記載があり、一気にこれに惹かれてしまった。今年は(も)例年より桜の開花が早く、3月下旬も4月上旬と読み替えて良いのではと思うと、もういてもたっても居られない。

 今回もH君の都合が付かず単独である。だがルート自体は特に難しい所は無さそうだ。途中1100m程度の所まで車で行けそうだし、下山は若干退屈かも知れないが林道歩きなのでこれまた問題無いだろう。残雪が心配だが、これは様子を見ることにして出発だ。

 天気は上々。日光街道を西へ向かうにつれ男体山の白い勇姿が段々大きくなってくる。

 今日も観光客で賑わう神橋を通り過ぎると、道路の右手に丹勢山が見えるようになった。清滝の分岐を旧道へ入り派出所の所を右折する。古河の旧社宅街である丹勢町を抜けると表男体林道の標識があり、程なく林道の入り口である。

     
日光市街から見る丹勢山       いよいよ林道

 林道は初め舗装路だが、途中ぷっつりと切れたように砂利道になり所々スポットであるがダートもある。2駆車ではFFでもかなりキツイだろう。

 砂利のヘアピンカーブを慎重に幾つもこなしていくと道幅が広い地点に到達。駐車地に予定していた沼の平分岐点である。

 準備をしていざ出発。だが登山口が今一つ不明瞭である。というよりも無い?

 どうもガイドブックの文面から読み取れるような明瞭な登山口は期待出来無い感じであるが、見渡す限りの笹原。よく見ればかろうじて踏み跡程度のルートが続いているのでまずはこれを追う事にした。

 とにかく見通しは良く目標物を見失うことは無かったので、微かな踏み跡を捜しながら進んでいく。高度が上がり南側の樹幹越しに前日光の山並みが見える頃には大部登山道らしくなってきた。

 左手のいろは坂を走るバイクのエンジン音が時々聞こえてくるものの、まだ春も浅く鳥達のさえずりも聞こえてはこない。実に静かな山だ。

 ふと足元を見ると鹿のものと思われるフンが多数。いろは坂が近いので猿の集団などに出会ったら厄介だなと考えながら歩く。猿ならまだよいが、笹原に突入する時に、用心の為の強力3連クマ鈴を躊躇わずに装着。駐車地にも人影が無かったので、どうやら今日の相棒はクマ鈴のジャンジャンした音色だけのようである。

     
駐車地    一応登山口だが…    鹿のフン?があちこちに

 ガイドブックの記載の通り、暫く歩くと斜面を大きくトラバースしていた道が溝(谷)に突き当たる。「慌てずに目印を見ながら溝に添って登る」と書いてあるが、確かに樹に薄くなってしまった赤ペンキが多少は見られるものの、かなりまばらで心許ない。依然として見通しは良いので何処をあるいても問題は無いのだが、やはり谷から離れないように歩いていった。

 多少きつめの登りをやりすごすと、緩斜面の部分で一層見通しが良くなると共に踏み跡消滅。しかし、少し離れたところに赤ペンキの目印が数カ所あるのを見つけ若干コースを外しかけたことに気づき修正する。だだっ広い所を方角だけを頼りに歩くのも結構ドキドキものである。

 やがて、ラクダの背のような小ピークを回り込むようにして進んでいくと奥に丹勢山の頂上らしき山姿が見える。背中のGPSとコンパスと地図を動員してほぼ間違いの無い地点に居ることを確認。奥に林道のようなものも見えるので緩い斜面の林を進む。すると、パッといきなり南面が開ける。本当に突然である。

 それまでの緊張感溢れる笹の斜面歩きから解放されたせいもあり、思わぬ景色のご褒美にどっと斜面に腰掛けて小休止だ。

 さぁ、後は一旦林道に出て最後の一登りで山頂に着く筈。まずは無事林道に合流した。

     
緩斜面になると更にルート不明    突然南面開ける 薬師岳?    無事林道に合流

 砂利の林道を一旦間違えて逆方向に歩いてしまったが、すぐにバックして東へ。ふと振り返り上を見れば男体山が珍しい角度から顔を覗かせている。
 少し先に行くと広場が現れた。傍らの案内板を見るとヘリポートらしい。基本的にこの林道は一般車通行禁止なので、資材運搬や緊急時対応の為なのだろうか。トラックのようなタイヤ痕が幾筋か見られる。

 さて、ここから最後の登りになるわけだが、ガイドブックに示されたポイントがどうしても解らない。平坦地に突出したような感じの山頂なので、どこからでも取り付きOKな感じはするが、西の端を少し北側に廻ってみたもののそれらしいルートも見つからない。主尾根ははっきり見えているので、構わず適当にザクザクと入って行って尾根に乗り上がる。西側に結構立派なピークが見えるので一瞬間違ったのかなと思ったが、地図を見返して再出発。

 上がるにつれ岩が多くなり、岩の合間の残雪が冬の厳しさを物語っている。ルート上のツツジ(ヤマツツジ?)が沢山つぼみを付けて春の訪れを今か今かと待っているようだ。そんなツツジの株の群落をかき分けながらようやく山頂へ到着。

     
振り返れば    ヘリポート    丹勢山頂上

 山頂からは北側に間近に見える壮大な日光連山。赤薙山から女峰山。大真名子とそして男体山。残雪の迫力パノラマである。
 南側こそ枝に邪魔されてはいるが、とにかく素晴らしい眺望である。この大眺望を独り占めにしながらの食事だ。

 大パノラマに吸い込まれてしまいそうな静かな山頂にゴォっと飛行機の飛ぶ音が聞こえる。真上を眺めると青い空に薄い雲、そしてその中に鮮やかな赤と白の機体が北を目指して飛んでいく。向こうから見える筈も無いのに、おおぃと手を振ってしまいたくなるようなそんな光景であった。

 いつも歩いているような樹林の中だと、案外一人でいても心細く無いのだが、ここまで広々とした空間の中で一人というのもかなり孤独。一体この見渡す限りの風景の何処に呼吸をする者が別に居るのだろうかと思わせる程、寂しいとか心細いとか、そんな感じを通り越したようなゾクゾクするような孤独感に、自虐的にも酔いしれる自分が居た。ともすれば、自分自身が風景の一部に溶け込んでしまいそうなそんな錯覚にも陥りそうである。

     
山頂から男体山    大真名子山    女峰山~赤薙山
     
高原山    山頂の残雪    少し下った地点から
     
      中禅寺湖と社山~黒檜岳

 大眺望の山頂に後ろ髪を引かれるようにして下山を開始する。下りはルートを外さないで踏み跡を辿ることが出来た。林道に出て見れば、確かにガイドブックに書いてある通り目印はあったが、これは注意していないと解らないかもしれない。せめて日光市のほうで道標の1枚位立ててもよいのではないだろうかと思う。

     
明智平の建物が見える       本来の取り付き点

 さて、後はひたすら林道を歩いて駐車地に戻るのだが、先程から気になっていた西隣の立派なピークの少し下の方にある広々とした笹原の斜面、こちらへちょっと寄り道することにした。
 林道を少し西に進み、適当に斜面に取り付く。先ほど登ってきたルート同様、浅い枯れ笹で見通しは良い。あまり考えずにただ上に登ればよいのだ。斜面のに所々にあるダケカンバに差す陽光が美しい。

 いい加減登ったところで斜面に腰を下ろすと気持ちの良い風景が拡がっている。まるでスキー場のような感じで、北側の荒々しい風景とはまたうって変わって穏やかな景色だ。

 遠く、日光前衛の孤峰、鶏鳴山。そこから続く三角錐の笹目倉山。その奥には羽賀場山の稜線も控えている。左に目を転ずれば、特徴的な山容の鞍掛山から先日歩いた古賀志山までの尾根もはっきりと見える。

     
隣の笹原を登る    鶏鳴山~笹目倉    鞍掛山~古賀志山

 笹原を登り詰めるとまた林道に出るが、そのちょっと先のピークで撤収することとした。丹勢山の頂上から見えた男体山手前の1482mピークまではもう一頑張りしなければ到達出来ない感じである。ここで深追いして冬眠明けの腹を空かしたクマなどに出会ってしまっては、この広い山中では到底成す術も無し。くわばらくわばらである

 何はともあれ楽しい寄り道であった。今考えると、あの眺望はあそこに登らなければ絶対見ることが出来なかっただろう。

 下山の林道歩きは単調だが、登りルートの緊張感にいささか疲れた心と体には優しい。登りの笹原ではどこかでクマやシカや猿が息を潜めてこちらを睨んでいるのでは無いかとビクビクしながら鈴をやたらと打ち鳴らしながら歩いていたが、林道という人工物の上を歩くと、何故か第三者の庇護を受けているようで心強い限りである。依然として周囲には人はおろか鳥一匹も気配を感じないのは変わりないのだが。

 そんな中忽然と雨量観測所が出現だ。配電盤があってアンテナがあるということは電源がここまで来ているということなのだろうか。それにしては電柱も見あたらないのだが。

     
丹勢山    雨量観測所   

 砂利道歩きに少し飽きてきた頃、裏見の滝方面へ北へ延びる林道分岐点に到達。こんな山奥によくぞ道を拓いたものだと感心する。
 ここで大きくヘアピンカーブして、あとは直線的に進むだけだ。

     
下りの林道    裏見の滝方面分岐    同左

 駐車地手前にはゲートが有るが開きっぱなしになっている。清滝から登ってきた下の区間と比べると、遙かに上の方が道も穏やかであり安全な感じがするが、ゲート先は一応林道関係者のみ通行可となっている。

 無事何事もなくパジェロミニの許へと帰還することが出来た。先ほど入山した笹原を眺めると、今もまた静寂があたりを支配している。山に呑み込まれないで良かったと、珍しく殊勝なことを考えながら下りの林道を走る。

 朝、交差点を曲がった場所付近で4時間半ぶりに人間と遭遇。孤独な山行は終わった。

     
駐車地手前のゲート    駐車地付近道標    林道の様子

概略コースタイム
<車>
清滝派出所前右折(10:14)-表男体林道入口(10:18)-沼ノ平分岐{駐車地}着(10:34)
<徒歩>
駐車地発(10:45)-谷添い(11:18)-笹原の緩斜面(11:44)-南側開ける(11:53)-
林道出合(11:56)-一旦迷って-山頂着(12:25)-昼食休憩-
山頂発(12:56)-林道復帰(13:12)-隣の小ピーク(13:22)-林道復帰(13:34)-
雨量測量施設(13:46)-裏見の滝方面の林道分岐(14:27)-駐車地着(14:43)

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コメント (3)

Non:

 こんばんは。拝読しました、激シブの丹勢山(^^) 今の時期、やはり完全なオフシーズンなのですね。
実は数メートル離れたところを猿や鹿がついて来ていた…なんていうのが、あり得そう~
逆に言うと、実際のところは一人ではなかった、かも知れませんね(^^)

 それにしても、素晴らしい景色ですね! 自分で歩く山も季節や時間帯によって色んな表情を見せるけど、
いつも眺めている山というのも、見る角度によっては随分と違って見えますよね。おそらく、我が家の車では
沼ノ平分岐まで行くのは厳しいかもしれないので、行けるかどうか判りませんが、いつかは見てみたい景色です。
 木々のまばらな笹っ原、見晴らしが良くて気持ちいいですね。写真の樹木は、ダケカンバではないかと。
詳しいわけではないので、自信はありませんが…。白樺はもっと真っ白だと思います。

Non:

 追記です。鞍掛尾根のレポートの方にも先ほど書き添えたのですが、Non夫の膝痛がほとんど出なくなりました!
前回の鍋割山で「大丈夫みたい」と言っていたのが、本物だったようで。私もホッとしました(^^)
 で、やはり私達の経験から考えても、焦らずに付き合うこと、それが最も大事なようです。ご報告まで。

まっちゃん:

Nonさんこんばんは。

そうそう、「ダケカンバ」です。山頂の山名板が掛かっているのがダケカンバとガイドブックに書いてありましたが、山頂の木と同じです。
ありがとうございました。早速記事の方も修正しました。

あと、気になるのが山頂付近に群生していたツツジ(のような)が今一つ自信が無くて。
今朝家のさつきを見たら同じ仲間なのに随分違うような気がしました。

ご主人の膝痛良かったですね。
私は最近左右ともサポーター付けて歩いていますが、去年の仙人ヶ岳のような激しい痛みはまったくなくなりました。でも、少し不安でサポーターが手放せなくなっています。

サポーターの効果は筋肉の補強以外にも保温効果が案外あるような気がします。暖かくなったら外して歩いて見ようと思っていますが、Nonさんのおっしゃるとおり気長に無理せず付き合うのが良いかもしれませんね。

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